Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

昨日の追記

2022年08月28日 | EBM関連
ピヴラッツっていう薬、知ってますか?
の続き。

SAHという、比較的頻度が高い疾患で、かつ他の脳卒中よりも年齢の若い人に発症する疾患に対して有益な治療法が証明されたら、それはNEJMクラスの研究になる。
ではどうして日本の保険適応を獲得する理由となった研究がJournal of Neurosurgery(impact factor: 5.115)レベルなのか。この薬を使うべきか悩んでいる人は考えた方がいい。

ちなみに、同じ目的で以前から日本で使われているfasudil。これも日本の保険適応を獲得する理由となった研究はちょうど30年前に同じ雑誌に掲載されている。そして、これは常識だと思うけど、fasudilはガイドラインに記載すらされていない。さらにちなみに、このガイドラインはもう10年も前だけど、CONSCIOUS studiesについては記載がある。もちろん、ネガティブだったで終了。

日本の外にいれば、どうするべきかは明白にわかるはず。普通にエビデンスレビューして、副作用と費用を考えればいいのだから。でも日本の中にいるとそうは行かない。きっと、この薬のために1年で100億円の税金が使われることでしょう。

すごい話だと思わない?
僕は思う。
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ピヴラッツっていう薬、知ってますか?

2022年08月27日 | 神経
僕は知らなかった。臨床から離れるとこれだから困る。
偶然知って、あまりに驚いたので、色々調べた。

まず、どうして驚いたかというと、この薬はclazosentanだから。
SAHに発生するDCIはspasmだけが原因ではないので、spasmを予防したり治療したりしようとしても予後は改善するとは言えない、さらにはDCIを予防したり治療したりしようとしても、SAHの長期予後は改善するとは言えない。これはいろいろなレビューや研究を読めば分かることで、なので例えば以前こんなことも書いた(三部作)。
そしたらなんと、今年の4月20日から日本で販売されているじゃないですか。しかも1バイアル8万円、きっちり投与すると240万円。あまりに高いので、DPCからは外れているらしい。

調べたこと、確認したことを順番に書きます。

まず、この薬はイドルシアというスイスの会社が開発した薬。RCTを4つ(REVERSE、CONSCIOUS-1, 2, 3)やっている。このうちPhase IIIはCONSCIOUS-2と3。
CONSCIOUS-2:27カ国102施設、クリッピング術後のN=1,157。Primary outcomeで有意な効果を示せず、12週時点での神経予後は悪化する傾向があり、呼吸器、貧血、低血圧といった合併症が有意に発生。
CONSCIOUS-3:コイリング術後を対象とし、CONSCIOUS-2とほぼ同時に行われたが、CONSCIOUS-2の結果を受けてearly terminationされた。
これら4つについてのメタ解析もあり(メーカーとは関係なさそう)、「血管攣縮に関連するDINDと遅発性脳梗塞の発生を有意に減少させたが、神経学的転帰不良を改善しなかった」という当然の結果になっている。

さて、ここまでは知っていた。
10年も前の話だし、この薬は終わった薬、サローゲートマーカーの改善は予後の改善にはつながらないという典型例として認識していた。

しかし、イドルシアは諦めておらず、ターゲットを日本にしたらしい(理由は不明、少なくともCONSCIOUSは行われていない国)。国内で第三層試験まで行われ、PMDAの承認を得て、4月から販売されている。ちなみにこの研究はon-line pubでもう読める。
日本で承認される薬剤はいつもそうだが、日本の第三層試験は国際的なphase IIIではない。通常、急性脳疾患の評価は数ヶ月後のGOSやmRSで行われるものだが、この研究のprimary outcomeは"Vasospasm-related morbidity and all-cause mortality within 6 weeks post-aSAH"。ただし長期予後も報告されていて、例えばmRSは23.4% vs. 15.6%(p=0.0.48)とギリギリだが有意差が出ている。

