Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

脳外科雑誌に掲載される文献の著者の数が年々増えているそうだ。では集中治療系雑誌は?

2022年02月15日 | EBM関連
Cole TS, Pacult MA, Lawton MT.
Increasing author counts in neurosurgical journals from 1980 to 2020.
J Neurosurg. 2021 Aug 6:1-5. PMID: 34359040.


1980-2020年に脳外科系のメジャー雑誌4つ(Neurosurgery, Journal of Neurosurgery, JNS: Pediatrics, and JNS: Spine)に掲載された研究論文の著者数を調べたら、1980-85年では平均2.81人だったのに、2016-2020年は7.97人になっていた。
多施設研究が増えた、研究が複雑になっていろいろな人が参加するようになった、academic careerとしての研究の義務が増えた、などなど複数の理由が考えられる、と。

確かに昔の文献をPubMedで見かけると、著者の数って少ない。そーか、平均って3人くらいだったんだね。

さて、では集中治療系雑誌ではどうなんだろう?
PubMedで検索結果がダウンロードできるのだから、結構簡単に作れそう。
と思い、やってみた。
雑誌は、Intensive Care Medicine、Critical Care Medicine、Critical Careの3つ(ただしCCは1997年に発刊)。


脳外科系雑誌とまったく同じ感じで増えていた。1980年が平均3人、2020年が8人。

ちょっと面白いのは、ICMのポリシーが変わってimpact factorが急速に伸びだした2013年頃から、ICMでは著者数が増えなくなった(投稿規定には著者数の制限は記載がない)。
そして時を同じくして、CCMの著者数が一過性に減少している。
理由はよく分からないけど、1つの雑誌のポリシー変更がいろいろな方面に影響を与えていそうな感じはする。

だから何?的な話だけど、なんか面白い。
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ICUで死期が迫った患者親族に対する3ステップの支援戦略は、言うは易く行うは難しだ。

2022年02月14日 | 終末期医療
Kentish-Barnes N, Chevret S, et al.
A three-step support strategy for relatives of patients dying in the intensive care unit: a cluster randomised trial.
Lancet. 2022 Jan 19 Epub ahead of print. PMID: 35065008.


3ステップというのは、治療制限を決定するミーティング、ベッドサイドでの対応、そして死亡後のミーティングのことなのだけど。具体的な内容がTable 2に書いてあるので、DeepLで翻訳してみると。

ステップ1:死の準備(医師と看護師の共同作業)
・患者の死が間近に迫っていることに親族が備える
・親族に質問する機会を与える
・親族が感情や感覚を表現する機会を与える
・親族が患者に話しかけ、別れを告げるように促す
・死亡時の立ち会いについて話し合う
・患者の身体的ケアへの関与の可能性について話し合う
・スピリチュアルな信条やニーズについて話し合う

ステップ2:臨死過程と死の間、病室で(医師と看護師が別々に)。
・親族の感情的なニーズに応える
・積極的な傾聴
・物質的なサポートを提供する(例:椅子、コップの水)
・精神的な修行について話し合う
・患者支援における親族の意義と緩和ケアの考え方について話し合う。
・不明な点を確認し、質問に答える
・親族のコミットメントを強調する

ステップ3:患者さんの死後(医師と看護師の共同作業)
・お悔やみを述べる
・患者のICU滞在と死に関する質問を促し、疑問を解決する。
・行政手続きについては、特定の専門家を案内する。
・後日、ICUチームとの面会を提案する
・共感を示し、感情を表現する機会を親族に与える。

介入群では、これらがほぼ90%以上行われている。
どれも特別なことではないけれど、実際にやろうと思うと、相当大変じゃないだろうか。

日本では、mandatory consultationだけでなくclosed ICUと自分たちを呼んでいるところでも(救命センターのような単科のICUを除き)、家族への説明は主に担当科が行うICUは少なくないのでは。でも、不特定多数の医師が説明すると、それなりの頻度でヤバイ医者はいるし、この文献で言うところの"ICU team"の意義は日本でも相当高いはず。

