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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

菊澤研宗著「戦略学」・・・ポパー理論の展開

2008年10月10日 | 経営・ビジネス
   世界中の株式市場で連鎖的に大暴落。大恐慌前夜のような様相を呈してきたが、このような劣悪な経済社会環境の中で如何に経営の舵取りを行うべきか。
   菊澤慶大教授が、「戦略論 立体的戦略の原理」を著し、ポパーの三つの世界観を展開して、「キュービック・グランド・ストラテジー」と言う企業戦略論を開陳している。
   Cubic Grand Stretegyをgoogle usaで検索しても出てこないので、菊澤教授の編み出した独自の戦略論だと思うが、肝心のこの戦略論についての説明は非常に簡単にしかなされていないので、多少消化不良を否めず勿体無い感じがするのだが、
   ポーターの戦略論やブルー・オーシャン理論、あるいは、プラハラードとハメルのコア・コンピタンス論などを、基本的に同じ物理的世界観、すなわち、五感で理解できる世界の実在性だけを前提とした一元論的な戦略論に過ぎないと一蹴し、現代の戦略論は、いまだにこの段階に留まっていると、勇ましい論陣を張っている。

   クラウゼヴィッツの一元的な戦略論から説き起こし、リデル・ハートの物理的世界と心理的世界、すなわち、ハードとソフトの二元論を総合した戦略論に及び、最後に、ポパーが、科学的知識を発見する方法やその論理的構造を研究する過程で、新しい世界、人間の知性による世界を発見したことを敷衍し、この三つの世界が完結してこそ、本当の戦略論が確立すると言うのである。
   ロンメル将軍や山下奉文大将の戦略論の成功を詳細に論じながら、三元的な要素を総合した戦略が如何に効果的かを論じているが、この本は、経営学に限定していない切り口が中々興味深い。
   しかし、ソニーと任天堂とのゲーム機戦争では、現在のPS3とWiiの戦いではなく、何故か、任天堂が敗北した80~90年代の戦略競争を例証しているのは、今の戦いは、キュービック理論で説明できないからであろうか。

   いずれにしろ、ポパーによって展開された、物理的世界、心理的世界、知性的世界からなる三次元的な世界観に基づいて構築されたキュービック・グランド・ストラテジーと称する立体的戦略論こそ、今日、企業が激烈なグローバル競争に打ち勝って生き抜いて行くための最も必要とされている戦略だと言うのが菊澤教授の論点である。
   心理的世界へのアプローチでは、人間が物事を認識し評価する時に参考にする主観的な心理点レファレンス・ポイントを起点にしてプロスペクト理論や心理会計効果を説いている。
   また、知性的世界へのアプローチでは、取引コスト理論を展開し、物理的世界のコストだけではなく、心理的および知性的世界のコストを勘案すれば、安い中国の製品においそれと乗り換えられないと言った例を引きながら、如何に、知識を駆使した三次元的な総合評価が大切かなどを論じている。
   
   キュービック・グランド・ストラテジーについて、菊澤教授は独自の戦略のロードマップを作成し、競合企業がある場合とない場合に分けて説明しているが仮説の理論だけなので、それを如何に企業経営に展開して、戦略を編み出すのかについては、バランス・スコアカード化を提示するのみに留まっている。
   
   私自身は、ポパーの三元論を展開した戦略論は、確かに卓見だと思うが、視点を多くして戦略論を説くことが有効ならば、何かとは言えないが、今後いくらでも考慮しなければならない要素が登場してくる筈である。
   たとえば、菊澤教授の戦略論も戦略を打つ立場の視点からの主観的な三元論だが、地球環境の問題や天然資源の枯渇など多くのシリアスなコンストレインなど外部要因を取り入れると戦略が変わってくる筈である。

   菊澤教授が一蹴しているブルー・オーシャン理論だが、これは、「競争者のいない新たな市場で、まだ生まれていない無限に広がる可能性を秘めた未知の市場空間を目指す」戦略であり、その為には、物理的世界のみならず、心理的世界も知性的世界も十分に考慮した結果でないとブルー・オーシャンを見つけ出し得ない筈である。
   現実にも、戦略キャンパスの評価項目に、心理的世界や知性的世界の要素を入れて戦略を打てば良いのであるし、決して、心理的世界や知性的世界を無視しているのではない筈である。
   それに、ブルー・オーシャンがレッド・オーシャンになるのは時間問題だと非難しているが、菊澤教授のキュービック論で打ち立てた戦略も同じで、いずれ、陳腐化して駆逐されるのは時間の問題で、永遠に勝ち続ける戦略などある筈がないのである。

   確かに、教授の指摘するとおり物理的世界のみ重視してハード戦略ばかりで押し通して窮地に立ったブッシュのイラク戦略の誤りは自明だが、
   PS3に対するWiiの勝利は、任天堂のブルー・オーシャン戦略の勝利だと私自身は思っている。
   
(追記)口絵写真は、咲き始めた「炉開き」椿。
   
コメント
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