青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

近所の蝶 52番目の撮影種 ミズイロオナガシジミ

2024-05-26 16:19:29 | 雑記 報告



ゼフィルス(シジミチョウ科ミドリシジミ族)は、去年は一種も撮影出来ませんでした。平地産の普通種、ミズイロオナガシジミ、アカシジミ、ウラナミアカシジミ、オオミドリシジミ(以上、クヌギ・コナラ食)、ミドリシジミ(食樹ハンノキ)、ウラゴマダラシジミ(食樹イボタ)あたりは、いてもおかしくはないのですが、どの種も一頭も見ることが出来ませんでした。

東京のアパートの近所でも、2021年の夏、霞丘陵の駐車場脇のコナラの樹でミズイロオナガシジミを、青梅駅の駅裏のコナラの樹でオオミドリシジミを撮影しただけで、ほかの種はどれも出会えなかった。ところが2022年の夏に(ギリシャから戻って福岡に来る直前に)再訪してみたところ、アカシジミもウラナミアカシジミもミズイロオナガシジミも、嘘みたいにドッサリ発生していたのです。著しい年次変動があるのかも知れません。

去年の福岡。近所の公園の入り口にクヌギの疎林があって、いかにもゼフィルスが居そうな環境なのです。せめてアカシジミかミズイロオナガシジミと出会えればと、ずっと注意を払っていたのだけれど、影も姿もなかった。

全国的な普通種ではあっても、九州には少ないのかも知れません。ということで、今年は端から遭遇を期待していなかったのですが、先日(5月23日)、部屋から徒歩2分の道端のクヌギとコナラの樹の下の落ち葉の上に、小さな白い蝶がとまっているのを見つけた。もしやと思って近づいて確認したら、ミズイロオナガシジミでした。

羽化直後の、出てきたばかりの個体なのでしょうか?それとも下に降りて休んでいたのでしょうか?繁みの枝や葉が邪魔になって、まともな写真が写せません。やがて飛んで行ってしまった。翌日(昨日)も、今日も、同じ所で見かけたのだけれど、すぐに飛び去ってしまって写真は写せませんでした。

今日(5月25日)、部屋から徒歩5分の公園入口で、クヌギの樹の下の枯葉の上に止まっているのを見つけました。やはりすぐに飛んで行ってしまって戻って来ません。相当に敏感なようです。

ペットボトルの麦茶を飲みながら、ふと前を見たら、湖畔のクヌギ葉上に、また一頭止まっています。でも手前の枝葉が邪魔になって、上手く写真を撮ることが出来ません。結構苦労して、左手で枝を引っ張りながら、右手の掌と指でスマホを操作して、アクロバット体制で撮影に臨みました。

スマホを使い出してから、目の前にじっとして止まっているチョウを、“どう考えても絶対に失敗するはずはない”という状況下で撮影するのですが、念のためにと100枚以上写しても、1枚もまともに写っていない(ピントが合っていない)、ということの繰り返しです。

今回は、最悪の条件下です。どうせまともには写っていないだろう、という前提で、20分余かけて200枚近く写したのですが、何故かほとんど全てがきちんと写っていた(スマホ、気まぐれですね)。

それに、枝を揺らしながら至近距離(5センチ前後)で撮影を続けたので、当然すぐに飛び去ってしまうだろうと思っていたのですが、意に介せずずっと同じ葉上にとまっていました。

その後、池を一周して、シルビアポイントのチェックをしたりして(ミズイロオナガシジミは、ほかにも数頭の個体に出会いました、去年全く姿を見なかったのが、嘘の様です)、撮影開始時点から1時間10分後に戻ってきたら、まだ同じ葉上に止まっていた。

敏感なのか、鈍感なのか、よく分からんです。



23日、最初に出会った個体も、枯葉の上をヨロヨロと歩いていたので、撮影は楽勝と思っていたのですが、飛び去ったあと戻ってこない。入れ替わるように別の蝶(サトキマダラヒカゲ)がやって来て、僕の腕にとまって汗を吸い始めました。

ミズイロオナガシジミが戻ってくるのを待つ間、それを撮影することにしました。ただ手に止まっている蝶を写すだけだと能が無いので、周りの環境を入れようと思ったのですが、スマホの角度の問題で僕の顔のほうに向いてしまいます。それもまあ良いかと、僕の顔も写し込んで撮影することにしました。

勿論主役は僕の顔ではなくて蝶のほうです。ところが、幾ら蝶にピントを合わせても、シャッターを押す瞬間に顔のほうにピントが移ってしまいます。意地になって、14分間に176枚、なんとか数枚が蝶のほうにピントが合っていました。何でもかんでも人間中心にセットされてしまう、という現代文明の宿命が如実に表れているわけです。



