Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

SIMVとCHDF

2023年04月30日 | ひとりごと
身近なところで、「SIMVはダメだ」話が出た。
うー、と思った。
返事しようかと思ったが、一晩考えていたら長くなったので、ここに書いておく。

白状しますが、
1997年に専門をICUにしてから2020年に臨床から引退するまで、「ファーストチョイスはSIMV」という施設以外で働いたことがない(バリバリの呼吸不全は除く)。ある時期から非同調という言葉を耳にするようになったが、完全に無視していた。理由は、「だからどうした?」と思ったから。今も「だからどうした?」の答えをくれる研究には出会っていないので、別にSIMVでいいじゃんと思っている。でも口には出さない。好みの問題なので面倒なことになるから。

SIMVのメリットを考えてみた。
・OP室から挿管のまま入ってきた患者さん。そろそろ抜管したいけど調節呼吸に完全に乗っている。自発出るかな、換気量出るかな、を確認するのに、CMVだとモードをCPAP/PSに変えないといけない。モードの変更にはボタン操作をいくつかしないといけないけど、抜管って寝ぼけながらすることも少なくないので、操作を間違えてアプネアアラームが鳴ったりSpO2が下がったりしてドキドキして目が覚めることがある。SIMVだと呼吸数を減らすだけで確認は済むので、まだ抜管は無理だなと思ったらすぐ眠れる。
・CPAP/PSの患者さんが夜にアプレアになり、設定時間を限界まで延ばしてもアラームが鳴るのを止められない。そういう時はSIMV4回とかにすればアラーム設定は変えずに済む。時々、「アプネアアラームがオフになっていた」というのがインシデントとして取り上げられるのを聞くけど、それって夜間にアラームがうるさかったので誰かがオフにしたのでは。SIMVにしておいて患者さんが目覚めたらCPAPに戻せば済むのに。

この程度のメリットしか思いつかないけど、予後を変えるほどのデメリットはないし、”換気補助が変化するので苦しい”と文句を言われた記憶はない。なので、人工呼吸の初期設定は、バリバリの呼吸不全はCMV、それ以外(術後とか意識障害とか)はSIMVと決めておくと、いろいろスムーズではないか。そうすると使用頻度はSIMV>>CMVになる。

昔、CRRTのモードはどうするか、という議論があった。CHDとCHFの違いを簡単に言えば、CHDは膜寿命が長く、CHFは高分子量物質の除去率が高い。でも高分子の除去に臨床的なメリットが示されたことはないので、結論としてCRRT=CHDで基本的に問題はない。自治さいたまも慈恵もCHDがファーストチョイス。CHDFは2つの中間で、それがメリットと言われることもあるけど、膜寿命さえ考えればいいんだからCHDに劣るし、回路が複雑になるので面倒。でもCHDFを選択する人は少なくない(中にはCRRTという意味でCHDFと言う”可哀想”な人もいる)。でも、CHDにすべきだ!なんて口には出さない。好みの問題なので面倒なことになるから。

自分はこうする、理由はこうだ、というのはたくさんある。道具の選択とか手技のやり方とか、いろいろ。でもそれは好みの問題で、明らかに患者さんの予後を変えるほどの理由がない限り、他の人のやることを気にする必要はないと思う。

昨日と同様、これもメモみたいなものなので、お気になさらず。
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メモ:僕が自治さいたまでやっていること

2023年04月29日 | ひとりごと
週2回、大宮に通っています。
「自治で何してるの?」と時々聞かれるのだけど、いつもうまく説明できなくて、「ほぼ何もやっていない」とか答えてしまう。
だから書いておけば見せられるな、と思って。メモ的なものです。

データベース関連
・JIPADの施設責任者、データ収集者の教育
・RRSレジストリの施設責任者
・(CRISIS入力;23年3月で終了)

