一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『エコノミック・ヒットマン』

2012-01-31 | 乱読日記

「不当債務」というエントリで見つけた本。
やっと読みました。

「エコノミック・ヒットマン」とは天然資源の豊富な新興国に発電所や工業団地などのインフラを建設させ、結果的に新興国を借金漬けにする一方で、天然資源の収益をアメリカのエンジニアリング会社や建設会社に還流させる仕組みを作るために、新興国の指導層に取り入る連中のことを言います。
彼らはCIAなどの政府職員ではなく民間企業の従業員の姿をとって新興国に食い込んでいくといいます。
そして、彼らが失敗すると「ジャッカル」(彼らは政府の工作員?)が工作に抵抗した指導者を事故等に見せかけて排除してきたといいます。

本書は1970年代から80年代にかけてコンサルティング会社の社員としてエコノミック・ヒットマンとして働いた著者が、インドネシア、ベネズエラ、パナマ、サウジアラビア、イランなどでの経験を記した告発本です。

ただ告発本にしてもずいぶん時間が経ってからなのは、コンサルティング会社を退職してから告発本を書こうとするたびに巧みに脅しや買収が持ちかけられ、そのたびに著者はそれに屈してきたからだとも告白します。  

内部からの生々しい告発は読んでいて面白いですし特に中南米・南米の事情は余り関心がなかったので非常に新鮮でもあったのですが、最後のほうになってだんだん不愉快になってきました。  

というのは、著者の反省と告白が、自分が安全圏に逃げ切ったうえで(現在著者はコンサルティング会社をやめたあと、代替エネルギー会社を立ち上げて売却し-その幸運には関係者の口止め料も入っていると認識しています-現在は南米や東南アジアなどの少数民族や伝統文化を西欧社会に紹介し守るためのNGOに従事しています)、さらに良心を満足させようとせんがためという色が濃くなるからです。   

・・・だが、この本は処方箋ではない。あくまでも告白でしかないのだ。EMH(Economic Hit Manの略)になることを、自分に許してしまった男の告白なのだ。男は、数多くの特権を提供され、従うことが正当化しやすかったがゆえに、腐敗したシステムに従った。自分が強欲であることも、悲惨な状況で絶望している人々を搾取し、この地球を略奪していることも、実はよく知りながら、つねに言い訳を見つけていた。この男は、歴史上もっとも豊かな国に生まれたという事実を完璧に利用しつつ、良心がピラミッドの頂点にいないことで自分を哀れんでいた。教師が経済発展の教科書を読むのに耳を傾け、世界帝国を発展させるためには、殺人だろうと大量虐殺だろうと環境破壊だろうと、あらゆる行動を正当化する人々を手本にした・・・   

・・・私にとって、告白することは目覚めることに欠かせない一部分だった。あらゆる告白の例に漏れず、これは贖罪の第一歩だった。  まあ、ここまではよくあるパターンなのですが  さて、今度はあなたの番だ。あなたはあなた自身の告白をしなければならない。・・・  

・・・自分自身にこんな問いかけをしてみよう。私は何を告白しなければならないのか?私はどんなことで自分や他人を騙しているのだろうか?どんな場所に身をゆだねてきたのだろうか?いったいなぜ、このようなバランスを欠いた世界に暮らすことに甘んじているのだろうか?・・・     

百歩譲ってそういう反省をするとしても(そして多かれ少なかれ長く人生をやっているとそういう自省をすることはあると思うのですが)、著者に伝道師面されたくはない、と思ってしまいます。

アメリカのイラク侵攻とその後の国内での批判を見るとこういうのはアメリカ人の得意分野のようにも思えるのですが、考えるとアメリカ人に限らず、日本でも「えらい人」の中でこういうタイプの人はけっこういますね。
敗戦時に「一億総懺悔」した日本国民は総体としてみるとはアメリカと好対照ですが、指導層や財をなした人は懺悔せずに「明日の日本国のために」と言い切って「前向きな」(何にとって前向きかは人によって違いますが)行動をしていたわけですから。

成功するまでは無反省でい続けることは(特定の分野においてだけかもしれませんが)成功の秘訣の一つなのかもしれません。

 

 


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