Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

気管切開とICU退室後の予後

2011年09月26日 | 呼吸
まず、夏休みのご報告(なんか普通のブログっぽい)。
オスローに、月曜日に行ってはいけません。
なんでもかんでも休み。ムンクの叫びが。。。(涙)

さて、本題。
今回はCCMから。

Fernandez R, Tizon AI, Gonzalez J, Monedero P, et al. Sabadell Score Group.
Intensive care unit discharge to the ward with a tracheostomy cannula as a risk factor for mortality: A prospective, multicenter propensity analysis.
Crit Care Med. 2011 Oct;39(10):2240-2245. PMID: 21670665

スペインの31のICUに入室した成人症例を三ヶ月間データ収集(4132例)。
そのうち、1996例に人工呼吸が行われ、260例(13%)が気管切開を受けた。
そのうち、23%はICUで死亡。残りの201例のうち、ICUで60例が気管切開を抜去されてから退室、残りは気管切開のまま退室。この二群を比較。
病院死亡は22% vs. 23%。
患者背景が当然のことながら違うので、propensity scoreとSabadell scoreを使って補正、気管切開症例の病院死亡に対するオッズ比は0.6 (0.3-1.2, p=0.1)。

さて。
さらっと書きましたが、ここからいろいろな話ができます。
まとめると、気管切開の適応の話とICU退室後の予後の話。
両方だととっても長くなるので、気管切開の話は割愛。
それにしても、ある意味、気管切開はICU退室を促進するために行われる面があるので、個人的にはICUで抜去したことはほぼないのだけど、外国では結構行われているのね。

で、ICU退室後の予後のお話。
さらっと書いたけど、Sabadell scoreって?と思ってるでしょう。
PubMedで"Sabadell score"と入力すると、文献が上記を含め、4つ出てきます。
全部、Fernandezさんが筆頭著者。
そのうち、

1: A modified McCabe score forstratification of patients after intensive care unit discharge: the Sabadell
score.
Crit Care. 2006;10(6):R179. PMID: 17192174

2: Ward mortality after ICU discharge: a multicenter validation of the Sabadell score.
Intensive Care Med. 2010 Jul;36(7):1196-201. PMID: 20221748.

が、このスコアについての文献。
まず、自分の施設でこのスコアを作って評価(文献1)。
どんなスコアかというと、

0: 長期予後が良さそう
1: 予後は厳しいけど半年以上はありそうで、ICUの再入室の適応はあり
2: 半年以上の予後は望めず、ICU再入室は議論の余地あり
3: 退院は難しいだろう

というのを、ICU退室時にICUの医者が主観的に判断する、というもの。
当然と思うかもしれないけど、予後との関連がメチャメチャ強い。
で、これを多施設で検討したのが文献2で、その結果、スコア毎の病院死亡率は、
スコア 0: 1.5%, 1: 9%, 2: 23%, 3: 64%。
今回の文献はこのデータベースを使って、気管切開症例について検討したもの。

ICUにいると、ICUから退室したらそれで終了、的な感覚をどうしても持ってしまいがち。
でも、ICUの医者の一番の仕事は、患者さんを元気に家に帰れるようにすることだと思うので、こういう研究はとっても重要。好きです。
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抜管困難な症例に対するNPPV

2011年09月19日 | 呼吸
まず、最初から言い訳で。
現在、夏休みで旅行中のため、下調べがとっても不十分です。
考察の甘さなど、突っ込みは禁止です。

さて、今週はNPPV(非侵襲的陽圧換気)について。
自分が理解していることをざっと並べると、
・急性呼吸不全に有効、特に挿管を回避できる
・COPDの急性増悪などでは予後の改善効果もある
・抜管困難な症例では、早期に抜管してNPPVを予防的に使用すると再挿管が避けられる
・でも、抜管後に呼吸不全を起こしたときはNPPVを使うと再挿管の判断が遅れ、死亡率が上がる
Esteban A, Frutos-Vivar F, Ferguson ND, et al.
Noninvasive positive-pressure ventilation for respiratory failure after extubation.
N Engl J Med. 2004 Jun 10;350(24):2452-60. PMID: 15190137.

