「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

「車椅子社長・猛烈ケアビジネス」(12)

2006年11月15日 22時26分40秒 | 車椅子社長/無意識の彷徨/コンビンサー
 
( http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42254546.html からの続き)

 ある日、啓輔と美由は、道子の車椅子を押して 散歩に出る。

 今日は これも契約だ。

 料金をもらうことを 恐縮する美由だが、

 啓輔は 美由を買ったのだから 付き合ってもらうと笑う。

 道子は ほんのりとお化粧をしている。

 歳をとっても お化粧くらいするのは 当たり前だと、美由が勧めたのだ。

 桜の花びらが 舞い散る下、啓輔は 道子をおんぶしてみる。

「戯れに 母を背負いて……」

 すっかり か細く 軽くなってしまった 道子。

 啓輔は このまま、いつまでも、どこまでも、

 歩いていきたい と思った。

 啓輔は ぽつぽつと語る。

「お袋が倒れてから 1年余りは、

 夢に出てくるお袋は 病気になる前の 元気な姿だった。

 その後次第に、車椅子に座ったお袋が 夢に出てくるようになった。

 それも 穏やかな表情で」

 美由は 

「ありのままのお母さんを 受け入れられるように なったんですね」

 と言う。

 微苦笑して 頷く啓輔。

「……でも この前、夢のなかのお袋は 病気が治っていた……」

 啓輔の目から 涙がこぼれる。

「お袋が元気なときには、何も親孝行ができなかった……

 もし、神様がいるんなら、一日でもいい、

 奇跡を起こして、お袋を 元気な姿にしてほしい……」

 美由は 啓輔の本音を聞いて 胸が詰まる。

「お袋を、元に戻してほしい……!

そしたら、死ぬほど 親孝行します……!

元に戻して……!!」

 道子の手を握り、涙を堪える 啓輔。

 美由は 啓輔を労る。

「泣きたいときは 泣いてください。

 涙はそのために あるんだから」

 美由の目にも 涙が溢れる。

 道子を抱き、声を出して泣く 啓輔。

「啓輔……」

 と 小さく呟く道子。

(続く)
http://blogs.yahoo.co.jp/geg07531/42320802.html