ACSYS関連
・辞書管理
・新人医師に対する使用方法の教育
・改修時の医療者側の窓口

データ利用関連
・患者データのデータベース化
・患者の予後予測
・研究用データ作成
・臨床の疑問に答える図表や会議資料の作成
・VAPサーベイランスの自動化
・治験症例スクリーニング

診療報酬関連
・コスト請求漏れチェック
・SOFAスコア算出
・処置麻酔請求可能患者のリストアップ
・看護必要度Aのモニタリング

その他
・患者カンファへの参加、時々コメント
・研究指導(20名くらい)
・数理最適化によるICU医師シフト表作成
・安全管理アプリの開発
・広告塔(嘘)
・みんなにとっての心の支え(超嘘)

日々それなりに何かをしている気がしていたが、数えてみたらそれなりにあった。
特に一番最後のやつが忙しくて大変(嘘)。

ーーーーーーーーーーー
やっていることが変化していっているので、このページは適宜修正しています。
最終アップデート:2024/6/30
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人工呼吸患者における主観的および客観的な生存率の予測

2023年04月28日 | ICU・システム
Boeck L, Pargger H, Schellongowski P, et al.
Subjective and objective survival prediction in mechanically ventilated critically ill patients: a prospective cohort study.
Crit Care. 2023 Apr 19;27(1):150. PMID: 37076881.


961例の人工呼吸患者の28日と1年後の生命予後を予測。主観による予後予測のAUROCは、ナースが0.74、 ジュニア医師(定義不明?)が0.78、アテンディングが0.76で、客観的な指標と同程度だったが、主観的予測は高リスク群の死亡率を20%ほど過大評価した。

入室24時間のデータのみを利用した重症度スコアでもAUROCは0.8の後半は普通あるので、研究全体の予測精度が低いのは不思議。
職種によって予測精度があまり変わらないのは面白い。それぞれ異なる情報を持っているのが理由かも。

でも何よりも、主観的な予測が死亡を過大評価(死なない人でも死ぬと予測する)するのは問題だと思う。
APACHEやSAPSは臨床利用するな、が前提。でも実際はそれと同程度の主観予測に基づいて治療継続するかどうかの方針を決定している。それって望ましい形なのだろうか?

で、実は自治さいたまでは客観的な予後予測の指標を今月から臨床で使用し始めた(重症度スコアとかSOFAとかじゃないよ)。
色々理由があって具体的なことは話せないので、知りたい人は自治さいたままでお越しください!
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ザルツブルグICUデータベース

2023年04月27日 | データベース・JIPAD
Rodemund N, Wernly B, Jung C, et al.
The Salzburg Intensive Care database (SICdb): an openly available critical care dataset.
Intensive Care Med. 2023 Apr 13. Epub ahead of print. PMID: 37052626.


これらに続く、5つ目の公開データベース。
ザルツブルグの大学病院にある4つのICUの合計27000例のデータ、全部で12億データポイント。

実は、自治さいたまもICU患者データをデータベース化してます。
過去5年、約8000例、データポイントは5億。研究にも使っているし、臨床上のちょっとした疑問にもすぐに答えられるようになっている。
さすがに公開予定はないので、使いたい方は自治さいたままでお越しください!
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看護師同士の親密度と重症患者における死亡率

2023年04月26日 | ICU・システム
ちょっと珍しいタイトルだったので、ジャケ買い(タイトルだけでPDFをダウンロードすること)した。

Duclos A, Payet C, Baboi L, etal.
Nurse-to-Nurse Familiarity and Mortality in the Critically Ill: A Multicenter Observational Study.
Am J Respir Crit Care Med. 2023 Apr 15;207(8):1022-1029. PMID: 36219472.


研究の内容自体はちょっと理解できない部分あり。過去に同じ勤務をしたかどうかが今回の勤務中の患者死亡と関連があり得るのか、ちょっと疑問。

結果とは別に、思ったこと。
こういう研究をやろうと思うためには、ナースがICU患者の予後に影響を与えることが前提となっている。そうでなければ親密度で予後が変わるだろうかなんて考えない。
それ自体は全く同感。実際に患者さんに医療を提供しているのはナースだし、もっとも近くにいて観察しているのもナースなのだから。
でも、日本のICUナースの何割がそう考えているだろう?

