Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ICUでのtime-limited trial

2023年02月28日 | 終末期医療
Popovich JJ, Budnick I, Neville TH.
Time-Limited Trials of Intensive Care Unit Care.
JAMA Intern Med. 2023 Feb 13. Epub ahead of print. PMID: 36780155.


70代の膵癌による癌性腹膜炎。入院中に十二指腸潰瘍の出血でショックになった。家族と相談し、止血と48時間のICUケア後に治療方針を再検討することとなりICU入室。最終的に患者さんはホスピスに転院することができるまで回復した。

TLTはICUでfutitleな治療を継続しないようにするために推奨されている印象があるけど(例えばこれとかこれとか)、このケースは、普通なら治療制限を設けて病棟で死亡しそうなケースでもTLTによって回復の機会が得られるかも、というパターン。
ちょっと、なるほどー、と思った。
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今週はJIPADが熱い!

2023年02月27日 | データベース・JIPAD
何故なら。
まず3月1日に2021年度の年次レポートが発表される予定。
日本のICUで何が起こっているか、それを知るにはこれを読むしかない!

そして、京都の集中治療医学会
初日、3月2日にJIPADのセッションがあります!

ワークショップ4:JIPAD四方山話2023
2023年3月2日(木)11:10~12:40 第10会場
座長:岡本洋史 (聖路加国際病院 集中治療科)、橋場英二(弘前大学医学部附属病院 集中治療部)
演者:
内野滋彦(自治医科大学附属さいたま医療センター 集中治療部)
田上隆 (日本医科大学武蔵小杉病院 救命救急科)
畠山淳司(大阪医科薬科大学 救急医学教室)
橋本悟 (NPO法人集中治療コラボレーションネットワーク ICON)

僕は、「JIPAD update 2023」というタイトルで20分ほど話します。
こちらもよろしく!
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レムデシビルは命を救う。それを学ぶのに3年間も必要だったのか?

2023年02月24日 | COVID-19
というタイトルのeditorial。
Andre C Kalil
Remdesivir saves lives. Were 3 years needed to learn that?
Lancet Respir Med. 2023; (published online Feb 21.)


参照している文献はこちら。
Amstutz A Speich B Mentré F et al.
Effects of remdesivir in patients hospitalised with COVID-19: a systematic review and individual patient data meta-analysis of randomised controlled trials.
Lancet Respir Med. 2023; (published online Feb 21.)

これ自体は、patient data meta-analysisと言っても、結果は今まで通り。入院を要する軽症では有効、呼吸サポートが必要になると無効(有意差はないけど数値的には有害)。
なのになんでこんなタイトルのeditorialなんだろと思ったら。ACTTの共同研究者だった。
気持ちはわかる。さっさと研究やって、2020年の早い時期に有効性を示したのに、WHOなどのガイドラインで取り上げられるまで時間がかかったのだから。

でも勘違いしちゃいけないのは、ACTTですら重症患者では効果なしだった、ということ。
ICUでは使わない薬であることに変わりはない。
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エラスポールとピヴラッツ

2023年02月20日 | EBM関連
エラスポールの歴史を知っていると、REACTの結果をより楽しめる。でも、もう随分前の話なので若い人は知らないかもしれないと思い、説明しようかなと。
あまりにも前の話なので、昔作ったスライドを引っ張り出してきて復習した。説明もそのスライドをそのまま使用しちゃう。




少し追記すると、まず日本の第三層試験(もちろん国際基準で言えばphase II)で有効性が示されて保険適応となった。そしてこの薬の海外での販売権をLillyが購入し、まずphase II(でも日本の第三層試験よりもNが大きい)をしたところ、途中解析で180日死亡率が介入群で高値(40.2% vs 31.3%, p=0.18)となったため、600例予定だったけど490例でearly terminationされた。

この結果を受けて、国内で市販後臨床試験が観察研究として行われ、非使用群の方が重症度が高く、かつ予後も悪く、IPTWによる調整で投与群で有意に有効性が示され、現在も販売されている(高価な介入は効果がありそうな患者さんに行われ、そのため観察研究では調整後も有効となる典型例)。

しかし、さすがにそれで人々は騙されることはなく、Lillyのphase IIが発表された翌年をピークに売り上げは減少し、現在は話題に上らない薬剤になっている。
(ちなみに上記の図はこちらから)

この話を知ると、ピヴラッツが今後どうなっていくのかワクワクするでしょう?
ましてやピヴラッツの場合は日本での販売開始前にネガティブなRCTが複数あるので、いよいよ面白い。
メーカーがどう弁解するか、日本人はいつまで騙され続けるか。
そして、それまでに海外に持ち出される日本円は何億になるか。

