Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

患者急変前の病棟管理

2012年10月29日 | ICU・システム
今週もたくさん。

Goldberger ZD, Chan PS, Berg RA, et al.; for the American Heart Association Get With The Guidelines―Resuscitation (formerly the National Registry of Cardiopulmonary Resuscitation) Investigators. Duration of resuscitation efforts and survival after in-hospital cardiac arrest: an observational study.
Lancet. 2012 Sep 4. [Epub ahead of print] PMID: 22958912.

アメリカの435の病院で院内心停止した64339例を対象(心拍再開率は48.5%)。蘇生を中止するまでの時間が短い病院(中央値16分)では長い病院(25分)よりも心拍再開率・生存退院率が低かった。
CPRをどれくらい継続するべきか、判断が難しいことは良くある。詳細はジャーナルクラブで。

Serpa Neto A, Cardoso SO, Manetta JA, et al.
Association between use of lung-protective ventilation with lower tidal volumes and clinical outcomes among patients without acute respiratory distress syndrome: a meta-analysis.
JAMA. 2012 Oct 24;308(16):1651-9. PMID: 23093163.

ARDSのない症例に低換気量は有効か、についてのメタアナリシス。28研究、2822例が対象。肺傷害の発生頻度が三分の一になり、死亡率が三分の二に減少。
メタアナリシスです。はい。これまた詳細はジャーナルクラブで。

Zhou X, Chen J, Li Q, et al.
Minimally invasive surgery for spontaneous supratentorial intracerebral hemorrhage: a meta-analysis of randomized controlled trials.
Stroke. 2012 Nov;43(11):2923-30. PMID: 22989500.

脳出血に対する低侵襲手術(内視鏡とか)の有効性についてのメタアナリシス。世の中には313のRCTがあるらしく、そのうち質の高い12研究(1955例)が対象。通常の治療(開頭血腫除去もしくは内科的治療)に比べ、死亡率が約半分になった。
これまたメタアナリシスです。はい。でも、予後を改善する治療法がない脳出血において、この数字は期待が持てる。デカい研究が出たら、結果はどうあれNEJMレベルかな。

Marsteller JA, Sexton JB, Hsu YJ, et al.
A multicenter, phased, cluster-randomized controlled trial to reduce central line-associated bloodstream infections in intensive care units.
Crit Care Med. 2012 Nov;40(11):2933-9. PMID: 22890251.

CVによる感染を予防する方法としてbefore-after研究で有効性が示されたバンドル:
・挿入前の手指衛生
・full barrier precautions(帽子、マスク、ガウン、手袋、大きなドレープ)
・クロルヘキシジンによる皮膚消毒
・不要なカテはさっさと抜去
が本当にカテ感染を減らすかについて、RCTで検討。35の病院にある45のICUを二群に分け、バンドルの導入時期をずらして評価。カテ感染は明らかに減少、しかも効果は1年以上継続。

偶然、JAMAにも同じ話題でニュース記事あり。
Kuehn BM.
Hospitals slash central line infections with program that empowers nurses.
JAMA. 2012 Oct 24;308(16):1617-8. PMID: 23093147.

キーワードは、”医者に任せるな”。同感。

で、メジャー雑誌の紹介はこれくらいにして、今日の本題。
とは言え、CCMなのでメジャーだけど。

Ludikhuize J, Dongelmans DA, Smorenburg SM, et al.
How nurses and physicians judge their own quality of care for deteriorating patients on medical wards: Self-assessment of quality of care is suboptimal.
Crit Care Med. 2012 Nov;40(11):2982-6. PMID: 22890255.


