Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

出血性ショックとノルアド

2015年04月30日 | 循環
と言いながら、これも補液関係といえば補液関係。

Harrois A, Baudry N, Huet O, et al.
Norepinephrine Decreases Fluid Requirements and Blood Loss While Preserving Intestinal Villi Microcirculation during Fluid Resuscitation of Uncontrolled Hemorrhagic Shock in Mice.
Anesthesiology. 2015 Mar 17. PMID: 25782753.


ネズミの実験。尻尾を切って出血性ショックにして、放置するか、補液で血圧を維持するか、補液とノルアドで血圧を維持するか、で複数の群に分けて、回腸粘膜を生体顕微鏡を用いて観察。補液だけで管理するよりもノルアドを併用した方が、補液量が減少して(当然)、出血量が減少して(凝固因子を薄めないのでこれも当然)、回腸粘膜の微小循環は同程度だった。

ここ10年、いや20年だろうか、世の中、補液は少ない方がいいかもという文献で溢れている。動物実験とはいえ、シンプルな研究デザインで実際の出血性ショックを模したこの研究もその一つ。

手術中の低血圧も、循環血液量減少性ショックの要素が大きい(少なくともそう考えて麻酔科医は補液をしているはず)。慈恵ICUでは術後の患者さんを毎日受け入れているので、術中のバランスが3000だ5000だという患者さんをよく見る。でも、あと5年か10年したら、今とは全然違う術中管理の時代が来るかもしれない。

バブルの頃の映像を見て、昔の女性は眉毛が太かったなーと笑うように、今の麻酔チャートを見て、昔はたくさん補液したよねーと笑う時代が来たりして。
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術中の晶質液投与量

2015年04月29日 | 循環
これも麻酔関連。

Lilot M, Ehrenfeld JM, Lee C, et al.
Variability in practice and factors predictive of total crystalloid administration during abdominal surgery: retrospective two-centre analysis.
Br J Anaesth. 2015 May;114(5):767-76. PMID: 25586725.


アメリカの2つの病院で行われた、特に合併症のない、出血も少ない腹部手術症例約6000例。投与された晶質液の平均は7.1ml/kg/hrだったが、医療提供者(麻酔科医および外科医)によって2.3から14までの幅があった。多変量解析にて、投与量に与える影響は患者の因子よりも医療提供者の方が大きかった。

例えば、75kgの患者さんが4時間の手術中に400mlの出血があって、1ml/kg/hrの尿量が維持されていた場合、投与された補液は700mlから5400mlまでの幅があった計算になるそうだ。

アウトカムとの関連は見ていないので、どれくらいがいいかという検討ではない。そもそも合併症のない手術限定だし。
でも、これまでの研究から言えることは、
・術中の補液量が多いほど、術後の合併症が増えて、予後が悪くなる。ただし患者さんの具合が色々な意味で悪いから補液が増えたのかもしれない。
・医療提供者によって術中の補液量は大きく異なる。
さあ、この二つが結びつくかどうか。どっちだと思う?

答えは、いやその少なくとも一部は、RELIEF studyの結果が出たら分かるでしょう。あと2年くらいか。
少なくとも、補液が多い方が良かったという結果にはならないだろう、というのが僕の予想。
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手術室における感染予防

2015年04月28日 | 感染
これまでもこの手の話題は少しだけしてきたけど、そもそも研究の数がそんなに多くなかったんじゃないだろうか。あまり目にしたことがない。それがなんと、A&Aで特集が組まれている。

ちなみに特集が組まれているのは4月号で、もう5月号も出ているから新しい文献紹介じゃない感じになっちゃうけど、もしかしたら4月号と5月号が同じ日に出たんじゃないだろうか。少なくともEメールアラートは同じ日に来たぞ。僕だけかな。
でもこの特集は面白いので、許してやろう。

OP室で感染の伝播がどれくらい起こっているか、それをどうやって防ぐか。そんな内容の文献が、editorialを入れると(数え間違えていなければ)15個も載っている。例えば、プロポフォールをivした三活には、そうでない三活に比べて48時間後には細菌の数が100倍になっているとか。マネキンの口に発酵塗料を塗っておいて、それを知らない研修医に麻酔導入のシミュレーションをさせると、OP室中に発酵塗料がばら撒かれるとか。

手っ取り早く内容を知るなら、これがいい。
Shafer SL.
Making a difference in perioperative infection.
Anesth Analg. 2015 Apr;120(4):697-9. PMID: 25790197.


ちなみにShaferさんっていうのはA&AのEditor-in-Chief。
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敗血症の未来

2015年04月27日 | 感染
The Lancet Infectious Diseases Volume 15, No. 5, p581-614, May 2015
Sepsis: a roadmap for future research
Jonathan Cohen, Jean-Louis Vincent, Neill K J Adhikari, et al.


