Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

"Salami-slicing"=1つのデータを複数の文献に分割すること

2022年07月30日 | EBM関連
最近、身近なところでこのサラミについてのトラブルが発生。
データベースを運営し、そのデータを使って複数の研究もしている身として、十分な知識がないことに気がつき、改めて勉強することにした。どんな時がアウトで、どんな時は許容されるのか。

まず手元にある文献で記載のあるものを探したところ、これがあった。
Klein AA, Pozniak A, Pandit JJ.
Salami slicing or living off the fat? Justifying multiple publications from a single HIV dataset.
Anaesthesia. 2014 Mar;69(3):195-8. PMID: 24548349.

これによると、サラミにはならないのは、
・異なる質問がなされたりアウトカムが非常に異なる時に、同じデータセットがこれらの質問に対する答えを提供することができる場合で、
・文献にそれぞれの仮説を明確に定義し、データが他の文献で発表されたことを認め、同じデータベースから他の研究があればそれを参照し、なぜ今回の分析が正当化されるのかを説明した場合
であると。なるほど。

この文献はある研究についてのeditorialなので、もっとちゃんとした定義はないかとPubMedを探してみた。するとこれが見つかった。
Ding D, Nguyen B, Gebel K, et al.
Duplicate and salami publication: a prevalence study of journal policies.
Int J Epidemiol. 2020 Feb 1;49(1):281-288. PMID: 32244256.

つまり、明確な定義はなく、雑誌の対応もバラバラであることが分かった。

なので研究者としては常識的かつ誠実に行動することが求められる、ということかな。

この文献にあった推奨をコピペして今日は終了。
i. 真の科学的貢献と実社会への影響を考慮し、同一研究からの論文数を最小限に抑え、品質と包括性を最大化する。
ii. 複数の論文を発表する必要がある場合は、論文間の重複を最小限に抑え、カバーレターで既に発表または投稿された同じデータからの他の論文に言及するようにする。

ーーーーーーーーーー
追記。
文献を書いていて、ついやってしまう悪いことのもう一つの代表例が剽窃。
過去ログを紹介しておきます。
Plagiarismとは盗用/剽窃という意味
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TIGRIS trial update

2022年07月21日 | 感染
Spectral Medical Provides Update on Tigris Clinical Trial

ちなみに前回はこちら

DeepLによる和訳を少し修正。
・ミシガン大学で最初の患者が登録される
・Tigris試験に登録される150例のうち、現在までに40例が無作為化された。
・14の治験施設で患者スクリーニングが行われ、登録が開始されるなど、順調に募集が増加中

前回から症例数が10例増えたようだ。そしてClinicalTrials.govを見ると、研究終了予定日が来年の9月末になった。

Spectralは順調と言っているけど、そうでもないのかな。
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40th Vicenza Course on AKI and CRRTで行われたPMXのセッション

2022年07月17日 | 感染
このVicenza courseというのは、イタリアのDr. Roncoが毎年主催している会で、数年に1回、主題がAKIとCRRTになる。今年の6月に40回目の会が開かれたそうだ。そこで開かれたPMXのセッションがSpectralのウェブサイトで紹介されていた(少し下にスクロールすると見られる)。

ここでPMXについて話しているDr. Kellumは、アメリカのチョー有名な集中治療医で、特にAKI・CRRTについては第一人者。僕のボスのDr. Bellomoの旧友で、僕も何度か会ったことがある。チョー頭がいい人で、プレゼンも上手い。そんな人がPMXの宣伝をしているので、この動画を見るとseptich shockにはPMXなんだな、という気になる。

まだTIGRISは終わっていないのでFDAによる承認がどうなるかは不明だけど、こんな人がバックについているなら通過しちゃうのかな、やっぱり。
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ICUにおける抗生物質管理ラウンドの影響

2022年07月11日 | 感染
おおっと思い、ざっと熟読してしまった(矛盾してるけど)。

Seidelman JL, Turner NA, Wrenn RH, et al.
Impact of Antibiotic Stewardship Rounds in the Intensive Care Setting: A Prospective Cluster-Randomized Crossover Study.
Clin Infect Dis. 2022 Jun 10;74(11):1986-1992. PMID: 34460904.


