Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

過去20年間の心停止後のTTMの変化

2023年09月30日 | 循環
と意訳してみたが、そもともTTMという言葉が普通に使われ出したのが10年ちょっと前からなので、実はこの訳は間違っている。昔は「低体温療法」と呼んでいたのですよ。あ、知ってるか、さすがに。

Nielsen N, Friberg H.
Changes in Practice of Controlled Hypothermia after Cardiac Arrest in the Past 20 Years: A Critical Care Perspective.
Am J Respir Crit Care Med. 2023 Jun 15;207(12):1558-1564. PMID: 37104654.


僕が集中治療を専門にしたのは26年前なので、この流れはリアルタイムで見てきたのだけど、知らない人は読むと面白いかも。
・1990年代は低体温がブーム、33度で1週間とかやっていた。免疫抑制のせいで全員肺炎になるんだよ、すごいでしょ。
・12-24時間でいいんかい!とみんなで驚いた。
・36度でいいんかい!とさらにみんなで驚いた。
というのがザックリとした流れ。

僕が、「あ、なるほど」と思ったのは、最後の段落のこの部分。
"However, the increased interest in the cardiac arrest population overall over these 20 years, to a certain extent triggered by hypothermia and targeted temperature management, has most likely saved many lives because of improved prehospital care, prolonged care in the ICU, and better long-term follow-up. "
(DeepLによる和訳)
「 この20年間で、心停止患者全体に対する関心が高まったことは、低体温療法と目標体温管理がある程度きっかけとなったが、病院前ケアの改善、ICUでのケアの延長、長期フォローアップの改善により、多くの命が救われた可能性が高い。」

集中治療って、他の分野に比べて変化の速度が遅い(多施設RCTが片っ端からネガティブだから)けど、心停止の世界は劇的に変わり続けているように思う。こういう研究の変遷、というか回り道が、人々の興味を誘い、さらに多くの研究が行われるという好循環に入っている感じ。

時には回り道も大事だね。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

CRRTにおける抗凝固薬の選択肢についてのネットワークメタ解析

2023年09月29日 | 腎臓
いろいろあって、気がついたら読んでいない文献のPDFの数が200を超えていた。
最近やっと落ち着いてきたので、ちょっと古めの文献(と言っても数ヶ月前だけど)の紹介がしばらく続くかも。

Zhou Z, Liu C, Yang Y, et al.
Anticoagulation options for continuous renal replacement therapy in critically ill patients: a systematic review and network meta-analysis of randomized controlled trials.
Crit Care. 2023 Jun 7;27(1):222. PMID: 37287084.


日本でCRRTをしていると、だいたいナファモスタット、時々ヘパリン、とかではないだろうか。
それがいかにマイナーか、とうのが図2を見ると分かる。知らない人にとってはそれだけでも情報になるのでは。さらに、RCTで比較されているCRRTの抗凝固剤って実はたくさんあるんだよ、というのも分かる。

図2(と表1)を見るだけでも価値があるのが紹介理由です。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

APACHE III・JRODの死亡予測能力に対する欠損値の影響

2023年09月28日 | ICU・システム
手前味噌ですが。

Hayakawa K, Uchino S, Endo H, et al.
Impact of missing values on the ability of the acute physiology and chronic health evaluation III and Japan risk of death models to predict mortality.
J Crit Care. 2023 Sep 22; Epub ahead of print. PMID: 37742518.


ここで書いたことを実際に証明した研究がJCCに掲載されました。
メッセージは、アルブミンを測定しないとあなたの施設のSMRが高くなっちゃうよ、です。

予後予測に有用で、施設パフォーマンスが正しく評価され、酸塩基の診断もできる。
アルブミンを測らないという選択肢はないと思います。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

動脈瘤性くも膜下出血の管理ガイドライン

2023年09月27日 | 神経
Neurocritical Careの最新号はSAHの管理ガイドライン。
細かく章に分かれているのだけど、まとめがこれ。

Treggiari MM, Rabinstein AA, et al.
Guidelines for the Neurocritical Care Management of Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage.
Neurocrit Care. 2023 Aug;39(1):1-28. PMID: 37202712.


