Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

アメリカとイギリスのICU

2011年06月27日 | ICU・システム
今回は、僕の好きな話題の一つ。でも若い人はあまり興味ない話かも。
って、”これからは先生のような若い人達にどんどんやってもらって”とか偉い方々から言われるし、若いって何?

AJRCCM、いわゆるブルージャーナルから。

Comparison of medical admissions to intensive care units in the United States and United kingdom.
Wunsch H, Angus DC, Harrison DA, Linde-Zwirble WT, Rowan KM.
Am J Respir Crit Care Med. 2011 Jun 15;183(12):1666-73. PMID: 21471089
http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/abstract/183/12/1666

アメリカのICUデータベース(Project IMPACT)とイギリスのICUデータベース(ICNARC-CMP)を比較。
何が面白いかというと、欧米先進国の中で、
アメリカは極端にICUのベッド数が多くて、お金をかけるところ、
イギリスは極端にICUのベッド数が少なくて、お金もかけていない。
人口あたりのICUベッド数の違いはなんと7倍。
この2つの国で、患者背景や予後にどんな違いがあるかを検討している。

その結果、イギリスはアメリカに比べ、
救急室からの入室が少なく、ICUに来るまでの病院入院日数が長く、
85歳以上の入室が少なく、
APACHE IIスコアが高く、人工呼吸器使用頻度が全然違い(なんと68%と27%)、
病院死亡率も全然違う(38%と16%)。
しかし、救急室から入室して人工呼吸を必要とした患者さんの死亡率は同じ(オッズ比1.09)。
ベッド数が違うと、こんなに患者層が変わるんだな、というお話。

さて、日本はどうでしょう?
急性期ベッド数は世界でトップクラス、でもICUベッド数はイギリス並み、というのが特徴。
必然的に、重症患者さんが病棟にあふれている、と想像されますが、それを示したデータはないでしょう。
そもそも、ICUの多施設データベースがないので、世界と比べようがない。
なんとかならんかね。。。
いや、どぎゃんかせんといかん、と言おう。

ちなみに、以前こんな文章書いたので、よかったら読んでみてね。

わが国の集中治療室は適正利用されているのか
日本集中治療医学会雑誌, Vol. 17 (2010) No. 2 pp.141-144
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くも膜下出血のスパズム予防

2011年06月20日 | 神経
くも膜下出血(SAH)が起こると、その後数日から2週間くらいの間にスパズムが起こることがあって、それを予防/治療するにはトリプルHをやって、エリルを投与する。ひどいと脳梗塞になって、予後に影響する。
くらいに、思っている方、多くないですか?
もうちょっと、複雑なんです。

これまでもその複雑さは示されてきましたが、今回も同様の結果。今月のLancet Neurologyから(PubMedではe-pubですけど)。

Clazosentan, an endothelin receptor antagonist, in patients with aneurysmal subarachnoid haemorrhage undergoing surgical clipping: a randomised, double-blind, placebo-controlled phase 3 trial (CONSCIOUS-2).
Macdonald RL, Higashida RT, Keller E, Mayer SA, Molyneux A, Raabe A, Vajkoczy P, Wanke I, Bach D, Frey A, Marr A, Roux S, Kassell N.
Lancet Neurol. 2011 Jun 1. [Epub ahead of print] PMID: 21640651

SAH後のスパズムにはエンドセリンが関与していると言われており、その拮抗薬であるclazosentanは二つのphase IIにてスパズムを予防することが示されている(CONSCIOUS-1)。
今回は、そのphase IIIの結果。ちなみに、CONSCIOUS-2はクリップの患者だけ。コイルの患者さんはCONSCIOUS-3として別に行われていたが、CONSCIOUS-2の結果のせいで途中で中止になったらしい(結果は未)。
768人にclazosentan、389人にプラセボ(2:1割り付け)。その結果、
死亡/脳梗塞/DINDなどを合わせた複合アウトカムでは21% vs. 25%、p=0.10と有意ではないが治療群で改善傾向。
しかし、死亡率や脳梗塞それぞれでは差を認めず、
12週後のGlasgow Outcome Scaleは29% vs. 25%と、これまた有意ではないも少し悪い結果だった。