オランダの教育病院で、3ヶ月間に病棟で心停止したか、ICUに緊急入室した患者を診療した医師/看護師にインタビュー。急変の12時間前に診療したスタッフに対し、自分たちの診療内容について評価してもらった。それとは別に、”エキスパート”(同じ病院の集中治療医/内科医/ICUナース)が後ろ向きに患者の情報を見て、診療内容の評価をした。
その結果、
・3ヶ月で心停止が9例、ICU緊急入室が38例、ほぼ全例が内科患者
・アンケートには診療に関わったスタッフの85%が答えた
・その内訳は、ナース49名、研修医36名、専門医32名
・診療に遅れがあったと答えたのは、ナース31%、研修医19%、専門医15%
・エキスパートは60%に遅れがあったと判断

さて。
患者急変前、もしくはICU緊急入室前の診療レベルが不十分であるという報告は以前からある。
もっとも引用される研究は、これでしょう。
McQuillan P, Pilkington S, Allan A, et al.
Confidential inquiry into quality of care before admission to intensive care.
BMJ. 1998 Jun 20;316(7148):1853-8. PMID: 9632403


今回の研究の強みは、実際に患者に関わった医療従事者に、自分たちの評価をしてもらったこと。結構大変だったろうね。よくみんな答えてくれたもんだ。はっきり断ったのは研修医が一人だけらしい。

この手の研究は、rapid response system(RRS)を導入するべき、という意見の根拠になる。
実際、ICUで働いていると、何でこうなっちゃったの、と思うことは珍しくない。
でも、本当に医療レベルが低いのか、単に”後医は名医”なのか。
軽度の異常が発生した時点でRRSが介入すれば急変しないのか。
それは分からない。

それに、やっぱり病院によって診療レベルって違うと思うんだよね。
医療従事者によっても違うけど、科によって、病院によって、違うんじゃないのかな。
急変の発生頻度も病院によって違うだろうし。
RRSの能力値も病院によって違うだろうし。

なので、
RRSは有効だからどんどん導入しよー、という意見も、
病棟でちゃんと見れるからRRSなんか不要だー、という意見も、
どっちもちょっと乱暴な気がするんだよね。

尻切れだけど、このまま書いていると長くなる予感がするので、今日はこれでオシマイ。
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PCVとVCV

2012年10月28日 | ひとりごと
メーリングリストではうまく表現できなかったので、ここにそっと書いておく。
誰も読みませんように。

今回のアンケートの結果やコメントを見て、改めて感じるのだけど、”こうすべし”と、みんな、思いすぎていないだろうか。

人工呼吸器の設定なんて、本当に本当に、全然分からないことばかり。
ARDSの一回換気量は6ml/kgだ、もそうだし、圧の上限は30cmH20だ、もそうだし。
かもね、ぐらいだよ。
ましてやPCVとVCVなんて、おいおい、という感じ。
理屈で話をして良いなら、DICも治療しないと。

理屈がこうだからこうする、はダメ、ということじゃない。
強い根拠がなければ、何かを理由にしないといけないし、そういう場合に生理学的に妥当な選択をするのは当たり前。

でもね。
思い込みは危険。
今回は偶然正解を選んでも、次は間違える。
こんな話があるけど、ほんとかな、ぐらいがちょーど良い。
活性化プロテインCにどれだけの人が踊らされて、どれだけの金が使われたか。
強化インスリン療法でどれだけの患者さんが低血糖になったか。
それに比べれば、PCVの優位性なんて、○○○みたいなもんだ。

こうした方が良いよ、と言われたら、とりあえず、ほんとか、と思う。
そして自分で調べる。
そうすると、自分の知識も増えるし、根拠の強さに基づいた判断ができるし、ついでにそう教えてくれた人のレベルも分かる。
そういう姿勢でいれば、何でもかんでもPCV、にはならないはず。

誰も読みませんように。
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CRRTのnon-renal indicationは実験的治療

