一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『働かざるもの、飢えるべからず。』

2012-07-15 | 乱読日記

本書は、タイトルでもじっている「働かざるもの食うべからず」という考えが現代では妥当しなくなっているというところから、ベーシック・インカムと相続税率100%をセットにした社会システムを提案しています。

すなわち、「良いものを安く」を目指して経済活動を続けてきた結果、(労働力のコモディティ化によって)貧富の格差は広がってきたが、極端に貧困層が増えることは経済活動全体(ひいては豊かな人々)にとってもマイナスである。
他方、昔と異なり長期に安定的な産業というものは存在せず、豊かな人が豊かであり続けることも昔と比べて困難になってきている。
個人の成功・不成功も努力だけが大きな要因ではなくなってきており、「働かざるもの食うべからず」の命題の前提にある「働いた分だけ豊かになる」ということが成立しなくなってきている。
突き詰めて考えれば、一次産業だけでなく全ての産業は自然なり他の人間から何らかの形で収奪をして成り立っているわけで(注:このへんは「農業はサステナブルではない」という指摘につながるところがありますね)、「誰も、もともと働いていない」(=価値をゼロから創造しているわけではない。「付加価値」とはよく言ったものですね)。
なので「働かない人に金を与えるのは道徳的にも正しくない」という発想は捨てるべき。
逆に、できるだけ多くの人に成功に挑戦する機会を与えるべきではないか、
と説きます。  

 「どんなものが欲しいのか」という声をあげられないことが貧困です。食べるものにも困っていたら、まだ持っていない「iPhoneが欲しい」と思えないです。  
 どんな未来がほしいのかといったときに、どんな努力をしたらいいのかわからない世の中に、これからどんどんなっていきます。そのときに、一人でも多くの「こんな未来が快適かな」というアイディアを持つ母集団をつくったほうが、未来の快適さは向上します。  

また、相続税100%は、相続財産をベーシックインカムの原資とすることで、財産を「社会全体で相続」することを目指します。
事業の承継などのためには同時に生前贈与の税率を下げることで若い世代に所得移転を促すことで投資を促し、社会に還流させればよいとします。
そして社会に還元される金であれば、金持ちも世間の目をはばかることなく堂々と金を使うようになるという副次的効果も出ます。  

富める人が使いきれないほど溜め込んでいる金を社会に還流させる。経済活動については自己責任を透徹するが、うまくいかない(あたりまえですが半分は「平均以下」になるわけです)ことについては結果責任は問わずに再チャレンジを促すというところに代表されるような著者の「合理的(ある意味では怜悧)でありながら同時に楽天的」な視点は本書を一貫していますし、その視点は健全だと思います。(語り口は肌に合わない人がいるかもしれませんが)


社会保障・年金制度が負担と受益のアンバランスなど様々な面で機能不全が見えている中で、変に制度をいじって複雑にするよりはベーシック・インカムというシンプルでコストのかからない形にガラポンするという選択肢は有効なのではないかと個人的にも思ってます。
ただ「ガラポン」をするには現行制度の慣性があるのであるのでなかなか実現しないのでしょうが、相続税100%というのはガラポンのきっかけになる面白い提案だと思います。  

一方で相続税100%を導入すると金持ちの海外に逃避という懸念が出てきます。
本書でもそれについて言及した上で限定的と判断していますが、実際合法的かつ安全に資金と生活拠点を海外に移そうとした場合、生活コストや資産管理コストを考慮すると、そう簡単に海外の方が有利、ということにもならないように思います。
それよりも、国としての将来性や政治体制に不安がある場合の方が資金の逃避を誘発するように思います(高度成長下の中国など)。
逆に、社会が安定すれば、逆に現在シンガポールなどに資産家が移住している現象に歯止めがかかるかもしれません(シンガポールに住むこと自体さほど楽しいとも思えないのですが、それは税制のメリットを実感できないからなんでしょうねw)。  


いろいろ言及している各論の部分ではちょっと違うんじゃないか、と思うところもありますが、思考実験としても楽しめる本だと思います。 


 


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