Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

SU剤と脳浮腫

2016年09月29日 | 神経
Sheth KN, Elm JJ, Molyneaux BJ, et al.
Safety and efficacy of intravenous glyburide on brain swelling after large hemispheric infarction (GAMES-RP): a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 2 trial.
Lancet Neurol. 2016 Oct;15(11):1160-9. PMID: 27567243.


アメリカの18施設。大脳半球の脳梗塞患者77例に対し、発症10時間以内にグリブリドかプラセボを持続投与。Primary outcomeは減圧開頭なしのmRS0-4点。その結果、まず予定は240例だったけど、fundingの問題で途中で中止。Primary outcomeに差はなかった(41% vs. 39%)けど、72-96時間後のmid-line shiftの程度と30日死亡率で介入群の方が有意に改善した。

アブストラクトを読んでいて、まさか違うよな、と思っていたのだけど、Introductionを読んで、やっぱりそうか、SU剤じゃんか。ニューロンとかアストロサイトとか上皮細胞にはスルフォニルウレア受容体があって、それをブロックすると脳浮腫が減るという動物実験があるのだそうだ。知らんかった。

面白い結果ではある。ただし、
・Early terminationした
・Fundingが製薬会社
・Primary outcomeは同じで、それ以外のoutcomeで有意に介入群が良かった
という、三種の神器とでも呼びたくなるような、phase IIIではnegativeになるパターンなので、この結果をもって、オイグルコンを内服させよー、なんて思っちゃダメですよ。
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心停止蘇生中の冷生食

2016年09月28日 | 循環
Bernard SA, Smith K, Finn J, et al.
Induction of Therapeutic Hypothermia During Out-of-Hospital Cardiac Arrest Using a Rapid Infusion of Cold Saline: The RINSE Trial (Rapid Infusion of Cold Normal Saline).
Circulation. 2016 Sep 13;134(11):797-805. PMID: 27562972.


オーストラリアの3つの都市の救急隊。院外心停止の蘇生中の補液として、3℃に冷やした生食を使うかどうかでRCT。Primary outcomeは退院時生存率。目標の半分くらいの症例数になったところで、いくつかの施設での体温管理方法が変わったため、研究は中止。その結果、1198例が対象となり、介入群は平均で1.2Lの冷生食の補液を受け、病院到着時の体温は0.7℃低かった。退院時生存率は10.2% vs. 11.4%(p=0.71)。介入群の方が、病院到着時の蘇生率が低く、肺水腫の合併頻度が高かった。

残念。
TTMの文献が出る前に終わっていれば、NEJMだったのに。

蘇生後に低体温を早く導入するために冷蔵庫で冷やした補液を急速投与するというのは、よく聞く話だったし、自分でもやったことある。そうなんだ、少なくとも蘇生中だとどうも有害そうなんだね。低体温をしなくなったので、蘇生後にやることもなくなったけれども。
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感染症と集中治療の両方を専門に持つこと

2016年09月27日 | 感染
共感できるといえば、感染症科医。
ホスピタリストと同じ理由で、縦割りの病院の中で横断的な専門なので。

Kadri SS, Rhee C, Magda G, et al.
Synergy, Salary, and Satisfaction: Benefits of Training in Critical Care Medicine and Infectious Diseases Gleaned From a National Pilot Survey of Dually Trained Physicians.
Clin Infect Dis. 2016 Oct 1;63(7):868-75. PMID: 27358351.


これまたアメリカの話。
感染症と集中治療の両方を専門に持っている202名のうち、154人にアンケート調査を行った。平均46歳、男性が77%、アジア人が24%(へー、多いんじゃない?)。自分のキャリアを5点満点で評価した中央値は4点。76%がもう一度トレーニングを受けるとしたら、やっぱり感染症と集中治療の両方を選ぶと答えた。二つを選んだ1番の理由は、臨床的相乗効果。感染症科医が集中治療の専門を持っていると侵襲的手技ができるし、集中治療医が感染症の専門を持っていると、多剤耐性菌や一般的でない感染症に対応できる。
なんてことが書いてある。

ちなみに、Primary self-identification(自分のことをなんて呼ぶ?)の答えは、”感染症の専門を持つ集中治療医”が44%、”感染症と集中治療の両方の専門医”が38%、集中治療の専門を持つ感染症科医が10%。
勝った。
なんてね。テヘペロ!

