「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(7)

2006年11月10日 20時23分50秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42090406.html からの続き)

 広い展示会場。

 今日は、SCSが開催する 介護機器の発表会だ。

 美由は 不動の付添いで 車椅子を押して参加する。

 フラワーで飾られたゲートを くぐると、

 ライトに照らされた会場は まるで、

 新車のモーターショーのような 華やかな雰囲気である。

 美由は 目を丸くして 周囲を見渡す。

 レースクウィーンのような女性が 来客に 会場や機器の説明をしている。

 見学に来た あるベンチャー企業の経営者は 目を輝かせて、

「介護の仕事は、たとえ儲からなくても 人に感謝してもらえる。

 それが 何より財産ですね」

 と語る。

 美由も 大いに頷いて同調する。

 ところが不動は、

「儲けられない会社は この業界から 足を洗ったほうがいい」

 と一喝する。

「儲けて 拡大再生産してこそ、より良いサービスを お客様に買ってもらえる」

 と。

 呆気に取られる経営者を 尻目に、

 不動は自ら、目と口だけで動かせるパソコンの 実演をして見せる。

 義足の展示ブースでは、エアロビクス姿の青年が 笑顔で装着を実演している。

 青年は 膝から下の足がない。

 レースクウィーン嬢が 装具の説明をする。

 青年は義足を着けると 壇上に登り、

 女性インストラクターとともに リズミカルにエアロビを踊りだす。

 驚いて見ている 観客たち。

 美由は、不動が商売のために 

 障害者をさらし物にしているのではないか と疑問を呈する。

 不動は、

「消費者の 購買欲をかき立てるのが ビジネスだ。

 そのためには 俺自身も人寄せパンダになる」

 と言ってのける。

「障害を逆手に取って?」

 と問う美由。

「それのどこが悪い?」

 と言って 憚らない不動。

「介護用入浴車も、俺が 自分の体で試しながら 開発を命じた。

 俺の体は 最高の実験台だ。」

 と不動は高笑いする。

 美由は、この人はどういうつもりなんだろう と呆れてしまう。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42148337.html
 

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(6)

2006年11月09日 20時02分29秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42057955.html からの続き)

 啓輔宅への訪問日。

 道子が 手にしたものを 美由にあげようとして 持ってくる。

「かわいい金魚でしょ」

 それは 何と 道子の大便だった。

 びっくりする美由。

 啓輔は 道子を怒鳴りつけるが、

 シンシアは 啓輔をやんわりと制する。

 シンシアは道子に

「かわいいですねー。

 でも かわいそうだから 水に返してあげましょう」

 と言って、水洗トイレに流す。

 感銘する美由。

「お母さんの言動には、必ず お母さんにとっての 意味があるんですね」

 と、シンシアは 啓輔に語る。

「介護は楽しまなくちゃ」

 というのが シンシアのモットーである。

 道子が 座布団カバーの縫い目を ほどこうとしている。

 美由は シンシアの言葉を思い出して、道子に言う。

「繕ってくれて ありがとうございます。

 これもお願いしますね」

 と、別の端切れを渡す。

 そんな 美由とシンシアの ケアによって、道子と啓輔は 落ち着きを取り戻す。

 啓輔は、死ぬ気になれば 何でもできるんだ思う。

 シンシアは啓輔に

「死ぬ気になんか ならないで。

 介護は ズボラにしないと続かない」

 とアドバイスする。

(続く)
 

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(5)

2006年11月08日 21時06分09秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42015032.html からの続き)

 その日の 巡回が終わる。

 美由は シンシアが止めるのを押し切って、一人で 啓輔の家に戻る。

 喜んで美由を迎える 啓輔。

 いつも一人で 人恋しかった啓輔は、美由の優しさに 涙を滲ませる。

 美由は 無理して来て 本当に良かったと思う。

 これが 自分がやっていきたいことなんだ と。
 

 美由が SCSに戻ると、不動は 烈火のごとく 美由を怒鳴りつける。

「商品のタダ売りをするな!」

 美由はびびりながらも 不動に食いつく。

 お年寄りのために、喜ばれるのが どうしていけないのかと。

 不動は

「タダ働きを増やしていくと、いずれ負担になって どこかにしわ寄せが行く。

 慈善は偽善だ」

 と切り捨てる。

 美由は、誰でも 公平に受けられるのが 福祉ではないかと 食い下がる。

「公平なバラマキ福祉が 財政を食いつぶした。

 民間企業は コストを考えて 経営努力する。

 介護は 競争の時代なんだ」

 と述べる不動。

「競争に 勝っても負けても、成功した人も 失敗した人も、

 無条件で受けられるのが 本当のケアだと思います」

 と言い募る美由。

「高邁な理想に 人は騙される。

 しかし 健全な利益があってこそ 次のサービスが 提供できる。

 それが お客様のためにもなる。

 儲けなくして 優しさは続かない。

 次からは 必ず追加料金をいただけ。」

 憤懣やる方ない 美由。

 美由はその後も 不動に隠れて、時間外に 啓輔の家へ行ったりする。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42090406.html
 

