一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

デューディリジェンスと財務報告

2007-01-20 | あきなひ
昨日のエントリのつづき。

「財務報告に係る内部統制の評価及び監査」に対する示唆というか感想です。

デューディリジェンス(DD)は企業なり事業を売買するにあたって取引内容対象について精査をし十分理解をした上で取引することで買い手が不測の損害に陥らないために行います(契約で何か対象事業に問題があったら損害賠償とか解除とかいっても、事後的に訴訟などで回収するのは手間ですし相手が無資力の場合はどうしようもないので。)。
また、入札をするような場合は、DDにあてる時間も限られますので、あらかじめ売主側で売却対象についての詳細なパッケージを用意して、応札側に情報不足によるディスカウントをさせないようにします。
つまり企業なり事業なりを「真っ当な売り物」として評価するための作業がDDなわけです。年末年始の番組でマグロがよく取り上げられていましたが、市場でセリをする前に尻尾の部分を切り落として断面を見せることでそれぞれのマグロの脂の乗り方を仲買人がチェックできるようにするのと同じですね。

もし今回の不二家の問題が日常業務ではなくDDで発覚したとすると、不二家の経営者は自分たちの事業を「売り物」=企業価値を客観的に評価されるものとして理解する姿勢に欠けていたことになります。
まあ、一般には(旧来型の)企業経営者は各期利益をどれだけあげたか、配当をどれだけしたかというところを自分たちの通信簿として意識しているので、ある意味仕方のないことかもしれません。

しかし、上場企業としてみると、会社の株式(=会社の持分)は毎日証券取引所で売買されています。すなわち会社売買はミクロの次元では毎日起きているわけです。
もちろん小口の株取引においていちいちDDなどはできません。
なので金融商品取引法では有価証券報告書の提出など(財務報告)が義務付けられ、証券取引所規則では適時開示が求められているわけです(金融商品取引法は元は「証券取引法」でしたものね。)。


そう考えると、企業の財務報告は株式の取引におけるDDの代わりの役割を果たしているともいえることになります。

そして繰り返しになりますが、もし今回の問題が日常業務ではなくDDで発覚したとすると、そのような場合は「M&Aをしようという買主がDDをしてわかることをなぜ日常業務ではわからなかったんだ。ひょっとしたら前々からうそをついていたのではないか。」というのが問題になるわけです。


このように考えると、金商法で求められる「財務報告に係る内部統制の評価及び監査」というのは、つきつめると「証券市場で安心(納得)して売買できるように(市場での適正な株価形成がされるように)財務報告をきちんとしておきなさいよ」ということを言っているように思います。


一方で、現在巷間で議論されているJ-sox(金融商品取引法24条)での「財務報告に係る内部統制の評価及び監査」をめぐる混乱は、財務報告に誤りがない(完璧に正しい)ということが求められるのでは、という危惧に原因するように見えます。
※ 実際はガイドラインなどでもそこまでは言っていないのですが、会計監査人の適正意見など責任をわけることでかえって「不適切ではない」というさじ加減は難しくて、何か問題があったときに少なくとも自分は免責されようとするとそれぞれの当事者が保守的になり、結果的にハードルきわめて高くなってしまうのではないかというようなことですね。


では仮に「完璧な内部統制を前提にした100%正しい財務報告」というのがあったらどうなるのでしょうか。理念型で考えてみましょう。

そうするとすべてのリスク要因(たとえば現経営者が無能であるリスクも!)が評価されます。そうすると事業を現状の方針のままで継続した場合の収益見通しも正確に得られるので、企業価値=株価は合理的に一つの数字に定まるはずです。

この状況では、現在の経営者よりすぐれたビジョンとか自己の事業とのシナジーなどの「今より儲かる」独自の事業戦略を持っている者のみが買収者になりえます。この買収者は現在の企業価値を向上させる見込みがあるので、現在の合理的に形成された株価にプレミアムを乗せても会社を支配下に置くメリットがあるからです。

この場合、株主にとっては買収者の将来得られる利益からどれだけ既存の株主に分け前(プレミアム)をよこしたら売ってもいいか、という点だけが問題になるはずで、(買収者の事業計画が実現性がないとしても、今の適正な株価より高く買うというのであれば損はないですから)そのとき現経営陣による買収防衛策は「余計なお世話」にしかなりません。
また現経営者が急遽新しい事業戦略を提示しても「今まで何をサボっていた」「急に考えた事業計画など実現性がない」「昔から考えていたものを隠していたとするなら財務報告が適正でなかったのではないか」などと言われるのがオチです。唯一の策は対抗で自らMBO(経営者による買収)を仕掛けることくらいです。

※ 株式市場への資金の流入が細る等のマクロの需給関係で株価が企業価値より「割安」になることもあるかもしれませんが、そのときは株主は買収に応じなければいいだけの話です。また、株主個々の資金繰りやマクロの株式市場に対する「読み」は企業価値とは関係のない話なので、これを理由にしての買収防衛というのもありえないと思います。


つまり、財務報告に無謬性を求める場合、買収防衛策には意味がなくなってしまうのではないだろうか、ということです。
※ ひょっとすると金融庁は大量保有報告制度やTOBルールを見直したので買収防衛策は不要、と思っているのかもしれませんが・・・


最近内部統制において「正確さ」ということが過度に強調されていることに違和感があるもので、ちょいと雑感を。
コメント
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