一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『弱い日本の強い円』

2011-12-13 | 乱読日記
マーケットに携わっている人は別でしょうが、私のような一般人には非常に参考になりました。

筆者は日本銀行国際局為替課などを経てJPモルガン・チェース銀行に転じ、現在マネジング・ディレクターで為替のストラテジストをやっている方。

為替相場についての「海外投機筋による仕掛け的な円買い」「昨夜発表された米国経済指標の強さが米国の利上げ期待を高め米ドル上昇」というようなよく聞く報道やコメントは為替市場の動向についての表現としては誤りかまたは(控えめに言っても)正確ではないこと。為替相場は国力では決まらず、中期的には主に貿易や資本のフローの方向で決まり、長期的には主に物価の上昇率の差で決まること。通貨はクロス円相場(米ドル/円、ユーロ/円、ユーロ/米ドル、豪ドル/円、豪ドル/米ドル)米ドル/円相場だけを見て「円高・円安」と騒ぐのは誤りであること、などを説得力を持って説明しています。

日経新聞がしょっちゅう上のようなコメントを載せているにもかかわらず、本書が「日経プレミアシリーズ」というビジネス向け新書から発行されているところは若干皮肉ではありますが。


また、外国為替取引の実際(発注する企業と銀行の関係、銀行におけるトレーダーの役割など)や、為替介入のしくみについての丁寧な説明もあり勉強になります。

特に為替介入について、為替介入では円安誘導はできない(そして過去もできていない)こと、外国為替資金特別会計の残高が既に100兆円を超えしかも25%以上の含み損を抱えていること、さらに外国為替資金特別会計は外貨準備から得られるクーポン収入等を一般会計に繰り入れている(これは初耳でした。要するに一般会計を補填するために介入資金で大掛かりな円キャリートレードをしているということですね。)など問題があることの指摘は、なぜ(少なくとも素人の眼に触れる範囲では)他の専門家は指摘しないのだろうかと不思議なくらいです。



ところで、ここのところ経団連会長など経済界の人々が円高是正のための為替介入を歓迎しながら同時にTPP参加を主張しているというのがどうも解せませんでした。
そもそもスタンスが矛盾しているんじゃないかというだけでなく、為替介入資金は輸出奨励のための国費の投入でありTPPにおける非関税障壁を含めた貿易の完全自由化の主張と対立する一種の補助金とみなされかねないんじゃなかろうか、などと考えていました。
しかし為替介入は過去の実績からも(相場の一時的で極端な動きを是正するための協調介入を除けば)効果がないのであれば、非関税障壁でも補助金でもないということになります。

ただ、本書でも指摘されているように、現在の日本の米ドル建て貿易は輸入の方が多く(2010年では10兆円のドル買い超=円高/ドル安は有利に働く)、また、アジア相手の輸出は半分が円建てになっているので、円高是正が日本経済全体のためにマイナスの影響を及ぼすのか、また、ただでさえ赤字の予算を使って外貨準備の含み損を抱えるために効果のない介入をすべきなのかについては疑問ですし、にもかかわらず経済界とかマスコミが口をそろえて「円高の危機」と是正の必要性(それが可能だという前提で)を叫ぶのはやはり奇妙ではあります。

経団連などのなかの個別企業には依然としてドル建て輸出超の企業が多いのか、逆に円高で儲かっているとバレると生産拠点の海外移転に非難が出たりするからでしょうか。
また、財務省的には為替介入をすればそれだけ外貨準備から一般会計への利息収入が増えるので黙っていようということなのでしょうか。

それこそ日経新聞あたりにそのへんを突っ込んでほしいものです。




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「悪い意味でのサラリーマン... | トップ | ユニクロ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

乱読日記」カテゴリの最新記事