P.S. そう言えば、「感染症の診れる集中治療医になりたいんです!」と言って、感染症科から帰って来なくなったやつ、いたな。
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慈恵ICU勉強会 160906 190920

2016年09月26日 | ICU勉強会
6日 Dexmedetomidineについて真剣に考える
20日 脳出血に対する積極的降圧-2(JC-NEJM)


ちょっと順番がずれて、先々週分と今週分をまとめて。
このDEXのスライド、超大作。まあ、読んでみそ。

P.S. 実際にこの勉強会が行われたときに、「一つ大事なこととして、僕はガンダムの方が好きです」と言ったら、一瞬シーンとしてしまい、言ったこっちがビックリした。
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読んで驚いた研究

2016年09月25日 | ひとりごと
微妙と言えば、最近、読んでいて驚いたのだけど、微妙すぎて紹介できない文献を読んだ。
日本の多施設研究の結果なのだけど、提示されているデータが、その研究の根本部分を自己否定してしまっていて、かつそのことがdiscussionにまったく書いてない。
これはちょっとどうかと思ったのだが、でもメジャー雑誌に載っているし、僕の理解に問題があるのだろうか。
うーん。
分からないので、この話はこれでお終い。
じゃあ書くなって?
確かに。
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ホスピタリスト20周年

2016年09月24日 | その他
ちょっと個人的に微妙な話題なのでどうしようかと思ったのだけど、興味はあるし、賛成意見と反対意見を同時に掲載するNEJMの男気に敬意を表し、紹介します。

Wachter RM, Goldman L.
Zero to 50,000 - The 20th Anniversary of the Hospitalist.
N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1009-11. PMID: 27508924.

アメリカでホスピタリストが生まれたのが1990年代中頃で、2003年に1万人になり、2016年には5万人を越すまでになった。今やアメリカの75%の病院にホスピタリストがいるんだそうだ。
どうしてこんなに急激に増えたかの理由がいくつか書いてあるのだけど、その1番の理由はお金だそうだ。ホスピタリストは入院期間を短くしてコストを削減するので、病院がホスピタリストを雇いたがったのと、入院患者を診ていると外来患者を診れなくなり、手技のない入院患者はお金にならないので、外来主治医は喜んでホスピタリストに入院患者を診てもらうようになった、と。

Gunderman R.
Hospitalists and the Decline of Comprehensive Care.
N Engl J Med. 2016 Sep 15;375(11):1011-3. PMID: 27509007.

ホスピタリストが入院期間を短くし、再入院を減らすと言ったって、医療全般、すべてのコスト、そして患者と医者の健康に本当に役立つのかはわからない。医者患者関係には悪影響だし、医者が複数関与するとコミュニケーションエラーは発生するし、患者にとって、自分が一番信頼している医者が、自分が具合悪くなって入院した時にいないと当惑するだろうし、ホスピタリスト以外の医者の入院患者に対する診療能力は低下するし。良い医療の核となるものは、二人の人間の関係性だ。

興味のある人は読んでみよう。どちらに賛成するか。僕は、どちらも賛成できなかった。
特に後者を読んでいる時、これをすぐに思い出した。

Trunkey DD.
An unacceptable concept.
Ann Surg. 1999 Feb;229(2):172-3. PMID: 10024096.

何がunacceptableかというと、この文章はこの研究のeditorial。つまり外科ICUをopenからclosedにしたらよかったよ、という概念が受け入れ難い。
17年前には、こんな文章を外科系のトップクラスの雑誌に書く人もいた。

ホスピタリストも集中治療医も、縦割りの病院の中で横断的な診療をしているので、共感が持てる。
頑張って欲しいとは思いつつも、どうして前者の文章にも共感できなかったかというと、主にアメリカの話だから。
他の国でもホスピタリストって定着しているのだろうか。そこが分からないのでねー。
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慈恵ICU勉強会 160913

2016年09月19日 | ICU勉強会
13日 医者と家族の予後予測の不一致(JC-JAMA)
13日 緩和医療専門家による家族説明(JC-JAMA)


両方ともJAMA。そして両方とも発表者はナース。
短期間にJAMAに終末期医療もしくは重症患者家族に関連した研究が二つも発表されたというのは、最近の流れをよく表している。
ただし両方ともアメリカの研究なので、ちょっとバイアスはあるけれど。
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ICMの編集ポリシー

2016年09月18日 | その他
Azoulay E.
The editorial policy of Intensive Care Medicine.
Intensive Care Med. 2016 Sep;42(9):1313-5. PMID: 27492268.


