Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

グラム陰性菌血症の死亡率低下と感染症科医へのコンサルテーションの関連

2023年11月30日 | 感染
Shulder S, Tamma PD, Fiawoo S, et al.
Infectious Diseases Consultation Associated With Reduced Mortality in Gram-Negative Bacteremia.
Clin Infect Dis. 2023 Nov 11;77(9):1234-1237. PMID: 37402637.


・いろいろな疾患を横断的に診療する
・いろいろな科の医者とのコミュニケーションが重要
・更にはそもそも専門分野として認識してもらえなかった歴史がある
という共通点があるので、感染症科医には勝手に仲間意識を感じている。

専門医の有効性についての研究という意味では、集中治療医が一歩先を行っていたと思うけど、さすがに最近は感染症科医の価値を示す研究も数が減ってきたのでは。そういう意味でこの研究は今更感があるし、brief reportになってしまっているところもそれを示唆している。

とは言っても、日本で感染症科医・集中治療医の地位が確立しているかというと、まだまだなんだろうな。
知らんけど。
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手術室における酸塩基分析:ベッドサイドでのスチュワート・アプローチ

2023年11月29日 | 腎臓
メジャー雑誌でStewartという単語を久しぶりに見たかも。

Story DA.
Acid-Base Analysis in the Operating Room: A Bedside Stewart Approach.
Anesthesiology. 2023 Dec 1;139(6):860-867. PMID: 37934110.


自治さいたまのカンファでは、もう”アニオンギャップ”という単語は出てこず、普通にStewartを使ってくれるようになった。新しい文献を見かけなくなったのも、それだけ国際的にも普通になった、ということではなかろうか。

この文献にも計算方法が書いてあるけど、リンがないのとアルブミンの単位が違うので、自治さいたまの計算式をお教えします。

①乳酸の正常値(1mEq/L)より大きい分が乳酸アシドーシス。
②[Na+] - [Cl-]を計算、正常値は36mEq/L。この値より小さい分が高Cl性アシドーシス。
③リンは1mg/dlで0.6mEq/L (3.5mg/dlを基準、プラスならアシドーシス)。アルブミンは1g/dlで2.5mEq/L (4g/dlを基準、多くはマイナスになるのでアルカローシス)。

慣れれば1分で、例えば正常血糖性のケトアシとかだったら、一発でケトンの量を暗算できるよ。
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集中治療患者情報管理システムのバイタルサイン異常検知機能導入の効果

2023年11月20日 | ICU・システム
色々あってメッチャ時間がかかったが、ついに掲載!

山口 庸子, 内野 滋彦, 齋藤 慎二郎
集中治療患者情報管理システムのバイタルサイン異常検知機能導入の効果
日集中医誌 2023;30:459-60.


何をしたのかは、口で説明するよりも動画を見てもらった方が分かりやすいはず。
バイタル異常検知システム紹介動画

ACSYSを使っていて、バイタルの修正ができてないと困っている方、導入を検討してみては?
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ベイズ法:敗血症の臨床試験を前進させる可能性

2023年11月19日 | 感染
今もSPECTRALのWebサイトを定期巡回している。ちなみにSPECTRALとは、PMXをFDAに通そうとしている会社。そこでこんなニュースが書かれていた。
Spectral Medical Announces Publication of Tigris Trial Methods Paper and Simulation of Results

その文献とは、これ。
Tomlinson G, Al-Khafaji A, Conrad SA, et al.
Bayesian methods: a potential path forward for sepsis trials.
Crit Care. 2023 Nov 8;27(1):432. PMID: 37940985.


なんか難しくてよく分からないのだけど、とりあえず、EUPHRATESのサブグループ解析の結果を試験前確率として利用してベイズ解析すれば、TIGRISの予定症例数(150例)でも十分に有効性が示せる、という話らしい。このサブグループというのは、MODSが9点以上でエンドトキンの血中濃度が0.6-0.89の間の患者さんのこと。エンドトキシンが低すぎれば軽症すぎ、高すぎれば重症すぎだからPMXは無効と考えられるので、このサブグループで有効性が示されたのは論理的に考えても筋が通る、というのがTIGRISのそもそもの根拠。

きっと統計のプロが研究チームに含まれているのだろうけど、素人には納得できない。だってサブグループで見られる有効性はあくまで偶然の可能性があるのだから、それを試験前確率に使用してNが小さい研究やってもOK、っていうのは正しいの?

