Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

声門下吸引によるVAPの予防

2011年07月25日 | 呼吸
いつのまにやら、ブログの更新日が月曜日になっておりまして(いろいろ都合がいいので)、
先週は祝日でお休みさせていただきました。
あまり紹介したいものがなかったので、好都合だったりして。

さて、先週はCCMとICMの新しいのが出ましたね。
その中で、CCMからこれをご紹介。

Muscedere J, Rewa O, McKechnie K, Jiang X, Laporta D, Heyland DK.
Subglottic secretion drainage for the prevention of ventilator-associated pneumonia: A systematic review and meta-analysis.
Crit Care Med. 2011 Aug;39(8):1985-91. PubMed PMID: 21478738.
http://journals.lww.com/ccmjournal/pages/articleviewer.aspx?year=2011&issue=08000&article=00017&type=abstract

声門下吸引によるVAPの予防について検討した13のRCTのメタアナリシス。
合計症例数は2442例。
13の研究のうち、12でVAPの発生低下が報告されていて、リスク比は0.55。
ICU滞在日数(-1.52日)や人工呼吸日数(-1.08日)が短くなるが、
ICU死亡率(オッズ比1.01)、病院死亡率(同0.97)には影響なし。

VAPの発生って、なんか重要そうな気がするけど、それを半分に減らすのに、死亡率はまったく同じ?
さて、どう思います?
・VAPが減るので、良い。
・命を救うのがもっとも重要であり、それが全く同じでは、意味無し。
・ICU滞在日数などが減るなら、コスト的にも良いのでは。
・2000例以上のデータで、死亡のオッズ比がほぼ1では、症例数を増やしても意味がなさそう。
ふむ。

PubMedを見ていて気がつきましたが、
このグループ(よく見たら、つまりはカナダのClinical Trials Group)、この話題に関していろいろ出してますね。
例えば、

Muscedere JG, Day A, Heyland DK.
Mortality, attributable mortality, and clinical events as end points for clinical trials of ventilator-associated
pneumonia and hospital-acquired pneumonia.
Clin Infect Dis. 2010 Aug 1;51 Suppl 1:S120-5. Review. PubMed PMID: 20597661.
http://cid.oxfordjournals.org/content/51/Supplement_1/S120.abstract

レビューだけど、
VAPの発生は死亡率にはほとんど影響しないことをシステマティックレビューで示してます。

Heyland DK, Muscedere J, Drover J, Jiang X, Day AG; the Canadian Critical CareTrials Group.
Persistent organ dysfunction plus death: a novel, composite outcome measure for critical care trials.
Crit Care. 2011 Mar 18;15(2):R98. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 21418560.
http://ccforum.com/content/15/2/R98/abstract

自分たちが行った栄養に関するRCT(REDOX study)のデータベースを使って、
アウトカムを死亡(moratlity)だけではなく、臓器不全(人工呼吸器とか透析依存、persistent organ dysfunction, POD)も追加すると、アウトカムの発生頻度が27%から46%に増加して、必要な症例数が1232から572に減少するよ、という文献。

20世紀はなんでもかんでも28日死亡率だったけど、90日とか180日とか、もっと長く経過を見ないといけない、という話になり、最近では患者さんのQOLも評価しようとか言われてる。
今後は、RCTのアウトカムも変わっていくのかしら。

まあ、確かにねー、
敗血症の治療中に脳梗塞になっちゃって、気切されて転院、なんてのも病院死亡率には含まれないですもんね。
そう考えると、死亡率には全然影響しなくても、VAPの予防は一所懸命した方がいいのかな。
ということで、慈恵ではちょっと前からカフ上吸引付きの挿管チューブが導入されているのですが、そもそもこれは典型的なVAPだ、と思うことが少ないので、実感はあまり。。。
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急性心不全に対するネシリチド

2011年07月12日 | 循環
メーリングリストで話題に上らないので、そっとNEJMを。

O'Connor CM, Starling RC, Hernandez AF, et al.
Effect of nesiritide in patients with acute decompensated heart failure.
N Engl J Med. 2011 Jul 7;365(1):32-43. PubMed PMID: 21732835.

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1100171

急性心不全で入院した7141症例に対し、ネシリチド(BNP)とプラセボを無作為に割り付けた。その結果、6時間後の呼吸困難がネシリチド群で有意に改善したが、30日までの死亡や再入院には差はなく、腎機能にも影響を及ぼさなかった。

日本にない薬だし、結果はネガティブだし、だからどうした?と思われるかもしれませんが。。。

この薬、
まず心不全の呼吸困難を改善するとしてFDAが認可、
その後、腎傷害と死亡を増やすというメタアナリシスが発表、
そして今回、そのケリをつけるために、メーカーがスポンサーとなった研究が行われ、
結果は、腎機能も悪くしないし殺さないけど、ちょっと早く呼吸困難を減らす以外はいいこともなかった。

いろいろ考えさせられます。
例えば、BNPがダメなら、ANP(ハンプ)はどうなんだ、とか、
症状を早く改善するからと言って、それが予後の改善にはつながらないので、そういう観点で薬の有用性を判断したらいけいない、とか。

