Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

人工知能は終末期の無力な患者の代弁者になれるか?

2024年07月23日 | AI・機械学習
おお。
これは考えてなかった。

Brender TD, Smith AK, Block BL.
Can Artificial Intelligence Speak for Incapacitated Patients at the End of Life?
JAMA Intern Med. 2024 Jul 22. Epub ahead of print. PMID: 39037787.


心停止蘇生後で意識のない患者の意思について、仲たがいした娘に聞いても推測することは難しい。
でも、外来での会話がすべて記録されていて、その中から自分の人生観についての会話だけを取り出して聴くことができたら?
同様の状況になった患者の予後を提示することができたら?
同じような生活環境にあった人たちがどんな意思を持っているかを予測することができたら?

代理意思決定者がどれくらい正確に患者意思を推測できるかは疑問だし、living willとかACPとかが広く普及しているとは言えないし、医療者が客観的に情報提供をできているわけでもない。現状に明らかに問題があるのだから、AIの時代になったら今よりも良くなるのではないか?
でももしその予測が不正確だったら?

むむむ。
という僕の感想と同じ感想をeditorも持ったようで、すっごく短いeditor's noteを書いている。
"We published this Viewpoint because it is very interesting, somewhat scary, and probably inevitable."

さて、inevitableな未来ってどんな未来だろう?
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論文執筆は図表が全て。

2024年07月21日 | ひとりごと
論文を書く順番は、
・まず図表を決定する
・それを作る方法をMethodsに書き、図表で強調したい点をResultsに書く
・なぜこの図表の作成に意義があるかをIntroductionに書き、図表の解釈をDiscussionに書く
というのがもっとも書きやすいのではないかと思います。つまり、図表が完成した時点で、IntroductionからConclusionまで何を書くかが自動的に決まるということです。ここを理解していないと、"型"が守れなくなり、読者に言いたいことが伝わらず、peer reviewで評価されません。逆を言えば、論文全てが書けるような図表を作る必要があるということにもなります。

もう少し具体的に書くと、
・自分がこの文献で言いたいことを列挙する
・それが示される図表を作る
・図表作成時点で何を議論するかも決めておく
正確に言えばIntroductionは研究開始時に書けるし、MethodsとResultsは図表を説明するだけだから自動的に書けるので、残るはみんなが苦手とするDiscussionだけになりますが、言いたいことのリストがあって、かつそれを伝えることができる図表があれば、何を議論するかも決まるはず。そして何を議論するかが決まれば、書き方の型に合わせて書けばいい。

難しくないと思うのですけどね。
でもそれって教習所の教官と同じか。。。
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インパクトの大きいRCTにおける複合アウトカム指標

2024年07月18日 | EBM関連
Walker HGM, Brown AJ, Vaz IP, et al.
Composite outcome measures in high-impact critical care randomised controlled trials: a systematic review.
Crit Care. 2024 May 28;28(1):184. PMID: 38807143.


16のhigh-impact journalsに2012-2022年に発表された重症患者を対象としたRCTを調査。194研究中39.1%でcomposite outcome (COM)が使用されていた。COMを使った研究の方がサンプル数が少なかったが、有意差が出る頻度は同等だった。ほとんどの研究でeffect sizeは過大評価されていた。93%の研究において、患者さんにとっては重要ではないアウトカムが含まれていた。

結論は、
”Further work to improve the use of COM in critical care should focus on the design and validation of COM that include patient important outcomes and effectively represent the heterogeneity of the pathologies studied in the critical care literature.”
つまりは、使うなら賢く使おう。おっしゃる通り。

ちなみに、集中治療系のRCTが載るhigh impact journalってどれだろう?
NEJM, Lancet, JAMA, BMJ, Lancet RCCM, AJRCCM, ICM, CCM, CC, Chest
ここまでは当然として、これで10か。あと6は何だろう?
と思ったら。
雑誌のリストは10年前のこの研究と同じものを使用していることが判明。そのせいでLancet RCCMとCCが含まれていなかった(全リストはこちらの2ページ目)。
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ノルアド投与量報告の不均一性が死亡率予測に及ぼす影響

