熱量の高い本です。
世界銀行でアフガニスタン・バングラデシュ・パキスタン・スリランカ局局長から最後は南アジア地域副総裁までつとめた著者が、現場体験で知り合った、貧困やその原因である権力の腐敗・悪統治と戦うリーダーたちを中心に「貧困のない世界をつくる」ために邁進した自らの体験を、雑誌『選択』でれんさいしていたものをまとめた本。
国づくりは人づくり。その人づくりの要は、人間誰にでもあるリーダーシップ精神を引き出し、開花することに尽きると思う。
未来の社長や首相を発掘せよなどというのではない。育児や家事に勤しんでも、家庭の外に出てどのような職に就いても、リーダーの仕事には夢と情熱と信念がある。頭とハートが繋がっているから、為すことが光る。心に訴えるものがあるから、まわりの人々にやる気と勇気をもたらす。そのリーダーの良し悪しが、開発途上国の発展に決定的な差を生む。
実際に本書で取り上げられているリーダーの多くは農民、村長、NGO活動家、ジャーナリスト、社会起業家で、政治家はほんの一握りです。
本書を読んでいると、胸が熱くなる、涙腺が緩む、という場面に多く出くわすのですが、それは著者の草の根への深い共感と情熱が行間からあふれているためで、それが著者自身が優れたリーダーであることを物語っています。
貧困の原因はその現場に行かなければわからないし、草の根の民衆は何が問題かがわかっている。そして草の根への共感とともに問題意識をくみ上げ、世界銀行の融資を本来の目的に使うために為政者にも厳しく接するという姿勢を著者は貫きます。
最近「現場主義」という言葉は、「百聞は一見に如かず」を言い換えただけだったり、現場の情感処理と勘違いしているような使い方をされているので、個人的には使いたくない言葉なのですが、著者の現場主義は見本となるべきものです。
また、著者の、信念を持ち、ぶれない姿勢は、他人にも自分にも厳しい態度となってあらわれます。
災害からの立ち直りを助ける援助活動には心労が多い。緊急時の活動は目立つ。顔が見える。金が集まる。名声や昇進欲をくすぐる。公私共々、援助機関の悪質な競争を誘う。緊急事態を口実に草の根を無視し、民の意を汲まない活動が許されやすい。被害国の人々がするべきことまで、援助機関の人間が立ち入りたがる。救済・復興どころか、被害者やお互いの足を引っ張る結果になりかねない。
緊急時に醜態をさらす公的援助機関は多すぎる。普段から、ビジョンと価値観と倫理がしっかり浸透した組織として動いていないから。これもまたリーダーシップの重い責任と考える。
読み終わった後も、著者の情熱の余韻が伝わってくる本なのですが、同時に、わが国の為政者のリーダーシップについて、また著者のような人(特に女性)の活躍する場が日本には少ないのではないか、ということに考えをめぐらせてしまいます。
そのうち前者については、著者がパートナーになっているシンクタンク、ソフィアバンク代表の田坂氏が巻末の「真のリーダーの抱く夢--解説にかえて」という詩のような文章でいいことを言っているので最後に紹介します。
なぜ、この日本という国には、
数々のリーダーシップ論が溢れているにもかかわらず、
真のリーダーが生まれてこないのか。
(中略)
なぜなら、優れたリーダーの持つ優れた資質とは、
実は、 リーダーとなるための「条件」ではなく、
リーダーの道を歩んだ「結果」だからである。
PS 世界銀行といえばエコノミック・ヒットマンの影響で、途上国を先進国が過剰なインフラ投資と借金でシャブ漬けにするお先棒を担いできた機関という印象を持っていたのですが、物事は一面からだけ見てはだめですね。