ミズイロオナガシジミに話を戻します。

静止時に翅を開くことはまずありません。たまにはあるのかも知れませんが僕は見たことが無い。ゼフィルスのうち、いわゆる「高等ゼフィルス」と呼ばれている、雄の翅表が金属光沢に煌めく各種(“ミドリシジミ”と名の付いた種とウラクロシジミ)は静止時に良く翅を開くのですが、「下等ゼフィルス」(雌雄の外観が類似し、雄は顕著な占有飛翔を行わない)の多くは翅を閉じたままのことが多いようです(ウラゴマダラシジミは開く)。

ミズイロオナガシジミの翅表は、雌雄とも鈍い灰黒褐色です。裏面は白地に黒帯。なのに「水色」と名が付いている。なぜに水色?と訝るのですが、実はピッタリの名前。飛んでいる時は、まさしく水色に見える(ルリシジミと区別が困難なほどです)。(灰褐色+白+黒)×飛翔で「水色」、不思議だけれど、事実なのです。

属名はAntigius(アンティギウス)。柴谷篤弘博士の命名です。僕のコードネームでもあるIratsumeイラツメ(郎女)を初め、Wagimoワギモ(吾妹)、Araragiアララギ(茂吉/赤彦/健吉)、Favonius(Zephyrusのラテン語読み)などと共に命名されました。Antigiusは、博士の恩師・杉谷岩彦教授(スギタニルリシジミに献名されている)のSUGITANIを組み替えてANTIGIUS。



典型的な東アジア分布パターンを示す、東アジアを代表する属の一つです。

日本海周辺地域(北海道₋九州と、対岸のロシア沿海州・朝鮮半島・中国東北地方)+長江流域(華東地方・華中地方を経て中国西南部)および台湾に分布するミズイロオナガシジミAntigius attiliaと、ほぼ同じ地域(ただし日本では山地性で、北海道に分布を欠き、九州では霧島山系のみ)に分布するウスイロオナガシジミA.butleriから成ります。共に食草はブナ科Quercus属(前者は主にコナラ、クヌギ、後者は主にカシワ、ナラガシワ)。

近年台湾固有種として新種記載されたA.jinpingiは、♂交尾器の基本形状に於いてウスイロオナガシジミとの間に確たる種差がなく、僕は同一種に含めても良いと考えています(裏面の斑紋も極めて発達が悪いことを除けば同一パターン)。

また、中国とミャンマーから、小岩屋敏氏による2新種(A.cheniとA.sizuyai)が記載されていますが、僕は詳細を把握していないので、言及は保留しておきます。

クルミを食草とするオナガシジミAraragi entheaとは外観がよく似ています(ことにウスイロオナガシジミ)が、類縁的には特に近くはなく、むしろダイセンシジミ(ウラミスジシジミ)Wagimo signatusやタイワンウラミスジシジミW.sulgeriと類縁が近いように思われます。

僕が中国四川省(青城山)で記録し、新属新種である可能性を示唆したシロモンオナガシジミは、後にオナガシジミ属の一種Araragi sugiyamaeとして新種記載が成されましたが、雄交尾器の形状からは、明らかに別属に置かれるものと考えます(AraragiとAitigiusの中間的形状、食草はクルミ属)。

なお、ミズイロオナガシジミは、僕は四川省北部山岳地帯(九賽溝)で撮影。日本産に於いても裏面の斑紋パターンが多様なことから、特に区別をする必要はないと思われますが、その前提で考えても、なんとなく独自の特徴を示しているように感じます。












ミズイロオナガシジミ 福岡県飯塚市 May 25,2024






ミズイロオナガシジミ(別個体) 福岡県飯塚市 May 25,2024






ミズイロオナガシジミ 東京都青梅市 Jun.1,2021






ミズイロオナガシジミ 山梨県日野春 Jul.3,1975






ミズイロオナガシジミ 岡山県新見市久保井野 Jun.26,1986






ミズイロオナガシジミ (撮影場所確認中) Jul.2,1991








ミズイロオナガシジミ 中国四川省九賽溝 Jul.31,1991








ウスイロオナガシジミ 岡山県新見市久保井野 Jun.26,1986






ウスイロオナガシジミ 岡山県新見市久保井野 Jun.26,1986






シロモンオナガシジミ 中国四川省青城山 Jul.29,1991






ダイセンシジミ 広島県冠高原 Jul.12,1993






タイワンウラミスジシジミ 中国浙江省清涼峰 Jul.12,2018






ミズイロオナガシジミ 福岡県飯塚市 May 23,2024














サトキマダラヒカゲ 福岡県飯塚市 May 23,2024







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中国大陸(附:日本列島)のハマウツボ科(シオガマギク属を中心に) 6

2024-05-26 09:00:00 | 雑記 報告


Orobanchaceae (mainly Pedicularis) from China (and Japan) 6



【10‐11】を青山(2014)では〖4‐9〗と同じ【Group Ⅲ】に含めたが、「中国植物志」では〖1‐9〗の「根葉群」とは異なる「長茎群」に含められる。また青山が【Group Ⅳ】とした【12‐13】も、同じく「長茎群」に所属する(系の段階で異なる)。