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(4)

2006年11月07日 17時00分51秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41986875.html からの続き)

 美由は、啓輔に 訪問看護サービスを提供することを 提案する。

 不動の部屋へ 報告に行くと、不動は 車椅子の前輪 (小さいタイヤ) を上げて、

 後輪だけで くるくる動き回ったり、ボールを ドリブルしたりしている。

 呆気に取られる 美由。

 美由に気付いた不動は、ボールを 美由の頭すれすれに 投げつける。

 美由は思わず 首をすくめる。

 不動は笑いながら

「練習だ」

 と言い、美由に 用件を尋ねる。

 美由が 啓輔のことを話すと、不動は 美由にパンフレットを渡す。

 SCSの サービスの種類と 料金の一覧表だ。

 介護保険で受けられる 最低限のサービスに加えて、

 入浴のとき どこまで洗うか、掃除は どこまでするかなど、

 実に事細かく 料金が決められている。

 唖然とする 美由。
 

 シンシアが啓輔に パンフレットの内容を 丁寧に説明し、

 啓輔は 家計と相談しながら サービスを決めていく。

 美由は あまりにビジネスライクな 契約の仕方に、大いに疑問を持つ。
 

 美由とシンシアが 啓輔の家へ 訪問介護に行く。

 啓輔は 道子のトイレの介助の 仕方も分からず、

 おむつを汚して 大変なことになっている。

 シンシアと美由は 優しく道子の介護をし、荒れた部屋の掃除や 食事の支度をする。

 啓輔は 初々しい美由を気に入り、

 美由は 啓輔の話し相手をしてあげたいと シンシアに申し出る。

 でもそれは 今日の契約に入っていないので

 追加料金を もらわなければならない、とシンシアは言う。

 納得がいかない美由。

 目の前に 困っている人がいるのに、放っておくのがケアなのか と。

 しかし 次の訪問先もあるので もう行かなければならない。

 後ろ髪を引かれる思いで 美由はその場を後にする。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42057955.html
 

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(3)

2006年11月06日 21時47分18秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41940371.html からの続き)

 美由とシンシアが 車で訪問介護の巡回中、日が暮れて 雨が振りだす。

 通りかかった公園の暗がりで、美由は 男が首を吊ろうとしているのを 見つける。

 慌てて車を飛び出し、男を止める美由。

 男は 野々山啓輔といった。

 シンシアは 啓輔を事務所へ連れて行く。
 

 SCSの事務所。

 美由とシンシアが 啓輔を介抱している。

 濡れた服を着替えさせ、熱いココアを注いで もてなす。

 啓輔は ココアの暖かさと 美由たちの優しさが 身に沁み、涙がこぼれる。

 久しく触れたことのない、人の心だった。

 啓輔は 事情を話す。
 

 4ヵ月前、啓輔は リストラに合って失業した。

 啓輔の妻は、元々 仕事で家庭を省みなかった啓輔に 嫌気がさしており、

 職を失って 脱け殻のようになった啓輔に 見切りをつけ、

 娘を連れて 家を出て行ってしまった。

 啓輔が 途方に暮れていた矢先、母親の道子が 脳出血で倒れ、

 左半身麻痺になってしまう。

 まだらぼけが出て、徘徊や失禁を繰り返し、

 訳の分からないことを言って 野々山を困らせる。

 啓輔は これから一体どうすればいいのか、目の前が真っ暗になる。

 こんなはずではなかった、 自分の人生は……。

 4ヶ月間、道子の介護に疲れ果て、

 啓輔は もはや 生きていく希望を失ってしまう。

 そして 首を吊ろうとしたところを 美由たちに救われたのだった。

「明けない夜はない なんてウソだ」

 と嘆く啓輔。

 シンシアは

「暮れない昼も ありませんよね」

 と語りかける。

 親身になって聞いてくれる 美由とシンシアに、

 啓輔は 心を許していく。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42015032.html
 

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(2)

2006年11月05日 16時07分59秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41907944.html からの続き)

「お客様は神様」 というのは、利用者を何よりも大切にする

 という意味だと 美由は思っていた。

 しかし どうも話が違うようだ。

 美由は 不動に問いなおしてみる。

 不動は

「お客様は お金を落としていってくれるから 神様なんだ」

 と言う。

「利用者は お金を稼ぐ 道具だってことですか?

 そんなの福祉じゃない」

 と憤慨する美由。

 にやりと笑う不動。

「卒業したばかりのお前を 採用したのは何故だと思う?