ニュースに書いてあるDr. Kellumのコメントが恐ろしい。
"We are pleased to see the publication of this paper, in a major scientific journal. The analysis clearly indicates that our trial strategy is highly likely to succeed and not only will this support our FDA approval for PMX, but will also have a major impact on how trials in the ICU are conducted in the future. The simulations involving over 2,000 potential trial results show that using the planned 75% weight on the prior EUPHRATES data, an observed absolute risk reduction for mortality of 7% in Tigris is at approximately the 95% probability threshold for declaring PMX effective. Current results from Tigris are far in excess of this threshold.”
(DeepLによる和訳)
「この論文が主要な科学雑誌に掲載されたことを嬉しく思います。この分析結果は、我々の試験戦略が成功する可能性が高いことを明確に示しており、PMXのFDA承認を支持するだけでなく、ICUにおける研究の今後の実施方法にも大きな影響を与えるでしょう。2,000件以上の潜在的な試験結果を含むシミュレーションによると、EUPHRATESの先行データに75%の重み付けをすることにより、Tigrisで観察された7%の死亡率の絶対リスク減少はPMXの有効性を宣言する95%の確率の閾値にほぼ達している。Tigrisの現在の結果は、このしきい値をはるかに超えています」。

直近の症例数が発表されたのが11月9日で76例。目標は150例、90例でinterim解析。
月に数例程度のenrollmentが続いているので、150例なら来年いっぱいか。

嫌な予感しかしない。。。
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ICU患者家族のPTSDに対するオンライン情報ツール

2023年11月17日 | ICU・システム
Hoffmann M, Jeitziner MM, Riedl R, et al.Effects of an online information tool on post-traumatic stress disorder in relatives of intensive care unit patients: a multicenter double-blind, randomized, placebo-controlled trial (ICU-Families-Study).
Intensive Care Med. 2023 Nov;49(11):1317-1326. PMID: 37870597.


面白いなと思った点が2つ。

1つは、いわゆるA/Bテストが医療の研究で行われているところ。RCTを医療で行おうとすると、IRBの認可を得て、IC取得して、保険もかける必要があってと、色々大変。でもウェブの世界では、表示する内容や言葉やスタイルを変えて、ユーザー(消費者)がより多くクリックする(購入する)表示を模索するなんてことが普通に行われている。羨ましーなーと思っていたA/BテストがRCTで使用されていて、単純に面白い。もちろんRCTの手順はちゃんと踏んでいるけど。

もう一つは、結果がネガティブだったところ。コロナで早期中止されたとはいえ、有効そうなシグナルすら見えない。つまり、家族が不安に思い、そのせいでPTSDを起こしてしまうのは、「ICUってどんなところなんだろう、何をやっているのか分からないから怖い」というような不安ではないということのようだ。例えば病院のウェブサイトを改善しようとしたり、ICUの説明を書いたパンフレットを作ったり、そういう努力をしているところって少なくないのでは。無駄とは言わないけど、少なくとも不安の改善やPTSDの予防にはあまり繋がらないらしい。やはり、人と人とのコミュニケーションが大事そう。

こんな未来が本当に来たら、医者もナースも今より暇になる、と思ったら大間違い。今は忙しくてつい後回しにしてしまっているコミュニケーションに使う時間がきっと増える。機械が増えると冷たくなりそうだけど、実は暖かくなる、のかも。

そうそう、ChatGPTが絵を描いてくれるようになったので、早速「未来の集中治療室」を描いてもらったよ。



て、点滴がない。
そうか、そういう可能性もあるか。
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抜管のAI予測について考える。

2023年11月16日 | AI・機械学習
以前、こんなのを書きましたが、
AI予測をICUの実臨床でリアルタイムに使用する①
AI予測をICUの実臨床でリアルタイムに使用する②
今回はより具体的に、抜管について考えたいと思います。