ちなみに投与量が少し複雑で、CONSCIOUS-2は5mg/hr、CONSCIOUS-3は5と15mg/hr、日本の投与量は10mg/hr。CONSCIOUS-3のexploratory analysisで15mgだと有効そうだという結果が出て、さらに日本(と韓国)で行われた第二層で最終的に10mgで良さそうだという結果になったらしい。アメリカのICU患者の体重の平均は80-90kg、日本人は60kgくらいなので、そういう意味では妥当な数字。

日本では爆発的に売れているらしく、イドルシア本社の2022年上半期の会計報告には、「日本におけるaSAHの推定発症率に基づくと、2022年6月にはaSAH患者の約10%がPIVLAZで治療されたことになります。4月の発売以来、純売上高は1140万スイスフラン(=16億!)に達しています」と書いてある(DeepLによる和訳)。2ヶ月ちょっとでこの金額はすごいのでは。

イドルシアはアメリカも諦めておらず、REACTというのがつい最近終了し、来年早々に結果が発表されるそうだ。ちなみに投与量は15mg/hr。ただし、Phase IIIとはなっているけど、primary outcomeは"clinical deterioration due to DCI from study drug initiation up to 14 days”で、N=409とCONSCIOUS-2より随分小さい。果たしてこの結果でFDAは動くのだろうか?

以上が調べたこと。
で、思ったこと2つ。ちょっと真逆。
1:Phase IIレベルのデータで、240万円と超高価で明らかな副作用のある薬を使用するべき、とは考えないのがEBM的には普通のはず。
2:ARDSに対するproneのように、挫折せずに一所懸命研究を続けると有効性が示されて標準治療になることもあるので、こういう活動は否定できない。

さて、今回はどっちかな?
(それにしても、日本から多額のお金が海外に流れているって、どっかの宗教みたいじゃないか?)

ーーーーーーーーーーー
追記、書きました。
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VCM+PIPC/TAZの投与とクレアチニンおよびシスタチンCの早期変化との関連

2022年08月26日 | 腎臓
Miano TA, Hennessy S, Yang W, et al.
Association of vancomycin plus piperacillin-tazobactam with early changes in creatinine versus cystatin C in critically ill adults: a prospective cohort study.
Intensive Care Med. 2022 Jul 14. Epub ahead of print. PMID: 35833959.


このレビューを読んで以降、VCMとPIPC/TAZの併用がAKIを起こしやすいという話は多分デマであると信じている。
でもチョコチョコ耳にするので、その度にPubMedで誰かが結論を出しているのではと調べるのだけど、どの研究もAKIが増えるという話ばかりで、変だなーとずっと思っていた。
だって、研究するの簡単じゃん。クレアチニン以外で腎機能を評価すればいいんだから。でも、シスタチンCを使って腎機能の推移を評価した研究は、どうもこれが初めてらしい。

「RCTじゃないから信じられない」とおっしゃる方もいらっしゃるかも知れませんが。
AKIを起こすという根拠も強くないし、状態の悪い患者さんはVCMが投与されることは少なくないので、PIPC/TAZを使わないことにしてしまうとみんなメロペネムになっちゃうし。

気にするの、やめた方が簡単じゃないですか?

あ、そうそう。
造影剤もそれほど気にする必要はない、というのも大丈夫かな?
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早期警告スコアの一部としての臨床評価

2022年08月25日 | ICU・システム
Nielsen PB, Langkjær CS, Schultz M, et al.
Clinical assessment as a part of an early warning score-a Danish cluster-randomised, multicentre study of an individual early warning score.
Lancet Digit Health. 2022 Jul;4(7):e497-e506. PMID: 35599143.


デンマーク8施設のクラスターRCT。NEWSによるスコアリングに基づいてRRSを発動するか、そのスコアを観察者が増減して、その結果をもとにRRSを発動するかを比較。仮説は、人が評価することによって無駄なRRSが減り、患者には悪影響を与えない、というもの。しかし実際は逆で、コール回数はほとんど減らず、有意ではないものの死亡率は悪化した。

面白い。単純に考えると、人の評価が加わった方が、単なる数字よりも患者さんの状態がより正確に判断できそうと期待したくなる。でも実際はそうはならず、NEWSに加点されることはほぼなく、減点がチョコチョコ行われ、コールするタイミングが遅くなり、結局呼ぶ回数は変わらずに予後が悪くなったように見える。

