Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

今年のH1N1インフルエンザ

2014年02月25日 | 感染
日本ではそろそろインフルエンザはピークを越えたかな?
今年はH1N1が多い、という話はニュースとかで聞いていたけど、幸運なことに今のところ慈恵ICUには来ていない。

H1N1の流行はアメリカでも起こっているらしく、先週のAJRCCMにレターが載っていた。

Catania J, Que LG, Govert JA, et al.
High intensive care unit admission rate for 2013-2014 influenza is associated with a low rate of vaccination.
Am J Respir Crit Care Med. 2014 Feb 15;189(4):485-7. PMID: 24512430.


ここ数週間、自分のICUにインフルエンザが突然増えた。ほとんどがH1N1で、ワクチンを打っていない人ほど重症、という話。
ふーん、アメリカもかー、くらいに思っていたら、今日、JAMAからon-line publicationが来た。

Critically Ill Patients With Influenza A(H1N1)pdm09 Virus Infection in 2014
Lena M. Napolitano, MD, Derek C. Angus, MD, MPH, Timothy M. Uyeki, MD, MPH, MPP.
JAMA. Published online February 24, 2014.


2009年以降、H1N1は他のインフルエンザの中に埋もれていたけど、今年は65歳以下の入院例/死亡例のインフルエンザ報告例のうち60%以上がH1N1だそうだ。
で、たった2ページだけど、とてもコンパクトに重症インフルエンザの対応が書かれている。具体的には、

・インフルエンザ発症後4-5日で重症化する
・NPPVは60%の確率で挿管が必要になる
・挿管されると重症のARDS(P/F比が100以下)になりやすい
・ステロイドは使うな(言い切っている)
・二次性の細菌性肺炎(ブドウ球菌、肺炎球菌など)のカバー
・重症化したらECMOなどが可能な施設への転送を考慮
・RCTはないが、観察研究はオゼルタミビルの有効性を示している
・内服で通常量を投与しても充分に吸収される、高用量の有効性は示されていない
・PCRは、診断だけでなく、治療期間や感染防御施行期間の決定に有用かも
・治療が奏効しない場合、オゼルタミビル耐性の可能性は低い

など。
ご参考に。
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トラネキサム酸の文献

2014年02月24日 | 消化器・血液
を3つ、先週はダウンロードしたので、まとめて紹介しときます。

Sigaut S, Tremey B, Ouattara A, et al.
Comparison of two doses of tranexamic Acid in adults undergoing cardiac surgery with cardiopulmonary bypass.
Anesthesiology. 2014 Mar;120(3):590-600. PMID: 23903022.


心臓外科手術中のトラネキサム酸の投与量を、Low dose(10mg/kgボーラス+1mg/kg/hr)とhigh dose(30mg/kgボーラス+16mg/kg/hr)でRCT。Primary outcomeは術後7日以内の血液製剤の使用率。合計569例。Primary outcomeは同率(63% vs. 60%)だったけど、輸血量は有意にhigh dose群が少なく、再手術も少なかった(2.5% vs. 6%)。痙攣の発生数は2例と4例で有意差無し(p=0.7)。

Kratzer S, Irl H, Mattusch C, et al.
Tranexamic Acid Impairs γ-Aminobutyric Acid Receptor Type A-mediated Synaptic Transmission in the Murine Amygdala: A Potential Mechanism for Drug-induced Seizures?
Anesthesiology. 2014 Mar;120(3):639-49. PMID: 24335749.


スライスしたネズミの脳を使った実験。トラネキサム酸はGABAによる神経伝達を拮抗することにより神経興奮を増幅し、その効果は0.1から10mMまで(臨床的に起こる濃度)で濃度依存的であった。

止血効果も痙攣の発生もドーズレスポンスがある。
作用と副作用なんだから、当然と言えば当然。
患者さんの状態(出血のリスクとか腎機能とか)を考慮して投与量を決めましょう。これまた当然。

Manno D, Ker K, Roberts I.
How effective is tranexamic acid for acute gastrointestinal bleeding?
BMJ. 2014 Feb 17;348:g1421. PMID: 24535627.


