Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

集中治療におけるAIの未来:予測AIから実践AIへ

2023年06月30日 | AI・機械学習
Smit JM, Krijthe JH, van Bommel J; Causal Inference for ICU Collaborators.
The future of artificial intelligence in intensive care: moving from predictive to actionable AI.
Intensive Care Med. 2023 Jun 6. Epub ahead of print. PMID: 37278758.


予測するだけでは何をするかを教えてくれない。因果推論に基づいた、より実践的な情報提供が重要だ。
考えさせされる文章ではある。

単なる予測AIは有意義か無意味か、それとも有害か。
精度が低ければ相手にされないし、フォールスアラームが多いと無視されるし、当たり前のことを言われてもウザいし。ICUにおけるAI関連の研究はたくさんあるけど、その多くは、実はこの中のどれかに収まってしまいそう。でも、有益性を示した研究も数は少ないけれどある。
僕は今、在室しているICU患者さんの予測を提供している。何かが大きく変わったということはないけれど、まったく影響を与えていないという感じでもない。効果の有無はしばらく様子を見ないと分からないし、効果があったとしても小さすぎて観察できないかもしれない。有害なことをしている可能性も否定できない。

実践的AIは有意義か無意味か、それとも有害か。
まず、研究の数が圧倒的に少ない。理由はいろいろあって、予測AIよりも技術的に難しいし、必要なデータ量も多い。有効性の証明も大変。それに、仮に有効性が示されたとしても、「この患者さんには補液が必要です」とAIに言われて従う人はきっと多くない。
でも、頭で考えていても分からないので、実際に行動してみようと思っている。
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患者ケア改善のための敗血症臨床予測モデルの使用

2023年06月29日 | AI・機械学習
レターとコメントなんだけど、内容的には2つで1つの感じ。

Lyons PG, Hofford MR, Yu SC, et al.
Factors Associated With Variability in the Performance of a Proprietary Sepsis Prediction Model Across 9 Networked Hospitals in the US.
JAMA Intern Med. 2023 Jun 1;183(6):611-612. PMID: 37010858.


Mogri M, Grant RW, Liu VX.
Use of Sepsis Clinical Prediction Models to Improve Patient Care.
JAMA Intern Med. 2023 Jun 1;183(6):612-615. PMID: 37010828.


Epic Sepsis Modelというアメリカの電子カルテに付いている敗血症予測機能。予測のAUROCは敗血症の発生頻度に逆相関する。
ひどいとAUROCが0.55とかになっている。ほぼコインじゃん。

死亡率の低下も報告されている仕組みなのだけどね。
先日のhypotension prediction indexと同じで、悪い言い方をすれば「レベルの低い環境」ではAIによる有害イベントの予測は有益かもしれない。血圧が下がってきているのに予防的に介入できない環境とか、敗血症に慣れていない環境とか。
少し残念な話ではあるけれど、現実的には「レベルの低い環境」というのは存在するのだから、まあ、こういうのもアリなのかな。
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複雑な診断における生成AIの精度

2023年06月28日 | AI・機械学習
Kanjee Z, Crowe B, Rodman A.
Accuracy of a Generative Artificial Intelligence Model in a Complex Diagnostic Challenge.
JAMA. 2023 Jun 15: Epub ahead of print. PMID: 37318797.


NEJMのclinico-pathologic conferencesをChat-GPTに診断させたら、ズバリ正解が39%、鑑別診断の中に当たりが入っていたのが64%。
なかなかやるじゃん?

臨床でやろうと思えば、すぐにできるかもね。現病歴と検査結果と画像の読影レポートをコピペすればいいから。ICUでも診断に苦慮することは少なくないし、今度やってみようかな。もちろん、データを保存しないように設定したり、プライバシーに関連するような情報はコピペしないとか、注意は必要だけど。

でも、遊びならいいけど、診断がついてないのでChat-GPTに助けてもらいたい、というような状況ではちょっと上手くいかないのではないか、というのが想像。理由は、必要な情報が集まらないから。NEJMの場合は必要な情報は全て書いてあるけど、診断がついていない時は正しい診断に至るための情報がどこにも書いてない可能性が高い。この検査がないと無理とか、この情報を家族から聞いていないとか。

まあ損はしないから、やっぱり今度やってみるかも。
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中国の重症患者データベース

2023年06月27日 | ICU・システム
Jin S, Chen L, Chen K, et al.
Establishment of a Chinese critical care database from electronic healthcare records in a tertiary care medical center.
Sci Data. 2023 Jan 23;10(1):49. PMID: 36690650.


この文献に書いてあったので知りました。
これに続く、6つめの公開データベース。

この中国のDBも1施設。
でも6つもあれば、多施設研究的なこともやれそう。これまでの研究だとMIMICとeICU、稀にAmsterdamを使って3にするのがあるくらい。ただ全部のデータベースの中身を理解するのは相当時間かかりそうだけど。

ご興味のある方、やってみては?
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心臓手術後出血に対する早期再手術は予後改善に関連する。

2023年06月26日 | 循環
Shou BL, Aravind P, Ong CS, et al.
Early Reexploration for Bleeding Is Associated With Improved Outcome in Cardiac Surgery.
Ann Thorac Surg. 2023 Jan;115(1):232-239. PMID: 35952856.