薬の効果は投与の有無で評価ができるけど、RRSはそうは行かない。人の行動なので、たくさんの要素があるから。
例えば、もしRRSの有効性が高く評価されていたら、みんながRRSを喜んで呼んで、この研究の結果は真逆になっていたかもしれない。でも、もし評価が高くなくて、RRSのチームメンバーが楽しそうに見えなかったり、RRSで来た人に否定的なことを言われたりしたら、結果はもっと悪くなっていたかもしれない。
どっちに傾きやすいかと言うと、やっぱりネガティブな方向でしょう。だって面倒だもの。みんな忙しいし、仕事増やしたくないし。

RRSの有無を比較した唯一の多施設RCTは有効性を示していない。それイコール無効ということにはならいし、実際に明らかに有効と思われる(コードブルーが激減)施設もある。ただ、有効性が示されるように導入するのはとても難しい。この研究もそれを示しているのではないかと思います。

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LEGOの説明書を読んで組み立てるAI

2022年08月20日 | AI・機械学習
米スタンフォード大などが開発 家具やMinecraftでも応用可能

ICUのニュースどころか、医療のニュースですらないけれど。

巷では、寿司を握ったり、うどんを茹でたり、コンビニのバックヤードで飲み物を補充したりするロボットがどんどん使用されるようになってきている。法的な文書や公的な文書をAIがチェックするようにもなってきている。病院でも、物品を運搬するロボットを導入しているところもある。画像診断AIなんかそろそろ珍しく無くなってきた。まだ決められたことしかできないけど、説明され受ければいろいろなことができるロボットやAIが実用化されるのももうすぐでしょう。

CV入れたり挿管したり、ちょうどよい麻酔深度を維持したり、点滴を作って患者さんに投与したり、清拭したり体交したり、CRRTやECMOの回路を組んだり、医療機器の点検をしたり、処方箋の間違いをチェックしたり、薬剤の投与量変更を提案したり。そういう事はもうすぐ人間の仕事じゃなくなる。それほど遠い未来の話じゃない。
こんな文献もあった。
Teng R, Ding Y, See KC.
Use of Robots in Critical Care: Systematic Review.
J Med Internet Res. 2022 May 16;24(5):e33380. PMID: 35576567.


そうなった時、あなたは何ができますか?
なんてことも考えながら働いていると、何が重要なのか、今何をすればいいのか、見えてきたりして。

もう働いていない人間が言うのもなんですけど。
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ICUではどの指標で薬用量設定するのが一番なんでしょうか?

2022年08月19日 | ひとりごと
先日の投稿に対してコメントをいただいた。

「毎日蓄尿?尿中クレアチニンからの推定?TDM?
悩ましいです。。」

シンプルな回答は、「知らん」です。
体重が40kgの人も120kgの人も同じ投与量だし、肝機能はよい補正方法がないからかあまり気にされていないのに、腎機能だけはeGFRに基づいて投与量をきっちり変更する不思議について書いただけだし。

筋肉量は外来患者>病棟患者>ICU患者の順であろうと想定されるので、ICU患者におけるeGFRの誤差は基本的に過大評価になる(はず、文献で読んだことはないので根拠に基づいていないけど)。でも、ICUで一般的に使用される薬剤で、血中濃度は通常は測定されないけど過量投与が問題になる薬剤って、ほとんどない。なので結果的に、「eGFRは不正確」という知識は臨床にほぼ影響を与えない。

以前、慢性疾患のある30代の女性で、血清クレアチニンは0.1だけどCCrを測定したら15だった、ということがあった。その時は、この患者さんがAKI on CKDの病態であることを医療従事者が誰も認識しておらず、薬剤(何かは忘れた)を通常量で投与していたので、それはダメだろ、CCrを測ろうと提案した。

他に手っ取り早い方法がないので、臨床でeGFRを使用するのはOK、ただしその限界はいつも認識していること。
それが大事だと思います。

もっと一般化すると、
「どうすればいいかを知ることよりも、いつも情報を集めていつも考えることが大事」
だと思うのです。
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院内心停止蘇生時の遠隔医療による集中治療医へのコンサルテーション

2022年08月18日 | ICU・システム
Peltan ID, Guidry D, Brown K, et al.
Telemedical Intensivist Consultation During In-Hospital Cardiac Arrest Resuscitation: A Simulation-Based, Randomized Controlled Trial.
Chest. 2022 Jul;162(1):111-119. PMID: 35063451.


