Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

深層学習に基づく重症患者における譫妄予測

2023年05月31日 | AI・機械学習
書くことたくさんあるやつ。

Lucini FR, Stelfox HT, Lee J.
Deep Learning-Based Recurrent Delirium Prediction in Critically Ill Patients.
Crit Care Med. 2023 Apr 1;51(4):492-502. PMID: 36790184.


4万症例、3600個の特徴量を使って深層学習すると、12時間後の譫妄状態がAUROC 0.909の精度で予測できる。
と思ったらいけません。
現在使用可能な情報を使って近未来の譫妄の有無を予測する場合、何がもっとも重要度の高い特徴量になるか、を考えたら分かる。

それは現在の譫妄の有無。
実際、supplementの118ページを見ると、重要な特徴量トップ10のうち、なんと5個がICDSCスコアになっている(最大値とか75パーセンタイルとかデータの有無とか中央値とか平均値とか)。つまり、今譫妄だと12時間後も譫妄、今は譫妄じゃないと12時間後も譫妄じゃないと予測するということ。
そんな予測、臨床的に有益だろうか?

半年くらい前、自分でも譫妄予測モデルを作って、その予測を在室中の患者さんに対して使用して、数ヶ月間観察してみた。そうすると、AUROCはやっぱり0.9前後になるのだけど、現在の譫妄の状態が予測に最も強く影響してしまい、これは臨床に役に立たないという結論に達してやめた。

譫妄以外にも、例えばAFも同じ感じになる。AFの予測モデルもそれなりの精度で作れるのだけど、やっぱり今のAFの有無に予測が大きく依存してしまい、臨床には使えない。

Wardi G, Owens R, Josef C, et al.
Bringing the Promise of Artificial Intelligence to Critical Care: What the Experience With Sepsis Analytics Can Teach Us.
Crit Care Med. 2023 Apr 26. Epub ahead of print. PMID: 37098790.


この文献のTable 1に、「AIがICU領域に受け入れられていない理由」がまとめられている。AIに対する不信感とか、倫理的な問題とか、色々な理由が書いてあるけど、それ以前の問題として、「その情報、意味ありますか?」がとっても重要。というかとっても難しい。

画像診断とか、口頭筆記とか、要約とか、AIがICUに入ってきそうな分野はいくつかある。でも、未来予測や診断補助や治療方法の提示といった分野は、研究や文献は山ほどあるし精度が高いとされているけど、じゃあ実際に臨床応用して意義があるか、の部分に高い壁がある。

でも、難しいからこそ面白いのさ。
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「粘稠」の読みが気になる理由

2023年05月27日 | ひとりごと
もちろん、正しい読み方はネンチョウではなくネンチュウ。
この読み間違い、すごく多い。そしていつも気になる。なので以前から、若い医者やナースが間違っていると、「ネンチュウと読むんだよ」と指摘してきた。
今朝、早く目が覚めて、どういうわけか脳が勝手にこのことについて考え始めたので、寝直すのを諦めた。どうして気になるんだろう?

別に、正しい日本語を使うことが大事だと思っているわけではない。「的を得る」と言う人がいてもスルーするし、自分でもよく間違える。でも医学用語を医療の場で間違って使っている人がいると、どうしても気になる(ちなみに、気になる言葉のリストはこちら)。ベッドの中で考えていたら気になる理由がわかった。医学知識に対する姿勢の現れではないか、と思うからだ。

例えば、ネンチョウと読む人とネンチュウと読む人を100人ずつ集めて医学知識や知識に対する姿勢についての調査をするとしよう。医学クイズに答えてもらうとか、週に何時間勉強するかとか、NEJMのE-mail alertの登録率とか、擬似患者の診断をするとか、方法はいろいろありそうだ。もしそんな調査をしたら、有意差を持ってネンチュウ群の方が正解率が高かったり勉強時間が長かったりしそうな気がする。根拠のない直感だけど、これまでの経験からなんとなくそう思う。なので、ネンチョウと読む人に間違いを指摘するのは、「正しい日本語を使おうね」と言いたいからではなく、「正しい知識って存在するんだよ」と伝えたいからなんだ。
でも、ここに問題というか、因果の逆転が生じていることに気がついた、トイレの中で。