消化管出血に対するトラネキサム酸の有効性についてのメタ解析。8つのRCTが見つかり、すべて上部消化管出血が対象。死亡率に対する相対危険率は0.55で有意差あり。ただし研究の質がどれも低く、アルファエラーの可能性は高い。妥当な治療効果を見るには5500例以上は必要と試算された。

8000例を対象としたRCTが行われているんだそうだ(HALT-IT study)。
楽しみです。
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敗血症の発熱

2014年02月21日 | 感染
も一つ追加。

Young PJ, Bellomo R.
Fever in sepsis: is it cool to be hot?
Crit Care. 2014 Feb 13;18(1):109. PMID: 24521542.


日本からの文献に対するeditorial。
敗血症の体温が低いとダメなら、温めるといいかもね、という提案は面白い。
解熱した方がいいか、という議論はよくあるけど、こっちは考えたことが無かった。

ちなみに、ANZICS-CTGではHEAT (permissive HyperthErmia through Avoidance of paraceTamol in known or suspected infection in the ICU)という、アセトアミノフェンを使って解熱した方がいいかどうかのRCTをやっているんだそうだ。
予定症例数700例。さすがANZICS、としか言いようがないわ。
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MRSAによる院内肺炎に対する抗菌薬

2014年02月20日 | 感染
今週分で、強いて言えばこれか。

Muscedere J.
Which antibiotic for hospital acquired pneumonia caused by MRSA?
BMJ. 2014 Feb 13;348:g1469. PMID: 24525051.


この文献に対するeditorial。

抗MRSA薬って、
linezolid, telavancin, tigecycline, quinupristin-dalfopristin, daptomycin, and ceftaroline
これくらいあるらしい。いくつかは日本でも売られているね。
これらの薬剤のうち、バンコマイシンと比較して院内肺炎に対する優位性を示した薬は無い、というのがeditorialの主旨。
”新しいものが必ずしも良いとは限らない。自信を持って院内肺炎にバンコマイシンを処方しよう。”

最近、新しい薬の名前が覚えられない。
”レベチラセタム”を覚えるのに数ヶ月かかった。しばらく、"レバニラ炒めみたいな名前の薬"と呼んでいた。
年齢のせいでは断じてないので、理由を(無理矢理)考えてみるに。

新しい薬って、無くても困らない薬が多いからだ。
いやー、ずっと困ってたんだよねー、この薬が使えるようになって本当に良かったよ。
と思う薬って、何かあるだろうか?
ちょっと思いつかないぐらい、無い。
新薬が既存の薬に比べて優位性を示すことは多くないし、示されたとしてもその多くは製薬会社による研究だし、優位性を示したとしてもしばらくするとひっくり返ったりするし、製薬会社による研究以外で新薬の名前を見る機会が少ないし。だから覚えられない。

MRSAにはバンコがあれば大抵は大丈夫。
痙攣にはフェニトインがあれば大抵は大丈夫。
新しい薬は、評価が定まるまでは放っておいても大抵は大丈夫。
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ICU入室前に何が起こったか

2014年02月19日 | ICU・システム
これも先週分。

Garry DA, McKechnie SR, Culliford DJ, et al.; PREVENT group.
A prospective multicentre observational study of adverse iatrogenic events and substandard care preceding intensive care unit admission (PREVENT).
Anaesthesia. 2014 Feb;69(2):137-42. PMID: 24443852.