院内心停止のCPRのシミュレーションにおいて、ICUの医者が遠隔から蘇生チームに参加するかどうかでRCT。蘇生率には影響はなかったが、心停止の原因はより高頻度に同定された(69% vs. 29%)。

ざっと読んだ限り、蘇生チームは病棟医がリーダーになっているようだ。シミュレーションだし、するべきことをすれば蘇生率には影響しないことは想像できる。
それよりも、診断率が全然違うのが興味深い。

昔から、ICU医師にもっとも必要なことの一つは診断能力だと思っている。
実際、自治でも慈恵でも、カンファレンスで話されることの相当の割合は”患者さんに何が起こっているか”だ。

この研究は、そのことをなんとRCTで示してくれた。
研究の限界(Nが小さい、実際の臨床の場ではない、誰かが考えた病態の診断なので単純、など)は当然あるとしても、とても面白い研究だと思う。
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GFRの推定における個人レベルの不正確さの定量化

2022年08月17日 | 腎臓
Shafi T, Zhu X, Lirette ST, et al.
Quantifying Individual-Level Inaccuracy in Glomerular Filtration Rate Estimation : A Cross-Sectional Study.
Ann Intern Med. 2022 Aug;175(8):1073-1082. PMID: 35785532.


例えばeGFRが60と計算された場合、実際のGFRの95%信頼区間は36から87と広い。

しかもこれは外来患者の場合。ICU患者では、特に入室後しばらく経過したり、入室前にしばらく入院していたら、この誤差はもっと大きくなる。
簡単に言えば、ICUでeGFRが有益なことはほとんどない。
でも使いたがる人は少なくない。特に薬剤師。

そこに数字があるし、何かを決めるときには拠り所があった方が楽だし、薬の投与量が間違っていたということが判明することはほぼないし(TDMでもしていない限り)。
だから使いたくなる気持ちはわかる。
でも、相当高い確率で実は間違っていることは自覚した方がいいと思う。
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コロナワクチン接種による副反応とロキソプロフェンの効果を脈拍数で観察。

2022年08月13日 | COVID-19


初モデルナ、侮るなかれ。
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Neuro-ICUにおけるprecision medicine、big dataやAIの現状はbla, bla, blaだ。

2022年08月09日 | AI・機械学習
Citerio G.
Big Data and Artificial Intelligence for Precision Medicine in the Neuro-ICU: Bla, Bla, Bla.
Neurocrit Care. 2022 Aug;37(Suppl 2):163-165. Epub 2022 Jan 12. PMID: 35023043.


まずこちら
神経ICUのAIも同じ状況だよね、というのがこの文章。

これって、神経だけでなくICU全般に言えること。
「〇〇をAIで予測したら既存のモデルよりも予測精度が高かった」という研究は山ほどある。でも実際の臨床で使われているものはほぼ無し。
それってどうなの?

否定的な話だけだとつまらないので、ちょっと情報を。
まず、最近のICMにこんなのがあった。
Bruno RR, Bruining N, Jung C; VR-ICU Study group.
Virtual reality in intensive care.
Intensive Care Med. 2022 Jul 11:1–3. Epub ahead of print. PMID: 35816236.

写真付きなのでわかりやすいね。
有効性が示されれれば、すぐにもICUに入ってきてもおかしくない。そこが難しいのだけれど。

こっちはちょっと未来の話。
Ultrasound Sticker
例えば24時間ずっと心臓の動きを見ていられるようになるかも。
心エコーをチョコチョコやりながらインアウトについて考える、なんていう21世紀に生まれた流行はもうすぐ終わるかも。かもかも。

ICUの未来にAIがどう関わっていくか。
楽しみ楽しみ。
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