指摘された人は、その後はネンチュウと言うようになるだろうが、勉強時間はきっと増えないよね。もちろん知識量が突然増えたりなんかもしない。感染症で白血球が増えた時に、白血球除去フィルターを通して数字だけ直しても感染は治らない。かと言って、「僕がこれを君に指摘しているのは、日本語を正しく使おうと言っているのではなくて、正しいというものが存在していて、それを君が気づいていないことを指摘したいからなんだよ。もしかしたら他にも思い込んでいることがあって、患者さんに対して有害なことをしているかもしれない。普段から正しい知識を集めることを習慣にすると、きっともっと良い医療者になれるよ」なんて毎回言えるわけない。いや、一度も言ったことがない、ダサいから。

じゃあ指摘するだけ無駄かなという気がしてきたが、そうでもないだろうと考え直した、居間のソファーの上で。
プレゼン中にネンチュウと言うと、ちょっとカッコいい。こいつやるな、と聞いている人が思ってくれるかもしれない(少なくとも僕はそう思う)。そうすると相手に信頼感を与えられて、話をよく聞いてもらえるかもしれない。ついでに自分の評価も上がるかもしれない。さらには、例えば他の病院から見学者がいてICUカンファに参加していると、ここのICUやるな、と思ってもらえるかもしれない。まあ確率は低いだろうけど、ゼロじゃないでしょ。

これからは「ネンチュウと言ったほうがカッコいいよ」と言うことにしよう。本当の意図とは違うけれど。
さて、ズムサタで鷲見さん見よっと。
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ICUの医師:患者比と死亡率

2023年05月22日 | ICU・システム
Kahn JM, Yabes JG, Bukowski LA, Davis BS.
Intensivist physician-to-patient ratios and mortality in the intensive care unit.
Intensive Care Med. 2023 May 3:1–9. Epub ahead of print. PMID: 37133740.


うーん。
患者数が多いと、具合が悪くなっている患者さんに気がつかなったり、病態について深く考える時間がなかったり、間違えたり、手を抜いたりなどなど、良いことはない。
じゃあ何人が限界なのか、望ましいのか、知りたくなるのだけど、それを疫学的に算出しようとすると上手くいかないらしい。この文献のIntroductionにも、過去5つ研究があって、そのうち3つでは医師・患者比に関連性が見られなかったそうなので、ネガティブな研究はこれで4つ目ということになる。

じゃあ関係がないんだな、とはさすがに思えない。例えば1人で100人の重症患者管理は絶対にできないし、域値は当然存在するはず。
個人の能力とか重症度とかコメディカルの種類や質など他にも要素がたくさんあるから、そんな数字がないのは当然なのかもしれないが、やっぱり数字があった方が目安になって良いと思うのだけどね。

多施設でこういう研究をやると、普通は病院毎に平均的な医師:患者比を使用する。例えばJIPADのデータでも同様の研究は可能。でも、当然それは不正確。で、この研究は電子カルテを使って日々の医師:患者比を調べている。でも施設数は少ない。結構なNと人数についての比較的詳細な情報がないと、先には進めなさそう。
うーん。
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JCSとGCSの対応表

2023年05月20日 | 神経
先日、JIPADのデータ収集をしてもらっているMCさん(医師事務補助)と話をしていて、JCSがカルテに書いてあるけどGCSがないので困ることがあると言われた。それはありがちな問題だから、対応表がどこかにあるだろうと思ってググってみたけど見つけられなかった。
そういえば、最近こんな文献を見たな、と思い出した。

Nakajima M, Okada Y, Sonoo T, Goto T.
Development and validation of a novel method for converting the Japan Coma Scale to Glasgow Coma Scale.
J Epidemiol. 2022 Jul 16. Epub ahead of print. PMID: 35851565.


