蛾遊庵徒然草

おこがましくもかの兼好法師にならい、暇にまかせて日頃感じたよしなし事を何方様かのお目に止まればと書きしるしました。

素晴らしい本を読んだ!―『見残しの塔―周防国五重塔縁起』久木綾子著―

2012-02-04 16:32:03 | 読書感想(ぜひ読んで見て下さい!)
 近頃になく読み応えのある一冊を読んだ。久木綾子著『見残しの塔―周防国五重塔縁起』である。この書、文春2月号を何気なく繰っていると、新刊を読むという巻末近いページに「五重塔を作った中世の人々がよみがえる、89歳衝撃デビュー作」橘由歩(ノンフィックションライター)氏による紹介記事が目に止まった。

 そこには『取材に14年、執筆に4年―、この時間の密度をどう捉えればいいのだろう。どれほどの情熱とぶれない胆力が必要とされるのか、…しかも人生70代からのスタートなのだ。70代から80代半ばという、世に老齢と括られる歳月の中で紡ぎだされた、新人女性作家の鮮烈なデビュー作が本書である。…』

 早速、行きつけの書店で求めたが、あるはずもなかった。取り寄せて手にした。一読、感嘆した。その文章の格調の高さ。自然描写の巧みさ。構成の妙。そして何より主人公をはじめ登場人物の多くがそれぞれに己の理想、あるいはこうあるべきと信じる道をひたすらに一途に生きて行く姿にうたれた。

 読み終わって、珍しく涙がでた。登場人物のその後があれこれと思われてならなかった。こんな読後感は久しく味わったことがなかった。 読んでいて、幸田露伴の「五重の塔」と何度か重なる思いがした。また、野上弥生子の「利休」がちらついた。そのいずれにも劣らない読み応えと格調の高さを感じた。

 ところで、著者、久木綾子氏は1919年生まれとあった。8年前に亡くなったわが母と同い年。そして、私自身も古希をすぎたところ。これまで、自分が本当は一体何をしたいのかがわからず、生きてきた気がしていたのが、最近ようやく、小説を書いてみたかったのではないかと気づくにいたった。

 そうして、今少しずつ、書きたいテーマのメモ作りを始めた。そうした時だからこそ、この書は私にとって一つの天啓とも感じられたのかもしれない。
 だからこそ感動も人一倍大きいのかもしれない。

 小説を書くことは、若い新鮮な感性ばかりでとらえられるものではなく、人生という一山か二山を越えたところで初めて見えてくるものもあり、それを書いて世にとうのも一つの意味あることではないかと思えてくる。
 これからの高齢化社会、このような作品が一つの大きなジャンルとなるのでは…。

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