2012年10月27日 | ひとりごと
抄録のコピペ、ぱーと2。
こっちは普通かな。
ーーーーーーーーーーーー
 CRRTのnon-renal indicationは意味があるか。この疑問文はやや不明確であり、単純にYes/Noでは解答することが困難である。より解答が容易な疑問文は、現状でCRRTのnon-renal indicationを行うべきか、であり、その解答は、明確にNoである。現状での知識/根拠を整理すると、以下のようになる。まず、通常のCRRT(35ml/kg/hr以下の治療強度、市販されている透析膜)では、サイトカインなどの除去はほとんど行われず、予後も改善しない。つまり、通常のCRRTの適応は、あくまで重篤な腎傷害に対する補助療法である。
 次に、通常ではないCRRT(50ml/kg/hr以上の治療強度、孔径の大きな膜)については、現在、複数の研究が行われているが、その有効性についての結論は定まっていない。また、本邦ではこのような治療法は保険適応外となり、容易に行うことはできない。保険適応外でかつ有効性の定まっていない治療法を臨床において行うことは実験的治療であり、研究の要素が必ず含まれる。つまり、治療法の有効性を評価する研究としてのみ施行が許容される。
 Non-renal indicationの適応としてもっとも一般的なのはセプシスであるが、その補助療法すべてにおいて、世界はこれまでの経験に基づき保守的になってきている。そのような中で、臨床医は常識的な行動をとることがより強く要求されていることを忘れてはいけない。
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臨床工学技士のICU常駐は必要か

2012年10月26日 | ひとりごと
今度の春の集中治療医学会の抄録を書いた。
なんか、うまく書けた気がするので、コピペ。
学会の抄録っぽくないけどね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 本邦には1000に近い数のICUがあるが、そのうち集中治療医が常駐している施設数は僅かである。集中治療医のいないICUを利用する医師、そこに勤務する看護師、および病院執行部が、集中治療医の必要性を感じているかどうかは甚だ疑問である。理由は明確である。集中治療医に会ったことがないので、その存在にどんなメリットがあるかを知らないからである。臨床工学技士(CE)によるICU常駐も、これと似た状況であろうと想像する。本邦にあるほとんどのICUにCEは常駐しておらず、そのような施設においてCEの必要性を感じることは決して多くないだろう。
 しかし、集中治療医の常駐とCEの常駐には明確な相違点も存在する。国際的にはICUに集中治療医がいることは一般的であるが、CEという職業自体が日本の外では一般的ではない、という点である。例えば、アメリカでは人工呼吸器に関連した業務は呼吸療法士が行うし、オーストラリアなど多くの集中治療先進国では、持続腎代替療法の回路のプライミングはナースが行う。集中治療医がICUにいることの意義/その根拠/職務内容/教育システムなどは先進国に学ぶことができるが、CEの場合はそうは行かない。
 CEのICU常駐が必要かどうかは、常識では考えられないような医療機器関連の事故の発生を見れば自明である。しかし、自明であることと、それが他者に容認されることとは別問題である。プロとしての能動的な活動がそれを可能にすると考える。
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クロライド投与とAKI

2012年10月22日 | 腎臓
たった1週休んだだけなのに。
メジャー雑誌に文献が出まくり。
仕方ないので、片っ端からご紹介。

Wandt H, Schaefer-Eckart K, Wendelin K, et al.; Study Alliance Leukemia.
Therapeutic platelet transfusion versus routine prophylactic transfusion in patients with haematological malignancies: an open-label, multicentre, randomised study.
Lancet. 2012 Oct 13;380(9850):1309-16. PMID: 22877506.

AMLのケモ中、もしくは自己幹細胞移植患者の血小板輸血を、血小板数が1万以下になったらルーチンでするか、出血症状が出たときだけ輸血するか、で無作為割り付け(N=400)。症状が出たときだけ輸血すると、総輸血量が三分の二に減少。自己幹細胞移植では出血に差はなかったが、AMLでは脳出血が増えた。
血小板輸血の適応についてはNEJMも含めいくつか研究があるので、一度まとめますかね。ジャーナルクラブででも。

Klein M, Gogenur I, Rosenberg J.
Postoperative use of non-steroidal anti-inflammatory drugs in patients with anastomotic leakage requiring reoperation after colorectal resection: cohort study based on prospective data.
BMJ. 2012 Sep 26;345:e6166. PMID: 23015299