イングランドの4つの病院。6週間の観察期間中にICUに予定外入室した患者さんのカルテを入室7日前までチェック。調査者により医原性の問題があった可能性を指摘された患者について、各病院の集中治療専門医が集まって協議した。最終的に、280例中76例(27%)において医原性のイベントが起こっていて、そのうちの77%は予防可能であったと判断された。

ICUで働いていれば分かることなので、コメントは無しで。
でも一つ言うとすれば、やろうと思えばこういうこともシステマティックに調べられる。その方法も書いてあります。

ちなみに、医原性の問題があったと調査者が判断した最後の段階は、”自分の身内にこれが行われたら受け入れられるか”。
そうなんだよねー。
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スマートなICUの作り方

2014年02月18日 | ICU・システム
今週はもう紹介するものがないので、先週分から。

Halpern NA.
Innovative Designs for the Smart ICU: Part 1: From Initial Thoughts to Occupancy.
Chest. 2014 Feb 1;145(2):399-403. PMID: 24493512.


ICUをより良くするには、という話かと思ったら、文字通り、ICUのデザインの仕方についてだった。

三部作の1つめ。毎号かは分からないけど、あと2つ掲載されるらしい。
現在新しいICUを設計中、もしくは設計する予定のある人は、CHESTを要チェック!
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ICUベッドと需要弾力性

2014年02月17日 | ICU・システム
先週は豊作だったのに時間がなかった。
今週は凶作。面白かったのはこれだけ。

Gooch RA, Kahn JM.
ICU bed supply, utilization, and health care spending: an example of demand elasticity.
JAMA. 2014 Feb 12;311(6):567-8. PMID: 24408679.


Demand elasticityとは、日本語で需要弾力性と訳すらしく、経済学用語でこんな意味らしい。
ICUの入室適応(=需要)も、ICUのベッド数で影響される、という話。
よくある話だけど、2ページでアメリカの問題をまとめている。

・アメリカではGDPの約1%をICUで消費しているのに対し、イギリスでは0.1%程度。
・ICUベッド数も大きく異なり、アメリカでは人口10万人あたり25床あるのに対し、イギリスでは5床。
・当然、患者の重症度も異なり、アメリカではモニタリング目的の患者が多い。
・国際比較をしなくても、ICUで働いていると、ICUベッドの数が入室適応に大きく影響することはよく経験する。
・具合の悪い患者さんが病棟にいると、ベッドがあれば受け入れるけど、ベッドがないと病棟でも大丈夫だと病棟医を説得する。
・終末期の患者さんが病棟で具合が悪くなると、ベッドがなければ病棟で看取ってもらうけど、ベッドがあると家族への時間提供などを目的としてICUで受け入れたりする。
・軽症患者をICUに入室されることによって予後が改善するという根拠もないし、アメリカのICUのベッド数を減らせばコスト削減になるのでは?

日本はどうだろうか。
昔、そんな文章を書いたことがある気もするな。

そうそう、ちょっとこれに関連した話。ご存知の方も多いと思うけど。
平成26年度診療報酬改定で、ICU的ビッグニュースがあった。
この図が分かりやすいかな。最後のページをご覧あれ。
・ICU用必要度A項目が3点以上、かつ、 B項目が3点以上である患者9割以上
・経験5年以上の医師2名以上、20平方m/床、 臨床工学技士が常時勤務
の条件を満たせば、特定集中治療室管理料がなんと4万円以上アップ。

この話、集中治療医的にも臨床工学技士的にも、自分たちの存在が診療報酬に影響するようになったことが大きいのだけど、それとは別に、ICU患者の重症度についての要求が高くなった、というところも大事。
つまり、術後のモニタリングとかでICUを利用している患者が多いところは含まれなくなるかも。
ちなみに、A/Bともに3点以上の患者が8割を超えないと、HCU扱いになる。

どれくらいのICUが診療報酬アップになって、どれくらいがダウンになるんだろう。
とっても興味深いわ。
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文献執筆と食品偽装

2014年02月16日 | ひとりごと
以前にも、こんな話こんな話を書いたけど、それの続き。

雑誌のpeer reviewというのを20-30/年くらいやるのと、若者と一緒に研究をやったりするので、雑誌に掲載される前の文献を読んで評価して修正する、という作業を定期的に行っている。そして、その文献が結果的に雑誌に採用されるかどうかも見ている。