2024年07月17日 | 循環
僕がビビったのが去年の10月。ガイダンスが出たのが今年の3月。
おお、この話題で臨床研究が出たぞ!と思って読んでみたら。。。

Morales S, Wendel-Garcia PD, Ibarra-Estrada M, et al.
The impact of norepinephrine dose reporting heterogeneity on mortality prediction in septic shock patients.
Crit Care. 2024 Jul 3;28(1):216. PMID: 38961499.


濃度が違えば死亡率との関係は当然変わる。グラフを横に伸ばした感じになる。ただそれを実際に示しただけ。MIMIC-IVのデータを使っているのでNは4000あるけど、ただそれだけ。それをoriginal articleにするとは。ちょっとイラッと来た。

とネガティブなことを言っても仕方ないので、どうしてこれがCCに採用されたかについて考える。
とは言っても、
・ちょうど話題になっている。
・Nが比較的大きい。
・有名なデータベースを使用している。
・分かりきっていることだけど、それをちゃんと数字や図にした。
・型を守った書き方をしている。
くらいしか思いつかないが。

でも逆を言えば、このルールに従えば良い雑誌に採用される確率が高まるとも言えるか。
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集中治療におけるレジストリを組み込こんだ研究の妥当性と持続可能性

2024年07月16日 | データベース・JIPAD
Salluh JIF, Amado F, Pilcher D, Hashmi M.
The relevance and sustainability of registry-embedded research for critical care.
J Crit Care. 2024 Aug;82:154765. PMID: 38492521.


データベースの意義について人に何度話したか分からない。でも、それを聴いて「じゃあやろう」と思う人はごく僅か。それは仕方ない、人間だもの。
JIPADに参加していないけど独自のデータベースを作成している施設は限られるだろうから、参加施設数から推測するとだいだい日本のICUの四分の三はデータベースを持っていないことになる。普段からデータベースを使用している者からすると信じられない数字。

ちなみにこの文章はこの研究のeditorial。
エチオピアの人も" ICU registries are invaluable tools"と気がついているようだ。
あなたはまだですか?
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収縮期血圧のショック時の目標値

2024年07月15日 | 循環
血圧の話をするのは久しぶりではないか?

Yuriditsky E, Bakker J.
What every intensivist should know about…Systolic arterial pressure targets in shock.
J Crit Care. 2024 Aug;82:154790. PMID: 38816174.


100のICUを見たけれど、温度版にMAPをプロットしているICUはとても少ない。僕が最近よく行く二つの病院のカンファレンスを聴いていても、血圧の低いことを表現する時にMAPで語る人はとても少ない。そういう人にMAPの方が大事ですよねと言うと、「そんなことは知っている」と返事される。コントロールの悪いDMの人にカロリー制限って大事ですよねと言った時の返事と同じ。

この文献にも、
"The MAP is considered the organ inflow pressure most associated with perfusion, autoregulation, and clinical outcomes. The DAP has garnered attention as a mediator of coronary perfusion and a pressure component associated with survival."
「MAPは灌流,自己調節,臨床転帰に最も関連する臓器流入圧と考えられている。DAPは冠動脈灌流のメディエーターとして、また生存に関連する圧として注目されている。」
"As systole may be short and comprise a relatively small component of the cardiac cycle, the SAP would not be a good surrogate of organ perfusion. At the level of the distal vasculature or resistance vessels, pulsatility is minimal. Consequently, following SAP as a marker of tissue blood flow in lieu of MAP would therefore be unsound."
「収縮期は短く、心周期の比較的小さな要素であるため、SAPは臓器灌流の代用にはならない。遠位血管系や抵抗血管のレベルでは、脈動性は最小である。従って、MAPの代わりにSAPを組織血流の指標とすることは不健全である。」
と記載されている。