大腸癌で、大腸もしくは直腸を切ってつないだ予定手術患者2766名中、術後1週間以内にNSAIDが投与されたのは32%。投与されていない患者に比べ、投与群で有意に縫合不全が起こった(8.2% vs. 12.8%, p<0.001)。多変量解析では、ヂクロフェナク(ボルタレンとか)投与群でのみ有意に縫合不全が増え(オッズ比7.2)、イブプロフェン(ブルフェンとか)では有意ではなかった(オッズ比1.5)。不思議なことに、有意ではないものの、死亡率はヂクロフェナク群1.8%、イブプロフェン群4.1%、コントロール3.2%。
ふーん。あの、日本で麻酔科医がよく使う、ミルキーな静注薬はどうなんだろうね。

続いてJAMAのonline first2連発。
Dieter Mesotten, Marijke Gielen, Caroline Sterken, et al.
Neurocognitive Development of Children 4 Years After Critical Illness and Treatment With Tight Glucose Control. A Randomized Controlled Trial
JAMA. 2012 Published online October 17, 2012
IITで有名なLeuvenで行われた、小児対象のIIT研究(Lancet 2009)で、morbidityは減ったけど低血糖は増えたという結果になり、子供には低血糖は脳の発育に悪いんじゃないか、という疑問が出たので、長期フォローしてみた。そしたら、IQに差はなかった。
LeuvenからのIIT研究が最初にNEJMに出てから10年。まだ来ますか。すごいエネルギーだ。

Sangeeta Mehta, Lisa Burry, Deborah Cook, et al.; for the SLEAP Investigators and the Canadian Critical Care Trials Group.
Daily Sedation Interruption in Mechanically Ventilated Critically Ill Patients Cared for With a Sedation Protocol: A Randomized Controlled Trial
JAMA. 2012 October 17, 2012
カナダとアメリカの16のICUで行われた、人工呼吸中の患者430例を対象としたRCT。鎮静剤をプロトコールに基づいて投与するのと、それに加えて一日一回投与を中止するのとの比較。Primary outcomeは人工呼吸期間。結果は、ミダゾラムとフェンタニルの投与量が投与中止群の方が増えて、人工呼吸期間は両方とも7日間で差は無し。ICU滞在日数も病院在院日数も同じ。毎日鎮静剤を中止すると、ナースは忙しくなる。
今日の紹介文献の中では一番の話題作か。過去の研究との比較も含め、これも<a href="http://www.jseptic.com/journal/">ジャーナルクラブでまとめる予定。

Myburgh JA, Finfer S, Bellomo R, et al.; the CHEST Investigators and the Australian and New Zealand Intensive Care Society Clinical Trials Group.
Hydroxyethyl Starch or Saline for Fluid Resuscitation in Intensive Care.
N Engl J Med. 2012 Oct 17.

補液をするときに、生食か、HES 130/0.4か、でRCT。症例数は約7000例。死亡率に差は無し。でも、HES群の方が、クレアチニンが高く、RRT必要頻度も高かった。
ANZICS-CTGによる、SAFE studyに続く補液の研究。SAFEの時は、ICUで7000例!と驚いたけど、もう慣れてしまった。これもジャーナルクラブで。

そして、今日のメインもJAMAから。

Yunos NM, Bellomo R, Hegarty C, et al.
Association between a chloride-liberal vs chloride-restrictive intravenous fluid administration strategy and kidney injury in critically ill adults.
JAMA. 2012 Oct 17;308(15):1566-72. PMID: 23073953.


オーストラリアの大学病院のICU(と救急外来)で、ある時期から、クロライドの多い補液(生食、ゼラチン、4%アルブミン)を原則使用禁止にして、代わりに、リンゲルや20%アルブミンのみ使用可とした。この変化がAKIの発生にどんな影響があったかについて検討。その結果、
・前期/後期とも、観察期間は6ヶ月、症例数は760/773名。
・クロライドの総投与量が、694mmol/人から496mmol/人に減少。
・ICU入室前と比べ、ICU在室中のクレアチニンの上昇の程度が減った。
・RIFLE criteriaでInjury/Failureの頻度(14% vs. 8%)、RRTを必要とした頻度が減少(10% vs. 6%)。
・死亡率、在室期間などに差は無し。