先日、ちょっと文句言ったけど、最新号ではたくさん文献が載っているし、ちょっと魔が差したということにしておいてあげよう。

いつのまにか、投稿された論文の15%くらいしか採用されなくなっているんだ。そりゃなかなか採用されないわ。よく分かりました。
まあ集中治療単独の雑誌としてはトップだものね。当然か。
もっとドロ臭かったころのICMがちょっと懐かしいけど、仕方ない。
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補液はリンゲルか生食か

2016年09月17日 | 循環
そういえば、この話題はつい最近の文献でも何度か見たな。
ということで普通に最近の文献紹介(ちょっと久しぶりだ、このブログの主旨のはずなのに)。

Young P.
Saline Is the Solution for Crystalloid Resuscitation.
Crit Care Med. 2016 Aug;44(8):1538-40. PMID: 27153047.

・確かに生食はアシドーシスを起こすし、他にもAKIとかいろいろ言われている。
・でももっとハードなアウトカムで有害だとする根拠は乏しい。
SPLIT studyでも、治療に関連したと考えられた有害事象は一件のみ、リンゲルの方だ。
ANZICS-CTGのPLUS studyの結果が出るまでは、生食は150年の臨床経験があるし、晶質液の第一選択だろ。

Semler MW, Rice TW.
Saline Is Not the First Choice for Crystalloid Resuscitation Fluids.
Crit Care Med. 2016 Aug;44(8):1541-4. PMID: 27428117.

・アシドーシスは起こすし、腎臓には悪いし、死亡率を上げる可能性もあるぞ。
・頭部外傷に使ってもICPは上がらないし、多くのRCTで高カリウムは起こらないことが示されているし、リンゲルは安全だ。
・コストは生食とほぼ同じ。
・何百万もの晶質液補液が世界中で行われている。もしもリンゲルの有効性が生食に比べてごくわずかだとしても、その差は数千の命につながるかもしれない。
・普通に使えるし、値段も同じだし、安全だし、副作用も少ないし、生食が第一選択になるわけないだろ。

Vincent JL, De Backer D.
Saline versus balanced solutions: are clinical trials comparing two crystalloid solutions really needed?
Crit Care. 2016 Aug11;20(1):250. PMID: 27511049.

・世の中には生食とリンゲルをRCTで比較するべきだと言う人がいる。
・スタディデザインを考えてみよう。生食投与群で高Clが発生したらリンゲルにする、というデザインだと、予後に差は出ないだろう。高Clになってもほっておくというデザインだと、予後が悪くなる可能性は高いし、そんな研究は批判されるだろう。
・そんな研究をするよりも、教育をすればいいんじゃないか?NaやKを気にするのと同じように医者はClを気にするべきだ。
・どんな飲み物だって、飲みすぎたら有害だ。アルコールだって、甘いジュースだって。でもだからといってそういう飲み物は飲むべきじゃない、ということにはならないだろう。
・電解質測定ができない環境でもない限り、二つの晶質液を比較するなんてナンセンスだ。

同じ情報で、こんなに結論が違う。面白い。
誰もおかしなことは言っていない。
現状で利用可能な情報を用いて、自分で判断して、それに基づいて行動する。それでよい。
ただし、その前提は、利用可能な情報を知っていること。知識をちゃんと持っていること。
高カリだからリンゲルは使わない、という判断はこれには当てはまらないでしょ。
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ICUの中の水泳プール

2016年09月16日 | 終末期医療
不思議なタイトルだからとりあえず読んでみようと思った。
鎮静せん妄の大家、Ely先生だと気がついたのはその後。

Ely EW.
Swimming pool in the ICU.
Intensive Care Med. 2016 Sep;42(9):1502-3. PMID: 27515156.


終末期の高齢患者さん、肺炎で挿管されているけれど、自分の意思がまだ示せるときに、「あなたに何をしてあげるのが一番いいだろう?』と医者が聞いた翌日、ベッドサイドのホワイトボードに、「洗礼」と書いてあった。そこで、子供用のプールをベッドサイドに持ち込み、息子に抱きかかえられながら洗礼の儀式が行われ、アメイジンググレースが歌われた、というお話。

そういうICU、素敵だ。
去年、ニュージーランドのICUに見学に行ったとき、家族の話になって、先日患者さんが亡くなった時、20人以上の家族がベッドサイドで歌い、ICUがとても荘厳な雰囲気に包まれた、という話をしてくれた。

文献に使われた写真をコピペ。
家族がEly先生にこの話をみんなにしてほしいと頼んだのが執筆のきっかけだそうなので、家族もEly先生も怒らないに違いない。
出版社も怒りませんように。
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