Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ICU患者のfrailtyのスクリーニング

2021年11月24日 | ICU・システム
Darvall JN, Bellomo R, Paul E, et al.
Routine Frailty Screening in Critical Illness: A Population-Based Cohort Study in Australia and New Zealand.
Chest. 2021 Oct;160(4):1292-1303. PMID: 34089741.


ANZICS-APDでは2017年度からclinical frailty scaleの収集をルーチンで開始したそうだ。
その結果、23万人中19%がICU入室前にfrailtyの状態にあり、病院死亡率は有意に高かった(16% vs. 5%)。Frailtyの情報をAPACHE IIIjに追加すると、予測死亡率のAUROCが0.868から0.882に改善した。

入院前のfrailtyが予後に強く関連することは容易に想像できるし研究も多いけど、それをルーチンに多施設で収集するとなると結構大変。
例えば、JIPADではデータを事務の人がカルテを見ながら収集している施設が少なくないのだけど、カルテを読み込まないとfrailtyの情報は出てこないから、この項目だけで収集にかかる時間が数分長くなってしまう。ちょっと現実的とは言い難い。情報が見つからないこともきっと珍しくないだろうし。

でも相当パワフルな予後予測に関連する因子(16% vs. 5%ってマジか!)だし、本当ならデータベースにはとっても必要。
さて、いつか収集を開始できるだろうか?
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呼吸性アルカローシスの補正

2021年11月23日 | 腎臓
Brussee P, Zwaag J, van Eijk L, et al.
Stewart analysis unmasks acidifying and alkalizing effects of ionic shifts during acute severe respiratory alkalosis.
J Crit Care. 2021 Dec;66:1-5. PMID: 34352585.


健常ボランティアが大きな深呼吸を30回する前後で血液ガスと電解質など測定しStewartアプローチで計算。
pHが7.74, PCO2が12.6に変化。そして、主にNaの低下とClの上昇によってSIDaが5mEq/L低下。

呼吸性アルカローシスに対する代謝性の代償はゆっくり行われると言われるけど、実際は数分で起こるんだよ、という話。
臨床にはほぼ関係ないけど、単純に面白くない?
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アラーム関連の過去ログまとめ

2021年11月22日 | ひとりごと
ちょっと機会があり、ベッドサイドのアラームについて改めて考えた。で、過去ログを読み返した。
アラームについては何度か書いたのだけど、まとめていない気がしたので、ここにまとめてみた。

患者モニターのアラームについて思うこと
病院のアラームをデザインし直す
無駄なアラームを減らす方法1
無駄なアラームを減らす方法2
無駄なアラームを減らす方法3
無駄なアラームを減らす方法4
病棟のモニタリングの未来
ICU内の雑音をマッピング

”減らす方法”シリーズを書いたのが7年前。今もそのまま利用できる。アラームという医療機器の機能の進歩のなさがよく分かる。

ところで、ぜんっぜん関係ないけど、読み直して思ったこと。
ここ2年、風邪ひいてないわ。
風邪って予防できるんだね。ほんと、知らんかったわ。
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Brave enough

2021年11月21日 | 勝手に紹介
前回に続き、ICMのFROM THE INSIDEより。

Neville TH.
Brave enough.
Intensive Care Med. 2021 Nov 17 Epub ahead of print. PMID: 34791523.


泣ける話。実際、ちょっとウルっと来た。
ここまでではなくても、COVIDではなくても、似たような経験をしたことのある人は少なくないのでは。

ちなみにauthorはこの人
それとタイトルと最初に書いてある詩はこれ(英語の字幕で見られるのはこちら)。
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集中治療医としてのキャリアを終えての教訓

2021年11月16日 | ICU・システム
ちなみに、僕のことじゃないでーす。

Curtis JR.
Life lessons after a career in intensive care medicine.
Intensive Care Med. 2021 Nov 8. PMID: 34748040.

(タイトルをDeepLで直訳。上手いこと訳すなー。)

ICUで30年働き、今年ALSを発症した人が書いた文章。

・好きな人と働く
・しっかり休みを取る
・家族を大切にする
・末期患者であるかのように日々を過ごす
この4つが"Life lessons after 30 years in intensive care"であると。

よく聞く話ではあるけど、重い。
現状に疑問を感じている人、一生懸命働きすぎている人は、一読の価値ありと思います。
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昇圧剤使用患者に利尿

2021年11月07日 | 腎臓
Shahn Z, Lehman LH, Mark RG, et al.
Delaying initiation of diuretics in critically ill patients with recent vasopressor use and high positive fluid balance.
Br J Anaesth. 2021 Oct;127(4):569-576. PMID: 34256925.


トータルで5L以上のプラスバランスで、かつ昇圧剤を必要としている症例群、N=1501。昇圧剤を終了する前(もしくは終了後24時間以内)に利尿を開始しないと、死亡率が2.2%高くなる。

観察研究なので、そのまま真に受けるわけにはいかない。
とは言っても、「昇圧剤を使っているので利尿しなかった」という話はよく耳にする。

溢水に対する利尿と昇圧剤の使用は基本的に関係ない。本当に溢水なら利尿で困らないし、昇圧剤が必要なのは血管拡張が理由であって、前負荷が少ないからではないのだから。
利尿を必要とする溢水かどうか、血圧低下の理由は血管拡張かどうか、が正しく診断できていれば、少なくとも「ので」と言う必要はないはず。
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ICUに必要なこと:まとめ