さて。
クロライドの投与およびそれによる代謝性アシドーシスが腎傷害を起こしうるというのは、動物実験やいくつかの小さな臨床研究で示されていた。この研究は、その仮説に基づいて実際にクロライドの投与を減らしてみたら、AKIが減ったよ、ということを初めて示した研究。

ふーん。面白い。
どうも、アシドーシスが悪さをするのではなくて、クロライドの投与そのものが、糸球体輸入細動脈を収縮させたりしてGFRを下げるらしい。

でも、何よりもビックリしたのは、一施設のbefore-after研究で、各群700例しかいないに、JAMAに載ったこと。
で、この研究、著者の二人目を見ると気がつく人は気がつくのだけど、ANZICS-CTGの中心人物、かつ僕の師匠であるリナルド・ベローモのところで行われた。なので、直接、この疑問をぶつけてみた。以下、メールの和訳(とっても意訳、敬語略)。

う:「驚いた。何で1施設のbefore-afterでJAMAに載るの?リナルドのネームバリューのせい?」
リ:「そうじゃなくて、補液はホットな話題で、結果がポジティブかつプロボカティブで、そういう研究が雑誌は好きだからでしょ。」
う:「それだけじゃなくて、アメリカ人は生食が好きなのと、研究が英語圏で行われたのと、やっぱり有名なICU研究家がやったからでもあるんじゃないの?とにかく、面白い研究だ。今度は大きなRCTをやるつもり?」
リ:「やろうとは思うけど、準備が大変だ。2、3年はかかるかも。昨日、ANZICS-CTGで、周術期の補液についての2600例のRCTの予算と、デキサメテドミジンについての4000例のRCTの予算をゲットしたばかり。もうすぐ5000例のTRANSFUSE studyも始まるし、3800例のADRENAL study(詳細不明)も来年スタートだし。さらに何かをやる時間を見つけるのは難しいね。」
う:「うわー。。。日本の集中治療はオーストラリアよりも20年遅れているから、10年以内にそんな大きなRCTが一つでも日本でやれたら、すごいと思うよ。それまでに集中治療関連の疑問を少しは残しておいてね。」
リ:「Don’t’ worry…there is soooooo much to do.」(原文のまま)

ま、それは分かっているんだけれども。
でもそのためには、集中治療をもっと普及させないといけないし、多施設データベースも必要だし、何よりも研究に対して意欲の有る人を集めないと。

10年。どうかなー?
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今週は完全にお休み

2012年10月15日 | その他
人生の中で誰でもいつかは出会うことが起こりました。
正月も休まなかったのにね。

何もないのも寂しいので。
集中治療医学会雑誌、俗称緑雑誌が皆さんのお手元に先週届いたのではと思いますが、
そこに、”毎年恒例”のレターを掲載していただきました。
今回は、Critical Care research crisis in Japan、というタイトルです。
ご興味ある方はどうぞお読みください。
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重症頭部外傷とICPモニタリング

2012年10月08日 | 神経
天気がよくて涼しい休日。
気分が良いね。

先週は、止血剤の話がいくつかあったので、それをまとめて紹介。

Hutton B, Joseph L, Fergusson D, et al.
Risks of harms using antifibrinolytics in cardiac surgery: systematic review and network meta-analysis of randomised and observational studies.
BMJ. 2012 Sep 11 PMID: 22968722.

リジンアナログ(トラネキサム酸とか)に比べ死亡率を上げるとしてマーケットから消えたアプロチニンが、去年からヨーロッパとカナダで復活したらしい。それを受けてか、改めて行われたメタアナリシス。ちなみにやったのはカナダ人。106のRCTと11の観察研究が対象となり、結論は、やっぱりアプロチニンは死亡率と腎傷害を増やす、と。
詳しくないのだが、きっといろいろな人たちがバトルをしているんだろうな、ということが垣間みれる研究。

Roberts I, Perel P, Prieto-Merino D, et al.; on behalf of the CRASH-2 collaborators.
Effect of tranexamic acid on mortality in patients with traumatic bleeding: prespecified analysis of data from randomised controlled trial.
BMJ. 2012 Sep 11;345:e5839 PMID: 22968527

外傷の急性期にトラネキサム酸を投与すると死亡率が低下することを大きなRCTで示したCRASH-2のpost-hoc解析。外傷の重症度で分けて検討してみたが、それに関わらずトラネキサム酸は有効だった。
そんなに重症じゃないから使わなくていいや、ということではない、と言いたいらしい。じゃ、そうしますか。

Sharma V, Fan J, Jerath A, et al.
Pharmacokinetics of tranexamic acid in patients undergoing cardiac surgery with use of cardiopulmonary bypass.
Anaesthesia. 2012 Nov;67(11):1242-1250. PMID: 22827564.