あとは行動あるのみ。というのは簡単。
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TIGRIS Trialの情報が約2年半ぶりに更新されました。

2022年02月13日 | 感染
ちなみに前回はこちら
こんなのもあったけど。)

Spectral Medical Reports Progress on Tigris Clinical Trial
DeepLでキーポイントを翻訳:
ーーーーーーーーーーー
Tigris試験の主要な最新情報。
- 患者の死亡率データは引き続き予想を上回っている
- 現在までに30名の患者が無作為化された(Tigris試験の総登録患者数150名のうち)。
- 過去1カ月間に登録された3人の患者のうち、2人はFDAが承認したプロトコールの修正により、試験への組み入れ基準として臓器不全評価(SOFA)スコアの使用を許可された結果、登録されたもの。
- 2022年2月17日に治験担当者会議を開催予定、既存・新規治験実施施設からの出席が期待される
ーーーーーーーーーーー
ですって。

ClinicalTrials.govで確認すると、やはりCOVIDのせいか、当初はprimary completion dateはDecember 31, 2020 だったけど、どんどん延びて、現在はMarch 31, 2022となっている。
それって来月じゃん、150人中30人しか集まっていないのに?と思うけど、
「COVIDの症例数が減少している現在、今後数週間で登録者数が大幅に増加することが予想されます。同様に重要なのは、初期の有効性シグナルが引き続き目標を上回っていることです。」
という記載もある。

さて、どうなることやら。
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レムデシビルも治療的抗凝固も重症COVIDには推奨されていませんが、しかし。

2022年02月12日 | COVID-19
Vincent JL, Levi M, Hunt BJ.
Prevention and management of thrombosis in hospitalised patients with COVID-19 pneumonia.
Lancet Respir Med. 2022 Feb;10(2):214-220. PMID: 34838161.

Vincent先生がfirst author。
"In critically ill patients with COVID-19, therapeutic-dose heparin therapy is therefore only indicated for documented thromboembolic complications."

Gottlieb RL, Vaca CE, Paredes R, et al.; PINETREE Investigators.
Early Remdesivir to Prevent Progression to Severe Covid-19 in Outpatients.
N Engl J Med. 2022 Jan 27;386(4):305-315. PMID: 34937145.

重症化リスクがある発症7日以内の人にレムデシビルを投与すると入院しないで済む(0.7% vs. 5.3%)。でもコントロール群でも誰も死ななかった。

ヘパリンによる治療的抗凝固もレムデシビルも、重症患者には推奨されていない(日本ANZICSのガイドラインで確認)。
でも、それぞれカッコが必要で、
・予防的ヘパリン群のほとんどはLMWHで、日本では保険適応的に使いにくい。未分画ヘパリンの皮下注はどうか、という答えはない。
・非重症患者でレムデシビルが有効である可能性はあり、メタ解析はこんな感じ(A living WHO guideline on drugs for covid-19より)。数字がちょっとずつ治療群の方が良い。

でも有害性も報告されていて、
"Any beneficial effects of remdesivir, if they do exist, are likely to be small and the possibility of important harm remains."
と記載されている。

どちらも、ICUで使いたがる人はいるだろうし、それは間違っているからやめなさい、とは言いにくい。
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VA-ECMOを要する心原性ショックに低体温は有効か?

2022年02月11日 | 循環
Levy B, Girerd N, Amour J, et al.; HYPO-ECMO Trial Group and the International ECMO Network (ECMONet).
Effect of Moderate Hypothermia vs Normothermia on 30-Day Mortality in Patients With Cardiogenic Shock Receiving Venoarterial Extracorporeal Membrane Oxygenation: A Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2022 Feb 1;327(5):442-453. PMID: 35103766.