"We recommend against endothelin receptor antagonist administration because of lack of benefit on mortality and functional outcomes and an increased risk of adverse events (strong recommendation—high quality of evidence)."
これは当然として、

"We recommend against the administration of intravenous (IV) nicardipine for the prevention of DCI because of increased risk of adverse effects (strong recommendation, moderate quality of evidence)."
これは新しい。
「ニカルジピンはオフするな」的なことを外科医が言ったら、このガイドラインを投げつけて優しく手渡してあげてください。

残念ながら、文献サーチが2021年4月までなので、これが参照文献に含まれていない。なので、clazosentanについてはこれを投げつけて見せても説得力に乏しいので、ご注意を。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

外科医か集中治療医か: 術後集中治療は誰が担当すべきか?

2023年09月26日 | ICU・システム
なんで今更?と思って読んだ。

Zammert M, Carpenter AJ, Zwischenberger JB, Sade RM.
Surgeon or Intensivist: Who Should Be in Charge of Postoperative Intensive Care?
Ann Thorac Surg. 2023 Jun 24. Epub ahead of print. PMID: 37356518.


外科医と集中治療医の協力、さらには多職種による方針決定が重要なのは当然として、意見が対立した時に最終判断をするのは誰であるべきか?
という議論をしているようだ。

外科医は、
・外科医は最初から最後まで責任を持つ法的義務がある。
・申し送りでは術中の状況のニュアンスまでは伝わらない。
・患者や家族は外科医を信頼して手術を受けている。
・集中治療医の存在が有害であることを示した研究もある。

集中治療医は、
・集中治療医の有効性を示した研究は枚挙にいとまがない。
・世界的にも集中治療医がICUの管理責任を負うのが普通。
・ICUにいる間に患者家族と接する時間は集中治療医の方が長い。
・外科医は集中治療のトレーングをほとんど受けていない。

といった感じ。
どっちも間違ったことは言っていないから、この方向で話しても平行線。

"The most felicitous conclusion we can reach is that the best model for ICU care is a delicate balance of shared responsibility by a well-managed, protocol-driven, multidisciplinary team with clear lines of communication."
(DeepL和訳)
「私たちが到達できる最も望ましい結論は、ICUケアの最良のモデルは、明確なコミュニケーションラインを持つ、よく管理されたプロトコル主導の多職種チームによる責任分担の微妙なバランスであるということである。」
という、結局元に戻っとるやんけ的な言葉で締められている。

まあ、そうっすけどね。
ただ、微妙なバランスって。。。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

観察研究における選択バイアスの検出

2023年09月25日 | EBM関連
Mohyuddin GR, Prasad V.
Detecting Selection Bias in Observational Studies-When Interventions Work Too Fast.
JAMA Intern Med. 2023 Sep 1;183(9):897-898. PMID: 37306983.


COVIDに対するワクチン、リンパ腫に対するCART、AFに対する経皮的左心耳閉鎖デバイスを例に挙げて、観察研究においてカプランマイア曲線が提示されている時に、二群があまりに早期から違いがある時は疑ってかかれ、というviewpoint。

当たり前だろとも思いつつ、あれ?いつもそういう目で見てたっけ?と自信がなくなった。
これからは意識するようにします。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

敗血症性ショックにおける水分恐怖症は意味がない!

2023年09月24日 | 感染
Nguyen HB.
Hydrophobia (Fear of Fluids) in Septic Shock Does Not Pay!
Chest. 2023 Sep;164(3):578-579. PMID: 37689470.