術中にトラネキサム酸大量投与を行った心臓外科手術5例に対し、血中トラネキサム酸濃度を継続的に測定。術中の濃度はプラスミン活性を100%抑制するとされている濃度より高く、術後6時間でも80%抑制するとされる濃度よりも高かった。クリアランスは1.73ml/min/kgで、健常人のGFRと同程度であった。
術後の痙攣との関連が報告されて以降、慈恵でもトラネキサム酸の使用量は減少し、あんなにしょっちゅう起こっていた痙攣がピタっと止まった。でも、出血量を減少させることは分かっているので、今後は安全かつ有効な投与量の設定が重要だべ。

で、先週一番の文献はこれ。Journal of Neurosurgeryから。

Farahvar A, Gerber LM, Chiu YL, et al.
Increased mortality in patients with severe traumatic brain injury treated without intracranial pressure monitoring.
J Neurosurg. 2012 Oct;117(4):729-34. PMID: 22900846.


ニューヨークの22の外傷センターに収容された、重症頭部外傷の前向きレジストリ。対象は、外傷センターに受傷後24時間以内に収容された、GCSが8点以下でかつMotorが5点以下の症例。そのうち、脳圧が高くなるリスクのある患者(CTで異常あり、40歳以上、低血圧、GCS-Mが3点以下)を研究の対象とした。予後に影響を与えることが分かっている因子(年齢、GCS、対光反射、CT所見、低血圧)で調整し、ICPの挿入が予後と関連するかについて検討。
その結果、
・レジストリに含まれたのは3125例。そのうち脳圧が高くなるリスクがあるとされたのは2134例。実際に治療(マンニトール、高張食塩水、バルビツレート、CSFドレナージ、減圧開頭)が行われたのは1446名。
・そのうちICPモニターが挿入されたのは1202名(83.1%)。
・ICP挿入群の14日死亡率は19.6%、非挿入群は33.2%。
・多変量解析で予後に影響を与える因子を除去すると、ICP挿入の死亡に対するオッズ比は0.64(P=0.05)。

さて。
まず基本情報の復習。
重症頭部外傷についての国際的なガイドラインはBrain Trauma Foundation(BTF)が2007年に出した(改訂した)ものが唯一(のはず)。それによると、GCSが8点以下で脳圧が高くなる可能性がある場合はICPを挿入すること、となっている。

たしかに、ICPに基づいて脳圧を管理することは生理学的には有意義のように思われるが、それが本当に予後改善につながるかは未知数で、これまで複数の観察研究においてICP挿入が予後と関連しない(場合によっては予後を悪化させる)という結果が示されている。でも、どれも後ろ向きだったり、一施設研究だったり、予後因子の検討が十分にされていなかったりした。
この研究はそれらの欠点を補っており、ICP挿入が予後改善と関連したことを示し、ガイドライン通りだよ、というのが結論。

ただし、研究を行っているのはBTFそのものなので、注意が必要。ちなみに、ニューヨーク州がお金を出しているらしい。こういうところはアメリカは偉い。

観察研究なので、何も証明していないし、ケチをつけようと思えば容易にできる。
なんたって、ICPの挿入頻度が非常に高い。BTFのガイドラインを遵守している感じ。ということは、そういう施設でICPが挿入されていない症例は、よほどの理由(こりゃ駄目だろと医者が思ったとか)があったのでは、という気がする。実際、ICP非挿入例の方が年齢が高く、対光反射の異常を認めた頻度も高い。
もちろん、それらをひっくるめて多変量解析をしているのだけどね。
でも、これは肺動脈カテーテルは予後を悪くするという観察研究と同じレベル。どんなに因子を含めても、医者の判断という因子は含められない。

