Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

入院患者の診断におけるAIの影響を測定してみた。

2023年12月31日 | AI・機械学習
JAMAにAI関連のRCTが掲載された。
僕の今年の最後の文献紹介としては相応しいと思うので、ちょっと長めに紹介。

Jabbour S, Fouhey D, Shepard S, et al.
Measuring the Impact of AI in the Diagnosis of Hospitalized Patients: A Randomized Clinical Vignette Survey Study.
JAMA. 2023 Dec 19;330(23):2275-2284. PMID: 38112814.


呼吸不全の診断を普段からしている418人の医療者(医師、NP、PA)に、9例の呼吸不全患者の情報(既往歴、現病歴、身体所見、検査所見、胸部レントゲン)を見せて、肺炎か心不全かCOPDなのかを診断させた。詳細は省くけど、情報提供の方法をいろいろ工夫して、下記の比較ができるようにした。
・自分だけで診断する
・AIの診断が見られる
・AIの診断と、その診断をした画像所見の説明も見られる
・バイアスのかかったAIの診断が見られる
・バイアスのかかったAIの診断と、その診断をした画像所見の説明も見られる
・コンサルトした人の診断も見られる(実際は100%正解)
その結果、自分だけで診断した正解率は73%で、情報提供により、
・AI:+2.9%
・AI+説明:+4.4%
・バイアスAI:-11.3%
・バイアスAI+説明:-9.1%
・コンサルト:+8.1%
と正解率が変化した。

面白い。
もちろん、誰が何を診断するか、どのようなAIの情報提供が行われたかによって、影響の程度は異なるのだろうけど、少なくともこの環境では、
・AIによって少し診断率が向上
・バイアスのかかったAIによって大きく診断率が悪化
・AIの診断根拠を提示されても影響は少ない(正しい情報に自信が持てたり、間違った情報を見破ったりはあまりできない)
という結果になったと。

自治さいたまでは、僕が作ったAIによる患者予測を毎日ICUの医療従事者に提供しているので、少し怖くなりました。できる限り正確な情報を提供しないといけないわ。

ということで、今年はおしまい。
また来年、よろしくお願いしまーす。


タイトル:「ICUのお正月」
ちゃんと注文を出せばもっとマシな絵を描いてくれるのだろうけど、なんかバカっぽくて笑えるので一発採用。
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COVID-19の低酸素患者におけるICU外でのHFNCの安全性と治療成績

2023年12月28日 | 呼吸
Janssen ML, Türk Y, Baart SJ, et al.; Dutch HFNO COVID-19 Study Group.
Safety and Outcome of High-Flow Nasal Oxygen Therapy Outside ICU Setting in Hypoxemic Patients With COVID-19.
Crit Care Med. 2024 Jan 1;52(1):31-43. PMID: 37855812.


オランダの10の病院。HFNCが開始された場所が呼吸器病棟かICUかで比較。挿管率は53% vs. 60%、28日死亡率は8% vs. 13%で、どちらも有意差なし。結論として、「ICU外でのHFNC開始は、ICUの収容能力と医療費を維持することを目的として、他の低酸素性疾患や臨床環境において更に検討されるべきである。」

間違ってはいないと思うけど、少し注意するべき点がある。
・呼吸器病棟であって、一般病棟ならどこでも、という研究ではない。
・病棟開始の群の64%は結局ICUに来ている。
・Propensityマッチングしても、「この患者さんはICUに来た方がいい」という医療者の判断を完全に含めることはできない。

特に3つめは忘れがち。つい先日も若手研究者とこの話をしたばかり。「治療A vs. 治療B」、「治療Aをするかしないか」という観察研究は、必ずこの限界にぶち当たる。もちろん、だからこういう研究をやってはいけないということではないけれど、「アルブミンも肺動脈カテーテルもより多くの人を殺す」という噂が流れた過去は忘れないようにしたい。


タイトル:「アルブミンも肺動脈カテーテルもより多くの人を殺すという噂」
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2009年から2021年までのオランダICUの質向上

2023年12月27日 | ICU・システム
Roos-Blom MJ, Bakhshi-Raiez F, Brinkman S, et al.
Quality improvement of Dutch ICUs from 2009 to 2021: A registry based observational study.
J Crit Care. 2024 Feb;79:154461. Epub 2023 Nov 10. PMID: 37951771.


結論は、「7つの指標に基づくオランダのICUケアの質は2009年から2019年にかけて有意に改善し、ICU間の異質性は褥瘡を除いて中から小規模である。」

この文献のeditorialが好き。
Pisani L, Quintairos A, Salluh JIF.
ICU registries: From tracking to fostering better outcomes.
J Crit Care. 2024 Feb; Epub 2023 Nov 18. PMID: 37981535.


