Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

集中治療の巨人が日本の若手研究者へ贈るーProf Bellomo

2023年09月04日 | 勝手に紹介
Dr. Bellomoの動画はいくつもあるし(これとかこれとか)、今回もいつもとメッセージは同じなのだけど、なんか、ちょっと泣きそうになった。

集中治療の巨人が日本の若手研究者へ贈るーProf Bellomo

この動画が彼の他の動画とちょっと違う感じがするのは、日本の若い医師向けに、分かりやすい英語で自分の思いを伝えようとしているからかな。さすがにほとんどの人は泣きそうにはならないと思うけど、とても大事な話をしてくれているので、ぜひ見てください。

"Research is a fundamental part of intensive care that you cannot do clinical treatment and clinical practice without research in university-affiliated ICUs. It's like not having a blood gas machine...It's your generation's job to make that happen in the next 20 years so that Japan can be productive in EBM trials."

日本に帰ってきたのが2003年なので、ちょうど20年前なんだよね。
彼の元に留学した最初の日本人として、非常に恥ずかしいし、非常に申し訳ないと思う。

方法は難しくない。
1:グループを作る
2:小さい研究をする
3:そこで得たノウハウを使って、より大きい研究をする

日本のICUの研究ほとんどは、2で止まってしまうか、初めから大きな研究をしようとして空中分解するかのどちらか。
3が大事。とにかく大事。

若者よ、申し訳ないが、頼む。
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それをしたらダメ!NG事例から学ぶ臨床研究デザイン

2023年07月12日 | 勝手に紹介
JIPADのデータを使って、自治さいたまの若き研究者と一緒にやっている研究がある。入室24時間以内に行った検査Xは患者予後を改善するかについての検討で、登録症例を検査施行群と非施行群に分け、propensity matchingして予後を比較したところ、検査Xを行った方が予後が良いという結果だった。ちなみに、対象患者を全ICU患者にすると日本のICUの特徴である予定手術の1泊2日がたくさん入ってきて重症度が極端に低くなってしまうので、24時間以内に生存退室した患者は除外した。
この研究は、自治医大から最近東大に移った笹渕くん(自己紹介がまだ自治のままだよ)に統計のサポート(Rの使い方とか)をしてもらっているのだけど、草稿がほぼ完成した段階で読んでもらったところ、「immortal time biasが発生するので24時間で退室した全例(つまり死亡例も)を除外する必要がある」という指摘を受けた。もうほぼ書き終わっているから許してくれとゴネたのだけどダメと言われ、諦めて若者に解析を全部やり直してもらったところ、なんと結果がひっくり返り、検査Xは予後を改善しない、という結論になった。

いやー、ICUの研究でチョロい予定手術を除外するのはありがちだと思うので、自分では気が付かなかった。Immortal time bias、やっぱり怖いね。24時間以内に死亡した人は検査Xをする時間がなかった、もしくはする価値がないと判断されたので、検査非施行群の死亡率を上げてしまう。そしてその差はmatchingしても消えない。
「笹渕くん」なんてもう呼べない。これからは「笹渕大先生」とお呼びすることにする。東大の准教授先生だし。

で、その大先生がお書きになった本が、本日発売されます!

出版社から僕のところに数日前に送られてきた。
大先生からの献本なので、当然のことながら正座して読ませていただき、ここにその感想を述べさせていただきたいと思う所存でございます。

「はじめに」の最初に書いてある通り、この本は研究初心者向け。研究の準備から発表まで、33種類の陥りやすい落とし穴について、分かりやすい例をあげながら説明している。その代わり、難しい統計学とかの情報についての記載はほとんどなく、例えば脱落症例への対応として多重代入法を行うとバイアスを減少させることができる、とは書いてあるけれど、多重代入法についての説明はゼロ。良い意味で徹底しているなーと思った。さすがに僕的に知らないことはほとんど書いてなかったので、1時間強で全部読めたけど、これから研究を始めようと思っている人、トライしたけど挫折してしまった人でもそれほど時間はかからずに読めるのではないか。
どの項目も、「そうそう、こういう間違いするよね」と思うものばかり。ということは、この本は研究初心者が対象の本ではなく、研究初心者は必読の本ということだ!