ピヴラッツの過去ログまとめ。
ピヴラッツっていう薬、知ってますか?
昨日の追記
ピヴラッツに見る日本の重症患者管理の変遷
「効くかもしれない治療」をしたくなる気持ちはわかりますが。
イドルシアが2022年度の本決算を発表、REACTの結果も。
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「了解しましたは失礼」と集中治療

2023年02月19日 | 勝手に紹介
無茶なタイトル。

「了解しました」は無礼なので「承知しました」を使いましょう、という話には違和感が強く、僕は頑なに「了解しました」を使い続けている。でも、自分が受け取るメールやSNSでは「承知しました」が100%なので、流石に肩身が狭くなってきた。仕方ないので諦めるか、でもその前に少し調べるか、と思ってググってみた。
そうすると、「了解しました 承知しました」で検索すると「了解しましたはマナー違反」というサイトばかり出てくるけど、「了解しました 失礼 嘘」と検索するとこれもたくさん出てくることが分かり、その中でも有名なサイトがあることを知った。僕以外にも知らない人もいるかもしれないので紹介。

「了解しました」より「承知しました」が適切とされる理由と、その普及過程について
過去のWEBメディアを検索し、かつ1980年以降のマナー本数十冊を調べたところ、
・ある人が、2000年代に「了解しました」より「承知しました」の方がいいと感じるようになり、そのことをマナー本で書いた
・2010年に発売されたマナー本でこの記述が参照され、この本が5万部売れた
・WEBサイトで多く取り上げられるようになり、加速度的に広まって”常識”化した
ということが分かったと。

僕はこれからも頑なに「了解しました」を貫こうと決意しつつ、たった一人の意見が日本中で常識化するってすごいなと思いつつ、これって医学や集中治療の世界にもあることだなと思った。

その典型は、やっぱり"CHDF"でしょう。
1990年代にある人が言い出し、単なる持続の腎代替療法としてではなくサイトカイン除去という積極的な治療法として日本でブームになった。2000年代に入り、主に海外で多くの研究が行われ、予後を改善しないどころかサイトカインの血中濃度も下げないことが示され、臓器不全のサポート目的で持続腎代替療法=CRRTとして定着したけど、未だにCRRT=CHDFと思っている(特に集中治療を専門としていない)人たちは残存している。自治さいたまのCRRTの基本選択はCHDなのだけど、つい先日、ある患者さんにCHDFが行われていて、副部長がその理由を聞くと、当直だった医師が「患者の主治医が炎症の除去のためにCHDFをしてほしいと言ったので」と返事をしていた。30年以上も言葉と概念が使用され続けているって、すごいことだよね。

僕も残せるなら何か残してみたいけれども。
AKIの日本語は「急性腎障害」じゃなくて「急性腎傷害」ですよ、というのを普及しようとしたけど失敗したし。もうリタイアしちゃったし。諦めてICUの隅で静かに座っていることにします。
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「看護師がアラームを見過ごすミス」について

2023年02月18日 | ICU・システム
多臓器不全で2歳児死亡、「看護師がアラームを見過ごすミス」…遺族が病院を提訴

モニタのアラームについてまとめた過去ログを再掲。
アラーム関連の過去ログまとめ

モニタのアラームは、僕が集中治療を専門とした25年間、何も変わっていないし、もちろん上記を書いた9年前とも変わっていない。
今も、日本中、世界中のICUでアラームが鳴りまくっていて、それを医療者は無視しまくっている。そんな医療者に、「アラームを鳴りっぱなしにしちゃいけないよね、ちゃんと設定する必要があるよね?」と聞けば、多分全員がyesと答えるにも関わらず。

何か、今までとは全然違う対応方法が必要。きっとそれはAIを使った技術。
でも、その技術が普及するまでにはまだしばらくかかる。それまでの間は、「無駄なアラームを減らす方法」シリーズで対応してください。マジで、アラームの数を減らすことができるから。
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「日本医師会、NP国家資格に反対の考え」というニュースについて

2023年02月16日 | ICU・システム
M3のニュース(もしかしたらM3にログインできないと読めないかも?)。
日本医師会、NP国家資格に反対の考え
こちらは同じくM3の13年前のニュース。
「診療看護師」の新設に反対、「意義も定義も不明」と日医

ちょっと面白いのは読者(つまり医者)による賛成反対の投票。この記事を書いている時点で、13年前の記事は賛成17で反対1(この1は僕がさっき入れた)だったのに、今回の記事は20対20になっていること。

で、思い出した文献。
Trunkey DD.
An unacceptable concept.
Ann Surg. 1999 Feb;229(2):172-3. PMID: 10024096.