そんなことは知っていると思うなら、行動も伴ってほしい。
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セーフティネット病院と非セーフティネット病院における敗血症死亡率の比較

2024年07月14日 | EBM関連
セーフティネット病院って何?
って思うよね。僕も思った。

Law AC, Bosch NA, Song Y, et al.
In-Hospital vs 30-Day Sepsis Mortality at US Safety-Net and Non-Safety-Net Hospitals.
JAMA Netw Open. 2024 May 1;7(5):e2412873. PMID: 38819826.


hospitals that care for a disproportionately high share of low-income and underinsured patients
低所得者や保険未加入の患者を多く受け入れている病院、のことだそうです。
この研究が言いたいことは、
"Differences in in-hospital mortality may partially be explained by greater use of hospice at non–safety-net hospitals, which shifts attribution of death from the index hospitalization to hospice."
「院内死亡率の差は、セーフティネット病院以外でのホスピス利用が多く、死亡の帰属が指標入院からホスピスにシフトしていることで部分的に説明できるかもしれない。」

当たり前と言えば当たり前だけど、施設の予後の良し悪しは、実際の診療レベル以外の多くの因子で影響される。それをちゃんと示した点が良いな、と思いました。
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Peer reviewを500回やって思うこと。

2024年07月13日 | ひとりごと
文献をいくつか書くと、どこからかpeer reviewの依頼がやってくるようになる。あれ、この雑誌には投稿したことないのにな、という雑誌からも来る。自分が投稿する時は誰かがやってくれることだし、医学研究の質を維持するとても大事な活動なので、ボランティアではあるけれど、できる限りやるようにしている。ちなみに、15年くらい前まではCritical Careだけはpeer reviewをするとクラシック音楽のCDがプレゼントとして送られてきていた。ちょっと嬉しかったので、なくなったのは残念。
共著者も含め執筆者として研究を投稿すればするほどpeer reviewの依頼も多くなるのだけど、さすがに全部受けるわけにはいかず、一時期は週1以上はやらないと決めていた。なのでもっとも多い時でも年に50回が最高。最近は以前よりずいぶん依頼は減ったけど、それでも年に20くらいはある。Revisionも来るし、たまーに同じ研究を別の雑誌から依頼されることもある(同じことしか書けないから断る)ので、自分がやったreviewは全部フォルダで管理している。
それを見ると、初めてやったのが2004年で、つい先日、500回を数えた。記念だし、少しはpeer reviewについて語ってもいいかなと思い、感想をいくつか書いてみる。

論文の執筆でもっとも重要なこと。それは型を守ること。
Dr. Bellomoも以前こう言っていたように、書き方には決まりがあるので、それ通りに書くことがとても大事。そうすることによって書くべきことを忘れず書けるというのもあるけど、何よりも、読む側は次に何が書いてあるかを期待しながら読むので、その期待通りに書いてあると理解しやすいし、そうでないと読んでいて苦労するから。特にreviewerは他の人よりも文献を読み慣れている傾向にあるはずだから尚更。書くべきところに書くべき内容が書いてないとすごく苦労する。そして苦労すれば評価は当然下がる。
自分の文献の採用率を高めたいなら、型をしっかり守りましょう。

誰でも最初はあるのだから、研究をし慣れていない人が研究をするのは当たり前のこと。だからこそ、メンターの存在がとても重要。
研究し慣れているかいないか、ちゃんとしたメンターがいるかどうか、は原稿を読むとすぐに分かる。書き方の型もそうだし、スタディーデザインもそうだし、統計手法もそうだし、図表の作り方もそう。研究のグレードとは別に、論文のグレードというのがある感じ。
論文の執筆に慣れるまでは、メンターにしっかりとチェックを受けましょう。