タイトルの直訳は、敗血症:将来の研究のためのロードマップ、とかだろうけど、ちょっとかっこつけて訳してみた。
Vincent先生が著者の2番目。ながーい総説。Editorialも含めるとなんと40ページ。
敗血症の定義から、過去の失敗した臨床研究、疫学、危険因子、細菌検査、バイオマーカー、抗菌薬、免疫などなど、敗血症についての話題をほとんど全部カバーしている内容。

これ全部読む人、世界で何人いるだろう?
でもせっかくなので、ジャーナルクラブでとりあげてみようか。そしたら日本人でも読みやすくなるもんね。
よし、そうしよう。
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ECMO施行症例数と予後

2015年04月24日 | 呼吸
Barbaro RP, Odetola FO, Kidwell KM, et al.
Association of hospital-level volume of extracorporeal membrane oxygenation cases and mortality. Analysis of the extracorporeal life support organization registry.
Am J Respir Crit Care Med. 2015 Apr 15;191(8):894-901. PMID: 25695688.


ELSOのレジストリを使った研究。1989年から2013年の間に290施設で56,222例のECMOが行われた(そのうち成人は10,588例)。各施設のECMO患者の死亡率は大きく異なり、成人では33%-92%だった。年間の施行症例数が6例以下の施設に比べ、30以上施行している施設の死亡率は有意に低かった(オッズ比0.61)。

だからECMO症例は施設を集約しましょう。
そこはごもっともで結構なのだけれども。

こういう研究、多い。Nが大きいからメジャー雑誌で多い。
大きなデータベースを使って、ある病気や手術や手技の施行頻度と予後の関連を調べて、多くの場合は施行頻度が高い施設ほど予後がいい、というやつ。
そして大抵、その中のディスカッションやエディトリアルには、予後を改善する具体的な因子について検討するべきだと書いてある。

いやいや。無理でしょ、それ。
だって、例えばECMOの症例数が多くなれば、慣れているから気安く始められるので、どうしたって重症度はhigh volume centerでは低くなる。疾患の場合は診断頻度が高くなるからやっぱり重症度が低くなる。それを多変量解析などで処理したって、完全に消せるとは思えない。
それに、症例数が多いところでは、スタッフの慣れ、プロトコル、知識、トラブルシューティング、手技などなど、たくさんの要素が良くなるので、予後を良くする具体的な因子なんて分かるとは思えない。というか、そういうの全部が良い方向に向かわせるんじゃないのか。
ある施設で慣れていることは上手くいって、慣れていないことは上手くいかない。それはそうでしょう。

まあ、ちゃんとデータとして出さないと、理解してくれない人(自分の患者は自分で見るぞとか、行政とか)がいるから、仕方がないのかもしれないけれども。

じゃあ読むな?
確かに。
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ICU患者の脳波異常

2015年04月23日 | 神経
ご存知のように、先週はICMとCCMが両方とも出たわけですが、
タイトルに関連した文献が3つも出ていたので、まとめてみる。

Gilmore EJ, Gaspard N, Choi HA, et al.
Acute brain failure in severe sepsis: a prospective study in the medical intensive care unit utilizing continuous EEG monitoring.
Intensive CareMed. 2015 Apr;41(4):686-94. PMID: 25763756.

アメリカの一施設前向き観察研究。セプシスで入室した98例、100エピソード。持続的に脳波のモニタリングを行ったところ、25エピソードでperiodic dischargeが認められ、そのうち11エピソードではnonconvulsive seizuresだった。

Seder DB, Sunde K, Rubertsson S, et al.; International Cardiac Arrest Registry.
Neurologic outcomes and postresuscitation care of patients with myoclonus following cardiac arrest.
Crit Care Med. 2015 May;43(5):965-72. PMID: 25654176.

国際心停止レジストリのデータ。2532例の院外心停止蘇生患者。18%にミオクローヌスが認められ、そのうち9%は予後良好(CPC2以下)だった。ミオクローヌスを起こした患者のうち78%で治療が打ち切られ、その中央値は心停止後5日だった(撤退が早すぎる可能性を示唆)。

Marchi NA, Novy J, Faouzi M, et al.
Status epilepticus: impact of therapeutic coma on outcome.
Crit Care Med. 2015 May;43(5):1003-9. PMID: 25654177.

スイスの一施設研究。痙攣重積(30分以上継続)467例。そのうち50例にtherapeutic coma(持続鎮静)が行われた。多変量解析において持続鎮静は予後不良と関連しており、とくに複雑部分発作において顕著であった。感染の発症率や病院滞在期間にも悪影響を示した。

どれも初めて聞く話ではないのだが。
どれも自分の臨床経験と照らし合わせるとしっくりこない。
敗血症の意識障害で脳波をとってNCSが1割もあるとは思いにくいし、心停止後のミオクローヌスで1割も元気になるとも思いにくいし、痙攣重積で持続鎮静しないという選択肢は選びにくいし。

うーん。
頭の中の保留ボックスに入れておくことにする。
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AKI biomarkerのPro/Con

2015年04月22日 | 腎臓
Legrand M, Darmon M.
Biomarkers for AKI improve clinical practice: yes.
Intensive Care Med. 2015 Apr;41(4):615-7. PMID: 25387817.


