Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

抜管のAI予測について考える。

2023年11月16日 | AI・機械学習
以前、こんなのを書きましたが、
AI予測をICUの実臨床でリアルタイムに使用する①
AI予測をICUの実臨床でリアルタイムに使用する②
今回はより具体的に、抜管について考えたいと思います。

AIが抜管を予測してくれると聞いたら、どんなものを想像するだろうか。
抜管してよいかどうか、再挿管のリスクはどれくらいあるか、NPPV/HFNCを必要とするかどうか。そんなことを抜管前に教えてくれたら便利かな、と思われる人は少なくないのでは。実際、自治さいたまでは「72時間以内に抜管されている確率」と「今抜管したら再挿管になる確率」を提供しているのだけど、AUROCは0.8~0.9、キャリブレーションも抜管については相当いい感じの予測ができているので、それなりに臨床の参考にしてもらっている。

でも実は、抜管の予測というのはちょっと難しい面がある。その理由を列挙。
・抜管の比較的直前に医療介入(鎮静をオフにしたり人工呼吸器の設定を変更したり)が行われることが少なくないので、それに応じて患者さんの状態も変化するから、その状態変化が記録されないと予測に使えない。介入から抜管までの期間が短かったりすると、予測に反映されるのを待っているのが手間になるかもしれない。
・例えばカンファ中に抜管するかどうかについて予測を参考にしようとしても、まだ介入が行われていなければ正確に予測できていない。
・介入後から抜管までの時間が短いと予測をするための教師データが少なくなってしまう。
・抜管時にはカフリークやコフピークなどを測定して抜管の判断に使用したりするけど、それを経過表に記録することはほぼないのでは。そうすると予測に使えないし、モデル作成のための教師データにも使えない。
・「X時間後に抜管されているか」という予測では、過去の似たような状況の患者さんを抜管したかどうかを計算しているのであって、目の前の患者さんを「抜管してよい」かどうかを予測するのとは少し異なる。
・「今抜管したら再挿管になるか」という予測では、過去ログに書いた通り、極端にサンプル数が小さくなる。それに抜管直前の状態ではFiO2は低いし筋弛緩も使用されていないので、予測にこれらの項目は使用されない。

AI関連の文献には、こんなこともあんなこともAIが予測できて、精度高いよー、きっと臨床で便利だよー、と書いてある。抜管についても文献はたくさんあって、なんとすでにsystematic reviewも行われている。研究の中でAUCや感度・特異度が高いといっても、実際はこれらの問題のため、抜管についてはしばらくは参考程度の情報提供しかできないでしょう。まあさすがに患者さんを実際に見て触っている人には、数字しか知らない機械は勝てません。
とは言っても、「どうしようかな?」と悩んでいる時に「全然OK」と言われれば自信が持てるし、「ちょっとやめといたら?」と言われたら明日にしようかなと思うし、自分の判断と違う予測結果を見たら「何か見落としてないか?」と考えることができる。それって十分に有益だと思うし、臨床でもそう思って使ってくれているようだ。

そんなこと言っているうちに、鎮静の調整も人工呼吸器の設定変更もカフリークもコフピークも、そしても抜管も全部自動でやってくれる時代がすぐ来たりして。
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