Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

補液反応性の予測:SVC vs. IVC

2014年09月30日 | 循環
Charbonneau H, Riu B, Faron M, et al.
Predicting preload responsiveness using simultaneous recordings of inferior and superior vena cava diameters.
Crit Care. 2014 Sep 5;18(5):473. PMID: 25189403.


人工呼吸を要し、自発呼吸の無い、敗血症性ショック44例。7ml/kgのHESの投与前後で、TTEによるIVCの呼吸性変動と、TEEによるSVCの呼吸性変動を測定。心拍出量もTEEで測定。補液によって心拍出量が15%以上増えるかどうかの予測精度をIVCとSVCで比較。その結果、SVCのROCは0.74、IVCは0.43だった。

ROCが0.43って、コインをはじくのよりも低いということだから、さすがにこの結果はどうかと思うけど。IVCの有用性を示した研究は複数あるわけでだし。
でもとりあえず、補液反応性の予測におけるIVCとSVCの比較というのはこれが初めてだそうで、かつ結果としてSVCがIVCに勝った。もちろん、TEEなんてチョイチョイやれないので、どんどんSVCの呼吸性変動を測定しましょう、とはならないけれども。
では何故この研究を紹介しようと思ったかと言うと。
エコーでIVCを測定するのって、前から嫌いだったんだよね。
だから、SVCに負けたので、イエーイ、と思って。

まったく信憑性が無い、ということはない。理屈は通るし、研究も少しはあるし。
でもさ。Fluid responsivenessにおけるdynamic indicator(つまり呼吸性変動)って、CVPよりは100倍マシだけど、限界もたくさんある。陽圧換気でかつ自発呼吸が無いという状況がベストで、自発呼吸があったり、そもそも挿管されていなかったりすると、その精度は明らかに落ちる。
なのに、"心エコーでIVCの径が何mmで、呼吸性変動がどうだったから、この患者さんの血管内ボリュームは、、、”とか言われても困る。
・IVCの径は体格でも変わるし腹腔内圧でも変わる。今回の研究でもIVC(SVCも)の径は補液反応性とはまったく関係なかった。
・心エコーでどうこう話が出るときって多くの場合は自発呼吸で、そういう状況の予測精度は高くない。
・そもそもそれで分かることは補液反応性であって、患者さんの血管内ボリュームではない。

完全無視ではなくても、それほど信憑性の高くない指標、です、IVC径って。
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ガイドラインの概要

2014年09月29日 | EBM関連
はい、またガイドラインの話題です。

Introducing JAMA Clinical Guidelines Synopsis
Adam S. Cifu, Andrew M. Davis, Edward H. Livingston.
JAMA. 2014;312(12):1208-1209.


ガイドラインすら読む暇のない臨床医のために、ガイドラインの要約および質の評価をしてくれるっていうコーナーがJAMAにできましたっていう紹介。

その第一弾は肺癌のスクリーニング、同じ号に載っている。
評価は、9項目中7つがgoodで、2つがfair。
集中治療系のガイドラインもやるのかな。内容よりも、評価が楽しみ。

それにしても、ガイドラインがそもそも利用可能なエベンデンスの概要なのに、さらにその概要が必要なんて。。。

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ICUに急変ありまくり

2014年09月28日 | ひとりごと
”ICUに急変なし”
とか言っておきながら。
この7日間で、呼吸停止、心停止、出血性ショックからのニアアレストと、急変が3つもあった。

急変に素早く対応するのがICU、ではなくて、
急変しないようにするのがICU。
そういう視点でこの3つを見ると(内容の細かい説明は省略)、
呼吸停止:super-preventable
心停止:possibly preventable
ニアアレスト:unavoidable
だったと思う。

一つ一つの情報をちゃんと見る、
一つ一つの情報について考える、
一つ一つ、分からないことを調べる、
一つ一つ、システム上の問題を改善するよう努力する、
一つ一つの問題点についてみんなで考える。

なかなか難しいけれども。
自分はちゃんとやれているとはとてもじゃないが言えないけれども。
天秤の相手が患者さんの命なのでね。
がんばろ。
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敗血症による高乳酸血症

2014年09月24日 | 循環
Sepsis-associated hyperlactatemia
Mercedes Garcia-Alvarez, Paul Marik, Rinaldo Bellomo
Critical Care 2014, 18:503


乳酸は嫌気じゃなくて好気で高くなるんだぞ、という総説。
この話題でまとまったレビューは多くないので、お勧めっす。

・EGDTで予後は改善しない
・ScvO2と乳酸は指標として同程度
・乳酸は組織低酸素の指標ではない

この3つは矛盾しない。
つまり、
敗血症=循環不全=組織低酸素だから、その指標に基づいて対応しよう!
というのは間違いじゃないのかな、という話。

私、今具合が悪いんですよ、アドレナリンがビシバシ出てるんですよ、という解釈と、
水が足りねー、酸素が足りねー、という解釈では、対応方法が変わりそう。
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敗血症の症例数と予後

2014年09月23日 | 感染
先日のINTENSIVISTのセミナー関連シリーズ第2弾(もう続かないけど)。

Gaieski DF, Edwards JM, Kallan MJ, et al.
The Relationship between Hospital Volume and Mortality in Severe Sepsis.
Am J Respir Crit Care Med. 2014 Sep 15;190(6):665-74. PMID: 25117723.