Ostermann M, Joannidis M.
Biomarkers for AKI improve clinical practice: no.
Intensive Care Med. 2015 Apr;41(4):618-22. PMID: 25387818.


ここ1、2年、AKI biomarkerについての文献を見ない週はない、と言っていいくらい、どこかの雑誌に必ず出てくる。先週はCCMにも載っていた。
大流行中のAKI biomarkerが臨床的に意義があるかどうかについてのPro/ConがICMに載っていた。

Proはまあいいとして、Conの最大のポイントはやっぱり、AKIが早期に診断できたとして、だからどうした、でしょう。
早期のAKIに対してできることは、現状では、循環(水分、血圧、心機能)を正常化し、腎臓に有害な薬物を避けること。でもそれって、AKIじゃなくてもやるでしょう、普通。

AKIの診断基準が最初に作られてからもう11年(RIFLEは2004年に発表)。AKIについての文献の数は飛躍的に増えたけど、まだまだです。
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投稿された論文のレビュープロセス

2015年04月21日 | EBM関連
Buchman TG.
The review process.
Crit Care Med. 2015 May;43(5):934-6. PMID: 25876109.


CCMのEditor-in-Chiefはずっと同じ人だったんだけど、最近、このBuchmanさんに代わった。
その人が書いた、投稿された文献が雑誌に掲載されるまでのプロセスについての説明。

どの雑誌もだいたいは同じなので、自分の文献がどういう風に処理されるのか、よく知らない人は読んでおいて損はないのでは。

CCMでは、いわゆるeditor kick(peer reviewに回らずに速攻でrejectされる)は3分の1だって。ふーん。
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肺炎と脳梗塞

2015年04月20日 | その他
ICUでの研究ではないが、ICUと関連の深い疾患や治療についての研究が、先週はメジャー雑誌から4つも出たので、まとめて紹介。

Jovin TG, Chamorro A, Cobo E, et al.;REVASCAT Trial Investigators.
Thrombectomy within 8 Hours after Symptom Onset in Ischemic Stroke.
N Engl J Med. 2015 Apr 17. [Epub ahead of print] PMID:25882510.


Saver JL, Goyal M, Bonafe A, et al.; SWIFT PRIME Investigators.
Stent-Retriever Thrombectomy after Intravenous t-PA vs. t-PA Alone in Stroke.
N Engl J Med. 2015 Apr 17. [Epub ahead of print] PMID: 25882376.


両方とも、脳梗塞に対する血管内治療についての多施設RCT。共に治療が有効との結果。
今年のNEJMにもうこの話題で5個出た。
専門医でなければ全部読んでいられないという気もするので、そういう場合はこの2つの研究のeditorialがまとまっていて良いかも。

Westendorp WF, Vermeij JD, Zock E, et al.; for the PASS investigators.
The Preventive Antibiotics in Stroke Study (PASS): a pragmatic randomised open-label masked endpoint clinical trial.
Lancet. 2015 Jan 19. [Epub ahead of print] PMID: 25612858.


脳梗塞患者に対して予防的に抗菌薬(CTRX 2gを4日間)を投与すると予後がよくなるかについてのRCT、2550例。結果は、感染は減るけど、生命予後にも神経予後にもメリットなし。

Blum CA, Nigro N, Briel M, et al.
Adjunct prednisone therapy for patients with community-acquired pneumonia: a multicentre, double-blind, randomised,
placebo-controlled trial.
Lancet. 2015 Jan 16. [Epub ahead of print] PMID: 25608756
.

入院を要する市中肺炎、785例。スイスの7施設。プレドニゾロン 50mgを7日間投与するかどうかでRCT。バイタルサインが安定するまでの日数が1.4日短くなり(p<0.0001)、その代わり高血糖が増えた(19% vs. 11%)。

Editorialにちょっとしたメタ解析あり。
Annane D.
Corticosteroids and pneumonia: time to change practice.
Lancet. 2015Jan 16. [Epub ahead of print] PMID: 25608755.


これで市中肺炎に対するステロイドについてのRCTは6つになったらしい。そのうちの5つは有益な方向を示している、と。
あれ、これってあのAnnaneさん?
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ICU Director Data

2015年04月18日 | ICU・システム
ちょっとタイトルの意味がよくわからないので、そのままコピペしてみた。

Murphy DJ, Ogbu OC, Coopersmith CM.
ICU director data: using data to assess value, inform local change, and relate to the external world.
Chest. 2015 Apr 1;147(4):1168-78. PMID: 25846533.


内容は、ICUの管理者として知っておくべき、ICUの質の評価方法、というところだろうか。
昨日の話にも関連することだけど、ただ患者さんを診ているだけでは予後は改善しないのかもしれない。では何をするかが書いてある、のかも。

関係のある方、興味のある方はどうぞ。
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