アメリカのデューク大学の5つのICU。それぞれのICUのベッドを2群に分け、片方は感染症科医+薬剤師によるラウンドを週1回行った(cross-overなので交代する)。その結果、ほとんどの患者で抗菌薬が投与されていたcardiothoracic ICUを除外すると、介入群で抗菌薬の使用が7%減少した。

もし結果がnegativeだったらどうしようとか思わなかったのか。RCTを行うことの意義が勝ったのか。7%減少という結果はあくまでサブ解析であって、primaryの解析では有意差はなかったが、どう解釈したのか。実際の職場ではどう受けとめられたのか。週1回のラウンドで果たして効果があるのか。どうしてその頻度にしようと思ったのか。
などなど疑問が一杯あって、それでざっと熟読した。

いくつかはディスカッションに答えらしきものが書いてある。
ディスカッションには更に、感染症科医のプレゼンスを示すことが大事とか、自分達のICUの質的理解を得たとか、カルテを時間をかけて読んでもICUチームと同じ結論に達することもあり、効率について検討の余地があるとか、なかなか渋いことが書いてある。内容が客観的でちゃんとしている。

どんな治療薬を使うかとか、どんなモニタリングをするかとか、ICUだと視点がどうしてもそっちに行ってしまうけど、僕はICUは患者さんを治すところではない(誤解されるかも?)と思っているので、こういう研究は、というか姿勢は好き。

なんか上手くまとめられなかった(いつもか?)。
とにかく、この研究は僕的には「感染症科医によるICUラウンドの効果」についての研究ではないのです。
いつかもっと大人になって、上手く伝えられるようになったら、また書きます。
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重傷頭部外傷における最適な院外血圧:低血圧に関する現在の理解への挑戦

2022年07月10日 | 神経
Spaite DW, Hu C, Bobrow BJ, et al.
Optimal Out-of-Hospital Blood Pressure in Major Traumatic Brain Injury: A Challenge to the Current Understanding of Hypotension.
Ann Emerg Med. 2022 Jul;80(1):46-59. PMID: 35339285.


血圧と予後の関係を調査。SBPが130-180mmHgではプラトーで、それより高くても低くても死亡率が高くなる。

この研究が言いたいのは、頭部外傷時の低血圧って90以下とか言われているけど、もっと域値を高くした方がいいのでは?ということなのだけど、
僕が思ったのは、180までは予後は変わらないことを示したデータだ、です。
つまりこの話の続き。

頭部外傷でニカルジピン使っている皆さん、ご検討ください。
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ICUにおける抗真菌療法の指針として(1,3)-β-d-グルカンは有用か?

2022年07月09日 | 感染
("useless"という単語をDeepLが”有用"と訳したのはちょっとビックリ。気を使ったのか??)

Rouzé A, Estella Á, Timsit JF.
Is (1,3)-β-D-glucan useless to guide antifungal therapy in ICU?
Intensive Care Med. 2022 Jun 30. Epub ahead of print. PMID: 35771251.


先日紹介した研究のeditorial。
現状、研究の意義、研究結果、吟味、今後についてと、しっかり書いてある。
文献の吟味が面倒な人は、こっちだけでも読むべし。
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集中治療系雑誌のimpact factor 2021

2022年07月03日 | EBM関連
今年はインフレがすごい。

特にICMの上がり方は異常、なんと去年の2.4倍、全医学雑誌の52位(去年は176位)になった。
他の雑誌も、CCRが2.6倍、CCが2.1倍、JICが1.9倍と、すごい上がり方。

きっと計算方法が変わったに違いないと思い、調べてみたところ、なんと変わったのは今年じゃなくて去年だった。
例年、IFが増えている雑誌の方が多いけど、去年はほとんどの雑誌が増えていた。
こちらから引用)

理由はここに書いてある通りで、以前は紙の雑誌の発行日で数えていたけど、去年からオンラインの発行日で数えるようになったので、一過性に文献数が増えた、ということだそうだ。