で、いつも感じるのは、もっとも(本当は唯一?)重要なはずである研究の内容とは関係無しに、文献の書き方によって善し悪しが決まる、つまりは採用/不採用が決まることが少なくない、ということ。

食品の偽装問題もそうじゃんか。
味が良ければそれでいい、ではないから起こったことでしょう?
味を装飾するもの(違うな、味の評価を修飾するもの、だな):お店の雰囲気だったり、食器だったり、材料名だったり、産地だったり。それらも重要(と思ってしまう)だから起こったこと。
文献も同じ。
研究のデザインや結果を客観的に評価するだけでなく、peer reviewerが読んでどう感じたか、も採用されるかどうかに大きく影響する。
そこを考えて書かないといけない。

Introduction/Methods/Resultsはまだマシ。
特にMethods/Resultsは簡単。他の文献と同じように書けばいいんだから。分かりやすくね。
Introductionは言ってみたらツカミなので、peer reviewerに興味を持ってもらうように書く必要がある。なるほど、だからこの研究は有意義なんだな、と思わせるように、A4で1枚くらいに書く。

問題は、Discussion。
今回の研究結果が興味深くて重要なものであるとpeer reviewerに思わせないといけない。
これがね、書き慣れていない人は下手。
しかも、書き直そうとすると全面改訂になってしまうので、若者の書いた原稿がどうしてもそのままになる。

で、最近は、Dr. Bellomoに教わった方法で書いてもらうようにしている。

1. Key findings
2. Relationship to previous studies
3. Significance and implications
4. Strengths and Limitations
5. Future studies
6. Conclusions

必ずしも全ての項目が必要というわけではないけど、こうすると否が応でも論理的になるし、Discussionで書くべきことがすべて網羅される。

これから文献を書こうと思っているけど、慣れてない方へ。
オススメです。
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脳梗塞急性期の血圧管理

2014年02月10日 | 神経
寒いっ!
そんなときにピッタリの研究。
JAMAは季節も考えているんだろうか。

He J, Zhang Y, Xu T, et al.; CATIS Investigators.
Effects of immediate blood pressure reduction on death and major disability in patients with acute ischemic stroke: the CATIS randomized clinical trial.
JAMA. 2014 Feb 5;311(5):479-89. PMID: 24240777.


中国の26の病院、4071例の脳梗塞患者(発症48時間以内でSBP>140mmHg、tPAは除外)を、降圧剤投与をしない(普段の薬も飲まない)か(コントロール群)、最初の24時間は10-25%に血圧を下げ、一週間は140/90以下にする(治療群)、かでRCT。Primary outcomeは死亡かmRS 3以上の後遺症を残した頻度。コントロール群は24時間でSBPが自然に165から152に低下したのに対し、治療群では166から144に低下。その後もだいたい10mmHg程度の違いが両群で認められた。Primary outcomeの発生頻度は14日後で両群ともに33.6%で同じ。

血糖の研究でもそうだけど、どうしてもRCTにすると、両群の差が小さくなるね。軽症な患者さんも含むし、コントロール群でも自然に改善するから。

何はともあれ、脳梗塞急性期は血圧は高い方が良い、血圧が低いと上げた方がいいんじゃないか、ということは無さそうだ。
急性期は高く、慢性期は低く、という話は、何となく違和感もあったし。
自然が一番ということですか。

それにしても、脳出血に続き、またもや中国からの多施設RCT。
脳卒中は日本も多いのにね。

一応、ジャーナルクラブ候補としておきますか。
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ICUの看護師長

2014年02月09日 | ひとりごと
についてのブログ記事
全面的に同意。
医者がこういう話をするのはよく耳にするが、ナースの立場からの発言はあまり聞かないな、と思って。

ふと思い出したこと。
むかーしむかし、まだ内科医だった頃。
患者さんが急変したのでDCを運んでいた研修医に向かって、
”先生、指示を書いてからにしてください”
と言った師長が隣の病棟にいた、らしい(又聞きなので定かではない)。
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