昨年暮れにリリース告知されてから6カ月以上待たされてようやく入手できたアイテムがこのヴァニラ・ファッジの新作 『out through the in door』 です。このタイトルを聞いて「おっ?」と思われたアナタ、そう正解です。なんと本作は全曲、ヴァニラ・ファッジによるレッド・ツェッペリンのカヴァー・アルバムなのでありましたー!!
ツェッペリンとヴァニラ・ファッジでしょ、共通点なんかあるようでない、まったく接点が見つからない二つのバンドでありましたが、唯一の共通点といえば、同時代に活躍したオールド・ロックの代表バンドである、ということでしょうか。ツェッペリンはハードロックの元祖、方やヴァニラ・ファッジはサイケデリック・ロックの元祖でありますから、逆にどういったカヴァー・アルバムに仕上げてくるのか、別の意味で僕に興味はありましたね。無名の若手ロックバンドがカヴァーするわけではないので中途半端なものは作りたくないでしょうし、かといってパロディー作品を作る気だって毛頭ないでしょうから、やはり本気で取り組んでくるに違いありませんから、却ってそれが見ものだったりしますよね。
で、ようやく自宅に届いたCDをさっそく再生してみると、予想通り剛速球のストレート直球一本勝負で、彼らはこのカヴァー・アルバムを仕上げてきました(苦笑)。全12曲収録なのですが、選曲に関しても彼らは媚や衒いも一切なく、想像していた以上にツェッペリンらしい代表曲ばかり選んできましたね(笑)。カーマイン・アピスとジョン・ボーナムの対比が面白い「モビー・ディック」なんて、完全にカーマイン・アピスのリクエストだったんでしょうし、これは聴き応えありましたよ。
僕の中ではカーマイン・アピスのドラムスというのは、現役ドラマーの中でも一、二を争うぐらい重たいドラムを叩くドラマーだと考えておりましたが、この曲の演奏を聴いた限りでは重たいどころか非常にリズミカルで、かなり軽快なドラムを刻んで叩けるドラマーであったということが判明しました。対してオリジナルの「モビー・ディック」を改めて聴き直してみると、ジョン・ボーナムのドラムというのは非常に重たい。しかしながら、単純に腕力で叩きまくっているだけでなく、重たいながらもリード・ドラムとしての音楽性も兼ね備えており、ドラムだけでここまでメロディアスなハード・ロックを演奏しきれるというのは、やはり類まれな天才ドラマーであったことを間接的に証明しておりますよね。現在あれだけ軽快かつ重いドラムを叩けるドラマーってそういないんじゃないでしょうか。
本カヴァー・アルバムを聴いて、全体を通して感じたのは、やはりヴォーカルの弱さとリズム・ギターのレベルの差でしょうか。ヴォーカルに関しては、全盛期のロバート・プラントと比較しては、ヴァニラ・ファッジのマーク・ステインが気の毒でしょうね。本来であれば、カーマイン・アピスか、ティム・ボガートにリード・ヴォーカルをとらせた方が演奏自体の面白みは出たんでしょうが、バンド内での役割分担がありますから、そうも行かなかったのでしょう(苦笑)。
ギターに関してもヴィンス・マーテルとジミー・ペイジを比較しては可哀想すぎますかね。ヴィンスも職人ギタリストとしては申し分ないのですが、ことツェッペリンの曲をカヴァーするとなると明らかに不利です。ジミー・ペイジ自身でさえ、本人が演奏していた同じリフを弾くのに四苦八苦している(苦笑)というのに、他人が単にコピーしただけではオリジナルを超えるどころか、肩を並べることすら不可能に近いでしょう。それだけオリジナル演奏の出来は完璧に近かったと云えるのではないでしょうか。これはヴィンスのギター奏法云々をいうより、他の誰がツェッペリンのカヴァーを演奏しても同じような評価しか出ないのではないでしょうか。あの神憑り的だったジミー・ペイジのギターを完全コピーできるのは、日本人のバンド「シナモン」ぐらいしか出来ない芸当なのかもしれませんが、そのシナモンでさえ、完璧な演奏再現は不可能だと考えているぐらいですから、やはりあの四人が揃った時にだけ放たれる “ツェッペリン・マジック” というのは、本当に実在したんでしょうね。
よって、単純にカヴァー演奏をオリジナルと比較しても無意味だという結論が出ました、僕的には(苦笑)。むしろ、ヴァニラ・ファッジがツェッペリンをカヴァーしたらどうなるのか、途中からそちらの方に興味が移行しましたね。演奏の上手い下手というよりも、彼らがどれだけ個性を活かしつつ、ツェッペリンのカヴァー演奏を自家薬籠中の物にして、最後まで演奏し続けることができるのか、その一点に絞って聴いてみるのが正解でしょうね。そんな中でカーマイン・アピスがどのようなドラムスを叩き、ティム・ボガートがどこでリード・ベースをかき鳴らしつつ、リード・ヴォーカルよりも目立つ大きな声でバッキング・ヴォーカルをとっているのか(笑)など、興味の尽きない部分はいくらでもありますね。
現時点では、まだ日本国内に入荷されている数が少ないので入手するまでには、意外と時間がかかってしまうかもしれませんが、オールド・ロック好きな音楽ファンの皆さんには是非、聴いてもらいたいカヴァー・アルバムだと思います。オススメですよー!!
◎VANILLA FUDGE 『out through the in door』 (escapi music, EMUS20078)
01. IMMIGRANT SONG
02. RAMBLE ON
03. TRAMPLED UNDER FOOT
04. DAZED AND CONFUSED
05. BLACK MOUNTAIN SIDE
06. FOOL IN THE RAIN
07. BABE, I'M GONNA LEAVE YOU
08. DANCING DAYS
09. MOBY DICK
10. ALL OF MY LOVE
11. ROCK AND ROLL
12. YOUR TIME IS GONNA COME
※PRODUCED by CARMINE APPICE
VANILLA FUDGE is :
CARMINE APPICE - Drums, Lead and Backing Vocals, Percussion
TIM BOGERT - Bass, Back Ground Vocals
MARK STEIN - Lead Vocals, Backing Vocals & Keyboards
VINCE MARTELL - Guitars, Lead and Backing Vocals