たった一つ、問題があることに気がついた。
なんでピンク?
とくにコラムなんて全部ピンク。老眼には読みずらい。

あ。
研究初心者に老眼はいないか?

あ。
もう一つ気がついた。
落とし穴の13番目はimmortal time bias。
「そんな初歩的なことを間違えるお前は、この本を読んで勉強しろ」というメッセージか!
ブログで紹介してくれという依頼かと思ったら、違ったか!
むむむ。言い返せない。。。
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「了解しましたは失礼」と集中治療

2023年02月19日 | 勝手に紹介
無茶なタイトル。

「了解しました」は無礼なので「承知しました」を使いましょう、という話には違和感が強く、僕は頑なに「了解しました」を使い続けている。でも、自分が受け取るメールやSNSでは「承知しました」が100%なので、流石に肩身が狭くなってきた。仕方ないので諦めるか、でもその前に少し調べるか、と思ってググってみた。
そうすると、「了解しました 承知しました」で検索すると「了解しましたはマナー違反」というサイトばかり出てくるけど、「了解しました 失礼 嘘」と検索するとこれもたくさん出てくることが分かり、その中でも有名なサイトがあることを知った。僕以外にも知らない人もいるかもしれないので紹介。

「了解しました」より「承知しました」が適切とされる理由と、その普及過程について
過去のWEBメディアを検索し、かつ1980年以降のマナー本数十冊を調べたところ、
・ある人が、2000年代に「了解しました」より「承知しました」の方がいいと感じるようになり、そのことをマナー本で書いた
・2010年に発売されたマナー本でこの記述が参照され、この本が5万部売れた
・WEBサイトで多く取り上げられるようになり、加速度的に広まって”常識”化した
ということが分かったと。

僕はこれからも頑なに「了解しました」を貫こうと決意しつつ、たった一人の意見が日本中で常識化するってすごいなと思いつつ、これって医学や集中治療の世界にもあることだなと思った。

その典型は、やっぱり"CHDF"でしょう。
1990年代にある人が言い出し、単なる持続の腎代替療法としてではなくサイトカイン除去という積極的な治療法として日本でブームになった。2000年代に入り、主に海外で多くの研究が行われ、予後を改善しないどころかサイトカインの血中濃度も下げないことが示され、臓器不全のサポート目的で持続腎代替療法=CRRTとして定着したけど、未だにCRRT=CHDFと思っている(特に集中治療を専門としていない)人たちは残存している。自治さいたまのCRRTの基本選択はCHDなのだけど、つい先日、ある患者さんにCHDFが行われていて、副部長がその理由を聞くと、当直だった医師が「患者の主治医が炎症の除去のためにCHDFをしてほしいと言ったので」と返事をしていた。30年以上も言葉と概念が使用され続けているって、すごいことだよね。

僕も残せるなら何か残してみたいけれども。
AKIの日本語は「急性腎障害」じゃなくて「急性腎傷害」ですよ、というのを普及しようとしたけど失敗したし。もうリタイアしちゃったし。諦めてICUの隅で静かに座っていることにします。
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肺内を泳ぐマイクロロボットが肺炎を治療

2022年10月11日 | 勝手に紹介
肺内を泳ぐマイクロロボットが肺炎を治療

元文献はこちら。
Zhang F, Zhuang J, Li Z, et al.
Nanoparticle-modified microrobots for in vivo antibiotic delivery to treat acute bacterial pneumonia.
Nat Mater. 2022 Sep 22. Epub ahead of print. PMID: 36138145.