アメリカの急性期病院の20%をカバーするデータベースを用い、914,000例の重症敗血症患者を対象にした観察研究。病院を敗血症の症例数で5群に分けた(1年の症例数が<50, 50-99, 100-249, 250-499, 500>)。その結果、一番少ない病因群に比べ、一番多い病院群では死亡のオッズ比が0.64だった。

その先日のセミナーで、
・敗血症は増えている
・敗血症の予後は改善している
と一般に言われているが、本当か?という話をしたんですよ(そんな日常臨床に関係のない話をしたら、講師4人の中で評価は最低でしたよ、ハッハッハ)。
それと似ているね。
症例数が異なる(病院によって、時代によって)という状況は、どうしてもselection biasがかかってる。重症度スコアとか臓器不全数とかでどんなに補正しても、完全には無くならない。
それに、仮に症例数が多いと予後が良くなるとしても、そのメカニズムが作用する閾値が分からない。もしかしたら、年に10例いるかどうかが閾値で、それ以上は増えても変わらないかもしれない。

この研究、一番最後の図で、臓器不全数と予後の関連について示しているのだけど、臓器不全数が4を超えると、施設間の差が無くなる。
それって、直感的にどうよ、と思う。逆であるべきじゃないのかな?

もし万が一、こんな話題に興味がある人がいたら、この文献のエディトリアルから孫引きすると、いろいろな文献に出会えそう。
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誰のautonomy?

2014年09月22日 | 終末期医療
先週はサボったので、今週はがんばりまふ。

Stonington SD.
A piece of my mind. Whose autonomy?
JAMA. 2014 Sep 17;312(11):1099-100. PMID: 25226473.


タイトルの通り、医の倫理的な話。
この手の英語の文章は読むのが大変なことが多いけど、これは比較的サラッと読める。1.5ページしかないし。

INTENSIVISTセミナーでは、いつも最後に参加者を対象にアンケートをしながらディスカッションをするのだけど、つい先日のセミナーで、”この患者さんの治療方針の決定において、あなたがもっとも重要視するのはどれですか”的な質問に対し、”患者の意思(だったかliving-willだったか)"をほとんどの人が選んでいて、そりゃ当然だろうと思いつつ、何か違和感を感じたんだよね。
多数派が選ぶ意見に反射的に反論したくなる癖があるので、そのせいかなと思っていたのだけど、このエッセイを呼んで、その理由が少しだけ分かったような気がしたような気がした。
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集中治療医としての業務範囲

2014年09月21日 | 昔思ったこと
メールのコピペシリーズ第4弾。
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2008年9月7日 15:41:08
内野@慈恵ICUです。

”集中治療医はどうあるべきか”という話題はここ数年よく耳にするようになりましたが(例えば学会の"young intensivist"のコーナーとか)、話を聞いていていつも思うのは、視点が二つあるなと言うことです。つまり、
・今の日本の状況で集中治療医はどうやっていくべきか
・今後、日本の集中治療医はどうあるべきか
です。
僕もそうですが、皆さんも集中治療医としてのアイデンティティーを周囲に認めてもらうために非常に苦労していらっしゃるかと思います。
そういう状況を悩んでしまうと、どうしても前者の”今の日本の状況で、、、”という視点から見てしまいがちです。
今困っているわけですからそう考えるのは自然なことですし重要であるとも思いますが、それだけでは不十分ではないかとも思います。

>欧米で確立されたものをそのまま日本に放り込んでも、一部の施設を除いておそらく機能しないのではないかと思います。

このご発言は明らかに前者の視点ですが、少し疑問を感じます。
集中治療のシステムは、欧米だけでなくそれ以外の地域においてもそれほど違いがないように思います。
これまでケニア・インド・インドネシア・マレーシア・ウルグアイなどの集中治療医と話をする機会がありましたが、日本よりも貧しい国においても少なくとも都市部では欧米並みの教育とシステムで運営されているようです。
つまり、もちろん国ごと・施設ごとである程度の違いはあるでしょうが、”集中治療医というのはだいたいこんな仕事をする人たち”というのは世界共通である、と言っていいのではないかと思います。

このことをふまえて上記の二つの視点を考えてみると、これらは、
・集中治療のグローバルスタンダードを日本で実践していくためには、今、何をすべきか
というふうにまとめることができます。
現状を考えるだけではなく、将来の目標を見据えて、今どうするべきか。
僕はこの基本姿勢がとても重要であると思っています。
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この6年で、この辺の状況ってどれくらいの変化があるんだろうか。数字では出てこないので、よく分からない。
ただ、集中治療医がいると保険点数が増額されるというのは明らかな進歩なんでしょう。