はい、また出ました、JAMAの微妙な研究。
・33-34度の低体温 vs. 36-37度の正常体温コントロールの比較。コントロールしない方が普通だと思うのだが。
・Primary outcomeでは有意差は出ず、secondaryで出た。Nが少ないからか、alpha errorなのか、人によって判断が変わりそう。

「一つの(特に微妙な)研究でpracticeは変えない」
の原則に従うのが妥当と思いますが、低体温好きの人はやりたがるかもしれない。
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30 minutes with...Prof Derek Angus

2022年02月09日 | 勝手に紹介
ESICMのYouTubeチャンネルより。
30 minutes with...Prof Derek Angus

面白かった。
COVIDのようなhomogenousな集団ですらNが2000とか3000必要なので、セプシスの研究では万単位必要ではないか、というのはなるほどと思った。

先日のprecision medicineのstatementの著者の一人。AJRCCMらしくない理由がちょっと分かった気がした(あくまで個人の感想です、それにMV関連でもないし)。

やはりnativeの英語は聞きやすい。ちなみにDr. Angusはスコットランド出身なんですって。

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Precision medicineが集中治療に入ってくるのはいつの日か?

2022年02月08日 | EBM関連
最近、改めてこのことについて考える機会があった。
勉強のため、これを読むことにした。

Shah FA, Meyer NJ, Angus DC,
A Research Agenda for Precision Medicine in Sepsis and Acute Respiratory Distress Syndrome: An Official American Thoracic Society Research Statement.
Am J Respir Crit Care Med. 2021 Oct 15;204(8):891-901. PMID: 34652268.


以下、勉強したことと思ったこと。
「」は上記の文献に書いてあること(の意訳)。

・「Precision medicineとpersonalized medicineは時々同じ意味で使われるが、実際は異なる。最終的には個人個人に合わせた治療が望ましいが、実際はそのレベルに到達するのは困難で、現状ではprecision(高精度)止まり。」
Wikiにはこう書いてあるが、これはちょっと違う気がする。がん治療のようなprecision medicineの花形ですら、personalizedと言えるレベルには達していないはず。

・「非集中治療領域でのprecision medicineの発展を見ていると希望を持ちたくなるが、敗血症やARDSは病態がもっと複雑だし、治療方針を数時間で決定しないといけないので遺伝子検査の結果を待つ余裕もない。なので、通常診療で測定される項目を用いたprecision medicineが最初の一歩になるだろう。」
これだけ読んでも、本当の意味でのprecision medicineが集中治療に入ってくるのは当分先だろうということが分かる。

・「重要なことは、もしそういう治療があるとしても、厳格に行われる前向き研究によって確認される必要がある点だ。」
ここも大事。RCTのサブ解析の結果とか、観察研究でのリスク因子などを使って、ICU患者の治療方針を個別に行っていくことがprecision medicineだと思っている人がいたら、それは大間違い。

・「phenotypes、subphenotypes、endotypes といった言葉が一般的に使われるが、ここではまとめてサブグループと呼ぶ。」
とくにphenotypeっていう単語はよく見かけるようになった。かっこいいけど、結局はサブグループのことだからね。ちょっと流行り過ぎなんじゃないかなー。

・「無作為化なしに、ある予測因子を持った患者がある治療に対してより反応しやすいかどうかの因果関係を判断するのには限界がある。」
RCTで治療が有効なサブグループが見つかる。観察研究で治療に反応しやすいサブグループが見つかる。それイコール、そのグループに対してその治療法が選択可能、ということにはならず、サブグループを対象としたRCTが必要だ。EBMの基本ですね。

・「Adaptive trialのような研究デザインが重要だ。」
例えば研究途中でこの群で有効そうだとなればその群のみを対象とするように変更したり、予定されたサンプル数が少なそうなら増やしたり、そういう研究手法が今後はどんどん行われていくのでしょう。有効性が示唆されたがサンプル数が足りず証明には至らない、みたいなのは悲しいものね。