これまで複数の薬剤において、スパズムは減らすけど、それが最終的なアウトカムに影響を与えない、という結果になっている。典型例はニカルジピン。理由は複数推測されていて、例えば薬剤の副作用が有効性と相反するとか(例:ニカルジピンの低血圧)、スパズム以外の脳障害(微小血栓とか微小循環障害とか)が予後に影響している、とか。

日本では使用できないけど、スパズムの勉強をすると必ず出てくるニモジピン。これも変な薬で、内服ではスパズムは減らさないけど予後を良くして、静注ではスパズムは減らすけど予後は変えない、とかだったような。それって本当に有効なのかと思うけど、副作用は少ないし、他に治療薬もないしで、国際的には唯一の予防薬として使用されてたりしますね。

ただ、こういうのって、集中治療ではありがちですね。
サロゲートマーカーは良くするけど、最終的な予後には影響しない。
例えば、ARDSの伏臥位(酸素化は良くするけど)とか、いろいろ。

薬で重症患者さんの予後を良くするのって、ほんとに難しいわ。
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市中肺炎とステロイド

2011年06月14日 | 呼吸
昨日、メジャー雑誌だから書かないと言っておきながら、やっぱりちょっとだけ書きたくなったので。

Dexamethasone and length of hospital stay in patients with community-acquired pneumonia: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
Meijvis SC, Hardeman H, Remmelts HH, Heijligenberg R, Rijkers GT, van Velzen-Blad H, Voorn GP, van de Garde EM, Endeman H, Grutters JC, Bos WJ, Biesma DH.
Lancet. 2011 May 31. [Epub ahead of print] PMID: 21636122

PubMedからコピペしたらEpubになってますけど、実際は6月11日号に出てます。

ちょっとだけなので内容は書きませんが、つまりは市中肺炎にデキサメサゾンを使ったら、家に早く帰れた、という話。
でも結果を見ると、
・在院日数が7.5日から6.5日に短くなって、
・病院死亡率は変わらなくて(共に5%)、
・死ぬ人は早く死んで(5.5日と8.8日)、
・ICUに来る人は少しだけ減って(6%と7%)、
・膿胸になった人がちょっと増えた(5%と3%)。
ただし、在院日数以外は有意差無し。

もう一つ面白いのは、CRPの経過。
ステロイドの投与期間中(4日間)はCRPが急速に下がるけど、その後に再上昇して、1週間でコントロールと同じ値、10日目には更に上がってコントロールよりも高くなった。
この点についてはディスカッションに、ステロイド投与群は具合が悪くて合併症が起こった人達、コントロールはもうすぐ家に帰る人達だから、と書いてあるのだけど、平均在院日数が1日しか違わないのに、そんな説明、あり?

うーん、ステロイドが有効???

ちなみに、エディトリアルはステロイドをとても褒めてます。
著者を見ると、やっぱりDr Meduri、ARDSとステロイドで有名な方。
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血液浄化じゃないRRT

2011年06月13日 | ICU・システム
先週のLANCETに市中肺炎に対するステロイドの有効性について載ってましたが、メジャー雑誌だから当然パス。まあ、そもそもICU患者は除かれてますけどね。

ということで、今回はCHESTから。
内野がRRTというと、renal replacement therapyかと思われるかもしれませんが、そうじゃないRRT、rapid response teamの話。
最近は巷でも話題になっているのでご存知の方も多いと思いますが、簡単に説明すると、病棟で患者さんの状態が悪くなった(低酸素、低血圧、意識低下、なんとなく具合が悪いなど)時に、主治医を呼ばすにRRTのチームを呼ぶ、そういうシステムを導入すると、病院全体の患者さんの予後がよくなる、というもの。

Rapid response team in an academic institution: does it make a difference?
Shah SK, Cardenas VJ Jr, Kuo YF, Sharma G.
Chest. 2011 Jun;139(6):1361-7. Epub 2010 Sep 23. PMID: 20864618

アメリカのテキサスの教育病院で、RRTを導入する前の9ヶ月と導入後の27ヶ月で患者予後を比較。RRTを呼ぶクライテリアはこれまでの研究と同様、RRTの参加メンバーはICUのナースと呼吸療法士。27ヶ月で1200のコールがあったが、コードブルーの数や病院死亡率には変化がなかった。アメリカではRRTを導入することが病院の質の評価の一つになっているが、有効ではないとするデータも多く、本当にやるべきなのか?

