Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ピペラシリン-タゾバクタムとセフェピムの敗血症患者の死亡率

2024年07月05日 | 感染
Chanderraj R, Admon AJ, He Y, Nuppnau M, et al.
Mortality of Patients With Sepsis Administered Piperacillin-Tazobactam vs Cefepime.
JAMA Intern Med. 2024 May 13: Epub ahead of print. PMID: 38739397.


日本中、もしかしたら世界中どこのICUに行っても、重症患者は"メロバン"が投与されている気がする。で、「そこまでじゃないよね」という患者さんには、むかーしはブロードセフェムが選択されていたが、PIPC/TAZが利用可能になってからは、「そこまでじゃない」患者さんはPIPC/TAZが選択されるようになった。
人間、複雑なことはできないし、夜勤で忙しい時はなおさらだし、フォーカス不明で開始することも少なくないし、「患者さんの病態や考えられる起因菌」に合わせて細かく抗菌薬選択なんて、そうそうできたもんじゃない。
でもこのPIPC/TAZ、驚くほどケチが付く。この文献も同様。PIPC/TAZが供給難になってCFPMの使用頻度が増えた時期を利用しているので、普通の観察研究よりちょっと信憑性が高い気もする。

PIPC/TAZが利用可能になって選択肢が増えたことは良いことなのだろうけど、それが重症患者さんのためになっているか?はちょっと疑問符。腎傷害のことだけでなく、そもそもPIPC/TAZを選択すること自体を考え直す時期なのかも?
かもかも?
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出血性脳卒中研究の前進

2024年07月04日 | 神経
The Lancet Neurology.
Forging ahead in haemorrhagic stroke research.
Lancet Neurol. 2024 Jun;23(6):545. PMID: 38760082.


たった1ページの文章なのだけど、最近発表された研究、今後発表予定の研究がたくさんリストアップされている。脳梗塞に比べ脳出血は明らかに研究の数が少なくて、手術適応にしても血圧の管理にしても止血剤にしても抗凝固にしても、ずっと同じ疑問を感じていたのが、ここ数年で状況が変わってきて、確かに前進している印象がある。

最新研究のリストとして、利用価値のある文章だと思います。
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頭部外傷における輸血の自由戦略 vs. 制限戦略

2024年07月03日 | 消化器・血液
Turgeon AF, Fergusson DA, Clayton L, et al.
Liberal or Restrictive Transfusion Strategy in Patients with Traumatic Brain Injury.
N Engl J Med. 2024 Jun 13. Epub ahead of print. PMID: 38869931.


思ったこと2つ。

1つ目。
一応ネガティブな結果ということになっているけど、図3のGOSのグラフとかを見ると、ちょっとどうだろうかと思う。
この研究に限らず、輸血の域値はなんでも7で良い、とは言い切れないことを示した研究は何年も前からチラチラあるが、もう発表されてから四半世紀経ったTRICC studyのインパクトが革命的すぎて、そう簡単にはプラクティスは変わらない印象がある。ラッキーセブンだし、一つの方が覚えやすいし。実際、世界のプラクティスは変化しているのだろうか。これも大きな振り子であって、徐々に変化していくのだろうか。

2つ目。
よく言われがちなこと。高齢者はリザーブがないのでHbは高めで、的なやつ。これは多分示されたことはなくて、どちらかと言えば逆の結果をよく見かける印象がある。今回の研究のサブグループ解析でも55歳以下の方がliberal strategy betterの方向になっていて、ああまたかと思った。

輸血の域値問題。まだまだずっと続きそう。
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待機的手術前に術後肺合併症のリスクを推定するモデル

2024年07月02日 | AI・機械学習
NIHR Global Health Research Unit on Global Surgery; STARSurg Collaborative.
A prognostic model for use before elective surgery to estimate the risk of postoperative pulmonary complications (GSU-Pulmonary Score): a development and validation study in three international cohorts.
Lancet Digit Health. 2024 Jul;6(7):e507-e519. PMID: 38906616.


思ったこと3つ。
・1158病院で86000例のデータを集めても、発生頻度が2%程度のアウトカムはinternal validationでAUC 0.786程度の精度しか出せない。
・External validationだとAUCは0.716まで下がる。
・それでも"can accurately stratify patients’ risk of postoperative pulmonary complications"と書きたくなってしまう。

同じことの繰り返しになるけど、一般論にすると、
・発生頻度が低いアウトカムはどんなにNを大きくしても予測は難しい。Under- / Over-sampleingなどで感度とAUROCを高くすることはできるが、そうするとキャリブレーションがおかしくなりがち。
・異なるデータベースを使用すると特徴量の分布が異なるので必ず精度は下がる。それなら自分の施設のデータを使って自分のためだけに予測した方が、Nは小さくなるけど精度は高かったりする。
・AUROCが0.7台では実際に利用しても大して有益じゃない。でも「有益だ」と言いたくなってしまう悲しさ。それは実際に使っていないから。使うとすぐに気が付くのに。

それでも多施設で大きなNだとLancetの姉妹雑誌(最新のimpact factorは23.8)に載ってしまう。
上手く言えないが、「もうそっちに行っても仕方ないのでは」という気分になったので、紹介してみた。
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ANZICSにおける第三の性に分類される集中治療患者の疫学

2024年07月01日 | ICU・システム
Modra LJ, Higgins AM, Pilcher DV, et al.
Epidemiology of Intensive Care Patients Classified as a Third Sex in Australia and New Zealand.
Chest. 2024 May;165(5):1120-1128. PMID: 38081578.


さすがANZICS先輩、2016年からANZICS-APDに"third sex option"というのを追加したそうで。
0.06%、525症例の疫学情報がこの文献。

日本だと、JIPADが導入を決めるというよりは、病院もしくは電子カルテが決めたことに追従することになるでしょう。もう始めている病院(か電子カルテ)ってあるのかな?
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