表1を、Chat先生に日本語にしてもらった。

テーブル 1: ICUレジストリがケアの質の向上に役立つ方法
・ケースミックス評価とアウトカム: レジストリによるケースミックス評価は、ICUの疫学に関する知識を向上させ、QI研究の対象を特定するのに役立つ。
・ケアのプロセス: 証拠に基づくケアのプロセスへの遵守の監査と、ICU介入のデザインの改善が可能である。
・監視: レジストリは、パンデミックや新興疾患、ケースミックスおよびアウトカムの傾向の監視に対して、タイムリーなデータを提供する。
・RCTおよび擬似実験研究のためのコアデータ: レジストリは、ICUでの治療の有効性と安全性を試験する観察的または介入的研究の実施を容易にし、作業負荷を軽減するコアデータセットを提供する。

JIPADは、施設数140、症例数40万例に到達している。このまま行けば、2-3年後にはANZICSの施設数を抜き、7年くらいでICNARC(人間がデータ収集しているICUデータベースとしては世界最大)を抜き、20年後には日本全部のICUが参加している計算になる。

まだ参加していないあなた。置いてかれちゃいますよ。
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複雑な臨床例を診断するためのGPT-4の使用

2023年12月26日 | AI・機械学習
NEJM AIの第1号からもう一つ紹介。

Use of GPT-4 to Diagnose Complex Clinical Cases.
Authors: Alexander V. Eriksen, M.D., Sören Möller, M.Sc., Ph.D, and Jesper Ryg, M.D., Ph.D.
Published November 9, 2023 NEJM AI 2023;1(1)


自分でも試しにやってみた。
NEJMのイメージクイズの本文と選択肢だけをコピペしたところ、回答、その理由、それ以外の選択肢の可能性がなぜ低いか、をスラスラ説明してくれた。もちろん正解。

こんな記事もあったけど、2050年よりももっと早くに、画像診断だけでなく臨床診断も、予後予測も、治療選択も、AIの方が正確になるでしょう。そうなったときにICUの医療者は何をするべきか?

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NEJM AIへの投稿で大規模言語モデルの使用を奨励する理由

2023年12月25日 | AI・機械学習
NEJM AIという、個人的にはヨダレがでそうな雑誌ができた。
その第1号にこんな記事が出ている。

Why We Support and Encourage the Use of Large Language Models in NEJM AI Submissions
Daphne Koller, Ph.D., Arjun Manrai, Ph.D., Euan Ashley, M.B., Ch.B., D.Phil, et al., for the editors and editorial board of NEJM AI
Published December 11, 2023, NEJM AI 2023;1(1)

(まだMedLine収載されていないからPubMedからコピペできない)

例えばScienceは、"Text generated from AI, machine learning, or similar algorithmic tools cannot be used in papers published in Science journals, nor can the accompanying figures, images, or graphics be the products of such tools, without explicit permission from the editors"と宣言しているけど、NEJM AIでは、"we have elected instead to allow the use of LLMs for submissions, as long as authors take complete responsibility for the content and properly acknowledge the use of LLMs. However, this policy does not allow an LLM to be listed as a coauthor."であると。
理由もいくつか書いてあって、例えば、
・現状では研究の実施に人間の関与は不可欠であること
・非英語話者を助けることができること(この研究ではChat先生に英文校正してもらいました)
・LLMの関与を正確にチェックすることは不可能なこと
などが記載されている。

ですよね。
こちらの態度の方が正しいと思います。
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病院のコーヒーメーカーは病原菌を媒介するか?

2023年12月24日 | その他
毎年恒例のBMJ。今年はこれが楽しかった。

Walker SV, Boschert AL, Wolke M, Wetsch WA.
Bug in a mug: are hospital coffee machines transmitting pathogens?
BMJ. 2023 Dec 18;383:p2564. PMID: 38110232.


院内の17台と医療者の家庭用の8台のコーヒーメーカーから5箇所ずつ培養検体を採取。
緑膿菌やアシネトバクターといった医学的に意義のある菌は家庭用のコーヒーメーカーでは見つからず、病院だけで見つかった。
多剤耐性菌は一つも検出されなかったので、"a general ban on coffee makers doesn’t seem necessary"ということになったけど、研究時点で多剤耐性菌が院内で問題となっていなかったのが大きな理由かもしれない。
実際、この研究結果が発表された以降、"All but one of the coffee machines are still in use—although now being cleansed regularly"という状況になっているそうだ。
みなさん、気をつけましょう。

「ICUでメリークリスマス」というタイトルでChat先生に絵を描いてもらった。

さすがにそれは。。。

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日本の病院のICUベッド数(R4年度)

2023年12月10日 | ICU・システム
まず過去ログ:
日本の病院のICUベッド数(R3年度)
日本の病院のICUベッド数(R2年度)
日本の病院のICUベッド数(H30年度)
気がついたら、厚労省のデータが更新されR4年度のデータが出ていたので、再計算。

なお、「ICU」というものを、
・特定集中治療室管理料 1 - 4
・救命救急入院料 2 or 4
・小児特定集中治療室管理料
のどれかを算定している病床と定義した。
()の中はR3年←R2年←H30年の数字。

・ICUは588(←614←601←625)の病院に737(←774←760←794)病棟、7012(←7221←7015←7204)床あった。
・ICUのある病院の全病床数のうちのICUベッド数の割合の平均:2.41%(←2.36←2.36←2.35)。
・人口10万当たりのICUベッド数:5.61床(←5.74←5.71←5.70)