もう一つ、
段階的に情報が集積されると、人の持つ知識も段階的になったりして。
・ネシリチドなんか知らない
・心不全に有効だと聞いた
・腎臓を悪くする薬だと聞いた
・結局、どちらでもないという結果になったと聞いた
更に、情報を人から聞いたのか、自分で文献を読んだのかで、もっと細分化される。

でも結果はその薬を使うか使わないかの二択。
周りからはその人の知識の深さは分からない。
つまり、勉強しても評価にはつながらない。
でも、自分の評価のために勉強するんじゃないから、いっか。
でも、たまに切なくなるのは、何故?
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一施設RCTと多施設RCT

2011年07月11日 | EBM関連
いやー、アクセス件数、増えませんねー。
これを読んでくださっているあなた、貴重です。見捨てないでね。。。
文献の内容をもっと解説したら、という意見もあるかもしれませんが、興味を持ったら読んでもらう、がコンセプトなので、それはちょっと違うかと。
”今日のS先生の寝顔”の写真とかを載せた方が、人気が出たりして???

さて、雑談はこれくらいにして。

Annals of Internal Medicineから、EBMのお勉強になる研究。

Dechartres A, Boutron I, Trinquart L, Charles P, Ravaud P.
Single-Center Trials Show Larger Treatment Effects Than Multicenter Trials: Evidence From a Meta-epidemiologic Study.
Ann Intern Med. 2011 Jul 5;155(1):39-51. PMID: 21727292.

http://www.annals.org/content/155/1/39.abstract

最近のメジャージャーナルに発表されたメタアナリシスから、binary outcome(生きるか死ぬか、とか)についてのRCTを集めてきて、一施設RCTと多施設RCTで結果にどんな違いがあるかを検討。
48のメタアナリシスから、421のRCTをピックアップ(一施設223、多施設198)。
その結果、オッズ比の比(ratio of odds ratio、ちょっと面白い言葉)の平均が0.73、つまり、多施設RCTの方が一施設RCTよりも治療効果が小さい、ということ。
簡単に言えば、例えば一施設研究でオッズ比が1.4で有意に生存率を改善した、となっても、多施設研究をするとオッズ比が1になっちゃう、みたいな感じ。

この文献は臨床医学全般についての検討だけど、集中治療の世界でも通じる話。僕の師匠、Dr Bellomoが書いてます。

Bellomo R, Warrillow SJ, Reade MC.
Why we should be wary of single-center trials.
Crit Care Med. 2009 Dec;37(12):3114-9. Review. PubMed PMID: 19789447.

http://journals.lww.com/ccmjournal/pages/articleviewer.aspx?year=2009&issue=12000&article=00017&type=abstract

一施設研究より多施設研究の方がいいって、誰でも聞いたことがあるかもしれないけど、
それが何故か、具体的にどれほどの違いがあるのか、勉強したい方は是非お読みください。
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今月のIntensive Care Medicine

2011年07月04日 | その他
今週は、ちょっと個人的には面白い文献の不作な週でした。

そりゃまあ、NEJMの栄養のやつは別格ですけどね。
メーリングリストでも話題になったし、僕がどうこう言うことはないのですが、
IITで有名になったLeuvenから(ただし今回は7施設)、普通と違うこと(術当日から20%グルコース、もちろん血糖コントロールは80-110mg/dl)をしている状況で、経静脈栄養の開始を遅くすると、死亡率には差がないけど感染とかが少なかった、と言われても、すぐには”おー、そうなのか”とは直感的に思えない感じ。。。

このブログのポリシーはいろいろなジャンルからICU的に面白い文献を紹介することなので、メジャー雑誌はこれくらいに。
でも今週のネタがないなーと思いながら、今朝届いたICMのe-mail alertを見ていたら、ちょっと面白いものを2つ発見。

1つは、"集中治療の父"と呼ばれる、Björn Ibsenについて。

The birth of intensive care medicine: Bjoörn Ibsen’s records
Louise Reisner
Intensive Care Med (2011) 37:1084–1086

Dr Ibsenについてはこれまでもいくつかの記述があって、例えば、

The first intensive care unit in the world: Copenhagen 1953
P. G. BERTHELSEN and M. CRONQVIST
Acta Anaesthesiol Scand 2003; 47: 1190―1195

Dr Ibsenがいかにして世界初のICUを開くにいたったか、が書かれています。

今回のICMの記事のすごいところは、彼が最初に呼吸管理を行ったポリオの患者さんについて数分おきに記載された記録と、2006年に行われたインタビューが掲載されているところ。
モニターも機械も薬もない状況で行われた集中治療、ざっと見るだけでもドキドキもの。

もう一つは、Dr Joachim Boldtのこれまでのペーパーのretraction:つまり、掲載取り消し。
この人、文献を山ほど書いていて、どうもその多くがでっちあげらしい。
Anesthesia and Analgesiaの今年の3月号に大きく取り上げられていて、そして5月号に20以上の文献のretractionのリストが載っている。
今回はそれのICM版で、5本が掲載取り消し。
取り消しの理由は、”病院のIRBに届け出がない"から。”研究結果そのものが不正であることにはならない"、だけど、”現在、患者データを調査中”、だそうです。

文献って、でっち上げで書けちゃうから。だからこそ、科学者としての良心が問われるのよね。

偉い人と偉くない人の話が両方載っている、今月のICMでした。
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