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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

国家はなぜ衰退するのか (4)イノベーションは創造的破壊か

2013年11月12日 | 政治・経済・社会
   最近では、企業経営においては、何事もイノベーションと言う言葉が添えられるほど、イノベーションが脚光を浴びており、アセモグルとロビンソンの「国家はなぜ衰退するのか」でも、キーワードとして、イノベーションによる創造的破壊が頻繁に登場してくる。
   しかし、この本では、イノベーションが創造的破壊であるが故に、従来の秩序を大きく破壊する作用があるために、強力な反対勢力による挑戦を受けたケースを語っていて、非常に面白い。

   一つの例は、16世紀の後半のことで、ウィリアム・リー司祭が、「靴下編み機」を作成して、この機械の便利さを示し特許を申請するために、有力なツテを頼って、エリザベス女王に謁見して、機械を見せたケースである。
   成功間違いなしと信じていたリーに対する女王の反応はけんもほろろであった。
   「リー師よ、志は高く持たねばならない。この発明が哀れなわが民にいかなるものをもたらすか、考えても見よ。必ずや職を奪って破壊させ、物乞いに身を落とさせるであろう。」
   打ちひしがれたリーは、フランスへ渡って運を試したが夢破れ、イギリスで、再び、次のジェームス一世王にも特許を申請したが、エリザベス女王と同じ理由で却下されてしまった。
   
   二人とも、靴下製造の機械化が、政治的な安定を揺るがすことを恐れた。
   人々から仕事を奪い、失業と政治的不安定を生み、王の権力を脅かすと考えたのである。
   靴下編み機は、生産性の大幅な向上を約束する素晴らしいイノベーションだった筈だが、同時に創造的破壊であったが故に、安定した秩序を破壊する元凶として排除されようとしたのである。

   このようなケースは、至る所に起こっており、最も典型的なケースは、産業革命期のラッダイト運動(Luddite movement)であろう。
   1811年から1817年頃、イギリス中・北部の織物工業地帯において、産業革命の進行に伴って機械使用が普及するにつれて、失業の恐怖を感じた手工業者や労働者が起こした機械破壊運動である。

   エジソンが、電球を発明した時に、発電から送配電まで、一切のシステムを完備して普及に努めたので、ガス灯を駆逐できたのだが、この時でも、エジソンのデモンストレーションの現場にガス灯業者が紛れ込んで妨害をしたと言う例が報告されているのだが、既存の同種の業者にとっては、死活問題であったのであろう。
   しかし、極端な反対運動がない場合には、逆に、蒸気船の到来に対抗しようとして帆船の質が一気に向上したと言う、所謂、「帆船効果」が、電球とガス灯間でも起こり、ガス灯のシステムの質が随分向上したと言う。
   しかし、これは、クリステンセンの説く技術深掘りの持続的イノベーションであって、新しく生まれ出た破壊的イノベーションには太刀打ちできないと言うことの証明でもある。

   さて、この例を、ニュアンスは全く違うのだが、改革を、既得利権を持った抵抗勢力が強力に阻止すると言うケースを考えてみたい。
   竹中平蔵教授が、先日の講演で、アベノミクスの成長戦略として、国家戦略特区を「岩盤規制」を崩す起爆剤にしなければならないとして、農業と医療の岩盤規制をあげた。

   農業では、農地法によって、農民でないと農地を保有できないようだが、老齢化が極に達している農業改革のためにもこれを改正して、例えば、企業による農地保有の拡大によって企業化を促進すれば、農業問題の多くは、解決に向かおう。
   また、先進国でも、特に日本は、医師不足に困っているにも拘わらず、医者たちの利権を守るために、医師の数を制限しようとして、大学の医学部が、この20数年間、一つも増設されていないと言うことである。
   結局、これらの岩盤規制による利害関係者の利益・利権保護が、巨大な障壁となって、危機に瀕している日本経済の再活性化を妨げていると言うことだが、このように日本の政治経済社会の進化発展を阻害している要因が、他にも沢山あると言う。
   改革なくして、進歩なし。
   これなどは、先が見えずに、新技術や機械化に抵抗していたラッダイト運動の労働者たちとは違って、はっきりとした正論であり、日本の明日を築くためには必須の要件であることが分かっている規制改革であるのだから、はるかに、始末が悪いと言うことになろうか。  

   
   
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