RRTやMET(medical emergency team)に関する報告はたくさんあります。唯一の多施設RCTでは結果はネガティブ。じゃあ、無効か?
うーん、最大の問題点は、RRTは薬ではない、という点でしょうね。薬なら誰が処方しても有効性はそれほど変わらないけど、RRT/METは病院におけるシステムの変化なので、何となく導入しても結果には繋がらない。実際、RRT/METを導入して明らかに予後がよくなった病院はたくさんあるし、そういうところでは無効だから止めろと言っても絶対に止めないでしょう。

この話は長くなるので、この辺にしておきます。
ちなみに、以前こんな文章書きましたので、ご興味のある方はどうぞ。
【集中治療とMET(Medical Emergency Team)/RRT(Rapid Response Team)】 MET/RRTの概念と歴史
内野滋彦. ICUとCCU34巻6号 Page427-432(2010.06)

RRT/METについて僕が思っていることは、
・自分でもRRTの効果は実感しており、データはどうあれ、ちゃんと導入すれは命を救える可能性のあるもの。
・しかし、ちゃんと導入するにはすごいエネルギーと行動力のある人が必要。
・自分にはそんな行動力はないので、積極的に導入しようとしていない。
・今後、やってみようと思っている方へ:ちょろっとやってみようとしても、効果は出ないので無意味だと思います。やるからには本気で。それと、必ず有効性の評価をしましょう。
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脳梗塞にアルブミン?

2011年06月06日 | 神経
前回は誘惑に負けてNEJMなんか紹介していましたが、そんなメージャーな雑誌から紹介しても、他でいくらでも取り上げられるだろうから、やっぱりできるだけしないようにしよう、と反省。
ということで、今回はStrokeから(まあ、これも相当メジャーな雑誌ですけどね)。

The Albumin in Acute Stroke Part 1 Trial: An Exploratory Efficacy Analysis.
Hill MD, Martin RH, Palesch YY, Tamariz D, Waldman BD, Ryckborst KJ, Moy CS, Barsan WG, Ginsberg MD; on behalf of the ALIAS Investigators and the Neurological Emergencies Treatment Trials (NETT) Network.
Stroke. 2011 Jun;42(6):1621-1625. PMID: 21546491
http://stroke.ahajournals.org/cgi/content/abstract/42/6/1621

アルブミンには抗酸化作用や微小循環の改善効果などが推測されるため、脳梗塞の初期にアルブミンを使ったらどうか、というRCTの結果。
でも、結果がどうこうよりも、臨床研究の進め方として興味深いので紹介。

まず、ドーズを決定するためのパイロット研究が行われた。
The ALIAS Pilot Trial: a dose-escalation and safety study of albumin therapy for acute ischemic stroke--II: neurologic outcome and efficacy analysis.
Palesch YY, Hill MD, Ryckborst KJ, Tamariz D, Ginsberg MD.
Stroke. 2006 Aug;37(8):2107-14. PMID: 16809570.
合計82例、アルブミンの投与量が多い方が少ない方よりも予後が良かった。

この結果を受けて、phase IIIが行われた。
The albumin in acute stroke (ALIAS) multicenter clinical trial: safety analysis of part 1 and rationale and design of part 2.
Ginsberg MD, Palesch YY, Martin RH, Hill MD, Moy CS, Waldman BD, Yeatts SD, Tamariz D, Ryckborst K; ALIAS Investigators.
Stroke. 2011 Jan;42(1):119-27. PMID: 21164127
しかし、結果は期待に反してアルブミン群の方が予後が悪く、研究は途中で中止。
普通ならこれであきらめるところを、この研究者達は、何がいけなかったのかについて、データを詳細に検討した。その結果、高齢/トロポニン陽性/院内発生/大量補液が予後不良因子と判明したため、これらを除外した、ALIAS 2を現在実施中。
今回の紹介の文献は、ALIAS 1のデータから、予後不良でALIAS 2には含まれなかったであろう症例を除いて解析、つまりはALIAS 2の正当性を示すための文献。
その結果、有意ではないが、アルブミン群の予後が良い傾向が認められた。

パイロット(Phase II)で良くて、その後の大きな研究(Phase III)で悪かったら、それでオシマイが普通。
これで有効という結果が出たら、相当びっくりしますけどね。。。
でもそのエネルギーに拍手。
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