道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

ハンナ・アーレント(岩波ホール)

2013年12月06日 | 映画道楽
岩波ホールに映画「ハンナ・アーレント」を見に行きました。

ハンナ・アーレントといえばドイツ出身の哲学者ですが、この映画では、アーレントがアメリカに亡命した後、イスラエルで行われるアイヒマン裁判を傍聴し、それについての記事を書く話が中心となります。
アーレントはイスラエルで行われるアイヒマン裁判を見て、アイヒマンが余りにも平凡な人間であることに驚きます。そして、アイヒマンの思考停止がモラルの判断の停止、さらには残虐行為をもたらしたと指摘し、同時にユダヤ人の中にもナチへの協力者がいたことも指摘しますが、その記事の内容は、多くのユダヤ人から反発を受け・・。
という内容です。

アーレントの指摘した内容それ自体は至極正当だと思うのですが、やはりナチからの被害意識の強かったユダヤ社会はこれを普通には受け止めることができなかったのでしょうか。一般にナチに関することとなると、すべて絶対的な悪にしないと気が済まないという前提があり、この前提を破ることがタブーになっているようですので。
そもそもアイヒマンをアルゼンチンから拉致してきたことがアイヒマン裁判の出発点なのですが、この拉致行為自体をアルゼンチンの主権を踏みにじる行為であって、いささかも正当視する余地はないように思われますので、アイヒマン裁判というショーをアレンジしたイスラエルの行為自体に問題があります(このような国家の主権を踏みにじる行為をした国家は、イスラエルのほかに、韓国、つまり現大統領の父親の時代の韓国も挙げることができます。)。

映画はドイツ語、英語が入り交じり、よく言葉が切り替わります。
おしまいの方ではアーレントの講演の場面がありますが、見る者がアーレント(を演じているバーバラ・ズーコヴァ)の授業を聞いているような気持ちにさせてくれます。その内容もできるだけ平易に解説してくれているようで、助かります。

アーレントの考えのみならず、ユダヤ人社会の受け止め方も描き出されています。また映画の中にはアーレントの夫や友人、さらには過去の師匠ハイデッガーも登場します。
戦後のハイデッガーの登場する場面は、自分も行ったことのあるトートナウベルク(この街のレストランで食事をした記憶がありますが、もう店の名前を忘れました。)が舞台なのかなどと考えながら興味深く見ました。ナチの政権掌握とほぼ同時期にナチ党員となり、フライブルク大学総長として、ナチに積極的に協力したハイデッガーは、戦後、フライブルク近郊のトートナウベルクに隠棲を余儀なくされたのでした。

この映画の主演はバーバラ・ズーコヴァです。
私が26年前に初めて岩波ホールで見た映画「ローザ・ルクセンブルク」でも主演していました。年を取っても綺麗な女優ですが、若い時とはまた違うオーラがあります。
またこの映画に出てくるアイヒマンはすべて本物の映像です。かつて「スペシャリスト 自覚なき殺戮者」というアイヒマン裁判を描いた映画を見たことも参考になりました。

映画「ハンナ・アーレント」は12月13日(金)までですが、岩波ホールは非常に混雑しています。この映画でこの人気というのは不思議ですが、私が行ったときなど、ドイツ語のホームページ等を印刷した物を熱心に読んでいる人が複数名いましたから、ドイツや哲学に関心のある人が多く来ているのかも知れません。