この研究、つまりある外科ICUをclosed ICUにした効果についての研究に対するeditorial。繰り返すけど、correspondenceじゃなくてeditorial。
二段落目をDeepLで和訳。
「このコンセプトは受け入れがたいものであり、猛烈に非難されるべきものだ。私が非難するのは、主に誤った目的と不適切な結論に基づくものである。このコンセプトを否定する二番目の理由は、専門家としての哲学の問題であり、学習刺激、ケアの継続性、医療経済への悪影響が含まれる。」

こういうことを直接ではなくても間接的に言う医者には会ったことがあるし、今も存在するはず。でも、ずいぶん数は減ったと思う。理由は簡単。集中治療専門医が増えて、集中治療専門医が管理するICUが増えたから。賛成か反対かではなく、知っているか知らないか。M3のニュースの賛成反対の変化も、13年前と比べて実際にNPとして働いている人が増えて、NPと働いたことがある人が増えると、こういう結果になる。

20年前のちょうど今頃、オーストラリアから日本に帰ろうとしてICUの職場を探したのだけど、まったく見つからなかった(仕方ないので救命センターに就職)。でも今は、医者の斡旋サイトを見れば「集中治療医募集」なんて病院をいくつも見つけることができる。

NPの皆さんへ。
10年か20年したら、若いNPに、「昔はこんなだったんだよ」と教えてあげてください。

若い集中治療医の皆さんへ。
こういうことを言う医者と対峙する必要が(ほぼ)なくなった現状は、先人たち(僕も含む)のおかげであることを忘れず、会うたびに感謝しましょう。
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CKRT vs. CRRT②

2023年02月15日 | 腎臓
1年半くらい前に作った図
これをふと思い出した。
あれからどう変化したか、感覚的にはCKRTが増えている気はしないのだけど、実際はどうなのか調べてみることにした。

PubMedで、2020年1月〜2022年12月に、"continuous renal replacement therapy"と"continuous kidney replacement therapy"を、publication dateで1ヶ月ずつ検索して、図を作った。
ちなみにKDIGOが"kidney"を使おうと言ったのが2020年6月。

ゆっくりと増えてる??
でもとりあえず、まだCRRTでよさそうだ。
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白髪

2023年02月14日 | その他
僕のことかな?と思って読んでみたら。

A Piece of My Mind: Gray Hair
Dean A. Seehusen
JAMA. 2023;329(5):369-370. doi:10.1001/jama.2022.24577


僕のことだった。ICUの隅の部屋でぼーっとしていると、たまに質問しに来る人がいる。
みんな、同じこと考えるんだな。

全然違う話なんだけど、
医学以外の英語って、読むのがほんと難しい。
理解度も読む時間も、英語で読む<=Safariの和訳<<DeepLにコピペして読む、だった。DeepLの圧勝。
コピペもCommand押しながらCを2回押すだけだし。

便利だが、いよいよ英語の読解力が落ちていく。。。
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蘇生における自己実現的予言と機械学習

2023年02月13日 | AI・機械学習
「自己実現的予言」(Self-Fulfilling Prophecy, SFP)の説明はこちら

De-Arteaga M, Elmer J.
Self-fulfilling prophecies and machine learning in resuscitation science.
Resuscitation. 2023 Feb;183:109622. Epub 2022 Oct 25. PMID: 36306959.


一部をDeelLで和訳。

「一般的な目標は一連の臨床情報(X)が与えられたときに、将来の事象または結果(Y)の確率を推定することである。現実には観察された結果YはXだけに依存するわけではない。観察された結果は無数の治療決定にも影響され、さらに医療提供者の結果予測にも影響され、それはXにも影響しうる。共有意思決定が行われる環境では、Yは患者や代理人が予測した結果に対する認識にも影響されるかもしれない。」

「重症患者の回復可能性を推定するアルゴリズムが、最初は特定の特性を持つ患者の回復確率を低く見積もっているとする。この誤診された推定値が予後不良を予期して高コストで侵襲的な治療を処方する可能性を減らすなど治療を変更した場合、新たなSFPが導入され、アルゴリズムが時間とともに学習することで永続化する可能性がある。観察データに基づいて推定されたモデル性能はこれらの予測を誤りと認識せず、時間の経過とともに予測力が向上していることを誤解させる可能性さえある。」

「予測アルゴリズムは観察データのパターンを利用するため、過去の関連性が将来も続くと仮定する。医学の世界では治療法や転帰が改善されることが多いため、観察された関連性の安定性は制限される。使用可能な治療薬や治療戦略におけるブレークスルーは、発症した病気の重症度と転帰の関連性を急速に変化させる可能性がある。」

「SFPがもたらす課題を認識することは、機械学習をSFPを難解にし複合化する危険性のあるツールから、SFPに光を当て軽減するツールに変える研究と実践への門を開くことができる。」

さらに要約すると、機械学習による予後予測は、
・自己実現的予言を増幅する可能性がある
・予測の間違いはさらに状況を悪化させうる
・医学の進歩に追従する必要がある
・だから機械学習を使わない、ではなく、問題を認識することが重要だ

まったくその通り。
そしてやっぱりDeepLは偉い。
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