2021年11月06日 | ひとりごと
ということで、まとめると、
質の高い知識
診断能力
ミスをしない繊細さ
がICUでの診療では必要だと思います。他にも、手技の上手さとかsympathyとか迅速な救急対応とか、いろいろあるけれど、この3つは日々の診療に強く関与するので。

「抜けやミスが多く、診療の質が低いように思う、どうすればいいか?」
の質問の答えは、
「ICUでもっとも必要な3つのことの1つなので、一言では答えられません。重要性をみんなが自覚し、かつシステム一つ一つを見直して改善する、そういう継続的な努力で徐々に状況を変えていくしかないように思います。」
です。
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ICUに必要なこと③

2021年11月05日 | ひとりごと
ICUに必要なことについて書こうと思うきっかけとなった質問は、
「抜けやミスが多く、診療の質が低いように思う、どうすればいいか?」
だった。当たり前の質問で、1万回は考えただろうことなのに、即答できなかった。
なんで答えられないんだろう?

考えて、その理由がわかった。
それはICUの根本だからだ。

ICUは具合の悪い患者さんを治すところだ、と思っている人は少なくないのではないか。
でもちょっと違うと思う。
確かに、肺炎による呼吸不全の患者さんに抗菌薬を投与することは治す行為だ。でもそれは肺炎による呼吸不全に対して行われる介入のごく一部。それ以外は治す行為じゃない。人工呼吸も昇圧剤も栄養も鎮静も体位交換も早期リハも、患者が回復するまでの時間稼ぎ。ICUで行われることの99%は、患者さんが自分で自分を治すことの手助けをすること。
つまり、ICUは患者さんを良くするところではなく、悪くしないところ。

この視点、すごく重要だと思う。
良くしようと思うと、どうしても更に介入したくなる。それが必ずしも正しくないことは、ここここで書いた。
逆に、自分は患者さんを悪くしないために働いているんだと思えば、抜けやミスをしないことがどれだけ大切かが分かる。
どんな小さいミスでも、それは患者さんの回復する力を減らす。一つのミスが患者さんの命を奪うことは滅多にないから気がつかないけど、回復する力を減らすことによって予後に悪影響を与えている可能性は十分にある。

集中治療999の謎」の中で書いた通り、僕が集中治療医にもっとも必要な資質だと思うは、繊細さ。
・あらゆる情報を収集するよう努める(細かい情報も漏らさない)
・それら一つ一つの情報に気を配り、検討する
・何となくルーチンで処理せず、些細な変化に対しても疑問を持って考える
Franklinによる100 thoughtsの39番目にも、”the best critical care doctors are those who pay attention to detail. Some smart critical care doctors have never learned that.”との記載がある。まったく同感。

ということで、
ICUでは「ミスをしない繊細さ」が必要です。
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ICUに必要なこと②

2021年11月04日 | ひとりごと
ICUでは多くの介入が行われる。
専門知識を持ったたくさんの人たちが、たくさんの薬品、たくさんの医療機器を使用する。
なので、パッと見、ICUは介入するところのように見えるし、そう思っている人はきっと少なくない。

でも違う。
それらの介入の背景には必ず診断が伴う。
逆に、診断のない介入には意味がない。
「血圧が下がったので補液した」、「PaO2が低下したのでFiO2を上げた」
ICUは患者さんの予後を改善するところであって、数字を合わせるところではない。なぜ血圧が下がったのか、酸素化が悪化したのかを考えずに介入しても、予後は改善しない。
病棟で呼吸不全になった患者さんの原因は何か、のような大きな診断に始まって、血圧や酸素化の変化の原因は何か、のような小さな診断をたくさんする必要がある。ICUは診断で溢れている。

かつ、それは正確でないといけない。
週末に急患が入り、正しくない診断に基づく診療が行われ、状態が改善せず、月曜日に「何やってんねん?」と思ったこと、ICUでしばらく働いていたら誰でもあるよね。
それまで行われていた介入は、見た目はICUチックだったろうけど。

頭がいい人は、ICUで必要な知識は数年で身につける。
でも診断能力は知識だけじゃない。あまりにバリエーションが多いので、どうしても経験が必要になってくる。

ということで、
ICUでは「診断能力」が必要です。
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ICUに必要なこと①

2021年11月03日 | ひとりごと
ある質問を受けた。
そのことについて考えていたら、どんどん広がってしまったので、まとめることにした。
ICUで診療をする時に、必要なことは何か、について。

「補液はCVPじゃなくて足上げ試験で判断する」

まあ言ってみれば、ICUでの基本知識の一つ。でも、この1行に到達するには、
・前負荷、高負荷など、循環生理の理解
・CVPの測定原理とその問題点
・足上げ試験の原理とその問題点
・静的指標よりも動的指標の方が補液の指標として望ましい理由
・動的指標の中での足上げ試験の位置
・過去に行われた臨床研究の知識
・指標が補液した方がいいという結果を示した=補液をする、ではない、循環の改善と患者予後の改善は異なることの理解
・患者予後を改善する補液方法は今のところなく、補液は分からないことばかりであることの理解
ここまでいって、やっと一人前。というか、やっと補液をする権利が得られる。
さらに、「現在このような研究が進行中」まで言えたら、120点。

これ全部、知識。
「補液はCVPじゃなくて足上げ試験で判断する」だけでも知識だけど、質が全然違う。
患者さんの状況は全て異なるので、どうしてそうなのか、どんな根拠があるのか、が分かっていないと実際の臨床では使えない。使っているように見えるだけ。

ということで、
ICUでは「質の高い知識」が必要です。
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