20年前、オーストラリアのICUで働いていた時に、40代のナースが、「自分たちの仕事はダメな医者から患者さんを守ることだ」と言っていた。それを聞いた時はまだ僕も若く、イマイチ理解できなかったが、今は完全に理解できるし、完全にその通りだと思う。

ICUで働くナースの皆さん、
あなたの仕事は与えられた業務をこなしておしまい、という仕事ではありません。その質が患者さんの予後に直結します。
責任も大きいけど、その分やりがいも大きいはず。
ムカつく医者もいるし、ダメな医者もいるし、他にもストレスはたくさんあるけれど、どうかよろしくお願いします。
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EUPHAS-2のサブ解析の結果が発表されました。

2023年04月20日 | 感染
SPECTRALからのニュースより。
SPECTRAL MEDICAL ANNOUNCES POSITIVE RESULTS OF EUPHAS-2 CLINICAL TRIAL EVALUATING PMX IN CRITICALLY ILL ENDOTOXEMIC SEPTIC SHOCK PATIENTS
元文献はこちら
(ちなみにEUPAHS-2の本解析はこちら
N=50のsingle arm。PMX施行後120時間観察。PMX後からエンドトキシン濃度は低下しつづけ、SOFAスコアも循環動態も改善。そしてSAPS IIの予測死亡率が75%なのに、実際の死亡率は36%だった。

素晴らしい結果です。
Single armで重症度スコアの予測死亡率と比較するなんて、セプザイリスとまったく同じ。

気になるのはCEOの発言。
”Tigris mortality data continues to exceed our expectations, and based on this latest data, we remain confident in our ability to achieve a successful trial outcome. We also continue to advance enrollment in the Tigris trial and believe that the continued onboarding of new Tigris sites will allow us to more rapidly reach our 150- patient target, bringing us closer to FDA submission and potential FDA approval.”
( DeepLによる和訳)
「Tigrisの死亡率データは引き続き当社の予想を上回っており、この最新データに基づき、当社は引き続き試験の成功に自信を持っています。また、Tigris試験の登録は引き続き進んでおり、新たなTigris試験施設を継続的に受け入れることで、150人の患者さんの目標をより迅速に達成し、FDA申請およびFDA承認の可能性に近づけることができると考えています。」
死亡率が予想を上回るとはどういうことか。単に全体の死亡率が高いのでNは十分だろうということか。それとも有効性が見えてきているということか。

ピヴラッツ同様、こちらも要経過観察。
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集中治療を必要とする成人髄膜脳炎患者の臨床的特徴

2023年04月17日 | 神経
Sonneville R, de Montmollin E, Contou D, et al.; EURECA Investigator Study Group.
Clinical features, etiologies, and outcomes in adult patients with meningoencephalitis requiring intensive care (EURECA): an international prospective multicenter cohort study.
Intensive Care Med. 2023 Apr 6. Epub ahead of print. PMID: 37022378.


7カ国68施設で3年間で599例を収集。原因疾患の頻度と予後がわかる。三ヶ月後のフォローもされている。
こういう研究をやろうと思い、かつ完遂するエネルギーがすごい。

”よく分からない脳炎”ってICUに定期的にやってくるので、診療の参考になるのでは。
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重症市中肺炎の管理についてのガイドライン

2023年04月16日 | 感染
Martin-Loeches I, Torres A, Nagavci B, et al.
ERS/ESICM/ESCMID/ALAT guidelines for the management of severe community-acquired pneumonia.
Intensive Care Med. 2023 Apr 4:1–18. Epub ahead of print. PMID: 37012484.