破竹の勢いのTXPから。
これにEVMの各数値を追記して、表を作ってMCさんに渡した。
ググって見つけられなかったということは、もしかしたら需要があるかもと思い、ここに貼ることにした。
ただし、単にTXPのGCSのトータルスコアから勝手にEVMを作っただけなので、根拠は無し。



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集中治療における日本独自治療の国内認可試験

2023年05月18日 | EBM関連
ろくに読まれないブログでグダグタ書くのではなく、ちゃんと文献としているところが素晴らしい。

小尾口邦彦
集中治療における日本独自治療の国内認可試験
日集中医誌 2023;30:163-9.


エラスポール、リコモジュリン、セプライリスについてよく知らずに使っている人は、これを読んで改めて考えてみたらどうか。
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このブログについてBardに聞いてみた。

2023年05月14日 | AI・機械学習
Bardが5月10日から日本語対応したそうだ。Googleのアカウントを持っていれば、新しく作る必要がない。
比較のため、ChatGPTと同じことを聞いてみた。

Dr内野のおすすめ文献紹介(https://blog.goo.ne.jp/druchino)というブログについて紹介してください。
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Dr内野のおすすめ文献紹介は、集中治療に関する文献紹介を主な目的としたブログです。ブログ主の内野先生は、集中治療医として30年以上の経験を持つ医師です。現在はセミリタイアし、集中治療に関する文献の紹介や解説を行っています。
ブログでは、最新の文献から古典的な文献まで、幅広く紹介されています。また、文献の解説も丁寧でわかりやすく、集中治療について学びたい方にとって貴重な情報源となっています。
Dr内野のおすすめ文献紹介は、集中治療について学びたい方、最新の文献を探している方におすすめのブログです。
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お、ChatGPTみたいに作り話が書いてない。
URLを書くと、実際にそこに調べに行くからかな。

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集中治療における文献のハイパーインフレ

2023年05月13日 | EBM関連
日本からの研究がICMに載っている。素晴らしいことです。

Tsutsumi Y, Tsuchiya A, Kawahara T.
Publication hyper-inflation in the field of intensive care.
Intensive Care Med. 2023 May 4:1–2. Epub ahead of print. PMID: 37140633.


図が分かりやすい。
僕が文献をそれなりにちゃんと読む(雑誌を定期的にチェックする)ようになったのが2000年。その時と比べてRCTが3倍、システマティックレビューは実に20倍ですか。

RCTの結果どころか、そんな研究があったかどうかも記憶できなくなっているのは、きっと数が増えたからだね。年齢のせいじゃ、絶対にない。
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敗血症患者に対するハーブベースの注射薬の効果

2023年05月09日 | 感染
話題の文献、そこそこ真剣に読みました。

Liu S, Yao C, Xie J, et al.; EXIT-SEP Investigators.
Effect of an Herbal-Based Injection on 28-Day Mortality in Patients With Sepsis: The EXIT-SEP Randomized Clinical Trial.
JAMA Intern Med. 2023 May 1 Epub ahead of print. PMID: 37126332.


読んでの感想を一言で言えば、ほぼ何の違和感もない、です。

英語も書き方もちゃんとしているし、製薬会社がスポンサーの研究じゃないし、サンプル数は敗血症のphase IIIとして妥当だし、inclusion / exclusionも許容範囲だし、サンプルサイズの算出方法も問題ないし、early terminationとかしてないし、患者背景もAPACHE II以外はまあ普通だし、secondary outcomeも矛盾ないし、サブグループ解析も綺麗だし。Editorialにいろいろ研究の問題点について書いてあるけど、研究の質を下げる可能性があると賛同できるのはAPACHE IIが低いことだけ。
これも、対象症例が軽症だとは思いにくい印象を持った。ショックの頻度とか人工呼吸の必要性とか、そんなに違和感ないから。でも、「これGCSを鎮静剤ありで計算してるんじゃないの?」と思わざるを得ないような高いAPACHE IIの研究はよくあるけど、低すぎるのはまず見ないから、そこは不思議。計算間違いなんじゃないのかと疑いたくなる。