 まだお前が 古い福祉の価値観に 凝り固まっていないからだ。

 これから俺が じっくり染めていってやる」。

 気色ばむ美由。
 
 

 今日は 美由が 訪問介護に行く日だ。

 シンシア,運転手の男性職員と一緒に 訪問先を巡回する。

 最初の予定は 訪問入浴サービスで、利用者は 寝たきりの女性。

 SCSの入浴サービスは 特別に開発した 介護用入浴車だ

(車椅子を 直接バスタブにドッキングさせる)。

 感心する美由に シンシアは、

 これは社長が発案したもの だと言う。

 ピッタリした短いTシャツに ショートパンツ姿のシンシアは、

 男性職員とともに 手慣れた様子で 作業を進める。

 美由も シンシアに指示を受けながら 一生懸命 手伝う。

 シンシアの的確なケアや、心のこもった声掛けに 感銘を受ける美由。

 利用者の女性は 久しぶりの入浴で 極楽気分を味わう。

 美由は やっぱりこの仕事を始めて 良かったと思う。
 

 ところが、SCSの入浴サービス料は 通常の料金よりも 相当に高かった。

 それを知って 美由はびっくりする。

 シンシアは、うちの入浴サービスは 他社より便利で快適なもので、

 利用者は充分満足しているから 暴利ではない、

 というのが 社長の考えだと説明する。

 美由は、お年寄りの弱みに付け込んでる と憤然とする。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41986875.html
 

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(1)

2006年11月04日 14時53分25秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41887700.html からの続き)

【登場人物】

倉橋 美由 (21才・介護福祉士)

不動 全次郎 (48才・介護会社社長)

シンシア (30才・フィリピン人・不動の妻・ケアマネージャー)

野々山 道子(77才・痴呆老人)

野々山 啓輔(46才・道子の息子)

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【プロット】

 在宅介護支援事業 「SCS (スペシャル・ケア・サービス)」 の

 入社試験 面接会場。

 リクルートスタイルに 身を固めた美由が、緊張気味に座っている。

 面接官は ケアマネージャーの シンシア。

 シンシアは 胸が開いたブラウスに タイトなスカート。

 やけに色っぽい。

「介護福祉士学校、卒業見込みですね」

 と言うシンシアに、美由は

「お年寄りが喜ぶ顔を 見るのが嬉しい。

 ハンディのある人の 役に立ちたい。」

 と はつらつと夢を語る。

「うちを選んだ理由は?」

 と問うシンシア。

 美由は

「就職情報誌に載っていた 御社の

 『要介護者はお客様。お客様は神様』 というコピーに 惹かれました」

 と答える。
 
 

 SCSに採用された 美由。

 不安と期待を抱いて 出勤初日を迎える。

 SCSの朝礼。

 20名余りの社員が 整然と並んでいる前に、社長の不動が 姿を現す。

 驚く美由。

 不動は大柄で 顔に傷があり、サングラスを掛けている。

 そして なんと車椅子に座っている。

 不動は 実に器用に、力強く車椅子を扱う。

 不動の 訓話が始まる。

「介護サービスは、施しの福祉でも 慈善事業でもない。

 利用者が お金を払って買う ビジネスだ。

 お客様のニーズに応える 商品を売る、それが 企業が生き残る道だ。

 介護ビジネスは 4兆円市場。

 宝を掘り起こせ!」

 檄(げき)を飛ばす不動。

 社員たちは 不動に続いて 全員で唱和する。

「利用者はお客様。 お客様は、神様です!」

 唖然とする美由。

「介護は商売。 サービスは これ商品!」

 全員 合掌する。

 壁には スタッフの “営業成績” のグラフまで貼ってある。

『介護が商品?』

 納得できない美由。

『こんな会社に 就職してよかったんだろうか……?』

 美由の胸に 不安がよぎる。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41940371.html
 

車椅子介護ビジネスのドラマ. プロット連載

2006年11月03日 22時13分04秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
 先日、映画 「マーダーボール」 の感想を書きました。

( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/40909003.html )

 障害者による 車椅子ラグビー (ウィルチェアラグビー) の、ノンフィクション映画でした。

 この ウィルチェアラグビーは、僕は以前 自分の作品に 書いたことがあり、

 個人的に若干 思い入れがありました。

 2時間ドラマの企画で、ボツになってしまった作品でしたが、

 車椅子に乗った社長が 繰り広げる 介護ビジネスの話で、

 実在の車椅子社長・春山満さんを モデルにしたフィクションです。

 
 こんな粗筋です。

 不動 全次郎は 介護サービス会社の社長。

 自らが 車椅子の生活です。

 「介護は商売」 と言い切って はばからず、

 「利用者はお客様。 お客様は神様。」 をモットーとしている 強者です。

 そこへ入社してきた 新米介護士の 倉橋 美由。

 お年寄りの役に立ちたいと 介護の理想に燃えている 美由ですが、

 あまりにビジネスライクで 不遜な不動に 反発します。

 しかし、次第に 自分の未熟さを知り、

 不動の 真の理念を 理解していきます。

 優しさだけでは 介護は続かない。

 利潤があってこそ 次のサービスを充実できる。

 絵に描いた餅や 精神論ではなく、

 本当に利用者のためになる 介護は何か ということを 描いていく話です。

 
 さて、そのプロットを ブログに掲載してみようかと思います。

 明日から 少しずつ連載していきますので、

 どうぞ ご覧になってみてください。m(_ _)m

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/41907944.html