想像するに、ICPを積極的に入れない施設では、重症患者にICPを挿入する傾向があるのではないかと思うので、そういうところで観察研究をすると、ICPは予後を悪くするという結果が出るし、今回の研究のように、積極的にICPを挿入する施設では、逆の結果が出るのではないかと思う。

じゃあ、どうすればいいかというと、最終的にはRCTが必要になる。
でも、アメリカでは倫理的にやれないらしく、その代わりに、ワシントン大学がラテンアメリカでRCTをやっている。
NCT01068522
324例を対象としたRCT。患者リクルートは今年の4月に終わったらしいので、結果が楽しみですな。

そろそろ散歩にでも行くかな。
たまにはノンビリしないと。
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ICUという名の魔法

2012年10月07日 | ひとりごと
病棟から尿路感染によるショックと意識障害の患者さんがやってきた。
もう診断はついていたので、若者達がよってたかってA-line入れてCV入れて補液してノルアドしてるのを、端からぼーっと眺めていたのだが、
治療とはあまり関係なしに血圧が上昇傾向だった。

こういうことは結構ある。
低酸素だって病棟に呼ばれて、そこで挿管するかICUでするか悩んで、患者さんの意識が比較的保たれていたのでICUですることにして、ICUに着いた頃にはSpO2がいい感じになっていた、とか。

留学中に、病棟に敗血症性ショックの患者さんを迎えに行って、ある程度の処置をしてからICUに向かう途中のエレベーターの中で、患者さんが、”最近ずっと調子が悪かったが、何か良くなってきた気がする”と言ったので、”それがICUって言う名の魔法だよ”と答えたことがあった。

本当の理由はどうあれ(状態悪化が一過性だったとか、病棟での適切な処置の効果が出るまで時間がかかったとか)、
ICUには患者さんの具合を良くする空気が流れていると、ちょっとだけ信じていたりする。

ICU良いとこ一度はおいで。
ん?
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ゼプティックショックって。。。

2012年10月06日 | ひとりごと
一体、何語だ?
ドイツ語風、か?
Septic shock=セプティックショック。
ゼ、じゃなくて、セ。
格好悪いから、やめてくれー!

中には、”ゼプティックな感じ”とか、”ゼプティックになってきた”とか言う人もいる。
どんな感じ?
よく分からないぞー!
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予定手技のためのワーファリンの中止

2012年10月01日 | 循環
へい、いらっしゃい!
今日も、ピリッとくる文献がそろってますぜ、お客さん。

Hranjec T, Rosenberger LH, Swenson B, et al.
Aggressive versus conservative initiation of antimicrobial treatment in critically ill surgical patients with suspected intensive-care-unit-acquired infection: a quasi-experimental, before and after observational cohort study.
Lancet Infect Dis. 2012 Oct;12(10):774-80. PMID: 22951600.

アメリカの外科系ICUで、最初の1年間は感染を疑ったらすかさず抗菌薬投与(アグレッシブ)、次の1年間は細菌学的な根拠が認められたときだけ抗菌薬投与をした(コンサバ)。その結果、コンサバの時期の方が、治療開始が遅く、適切な抗菌薬投与の頻度が高く、投与期間が短く、そしてなんと、死亡率が半分になった。
一施設のbefore-after研究でしょ、だからどうした?
そりゃそうだが、面白い。
一応、ジャーナルクラブ候補にしよっと。

Kondili E, Alexopoulou C, Xirouchaki N, et al.
Effects of propofol on sleep quality in mechanically ventilated critically ill patients: a physiological study.
Intensive Care Med. 2012 Oct;38(10):1640-6. PMID: 22752356.

長期の人工呼吸管理中(中央値18日)で、鎮静剤が投与されていない患者に、夜間プロポフォール(ラムゼースコアで3点を目標)を投与するかどうかで睡眠の質を比較。投与の有無に関わらず睡眠の質は傷害されており、プロポフォールの投与はそれを増悪させた。
夜は鎮静剤を投与して/量を増やして、寝かした方が良い、なんて話も聞くが、それは本当か?