外科医は手術は好きだが再手術は嫌い。再手術も手術なのにね。
素朴に不思議だけどそうなんだから仕方ない。

外科医の説得はICU医の大事な仕事の一つ。
楽しくないけど患者さんのためだから仕方ない。

そういうことしたくない人は、セミリタイアしましょう。
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ショック時の微小循環の直接評価

2023年06月25日 | 循環
Bruno RR, Wollborn J, Fengler K, et al.
Direct assessment of microcirculation in shock: a randomized-controlled multicenter study.
Intensive Care Med. 2023 Jun 6:1–11. Epub ahead of print. PMID: 37278760.


乳酸が2mmol/L以上のショック患者に対し、通常の臨床に微小循環の測定値を加えるかどうかでRCT。測定を追加すると介入が増えるが、ショックの改善に差はなく、死亡率は有意差はないが高くなった。

検査・測定をすると介入は増える。それは当然。
問題はそれで患者さんのためになるかどうか。それは分からない。
分かっていることは、
・ICUで行われるモニタリングのうち、RCTで有益性を示した方法は多分ないこと
・Less is moreが重要というのが最近の考え方であること
の2点。
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入院高齢者における血圧管理の臨床的アウトカム

2023年06月24日 | 循環
集中治療とは関係ないけどね。
ちょっと考えるきっかけにはなるんじゃないかな、と思って。

Anderson TS, Herzig SJ, Jing B, et al.
Clinical Outcomes of Intensive Inpatient Blood Pressure Management in Hospitalized Older Adults.
JAMA Intern Med. 2023 May 30: Epub ahead of print. PMID: 37252732.


65歳以上の高齢者に対し、入院48時間以内に静注薬か新規の内服薬で血圧の管理をした患者さんは、血圧が高くても介入されなかった患者さんに比べて院内死亡やICU入室や合併症の発生が多かった。

血圧がちょっと高いという理由で降圧剤を開始したり、外科医に「SBPを〇〇以下で」と言われて素直に従ったりしているICU医へ。
本当にいいの、それで?
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SAHにおける脳脊髄液ドレーンの有効性

2023年06月23日 | 神経
Wolf S, Mielke D, Barner C, et al.; EARLYDRAIN Study Group.
Effectiveness of Lumbar Cerebrospinal Fluid Drain Among Patients With Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage: A Randomized Clinical Trial.
JAMA Neurol. 2023 Jun 18: Epub ahead of print. PMID: 37330974.


この研究結果も興味深いけど、それ以上に、この結果に基づいて日本の脳外科医がどうするのか興味がある。
こっちはN=287、mRSがrisk ratioで0.73、P=0.04。
ピヴラッツはN=221、mRSがrisk ratioで0.67、p=0.048。
掲載された雑誌のimpact factorは29.9と5.5。
コストは雲泥の差。

ほら、あなたも興味持ったでしょ?
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重症敗血症におけるメロペネムの持続投与と間欠投与の比較

2023年06月22日 | 感染
Monti G, Bradic N, Marzaroli M, et al.; MERCY Investigators.
Continuous vs Intermittent Meropenem Administration in Critically Ill Patients With Sepsis: The MERCY Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2023 Jun 16: Epub ahead of print. PMID: 37326473.


ぐふっ。残念。
カプランマイアの見た目はいい感じに見えるけどね。P値は全然だけど。
メタ解析を紹介したのがもう7年前。ずっと期待していたのにー。
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2型DMのICU患者に対するSGLT-2阻害薬

2023年06月19日 | その他
Mårtensson J, Cutuli SL, Osawa EA, et al.
Sodium glucose co-transporter-2 inhibitors in intensive care unit patients with type 2 diabetes: a pilot case control study.
Crit Care. 2023 May 16;27(1):189. PMID: 37194077.


この研究は僕が留学していたオーストラリアのICUで行われていて、Dr. Rinaldo Bellomoの指導で行われたと思われる。
確かに、アイデアも良いし、誰もやっていないし、SGLTは複数の意味でタイムリーな薬。でもそれが、1施設の後ろ向き研究で介入群のNが18しかないのに、Crit Careに掲載される理由になるだろうか。

僕も、リナルドに「こういう研究をやれ」と言われ、前向きや後ろ向きにデータを集め、解析して図表を作り、それでOKが出たら文献の草稿を書いてリナルドの修正を受ける、ということを何度もやった。勝手な想像だが、この文献のfirst authorも同様な立場ではないか。そしてそういう風にして書かれた文献は、多くの場合それなりの雑誌に掲載される。最近、1施設の後ろ向き研究のリジェクトの嵐を自分の周りでよく見ているので、もうこういう研究は載りにくい時代になったのだな、と思っていた。だから今回のはビックリした。
で、思ったこと。リナルドのネームバリューというのも否定はできないけど、「書き方の違い」というのも大きな理由じゃないだろうか。

僕も、研究ネタの提供から原稿を投稿するところまでを若者に指導するというのを、これまで数十人に対してやってきた。指導って、とにかく難しい。モチベーションの維持とか、たくさんハードルはあるのだけど、一番難しいのが英語の執筆、特にディスカッション(何度か書いた話題なので、宜しければこちらから過去ログをご覧ください)。
リナルドに原稿を渡すと真っ赤になって帰ってくる。文章のレベルが違うというか、とにかく別物になる。それと同じことに毎回挑戦するのだけど、全然上手くできない。もちろん英語力の問題もあるけど、それだけじゃない。なんか、絶対的な能力差がある。

僕がこの文献を紹介することにした理由。ディスカッションが素晴らしい。書くべきことが書くべきところに書いてある。
あまり文献を書き慣れていない方へ。方法と結果をまず読んで、自分ならどう書くかを想像してからディスカッションを読んでみてほしい。英語の表現も参考になるけど、それよりも、「何をどこにどう書くか」に注目してみて。
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