次に、ICUのベッド数が多い病院トップ10。

病床数が200以上ある病院のうち、bed_ratioが高い病院トップ10。

循環器や小児など専門病院が含まれるので、対象を500床以上の病院に限定(総合病院であろうと仮定)。


去年の結果と比べて気がついた。東大病院がなくなって、高知赤十字が一気に増えている。
このデータは厚労省のホームページから取得しているのだけど、生データを確認すると、東大病院の"算定する入院基本料・特定入院料"が全て欠損していて、高知赤十字の”特定集中治療室管理料4”の病棟が45床増えている(もともと10床なので、きっと登録データの間違い)。

多施設でデータを収集すると、データの欠損や間違いは必ず起こるし、それは国のデータでも同じなのね。
なので、毎年の細かい増減はあまり意味がないということがわかった。

まあそれでも、
日本には約600の病院に約750のICU、約7000ベッドあって、
病床数との比は約2.4%、人口10万人あたり6弱のICUベッドがある、
という認識は持っていて無駄じゃないはず。
自分の病院のICUベッド数が多いか少ないか分かるし、他の国のデータを読むときも日本と比較できるし。
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重症感染症対する血液浄化:RCTネットワークメタ解析

2023年12月02日 | 感染
コメントしたくなる点が複数ある文献。

Chen JJ, Lai PC, Lee TH, et al.
Blood Purification for Adult Patients With Severe Infection or Sepsis/Septic Shock: A Network Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.
Crit Care Med. 2023 Dec 1;51(12):1777-1789. PMID: 37470680.


1点目。
ネットワークメタ解析は胡散臭いのがあるので注意が必要だけど、その典型のような文献。PMXは死亡のrelative riskが0.70、血漿交換は0.61ですって。しかも、有意差が出ているのはこの二つだけだけど、relative riskだけ見たら0.29っていうのもある(Altecoという商品)。なんとまー。

2点目。
Table 1に対象となった血液浄化療法のリストが書いてあるのだけど、吸着的な商品が7つ?もある。一番古いのはPMXのはずだけど、いつの間にやらずいぶん増えた。みんな、こういうのが好きなんだね。患者さんの具合の悪いときは体の中に悪い物質があって、それを除去すれば体に良いのでは、という考え方は単純で魅力的だもんね。
あ、そうそう。oXirisも記載されている商品の一つ。そしてもちろん、SepXirisは書いてない。

3点目。
商品としてはPMXの次に有名で研究も多いCytosorbは、relative riskが1.39で、もう少しで有意差が出そうな悪さ。CCMの同じ号にCytosorbのメタ解析が載っていて、30日死亡のrelative riskは1.30。ちょっともう商品としては苦しいのでは。それが関係しているのか、販売会社のNASDACでの株価はこの3年で10分の1になっている。
PMXとはずいぶん違うね。いや、まだ分からないけど。
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日本のデータを用いた院外心停止に対するECPR

2023年12月01日 | 循環
Okada Y, Komukai S, Irisawa T, et al.
In-hospital extracorporeal cardiopulmonary resuscitation for patients with out-of-hospital cardiac arrest: an analysis by time-dependent propensity score matching using a nationwide database in Japan.
Crit Care. 2023 Nov 15;27(1):442. PMID: 37968720.


心停止に対してECPRをすればするほど助かる命が増えるし、元気に家に帰れる人も増える。それは正しそうだけど、当然のことながら、死んでいたはずの人が寝たきりになる。それって具体的にはどれくらいなんだろうと思っていたのだけど、この研究ではそれを綺麗に図にしてくれている。

まず結果の一部をDeepLしたものをコピペ。
「良好な神経学的予後については、ECPR群のオッズ比は対照群と比較して、ショック可能リズムで1.11[95%CI 0.82-1.49]、非ショック可能リズムで4.25[95%CI 1.43-12.63]であった。」

不良な神経予後については数字が書いてない。なので自分で図から読み取る必要がある。簡単にできるけど、そう言えばChatGPTは「眼を持った」ので、図をコピペして計算してもらった(実はこの結果を得るまでちょっと教育をする必要があったのだけど、まあ許してやろう)。
ーーーーーーーーーー
ショッカブル条件の場合:
ECPRグループ:生存率は約24%、神経予後良好は約12%で、神経予後不良の割合は約12%です。
コントロールグループ:生存率は約16%、神経予後良好は約11%で、神経予後不良の割合は約5%です。
これにより、ECPRはコントロールに比べて神経予後不良の割合を2.4倍に増やしていることになります。

ノンショッカブル条件の場合:
ECPRグループ:生存率は約12%、神経予後良好は約4%で、神経予後不良の割合は約8%です。
コントロールグループ:生存率は約2%、神経予後良好は約0.5%で、神経予後不良の割合は約1.5%です。
これにより、ECPRはコントロールに比べて神経予後不良の割合を約5.33倍に増やしていることになります。
ーーーーーーーーーー
数値が小さいのでオッズ比も割合も同程度。
特にshockableでは大幅に寝たきりを増やしていることが分かる。

だからEPCRするな、という話ではない。
改めてこの事実を認識しましょう、と言いたいだけ。
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