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熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

クリエイティブ・クラス頭脳の世界的争奪戦

2007年06月11日 | イノベーションと経営
   アカデミー賞監督となったピーター・ジャクソンは、「ロード・オブ・ザ・リング」三部作を故国ニュージーランドで製作して、ウエリントンを一躍世界最先端の映画都市にのし上げた。
   こんな話題から、リチャード・フロリダ教授は、「クリエイティブ・クラスの世紀」を書き始めて、今、世界中が、クリエイティブで有能な人材の争奪戦争に鎬を削っていると説いている。

   グローバルな経済力と文化力の象徴である映画産業において、ひとたび世界の脚光を浴びるような作品さえ生み出せば、世界中から調達された資金を使って、世界中から来た最高の映画制作者を集めて卓越した作品を造り続けて来たハリウッドも一瞬にして凌駕することが出来る。
   このことは、とりもなおさず、経済的優位を維持するためには、製品、サービス面や資金面で競うよりは、才能ある人を惹きつけ、留まらせることが必須であることを示している。
   クリエイティブ・クラスの人々の大移動が始まり、世界中の国々が、クリエイティブな才能を持った人々の獲得を巡って争奪戦争がヒートアップしたのである。

   国際競争力とは、天然資源や製造技術力、軍事力、科学技術による経済力の優位性などではなく、クリエイティブな才能を生み出し、集め、引き寄せ、引きとめる力で、卓越した製造業から科学技術の先端まで、国際経済競争の主導権を握る為には、このことが最も重要なのだと説きながら、フロリダ教授は、アメリカのこの方面での遅れに危機感を持っている。
   何世代にもわたってチャンスと革新の国として世界に君臨してきたアメリカが、今や、政府の無為無策によって、その地位・クリエイティブな競争力を奪われつつあり、これは、正に産業革命以来の最大の挑戦・危機に直面していると言うのである。

   アメリカの国際競争力優位を作り出す要因については、沢山の研究がなされ諸説が錯綜しているが、フロリダ教授は、最も重要な点は、外国からの頭脳の流入、即ち、優秀なクリエイティブ・クラスの人財を惹きつける移民政策だと考えている。
   人種の坩堝のような異文化・異民族の融合する文化・文明の十字路。そのような交差点を作り出すことによって、創造性を爆発させてメディチ・イフェクトを誘発すること、これ以外に経済社会の発展は有り得ないと言う発想である。

   これは、国粋的とは言わないまでも、移民を頑なに拒否し続けている現在の日本の移民政策の対極にある考え方だが、島国で単一民族として高度な文明国家を維持してきた日本にとっては、和魂洋才程度の純粋培養対応で十分に経済競争に打ち勝ち国力を保つことが出来たのである。
   しかし、この考え方は、追いつけ追い越せ政策が有効な時代は良かったが、文明社会の先頭集団に入って、先に進む為に未踏の未来を前にするとクリエイティブな発想がなければ活路を切り開けない。
   雁行経済政策で日本の真似をして追随しておれば自然に経済発展を遂げ得たアジアの諸国や都市が今や日本を凌駕し、日本の国際競争力が先進諸国の殆ど末尾にランクされるようになったのも、日本の成功体験の弊害とこの国際社会への閉鎖性にあったことは間違いなかろう。   

   さて、このクリエイティブ・クラスが最も重要な経済的な資産となったと言う発想は、社会発展段階に応じてこれまで、農業、工業、情報が夫々経済社会の価値を体現して来たのだが、その資産としての価値がモノ、カネ、情報、ヒトと比重が移って来たと言うことであろうか。
   益々激しくなる経済戦争において、頭脳を求めた競争が熾烈化するということは、ヒューマニズムの進展とも思えないが、人間の価値を改めて見直すという意味では歓迎すべきかも知れない。

   ところで、フロリダ教授は、専門が「地域経済発展論」なので、このクリエイティブ・クラスを育み、文化文明を爆発させるのは都市であるとして、都市発展論を展開しているが、IT革命によって加速的に進展したグローバリゼーション故の傾向で、国家を超えた地域、都市の役割の重要性が増す。
   マイケル・ポーターのクラスター理論の延長線上で考えるとイノベーションの将来が見えて面白い。
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