Schenker Y, Tiver GA, Hong SY, et al.
Association between physicians' beliefs and the option of comfort care for critically ill patients.
Intensive Care Med. 2012 Oct;38(10):1607-15. PMID: 22885651.

家族と、生命の維持を目的とした治療を続けるかどうかの話し合いをするとき、つまり"bad news"を伝えるときに、その話し合いを録画し、治療の中止/緩和ケアを提案したかどうかについて検討。72の話し合いが録画され、その56%で治療の中止/緩和ケアが提案された。提案が行われることに関連した唯一の独立因子は、医者が治療の中止を行うべきとどれだけ考えているか、だった。
客観的にすべての治療オプションが提示されるなら、治療の中止/緩和ケアを提案する頻度は100%のはず。でも実際は、医者は自分の考えに基づいて家族と話をする。
そりゃそうだ。でも、本当にそれで正しいのか?

自分が”当たり前”と思っていても、当たり前と思わない人はいるし、実際にそれを調べて、当たり前じゃないという結果が出たりする。
今日のメインは、そんな話をもう一つ。Circulationから。

Siegal D, Yudin J, Kaatz S, et al.
Periprocedural heparin bridging in patients receiving vitamin k antagonists: systematic review and meta-analysis of bleeding and thromboembolic rates.
Circulation. 2012 Sep 25;126(13):1630-9. PMID: 22912386.

ビタミンK拮抗薬(普通はワーファリン)を飲んでいる人が、何らかの手術や手技を受けるときに、それが予定されている場合には事前に入院してヘパリンに変更したりする(ブリッジング)。ヘパリンの方が半減期が短いので、抗血栓療法は継続しつつ、手術/手技の出血のリスクはない。さて、これって本当か、について検討したメタアナリシス。
・34の研究が見つかり、RCTはそのうち1つだけ
・単純に血栓イベントを数えると、ブリッジングされた人の0.9%、されなかった人の0.6%に発生
・ブリッジするかしないかで血栓のリスクを比較した研究は8つ、ブリッジした方の血栓発生のオッズ比は0.8(有意差無し)
・ブリッジするかしないかで出血のリスクを比較した研究は13個、ブリッジした方の出血発生のオッズ比は5.4(有意差有り)

さて。
まず、つい最近出たガイドライン(ACCP2012)には、”出血のリスクの少ない手技(抜歯とか白内障の手術とか)ではワーファリンを継続、血栓リスクの高い症例にはヘパリンでブリッジング(Grade 2C)”と書いてあるそうな。つまり、その根拠は乏しいし、血栓リスクが中程度以下の場合はどうすればいいかは書いていない。

この文献を見ると、何でGrade 2Cなのかがよくわかる。RCTは一つしかないし、比較観察研究ですら数が限られている。

とある病院(どこかは秘密)では、ワーファリン内服患者が手技/手術のために入院すると、ほぼ必ずヘパリン10000-15000単位/日が1週間投与され、APTTは測定されないか、されてもその結果に基づいて投与量は調節されず、多くの場合はAPTTは40秒以下で、手技/手術の終了後、誰か(大抵は外科医)が投与再開を判断する。
で、何か問題が起こっているかというと、全然(ゼロかどうかは知らないが)起ってないらしい。
ずっと不思議だと思っていたけど、なんとなく分かった気がした。
多くの場合、血栓のリスク<<出血のリスクなので、あまり気にしなくてもいいんだ、きっと。

もちろん、じゃあもうヘパリンは止めましょう、ということにはならないわよ。
メタアナリシスの結果に基づいた、単なる推測ですわよ。

で、ちゃんと世の中には偉い人達がいて、現在、RCTが3つ進行中らしい。その名も、
PERIOP-2
BRIDGE
BRUISE CONTROL
外人さんの研究は名前が良いね。

とりあえず、APTTが正常値でも、不思議に思うのは止めることにした。
と、素直で可愛い一面を見せて、今日はおしまい。
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