・「データサイエンスの進歩によってprecision medicineを促進しよう。」
機械学習の方が普通の多変量解析よりも予測精度が高いことは、集中治療領域でも多くの研究が示しているので、治療が有効かもしれないサブグループの特定などにも今後は利用されていくのでしょう。ただ、この機械学習の手法を使ったら予測精度が上がったよ、という研究止まりで、実際にそれを利用してRCTをしたとかはまだ見たことがない気がする。

・「precision medicineが進歩しても、資源の豊かな国だけでしか利用できません、とかじゃダメでしょ。」
ほんとにそうだ。話はずれるが、金持ちの国によるコロナワクチンの買い占めは悲しい出来事だった。

・「適切で持続的な資金が必要だ。」
世の中、結局は金なのよね。

まとめ。
現状ではprecision medicineをICUで行うことはできないし、がん治療レベルのものが入ってくるのも当分先。
「患者さんの病態に即した治療をしよう」というのは、カッコよく聞こえるけど、現状では「なんちゃって」です。

追伸。
AJRCCMという雑誌は特に人工呼吸関連についてEBMから少しズレている、という印象を僕は持っているので、precision medicineについて検索してこの文献を見つけた時にはちょっと心配したのだけど、読んでみたらちゃんとした内容だった。
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トシリズマブとバリシチニブの扱いが同じになっていることに気がついてませんでした。

2022年02月06日 | COVID-19
先月、またCOVID患者が増えてきたのでガイドラインを確認しようと思っていくつか見いていた時に、トシリズマブとバリシチニブの扱いが同じになっていることに気がついた。

WHO:どちらの薬剤も「severityがcriticalの症例に対してstrong recommendation in favor」
日本:どちらの薬剤も「人工呼吸器管理/集中治療を必要とする重症患者に対する投与については、現時点では推奨を提示しない」
ANZICS:どちらの薬剤も「 Consider in adults hospitalised with COVID-19 who require supplemental oxygen」

面白い。二剤は同じ扱いだけど推奨がバラバラ。その時はガイドラインを見る目的が違った(レムデシビルは重症患者には使わないことを確認)ので、あまり気にしていなかった。
でも、数日前にこれが出て、確認してみる気になった。

ARTICLES ONLINE FIRST
Efficacy and safety of baricitinib plus standard of care for the treatment of critically ill hospitalised adults with COVID-19 on invasive mechanical ventilation or extracorporeal membrane oxygenation: an exploratory, randomised, placebo-controlled trial

(ついでに気がついた、first authorがsedation関連で有名なEly先生だ。)

この研究はexploratory trialだと自分のことを呼んでいて、N=101と小さく、primary outcomeも決めず、サンプルサイズも計算されていないので、今回はサラッと流します。

で、やったこと:PubMed検索。
Search: (covid) AND (baricitinib [ti]) Filters: Randomized Controlled Trial:2(上記の研究を足すと3)
Search: (tocilizumab [ti]) AND (covid) Filters: Randomized Controlled Trial:18

だよね。研究の数が全然違う。
トシリズマブはICU患者に使う、バリシチニブは不確定、という僕の印象はこの数の違いが原因な気がする。
でも、トシリズマブは有害というデータもあるし、メタ解析を見てもRECOVERYに引っ張られて有効になっている感じに見える。

ということで、
バリシチニブ:重症患者での有効性は確定していない
トシリズマブ:研究は多いが結果が一定していない
というのが現状のまとめだろうか。
だからガイドラインの推奨もバラバラなのかな、と思いました。ちゃんちゃん。
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JIPADが2020年度年次レポートを公開!

2022年02月03日 | データベース・JIPAD
最新のレポート(2020年度版)

今年も出ました。
毎年参加施設も症例数も増加していて、今年は70施設、5万例超。
さらに、企画として今年はCOVID症例のまとめ(第1波〜3波)つき。

日本のICUってどーよ?が分かる唯一のデータ。
是非ご覧ください。
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