1-1-2-2-1-2羽状葉の裂片は大きく、下唇の中央片はごく小さい

1-1-2-2-1-2-1嘴状上唇は立ち上がる

〖10A〗 Pedicularis geosiphon地管马先蒿

长茎群 Grex Dolichomiscus 长茎亚群 Subgrex Dolichomiscus 藓生系 Ser. Muscicolae






四川省黄龍渓谷alt.3300m付近 Jul.5,2005

〖10B〗 Pedicularis.macrosiphon大管马先蒿

长茎群 Grex Dolichomiscus 长茎亚群 Subgrex Dolichomiscus 藓生系 Ser. Muscicolae




四川省ミニャコンカalt.3100m付近 Jul.2,2009




雲南省梅里雪山雨崩 alt.3300m付近 Jun.12,2009

写真が不鮮明なため断言はできないが、とりあえず同一種〖10〗とした。いずれも渓流沿いの林床の湿った苔上に生える。〖4~9〗同様に草丈が低く、花筒は細長く伸び、上唇は嘴状になるが、複葉は全裂し、各小葉は幅広く、互いに離れて位置し、羽状複葉に近い状態になる。葉面は比較的滑らかで、小葉の重鋸歯は鋭い。花は余り集まって咲かず、通常一株に1~数花。花色はピンク、喉の周辺が僅かに白い。下唇は平開し、中央裂片は側裂片より小さな楕円形、側裂片は幅広い。下唇の中央線に沿った部分が盛り上がる。嘴状上唇は、一度立ち上がって中間部でやや膨らみ、順次細まって下後方へ向けて突出する。後半部は濃い赤褐色を呈する。

**〖10A〗と〖10B〗を青山は同一種としたが、尹民の指摘に従い別種とする。



1-1-2-2-1-2-2嘴状上唇は下唇の上に寝る

〖11〗 Pedicularis muscicola 藓生马先蒿

长茎群 Grex Dolichomiscus 长茎亚群 Subgrex Dolichomiscus 藓生系 Ser. Muscicolae








陝西省秦嶺山中の渓谷沿いalt.1500m付近. Apr.21,2010

全体として〖10A〗Pedicularis geosiphon/〖10B〗Pedicularis macrosiphonに似るが、植物体が頑健な印象で、全裂する羽状葉は長さ10㎝を超し、長い柄を持ち放射状に開出する。その間から数本が集まって伸びる花茎状の花筒とともに、毛を密生する。萼片・苞葉片は未確認(〖10AB〗も)。寫眞で見る限り、花筒基部には小さな葉のようなものが集まっていて、それが苞葉片に相当するのかも知れない。下唇は中央裂片が小さく、全体のプロポーションは〖10AB〗と共通するが、側弁は上下により幅広く、縁は内側へ軽くウエーブする。嘴状上唇の基部は、余り顕著には立ち上がらず、順次細まりながら、向かって右に曲がりつつ下方に伸長する。基部の膨らんだ部分から、盲腸のような小突起を派出する。上唇も下唇同様のピンク色。本種は、四川省・雲南省には分布しない。



1-1-2-2-2花は葉腋につく

1-1-2-2-2-1茎は立ち上がらず花は長い筒部を欠く【Group Ⅳ】

1-1-2-2-2-1-1花は一様にピンク

〖12〗 P.axillaris 腋花马先蒿

长茎群 Grex Dolichomiscus 长茎亚群 Subgrex Dolichomiscus 腋花系 Ser. Axillares






雲南省白水台alt.2400m付近. Jun.2,2009

1-1-2-2-2-1-2花は白い斑がある

植物体の大きさは〖4~11〗と同程度、花筒は伸長せず、萼片は花冠基部の葉腋から伸びた花茎の上部に存在する(花期の後期になって花筒が伸長する可能性もあるが、チェックした個体に於いては全てが萼片から直接花冠が開いていた)。茎は地を伏せ、多毛で重鋸歯をもつ全裂した羽状葉を多数対生する。萼筒は長毛に覆われた短い紡錘状で、上縁から濃紫褐色~濃褐色の5枚の葉状鱗片が開出する。花は一様にピンク色、下唇は幅広く、中央裂片と側裂片の分離が不明瞭(互いに重なっているのか未分離なのかの判断は写真では困難)。嘴状上唇は基部から斜めに立ち上がったのち中央付近で屈曲し、細まりつつ下方に向かう。基半部の背方は濃色でやや凌状に盛り上がる。

〖13〗(same species as the 12)






雲南省麗江玉龍雪山山麓alt.3100m付近. Aug.1,1995

〖12〗に似るが下唇は白とピンクの斑で下縁が広がる扇状、全体としてやや発達が悪い。

**〖12〗と〖13〗を青山は別種としたが、尹民の指摘に従い同一種とする。





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