AIが抜管を予測してくれると聞いたら、どんなものを想像するだろうか。
抜管してよいかどうか、再挿管のリスクはどれくらいあるか、NPPV/HFNCを必要とするかどうか。そんなことを抜管前に教えてくれたら便利かな、と思われる人は少なくないのでは。実際、自治さいたまでは「72時間以内に抜管されている確率」と「今抜管したら再挿管になる確率」を提供しているのだけど、AUROCは0.8~0.9、キャリブレーションも抜管については相当いい感じの予測ができているので、それなりに臨床の参考にしてもらっている。

でも実は、抜管の予測というのはちょっと難しい面がある。その理由を列挙。
・抜管の比較的直前に医療介入(鎮静をオフにしたり人工呼吸器の設定を変更したり)が行われることが少なくないので、それに応じて患者さんの状態も変化するから、その状態変化が記録されないと予測に使えない。介入から抜管までの期間が短かったりすると、予測に反映されるのを待っているのが手間になるかもしれない。
・例えばカンファ中に抜管するかどうかについて予測を参考にしようとしても、まだ介入が行われていなければ正確に予測できていない。
・介入後から抜管までの時間が短いと予測をするための教師データが少なくなってしまう。
・抜管時にはカフリークやコフピークなどを測定して抜管の判断に使用したりするけど、それを経過表に記録することはほぼないのでは。そうすると予測に使えないし、モデル作成のための教師データにも使えない。
・「X時間後に抜管されているか」という予測では、過去の似たような状況の患者さんを抜管したかどうかを計算しているのであって、目の前の患者さんを「抜管してよい」かどうかを予測するのとは少し異なる。
・「今抜管したら再挿管になるか」という予測では、過去ログに書いた通り、極端にサンプル数が小さくなる。それに抜管直前の状態ではFiO2は低いし筋弛緩も使用されていないので、予測にこれらの項目は使用されない。

AI関連の文献には、こんなこともあんなこともAIが予測できて、精度高いよー、きっと臨床で便利だよー、と書いてある。抜管についても文献はたくさんあって、なんとすでにsystematic reviewも行われている。研究の中でAUCや感度・特異度が高いといっても、実際はこれらの問題のため、抜管についてはしばらくは参考程度の情報提供しかできないでしょう。まあさすがに患者さんを実際に見て触っている人には、数字しか知らない機械は勝てません。
とは言っても、「どうしようかな?」と悩んでいる時に「全然OK」と言われれば自信が持てるし、「ちょっとやめといたら?」と言われたら明日にしようかなと思うし、自分の判断と違う予測結果を見たら「何か見落としてないか?」と考えることができる。それって十分に有益だと思うし、臨床でもそう思って使ってくれているようだ。

そんなこと言っているうちに、鎮静の調整も人工呼吸器の設定変更もカフリークもコフピークも、そしても抜管も全部自動でやってくれる時代がすぐ来たりして。
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集中治療専門医を失うらしい。

2023年11月09日 | ICU・システム
昨日、集中治療医学会からメールがきた。
「日本専門医機構認定のサブスペシャルティ領域専門医制度開始に伴い準備を進めておりますが、機構専門医更新の際に基本領域の専門医資格が必要になります。」
だそうだ。
確かに、機構認定サブスペシャルティ領域「専門医の認定・更新」に関する整備指針に、
(1)機構専門医更新申請資格
B.本機構が定める基本領域学会の機構専門医(学会専門医は除く)資格を有していること
という記載があり、この文章は2022年4月15日に改訂されているので、随分前から決まっていたことらしい。

青天の霹靂とはこのこと。
てっきり、今後専門医になる人は基本領域が必要だけど、すでに取得している人は関係ないと思っていた。
知らなかったのは僕だけ?

ちょっと古い情報だけど、
永松聡一郎, 幸部 吉郎, 山下 和人, et al.
集中治療専門医のバックグラウンドとサブスペシャルティ
日集中医誌 2012;19:97~98.