もちろん多国籍研究による追試は必要。でも、中国人がそれ以外と極端に違うとは思えない。
この研究を解釈する方法は、アルファエラーか、中国人が特別か、めっちゃ軽症なのに死亡率が高くてgeneralizablityがないか、壮大な詐欺か、事実か、くらいしか思いつかない。

一番ありそうなのはアルファエラーなのだけど、どういうわけか僕の直感は、APACHEの計算間違い+ついに敗血症の治療薬が出た、と言っている。それって相当確率低いのにね。何故なんだろう?
APLのATRAがチラつくからかなー。
それと、この研究は(APACHE IIを無視すれば)NEJMかJAMAレベルなのに、一段低い雑誌に載っていること。なんか白人至上主義を感じてちょっとムカつくからかも。

「中国」で過去ログを検索するとたくさん出てくるのだけど、その中で今回の研究に関係のあるやつを紹介。
心停止蘇生後の治療についての2つのRCT
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AI in the ICU

2023年05月09日 | AI・機械学習
文献はこっちなんだけど、長くて読んでいられないので、ニュース記事をどうぞ(ブラウザの和訳ボタンを押せばスイスイ読めるよ)。
Researchers Develop AI-Based System To Recommend Clinical Treatments

このグループは5年も前にNature Medに文献を載せている、ICUにおけるAI利用では有名な人たち。
今回は、4名の擬似患者を用いて敗血症に対するAIによる治療方針を臨床医に使わせるとどうなるか、について検討。

ニュースの一部をDeepLで和訳。
ーーーーーーーーーー
「臨床医はAIに完全に判断を委ねるか、AIを完全に無視して自分で判断すると考えていました。しかし、結果はそう二者択一的ではありませんでした。」
研究チームは、臨床医に共通する行動として、「無視」「依存」「検討」「交渉」の4つを挙げた。「無視」グループは、AIが自分の判断に影響を与えることはなく、ほとんどが勧告を見る前に決断していた。一方、「頼る」グループは、すべての意思決定において、AIの意見の少なくとも一部を受け入れるということを一貫して行っていた。「検討する」グループでは、医師はすべてのケースでAIの推奨事項を考え、それを受け入れるか否かを決定した。しかし、ほとんどの参加者は「交渉する」グループに属し、このグループには、すべての決定ではなく、少なくとも1つの決定で推奨の個々の側面を受け入れた医師が含まれていた。
ーーーーーーーーーー

普通のことのように思うかもしれないけど、画像診断などを別にすると、医者がAIの言うことに耳を傾けた、という研究は実はあまりない。ただし、この研究は実臨床の場ではないことには注意が必要だけど。

「この患者さん、補液したほうがいいですよ」とAIに言われたら、あなたならどうする?
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データベース解析によるRCTのエミュレーション

2023年05月08日 | EBM関連
Wang SV, Schneeweiss S; RCT-DUPLICATE Initiative.
Emulation of Randomized Clinical Trials With Nonrandomized Database Analyses: Results of 32 Clinical Trials.
JAMA. 2023 Apr 25;329(16):1376-1385. PMID: 37097356.


十分な情報がある場合は、データベースによる解析でもRCTと同等の結果を出せる、と。

この話を聞いて、例外を除いてはやっぱりRCTが大事なんだな、とも思えるし、これから電子化された情報がどんどん増えればデータベース研究でできることもどんどん増えるな、とも思える。きっとどちらも正しいのでしょう。
ただ、観察研究のウェイトが大きくなっているのは少し気になる。データ量も増えているし、データを解析する手法も新しいのがどんどん出るし、そして研究に興味を持つ人も観察研究を好む場合が増えている印象がある。先日も、研修医が難しい統計手法の話をしていて、「すごいなー、偉いなー」と思いつつ、ちょっと違和感も感じたりしてた。

RCTと観察研究は車の両輪なんだし、両方に興味を持ってくれるといいのだけど。
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