で、今月のブルージャーナル(AJRCCM)。

Girault C, Bubenheim M, Abroug F, et al.; for the VENISE Trial Group.
Non-invasive Ventilation and Weaning in Chronic Hypercapnic Respiratory Failure Patients: A Randomized Multicenter Trial.
Am J Respir Crit Care Med. 2011 Jun 16. [Epub ahead of print] PMID: 21680944.

フランスとチュニジアの13のICU。基礎疾患に慢性呼吸不全(70%はCOPD)があり、急性呼吸不全で48時間以上挿管され、状態が落ち着いたのでSBTをしたけど失敗した、208例が対象。三群にランダマイズ。
・SBTを毎日やって、成功したら抜管(MV群)
・抜管して酸素投与(O2群)
・抜管して予防的にNPPV(NPPV群)
ただし、MV群とO2群では抜管後に呼吸不全が発生したら、NPPVを行ってもよい。
その結果、
Primary outcomeである、一週間以内の再挿管率は、30% vs. 37% vs. 32%(P=0.65)。
抜管後の急性呼吸不全(もしくは死亡)の発生率は、46% vs. 59% vs. 9%(P<0.001)。
でも、28日生存率は、87% vs. 87% vs. 77%(P=0.154)。
まあ。

”へー”がいっぱい。
まず、慢性呼吸不全の患者さんが挿管されて、SBTに失敗して、無理矢理抜管しても、再挿管になる人って3人に1人だけなのね。
で、NPPVを予防的に使っても、再挿管率を減らせない。死亡率なんかちょっと増えたくらい。
さらに、抜管後の急性呼吸不全にNPPVしても、悪いことがなかった感じ。

いろいろ考察されています。
急性呼吸不全になったらNPPVを使ったから三群に差がなかったとか、
NPPVの使用に慣れていたから、それによる死亡率の増加は見られなかったとか。

NPPVは、抜管してすぐに予防的に使うと有益、呼吸不全が起こってから治療として使うと有害、というのはどうも安直すぎる理解のようで。基礎疾患によって、抜管後の呼吸不全の原因も違うし、NPPVの有効性も違うし。

ちょっと混乱してきた。
家に帰ったら読み直そうかな。
それにしても、この研究にしても上記のNEJMの研究にしても、Nが200しかない。
そこも混乱の原因の一つかも?
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手術室での手指衛生

2011年09月12日 | 感染
”数少ない”、このブログの読者の皆様の中で、手術室に出入りする方(外科医とか麻酔科医とか手術室のナースとか臨床工学技士とか)はどれくらいいらっしゃるでしょうか?
今回は、そういう方々には”耳が痛い”かも知れない、お話。

今月のBritish Journal of Anaesthesiaから。

Krediet AC, Kalkman CJ, Bonten MJ, Gigengack AC, Barach P.
Hand-hygiene practices in the operating theatre: an observational study.
Br J Anaesth. 2011 Oct;107(4):553-8. PMID: 21665900.

オランダの大学病院の手術室。”実習で手術を見学しまーす”と紹介された医学生が、実はコンプライアンス調査係。28の手術(合計60時間)を観察し、手術室の入退室時および患者接触前に手指衛生を行ったかどうかを調べた。
その結果、手指衛生が行われたのは全部でたったの69回、一人当たり0.14回/時間(つまり、7時間に1回だけ!)。入室時および退室時に手指衛生を行った人はそれぞれ2%と8%。末梢静脈ラインや動脈ライン挿入時、手袋を着用した人はほとんどいなかった。

オランダって、耐性菌が全然いないで有名なのに、手指衛生についてはこんな程度。というか、耐性菌がいないからこんな程度でも許されている?
どうもそうではなく、手術室の人って、みんなそうらしい。
この文献のIntroductionにも参照されているけど、例えば、

Fukada T, Iwakiri H, Ozaki M.
Anaesthetists' role in computer keyboard contamination in an operating room.
J Hosp Infect. 2008 Oct;70(2):148-53. PMID: 18701192.