そうそう、最近、”集中治療に興味がある”とか、”集中治療医になるにはどうしたらいいか”とか、そういう話をよく耳にするようになった気がする。はたして、興味を持ってくれている若者が増えているのか、それとも立場的/環境的にそういう話を耳にする頻度が増えただけなのか。
前者であってほしいけれども、これも数字がないのでよく分からない。
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AKIに対するRRTの開始時期

2014年09月16日 | 腎臓
目を通した結果、保存することにした文献はいくつかあるけれども。
これは面白いから是非読んで!
というのがない。
ということで、今週はほぼお休みにします。

さすがにさみしいので、一つだけ。

Wilson FP.
A Policy of Preemption: The Timing of Renal Replacement Therapy in AKI.
Clin J Am Soc Nephrol. 2014 Sep 5;9(9):1510-2. PMID: 25107949.


この文献のeditorial。
ここ数年、早期開始が良いのではというのが流行りな中、ちょっと冷静なコメント。参照文献もいい感じなので孫引き用としてもグッド。
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血糖値の単位の換算

2014年09月14日 | 昔思ったこと
メールのコピペシリーズ第3弾はちょっと違う感じのやつで。
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2008年8月29日 10:41:45
内野@慈恵ICUです。

>『血糖値 mg/dL⇒mmol/L』
>"To convert glucose values to mmol/L, multiply by 0.0555. "
これにはもっとうまい方法があります。

血清浸透圧=2 x (Na+K) + Glu/18 + BUN/2.8

という式は皆さんご存じではないでしょうか。
これってつまりはGluとBUNをmg/dlからmmol/Lに換算するものなので、
血糖:mg/dlを18で割るとmmol/L
BUN:mg/dlを2.8で割るとurea mmol/L
となります。

これ以外に集中治療系の英語文献でよく出くわすものとしては、
クレアチニン:mg/dlを90倍するとmicromol/L
乳酸:mmol/Lを9倍するとmg/dl
ビリルビン:mg/dlを17倍するとmmol/L
といったところでしょうか。

血糖とBUNは浸透圧の式で覚えて、クレアチニンはク(9)レ(0)で覚えれば簡単でしょう?
乳酸とビリルビンは、、、がんばれ。
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オーストラリアに3年いたけど、結局イマイチこの単位の違いに慣れず、いつも頭の中で計算していたことを思い出した。
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信頼できるガイドラインのアダプテーション

2014年09月13日 | EBM関連
和訳が難しいから、カタカナにしてしまった。
つまりは、自分(の国)に合うようにちょっと直したよということ。

Kristiansen A, Brandt L, Agoritsas T, et al.
Adaptation of Trustworthy Guidelines Developed Using the GRADE Methodology: A Novel Five-Step Process.
Chest. 2014 Sep 1;146(3):727-34. PMID: 25180723.


Kristiansen A, Brandt L, Agoritsas T, et al.
Applying new strategies for the national adaptation, updating, and dissemination of trustworthy guidelines: results from the norwegian adaptation of the antithrombotic therapy and the prevention of thrombosis, 9th ed: american college of chest physicians evidence-based clinical practice guidelines.
Chest. 2014 Sep 1;146(3):735-61. PMID: 25180724.


抗凝固と血栓予防の(長ーい)ガイドライン。128人が2年かけて作ったらしい。
それをノルウェーの状況に合うようにしたよ、その方法と実際のガイドラインを紹介するよ、という内容。

あ、普通の人は読まないでいいです。
日本でもガイドライン作ろっかなーと思っている人のために紹介したので。

数ヶ月前のこと。
複数の学会が合同で、ある疾患についてのガイドラインを作るから、参加しないかい?と誘われた。
参加してもいいけど、ゼロから作るのではなくて、すでにある国際ガイドラインを和訳する感じの方がいいんじゃないのって会議で話そうと思うって答えたら、
じゃあ結構です、と(やんわりと)言われた。
もう作ることは決まってるからだって。

ガイドラインというのは、
1:根拠を厳密にレビューして、
2:それに基づいて推奨を出して、
3:それを普及させることにより患者予後を改善しよう、
というものでしょう?

であれば、すでに誰かが1と2をやってくれたのなら、3だけすればいいじゃん?
もし2の内容が自分の国に合わない部分があると思うなら、そこだけ1と2をすればいいじゃん?

1をやるのはとってもとっても大変。
偉い人達が集まって、じゃあ1と2をやりましょうって決めたって、そのクオリティが高いものになるとはちょっと想像できない。だって、みんな忙しいじゃん。
それに、すでに他の人がやっていることを繰り返すメリットってある?

素朴な疑問。
それに、ズバリ答えてくれた文献。

それにしてもこのブログ、ガイドラインについての紹介が多い。
ひとりごとも多い。
何故かは自分でもよく分からない。
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