じゃあどうして集中治療系の雑誌のIFがこんなに上がったのだろう?
Clarivate(IFを発表している会社)の公式ブログに記載があった。
簡単に言えば、COVIDの文献がたくさん発表され、たくさん引用されたのが原因だそうだ。特に general medicine, critical care, public health, infectious diseases, immunology, basic biomedical sciencesでその影響が大きかったと。
なるほど〜。

で、これを読んで初めて知ったのだけど、過去45年間ずっと総合雑誌のトップだったNEJMを抜いて、今年初めてLancetがトップになったのだそうだ。
理由は、2021年に発表された全ての文献でもっとも引用された10文献のうち3つがLancetだったから。もちろん3つ全部がCOVID関連。

最後にインフレの進行速度について。
全ての雑誌のimpact factorの平均値と中央値を計算してみた。

わあ。ずっと徐々に上がっていたけど、ここ2年は計算方法の変更とCOVIDのせいで上昇速度が加速している。

6、7年で倍になってしまう数字って、どうなんだろう?
Impact factorが何点の雑誌という表現自体が、ちょっとどうなんだろうかという気になってしまう。
それとも、(日本以外の)お金と同じで、インフレが当たり前なのかな。
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ICUでの予防的抗菌薬投与ってどうなの?

2022年07月02日 | 感染
Leone M, Righy C, Póvoa P.
Antibiotic prophylaxis in ICU patients: should I do or not?
Intensive Care Med. 2022 Jun 17. Epub ahead of print. PMID: 35713666.


2ページちょっとの短い文章。
抗菌薬の予防投与って、ちょこちょこ話題に出るよね。例えば、
・脳室ドレーン
・VAPに対するSSD
・急性膵炎
・髄液鼻漏
・食道静脈瘤破裂
など。

これらについて、ざっくりまとめてあるので確認になるし、孫引きもできるよ。
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今日はセミリタイア2周年記念日。

2022年07月01日 | ひとりごと
ちなみに集中治療を専門にして25周年だったりもする。
数字的にはそっちの方が意味ありそうだけど、リタイア後に数えるのは変かしらね。

セミリタイアしたって言うと、一定の割合でお金の話になる。興味ありそうな感じで聞いてくる人もいる。FIREなんて言葉もしばらく前から流行っているし、なので今日はそっち方面の話を少ししようかと。

まず僕の現在の生活。
週2:自治さいたまICUに行く。カンファや申し送りに参加したり、研究指導したり、データベースの管理したり。
週1:内科外来のアルバイト。
週4:Amazon Primeざんまい(嘘、ただし完全に嘘ではない)。
こういうのをサイドFIREとかバリスタFIREとか呼ぶらしい。
具体的なFIREの方法は世の中にたくさん情報があるのでそちらを読んでいただくとして、僕がしたこと、していることの話をします。

まず、40歳くらいの時に、50歳になったらリタイアしようと思った(その頃はFIREなんて言葉は知らなかった)。それからは、それなりに投資の勉強をした。気がついたらiPadのブックに100冊くらい投資関連の本が入っていた。それからいろいろ試して、今もいろいろやっている。メインはやっぱりインデックスの長期投資。

次に、支出のチェック。口座やカードをまとめて確認しやすくして、総資産を毎月末にチェックしている(昨日もやった)。この2年で、銀行口座は増減なし、投資分はちゃんと増えているので、世の中がよっぽど変わらない限り(最近の国内外の戦争の匂いは怖い)、老後はなんとかなるでしょう。

ということで、これもそこら中に書いてあることだけど、
・それなりの時間をかけて準備する。
・投資、FIREの勉強をする。
・収支を継続的にチェックする。
をすれば、経済的にはセミリタイアは成立します。ただしコロナで支出が減っている面はあるので、気は抜けないけれど。

もちろん、世のため人のために働いていられるならそれが一番。集中治療はまだまだ人手不足だし。
僕は諸々の理由でその選択ができなかったので、草葉の陰からみなさんを応援しております。
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