8つの臨床的疑問について。
その一つはステロイド。この研究のことを考えると、ちょっとタイミングが悪かったか。それともステロイドの推奨が高くならずに済んだので良かったのか。
そのステロイドについての推奨は、
"we suggest the use of corticosteroids if shock is present."
なのだけど、その後のrationaleを読んでもなぜこうなったのかイマイチわからない。ちょっと好きじゃない。

誤嚥性肺炎については、
”we suggest standard CAP therapy regimen and not specific therapy targeting anaerobic bacteria."
と書いてある。これは随分以前から言われていることだけど、今でも臨床の場で”嫌気”という言葉が出てくる。CRRTのことをCHDFと呼ぶ人が絶えないのと同じで、世代から世代へと”伝承”されているのかな。

伝承で医療をする人はガイドラインを読まないかもしれないので、そういう人がいたら教えてあげてください。
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AKIの和訳をChatGPTに聞いてみた。

2023年04月15日 | AI・機械学習
まず過去ログ。
Acute kidney injuryの日本語訳
AKIの和訳は急性腎傷害

ネット情報に基づいて文章作成をするChatGPTはどう返事をするか、だいたい予想がつくが、聞いてみた。

質問:AKIの日本語訳が急性腎傷害と急性腎障害の2通りありますが、どちらが正しいのでしょう?
回答:「AKI」は「Acute Kidney Injury」の略で、日本語に訳すと「急性腎傷害」となります。しかし、「急性腎障害」という訳も一般的に使われており、どちらも正しいと言えます。ただし、「急性腎傷害」はより専門的な用語として使用されることが多く、医学的な文脈ではこちらの方が適切とされることがあります。どちらの訳を使うかは、文脈や対象となる読者によって異なります。

おっと、予想外!
で、次は別のスレッドにこう聞いてみた。

質問:AKIの日本語訳が急性腎障害と急性腎傷害の2通りありますが、どちらが正しいのでしょう?
回答:AKI(Acute Kidney Injury)の日本語訳には、「急性腎障害」と「急性腎傷害」という2つの訳が存在します。これらはどちらも正しいと言えますが、医学的には「急性腎障害」という訳がより一般的に用いられていることが多いです。「急性腎障害」の方が、「急性腎傷害」よりも広く認知されており、医学論文や教育資料では「急性腎障害」が使われることが多いです。しかし、どちらの訳も同じ意味を持っているため、両方とも理解しておくと良いでしょう。

おお。
ではこのスレッドで続けてこう聞いたら?

質問:AKIの日本語訳が急性腎傷害と急性腎障害の2通りありますが、どちらが正しいのでしょう?
回答:AKI(Acute Kidney Injury)の日本語訳には、「急性腎障害」と「急性腎傷害」という2つの訳が存在します。どちらも正しい訳であり、実際に使用されていることがあります。しかし、医学的な文献や病院の現場では、「急性腎障害」の方が一般的に用いられていることが多いです。

・大規模言語モデルでは基本的に次に来る単語を予測しているだけなので、質問で聞く順番が回答に影響を与える。
・ただし同じスレッド内では以前の回答を記憶しているので、順番を変えても影響されない。

なるほど。聞いたことはあっても自分で試すとよく分かるね。
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ICU医師と看護師のバーンアウトについてのシステマティックレビュー

2023年04月14日 | ICU・システム
Papazian L, Hraiech S, Loundou A, et al.
High-level burnout in physicians and nurses working in adult ICUs: a systematic review and meta-analysis.
Intensive Care Med. 2023 Mar 27:1–14. Epub ahead of print. PMID: 36971792.


リスク因子を同定して、それをターゲットとした介入をしたくても、そもそも発生頻度が研究によって大きく異なるので、みんなで同じ定義を使いましょうよ、というのが結論。
"there is the need to use a consensual definition of burnout,,,"
大事だよね。それはAKIの歴史を見ればよく分かる。

医療者の健康は患者さんの健康に直結するのだから、しっかり定義して、しっかり研究してほしいです。
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