によると、2009年の集中治療専門医は854名。そのうち麻酔科専門医も救急専門医も持っていない人が101名、そのうち循環器専門医と脳外科専門医を持っている人が48名いるので、集中治療専門医だけしか持っていないと思われる人は53名(全体の6.2%)。
学会のウェブサイトによると、2023年4月1日現在、集中治療専門医は2550名(14年で3倍になった)。もし集中治療専門医だけしか持っていないと同じ比率だとすると、158人が集中治療専門医を失う計算になる。

と言っても、僕みたいな情報弱者はきっと少ないのでしょうけどね。
このページの左に、「僕が唯一専門医を持っている学会。巷では、そういう人をreal intensivistと呼ぶ、らしい?」なんて書いてあるが、消さないと。

セミリタイアしているとはいえ、正直ちょっと寂しい。
これでいよいよ集中治療医としての復帰の可能性はなくなった。
まあ、する気ないけど。
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術中低血圧の予測:希望から誇大広告、そして現実へ

2023年11月07日 | AI・機械学習
まず過去ログ。
術中の低血圧を機械学習で予測
MAPは低血圧予測アルゴリズムと同等か?
Hypotension Prediction Indexについての追記。
Hypotension Prediction Indexについての追記の追記。

で、このHPI、気がついたら2ヶ月前から発売されていた
ということは、使った人もボチボチいるのでは。
そんな方に、このeditorialを捧げます。問題点がよくまとまっている。

Michard F, Futier E.
Predicting intraoperative hypotension: from hope to hype and back to reality.
Br J Anaesth. 2023 Aug;131(2):199-201. PMID: 36997473.


こんなのもあった。
OP中に使うと10人中9人に、平均して5回、時間に直すと手術時間の10%でアラームが鳴るらしい。
Kouz K, Scheeren TWL, van den Boom T, Saugel B.
Hypotension Prediction Index software alarms during major noncardiac surgery: a post hoc secondary analysis of the EU-HYPROTECT registry.
BJA Open. 2023 Oct 19;8 PMID: 37869057.


まだ使ってない方へ。
少なくともしばらくは(高い確率で永久に)使わなくてもよさそう。
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風邪引いたら仕事どうする?

2023年11月05日 | ひとりごと
やっとコロナの第九波が終わったと思ったら今度はインフルエンザ。困ったもんだ。
これらの疾患に限らず、職場にスタッフが何人もいれば風邪引いたり体調不良になったりする人が出るのは当たり前。自治さいたまと本院のICUのTEAMSに参加しているのだけど、「熱出た、でも回復傾向だから明日の当直はやれる」、「無理しないで休みなさい」的な会話が定期的に繰り返される。

以前、この話題について何か書いたなと思って過去ログを探してたら、もう11年も前だった。
風邪を引きながら働いても良いか?
この文献Editorialでは他者への感染リスクが話題になっている。
自分の体調が悪くなると、どうしても同僚に迷惑をかけることを気にしてしまうし、必ず「申し訳ない」的な発言をする。夏休みとかもそう。「長いこと休んで申し訳ありませんでした、お土産買ってきたのでよかったらどうぞ」的な。とっても日本人的で良い感じもするが、なんか違う感じの方が強い。

11年前の最後の文章をDeepL和訳。
「病中に働くことは、患者や同僚に対する賞賛に値する責任感を示すかもしれないが、臨床医は、同僚やスタッフだけでなく、弱い立場の患者を感染させるという現実的な危険についても心配する必要がある。」
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敗血症性ショック患者におけるランジオロールと臓器不全

2023年11月03日 | 感染
Whitehouse T, Hossain A, Perkins GD, et al.; STRESS-L Collaborators.
Landiolol and Organ Failure in Patients With Septic Shock: The STRESS-L Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2023 Oct 25: Epub ahead of print. PMID: 37877587.


先日のESICMの文献から一つ選ぶとしたらこれ。
選んだ理由は、ランジオロールが嫌いだから。
嫌いな理由は、新しい薬で、高価で、十分な根拠がないのに、やけに流行しているから。ピヴラッツと同じ。
なので、結果が単にネガティブなだけでなく、有害かもしれないという理由で早期中止されたなんて、嬉しくてゾクゾクしてしまう。

もちろんバイアスかかりまくりの判断です。
知ってます。
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