最近の2つのNEJMのRCT(CLOVERSCLASSIC)を示し、ちゃんと初期補液しようぜ!と訴えている。

引退する前、僕は補液が嫌いだった。今もあまり好きじゃない。自治さいたまの人たちは大好き。なのでいつも違和感を持って見ている。でも、以前言われていたほど目くじらを立てるべきではなくなっているのは事実。さて、引退していなかったら僕の行動は変わっていただろうか。分からない。

このcommentaryが話題にしているのは二峰性の高乳酸血症。救急外来で補液が足りずにノルアドが開始されて、ICUで乳酸が再上昇し、補液をし直さないといけなくなることが増えた、と文句を言っている。
これについては、平均値が移動したので極端な行為が変化した、という理解でよいのではないか。昔は補液の重要性が言われていたので、そうすると極端に多く補液する人が出てくる。最近は補液は有害と言われ出したので、今度は極端に補液しない人が出てくる。実際は、許容される補液量には幅があるので、その中に入ればちょっと多めでも少なめでも患者さんに悪影響はない。

やっぱり中庸が大事。
そして中庸を維持するには、いつもキョロキョロしているのが大事。
周りを見て、文献を読んで、いつも自分の立ち位置を確認する。
「これでいいんだ」と思い込んじゃダメ。

人に言うのは簡単だわ。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

重症患者・家族・介護者のための緑と屋外施設

2023年09月20日 | ICU・システム
van Iperen ID, Maas J, Spronk PE.
Greenery and outdoor facilities to improve the wellbeing of critically ill patients, their families and caregivers: things to consider.
Intensive Care Med. 2023 Aug 23. Epub ahead of print. PMID: 37610484.


ICUには緑の庭が必要だ、自分のところにももうすぐできるぞ、という文章。
まだ完成していないから写真がCGなのは残念だけど、偉いのは、参照文献15個使ってその根拠を述べていること。

100のICUを見てきたけど、さすがにこういうところはなかった。
新しいICUを作る予定の方々、ICUの改修を計画している方々、どうですか、緑?
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳梗塞における血管内血栓除去術後の降圧

2023年09月19日 | 神経
Nam HS, Kim YD, Heo J, et al.; OPTIMAL-BP Trial Investigators.
Intensive vs Conventional Blood Pressure Lowering After Endovascular Thrombectomy in Acute Ischemic Stroke: The OPTIMAL-BP Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2023 Sep 5;330(9):832-842. PMID: 37668619.


血管内治療後に血圧が高いと脳出血を起こすかもしれないけど、降圧すると虚血部位の灌流が悪くなるかもしれない。どっちがいい?という質問に対するRCT。結果は、治療後最初の24時間にSBP 140mmHg以下をターゲットとすると有意に神経予後が悪くなるということで、研究は途中でストップ。

Introdcutionによると、この問題に対する多施設RCTは3つ。1つめはこれで、差は無し。2つめはこれで、降圧は有害。

もういいんじゃないかな。
脳梗塞に対する血管内治療後の降圧は、もしまだやっているなら、やめよう。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

集中治療の巨人が日本の若手研究者へ贈るーProf Bellomo

2023年09月04日 | 勝手に紹介
Dr. Bellomoの動画はいくつもあるし(これとかこれとか)、今回もいつもとメッセージは同じなのだけど、なんか、ちょっと泣きそうになった。

集中治療の巨人が日本の若手研究者へ贈るーProf Bellomo

この動画が彼の他の動画とちょっと違う感じがするのは、日本の若い医師向けに、分かりやすい英語で自分の思いを伝えようとしているからかな。さすがにほとんどの人は泣きそうにはならないと思うけど、とても大事な話をしてくれているので、ぜひ見てください。

"Research is a fundamental part of intensive care that you cannot do clinical treatment and clinical practice without research in university-affiliated ICUs. It's like not having a blood gas machine...It's your generation's job to make that happen in the next 20 years so that Japan can be productive in EBM trials."

日本に帰ってきたのが2003年なので、ちょうど20年前なんだよね。
彼の元に留学した最初の日本人として、非常に恥ずかしいし、非常に申し訳ないと思う。

方法は難しくない。
1:グループを作る
2:小さい研究をする
3:そこで得たノウハウを使って、より大きい研究をする

日本のICUの研究ほとんどは、2で止まってしまうか、初めから大きな研究をしようとして空中分解するかのどちらか。
3が大事。とにかく大事。

若者よ、申し訳ないが、頼む。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする