とりあえず一所懸命

鉄道の旅や季節の花、古い街並みなどを紹介するブログに変更しました。今までの映画や障害児教育にも触れられたらと思います。

映画「悪人」

2010-09-12 22:30:48 | 映画
なぜ、殺したのか。
なぜ、愛したのか。

あんた、大切な人はおるね?

その人の幸せな様子を思うだけで、
自分までうれしくなってくるような人は。

今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎる。
自分には失うものがないち思い込んで、
それで強くなった気になっとう。
だけんやろ、自分が余裕のある人間て思いくさって、
失ったり、欲しがったりする人間を、
馬鹿にした目で眺めとう。

そうじゃないとよ。
それじゃ人間は駄目とよ。 (チラシより)

この映画は、第34回モントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門で出品されました。 深津絵里が、最優秀女優賞を獲得しました。

そういう話題性の中で公開された作品だけに注目を集めています。
公開直後に見に行くことにしました。

映画館はいつものシネコンです。インターネットで、いつもの最後列の真ん中を予約しておいたのですが、時間になって劇場に入ると、予想通りの入りです。朝一番にも関わらず結構な入りでした。年齢層は、若い方から年配の方まで幅広い客層です。
妻夫木人気が手伝っているのかもしれません。

原作を読んでから映画に望むかどうしようか悩みましたが、読まずに映画館に入ることにしました。

オープニングから妻夫木演じる土木作業員の清水祐一は、屈折された人間像として描かれていきます。スカイラインGTOに乗っている割には、さえない服装の金髪のお兄ちゃんとして描かれていきます。

夜はスカGを乗り回し、朝は、解体業のワンボックスの後部座席に座る判で押したような生活。

楽しいと思っているはずはありません。そこには居場所がありません。

妻夫木聡は、いろんな映画やドラマに出てくるたびに好青年を演じることが多い役者ですが、2009年公開の『ノーボーイズ,ノークライ』(日韓合作映画)では、複雑な家庭環境の中で生きていく青年の役を演じています。

私はこの映画であらためて妻夫木聡の役者としての一面を見た気がしたものです。

今回の「悪人」では、まさに、その役柄でスタートしたので、その後の展開がとても楽しみになりました。

映画は、登場人物を紹介するところから始まります。

保険外交員の若い娘石橋佳乃の日常が描かれます。久留米の家をいやがって福岡の会社の寮に住み、時々女性で飲み会をして、出会い系サイトで知り合った男性と金銭的な関係をもっています。

その父親石橋佳男をに柄本明が演じます。口うるさいが娘思いで、久留米で実直に理髪店を営んでいます。

清水祐一は、両親の影は見られず、祖父母と一緒に長崎の外れの漁村で暮らしています。祖母を樹木希林が演じています。

祖父は病気がちで入退院を繰り返している。祖父母と一緒に暮らす家にも居場所はもちろんありません。
友人や恋人の影はありません。

石橋佳乃と清水祐一の接点は出会い系サイトです。もう一つの接点は殺人事件です。

一方、佐賀の紳士服量販店に勤める馬込光代(深津絵里)は、妹と2人で暮らすアパートと職場を自転車で往復するだけの退屈な毎日を送っています。

「本気で誰かに出会いたかった…」
孤独な魂を抱えた2人は偶然出会い、刹那的な愛にだけ、自分たちを見いだします。

しかし、祐一はたったひとつ光代に話していない秘密があります。彼は、連日ニュースを賑わせていた殺人事件の犯人だったのです。

「もっと早く光代に出会っていれば良かった…」
そんな祐一の自首を止めたのは光代でした。
殺人犯との許されぬ愛…。生まれて初めて人を愛する喜びに満たされる光代は、祐一と共に絶望的な逃避行へと向かいます。

やがて地の果てとも思える灯台に逃げ込みます。
大事なスカGでなく、バスで移動している場所にある灯台です。

場所は海を隔てた五島列島の大瀬崎断崖に立つ灯台です。
日露戦争では、バルチック艦隊発見の第一報を受信したというエピソードつきです。

断崖絶壁の無人灯台に逃げ込んだ2人は、わずかばかりの幸せなひとときを迎えるが、その逃避行が生んだ波紋は被害者の家族、加害者の家族の人生をも飲み込んでいきます。

なぜ祐一は人を殺したのか?なぜ光代は殺人者を愛したのか?引き裂かれた家族の運命はどうなるのか?絶望のどん底に突き落とされた人間たちが、善悪の葛藤のなかでもがき、そしてその先にひとつのの謎が生まれます。

いったい誰が本当の“悪人”なのか?

その答えが明かされたとき、物語は、衝撃と感動のクライマックスを迎えます。

映画を見終わって、久しぶりに骨のある映画を観たという思いがしました。
深津絵里の演技はなかなか見応えのあるものでした。化粧もほとんどせずに、そばかすだらけの顔で勝負していたのも、実に好印象を持ちました。

でも、妻夫木聡の演技も出色のものだと思いました。ただ、無言で感情を表現していく日本の男の演技を外国の批評家たちが理解できなかったのではないかと思いました。
コメント (2)
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