おお。。。
挿管チューブから人工の藻を撒く時代が来るかも??
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Critical care physiology in resuscitation: Rinaldo Bellomo

2022年09月23日 | 勝手に紹介
Critical care physiology in resuscitation: Rinaldo Bellomo
つい最近、知り合いに教えてもらった。
4年前の動画なんだけど、全然知らなかった。

クソ面白い。
たった15分なので是非ご覧あれ。
内容は、
"physiological gain is immensely seductive in ICU where we all practice a new art called numerology"
を、ぐうの音も出ないレベルで説明している。

ちなみに、
"how lucky are you to be such a doctor?"
でプレゼンが終わる。
さて、どんな医者だと言っているでしょう?
これまた、ぐうの音も出ないよ。
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慈恵ICU勉強会のウェブサイトでスライドが見られなくなった。

2022年04月23日 | 勝手に紹介
慈恵ICU勉強会
問い合わせをいただいて、気がついた。確かに、表紙しか見られなくなっている。
先月かららしい。
スタッフ会議で決まったらしい。
著作権の問題があるから、というのが理由らしい。
それ自体は正しい。
僕も、このブログで文献紹介はしても、文献のPDFをコピペして貼らないようにしている。理由は同じ。

でも、失うものも大きそうだ。
・勉強会に参加していない多くの人にも情報提供ができる。
・集中治療の疑問についてググると、結構な頻度でこの勉強会のスライドがヒットするので、慈恵の宣伝になる。
・発表者のモチベーションにつながる。
・その結果、より質の良いものになり、好循環につながる。

極東のウェブサイトで文献の図表がコピペされても雑誌の売上にはほぼ影響しないだろうし、雑誌社から文句を言われる可能性はほぼゼロだろうから、果たして、メリットとデメリットの天秤が成立しているのか、疑問だ。

慈恵に集中治療部ができたのが2006年の4月。
僕が勤務し始めたのが同じ年の11月。
毎週火曜日の朝に勉強会が始まったのが12月。最初は、僕が他のスタッフに講義をするという形で始まった。
数ヶ月後から徐々に他の人にもやってもらうようになり、
ナースや薬剤師や臨床工学技師も参加するようになり、発表もしてもらうようになり、
オンラインで分院と繋いでさらに参加者が増え、
ウェブサイトにアップして、参加者以外の人にも見てもらえるようになった。

セミリタイアしてもうすぐ2年、慈恵を辞めてちょうど1年。
ま、いろいろ変わるわな。
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Reviewer of the year 2021

2022年04月14日 | 勝手に紹介
いえーい、2ばーん。
Journal of Intensive Care
単なる自慢でした。
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研究をはじめる前に知っておいてほしい7つのこと

2022年03月24日 | 勝手に紹介
慈恵時代、数十人の人と共同研究、というか研究の”指導”的なことをやった。
同じ話をしないといけないし、ずっとお尻を叩き続ける必要のある人も少なくないし、飽きたというか疲れた。
なので自治ではやる気はあまりなかったのだけど、自分が貢献できることは少ないので、結局、再開している。

1年以上前にアップされていて、SNSでも話題になっていたそうなので、ご存知の方も多いとは思いますが。
研究をはじめる前に知っておいてほしい7つのこと

僕が一番伝えたいことは、研究は楽しいよ、ということです。
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30 minutes with...Prof Derek Angus

2022年02月09日 | 勝手に紹介
ESICMのYouTubeチャンネルより。
30 minutes with...Prof Derek Angus

面白かった。
COVIDのようなhomogenousな集団ですらNが2000とか3000必要なので、セプシスの研究では万単位必要ではないか、というのはなるほどと思った。

先日のprecision medicineのstatementの著者の一人。AJRCCMらしくない理由がちょっと分かった気がした(あくまで個人の感想です、それにMV関連でもないし)。

やはりnativeの英語は聞きやすい。ちなみにDr. Angusはスコットランド出身なんですって。

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「薬剤の誤投与に係る死亡事例の分析」は冬に読むには寒過ぎる。

2022年01月27日 | 勝手に紹介
先日、集中治療医学会のメールで教えてもらったやつ。

医療事故の再発防止に向けた提言 第15号「薬剤の誤投与に係る死亡事例の分析」

過去5年間で起こった薬剤誤投与による死亡例36例の分析。

医療事故の事例って、単発では見かけるけど、死亡例がこんなにまとまっているものは初めて見たかも。
しかも、ICUでは見ないなと思う薬はほぼなし。インスリンとかリドカインとかボスミンとかメイロンとか、馴染みのあるものばかり。

マジで、ゾッとします。
暖かくして、読んでください。
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