そしてこの二つが如実に現れるのがディスカッション。
研究の指導をしていていつも思うのは、みんなdiscussionが苦手ということ。Peer reviewしていても、他の部分の型を守れている人はディスカッションもちゃんと書けている。
慣れればそんなに難しくないので、ちょっと書き方を。
・1段落目:今回の研究のまとめ。重要な結果を書く。基本的に重要な結果は考察するので、極端に言えば考察しないことは書かない。
・2−4段落目くらい:1段落目に書いたことから3つ前後選んで、既存研究を含めながらディスカッション。ただし既存研究との違いを書くのではなく、類似点、相違点を踏まえながら、段落の最後に必ずメッセージを書く。
・長所短所:まず自慢をして、その後で欠点を書く。ただしできる限り、欠点を述べてからhoweverで自分で自分に反論する。
・結語:1段落目をさらに要約して、何か決め台詞を。

もう20年以上前になるけど、Dr. Bellomoに図表を見せていたら、じゃあディスカッションはこんな感じになるねと言ってブワーッと喋るのを見て、すごいなーと思ったのだけど、今なら僕でもできる。慣れればディスカッションはそんなに難しくない。
ちなみに、reviewerによってはディスカッションの内容を細かく指摘する人もいるけど、僕は一定範囲に入っていればほぼ指摘しない。唯一気にするのは、研究の範疇を超えて仮説をベラベラ書かれること。それは違うでしょ、と思う。いろいろ語りたくなるのは分かるけど、ディスカッションは総説ではないので、研究の範囲を超えちゃダメ。Be modest。

最近は、peer reivewの依頼が来るたびに、そろそろpeer reviewもリタイアしたいという願望と、研究指導をしている限りは続けるべきという理性が闘っている。さすがに1000回には達しないし、辞めるのにはちょうどいいか?
いかん、願望が勝ちそうだ。


タイトル:「Peer reviewを500回やって思うこと」 by ChatGPT-4o
Peer reviewに囲まれて、なんか人生かけてる感じでちょっと笑える。
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ピペラシリン-タゾバクタムとセフェピムの敗血症患者の死亡率

2024年07月05日 | 感染
Chanderraj R, Admon AJ, He Y, Nuppnau M, et al.
Mortality of Patients With Sepsis Administered Piperacillin-Tazobactam vs Cefepime.
JAMA Intern Med. 2024 May 13: Epub ahead of print. PMID: 38739397.


日本中、もしかしたら世界中どこのICUに行っても、重症患者は"メロバン"が投与されている気がする。で、「そこまでじゃないよね」という患者さんには、むかーしはブロードセフェムが選択されていたが、PIPC/TAZが利用可能になってからは、「そこまでじゃない」患者さんはPIPC/TAZが選択されるようになった。
人間、複雑なことはできないし、夜勤で忙しい時はなおさらだし、フォーカス不明で開始することも少なくないし、「患者さんの病態や考えられる起因菌」に合わせて細かく抗菌薬選択なんて、そうそうできたもんじゃない。
でもこのPIPC/TAZ、驚くほどケチが付く。この文献も同様。PIPC/TAZが供給難になってCFPMの使用頻度が増えた時期を利用しているので、普通の観察研究よりちょっと信憑性が高い気もする。

PIPC/TAZが利用可能になって選択肢が増えたことは良いことなのだろうけど、それが重症患者さんのためになっているか?はちょっと疑問符。腎傷害のことだけでなく、そもそもPIPC/TAZを選択すること自体を考え直す時期なのかも?
かもかも?
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出血性脳卒中研究の前進

2024年07月04日 | 神経
The Lancet Neurology.
Forging ahead in haemorrhagic stroke research.
Lancet Neurol. 2024 Jun;23(6):545. PMID: 38760082.


たった1ページの文章なのだけど、最近発表された研究、今後発表予定の研究がたくさんリストアップされている。脳梗塞に比べ脳出血は明らかに研究の数が少なくて、手術適応にしても血圧の管理にしても止血剤にしても抗凝固にしても、ずっと同じ疑問を感じていたのが、ここ数年で状況が変わってきて、確かに前進している印象がある。

最新研究のリストとして、利用価値のある文章だと思います。
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