名前から分かる通り、日本からのデータ。
麻酔科医のうち、麻酔の前に手指衛生を行うのは17%しかいないのに、昼飯前だと69%!!

Pittet D, Simon A, Hugonnet S, Pessoa-Silva CL, Sauvan V, Perneger TV.
Hand hygiene among physicians: performance, beliefs, and perceptions.
Ann Intern Med. 2004 Jul 6;141(1):1-8. PMID: 15238364.

手指衛生ではチョー有名な、ピッテ先生のデータ。
医者の手指衛生のコンプライアンスを調査。外科医、麻酔科医、救急医、集中治療医(!)が有意にコンプライアンスが低かった。

世の中、手指衛生の有効性を示した(院内感染が減る)研究は多い。
特に、ICU/PICU/NICU環境では、患者接触の頻度が高く、易感染性が高く、観察もしやすいことから、データは山ほどある。慈恵のICUでも、みんなが頑張って手指衛生を行うようになり、多剤耐性菌の発生はこの8ヶ月間ゼロをキープ。
それに比べ、どうも手術室というところは世界的に見ても聖域であったらしく、そういう研究が圧倒的に少ない印象。
まあ確かに、滞在期間は短いし、院内感染の発生を意識しにくいし、何となく綺麗な気がするし。

でも、だんだんそうは言っていられなくなってきたのでは?
素手でA-lineって。。。
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執筆者とは?(authorship)

2011年09月05日 | その他
今回は、ちょっと変化球。

研修医の頃、初めて学会で症例報告をしたときに、上司から、共同発表者の順番が違うと言われ、直したことがありました。つまり、筆頭演者(僕)、スーパーバイザーの上司、その後は年齢の若い順に医局の人の名前、最後に教授、が順番で、この人とこの人の学年が逆だ、ということでした。
当時は、ふーん、そういうものなんだ、と思ったのですが、今思うとちょっと不思議。だって、発表に全然関係ない人の名前を何で書くのかも分からないし、その順番が学年順??
でも結局は今の自分もそうしてたりして。

これは学会発表の話ですけど、文献を書いたときの共著者の選び方も順番も、日本ではこれとあまり変わらない気がします。

最近はJSEPTICで多施設研究なんかもやり出したりしているので、著者の決め方って難しーなーと思っていたところに、こんな文章と出会いました。

Lok AS.
Authorship: who should be included and how should it be determined?
Gastroenterology. 2011 Sep;141(3):786-8. PMID: 21782816.

このLokという方、Gastroenterologyのsenior associate editor(副編集長?)の一人で、これまでの自分の経験をふまえ、Authorshipとはどうあるべきかについて書いてらっしゃいます。

そもそも、
The International Commitee of Medical Journal editors (ICMJE、医学雑誌編集長国際委員会?)
www.icmje.org
という団体があるんだそうです。NEJMとかLancetとか、たくさんの雑誌が参加していて、そこがauthorshipとはこうあるべき、というものを発表しています。
具体的には、
・研究デザイン、データ収集、解析、執筆の全てに深く関わった人だけが執筆者になる
・お金を集めてきた、データを収集した、研究全体をスーパーバイズした、だけではダメ
・全ての基準は満たさないけど研究に貢献した人はacknowledgmentに記載する
ということになっているそうです。

でも、じゃあ深く関わるって、どういうこと?とか、この人無しでは研究が成立しなかったけど、全ての基準を満たさない人はどうするんだ?とか、疑問が出てきます。
それを、一施設研究、多施設研究、企業主催の研究に分けて、例を挙げながら持論を展開されてます。

2ページちょっとで、すぐ読めるので、
著者ってどうすればいいんだろ、と悩んだことのある人にはオススメでっせ。
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