Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

風邪を引きながら働いても良いか?

2012年07月30日 | 感染
今週はちょっとシブ目で。

Brophy GM, Bell R, Claassen J, et al.; Neurocritical Care Society Status Epilepticus Guideline Writing Committee.
Guidelines for the evaluation and management of status epilepticus.
Neurocrit Care. 2012 Aug;17(1):3-23. PubMed PMID: 22528274.
痙攣重積の管理についてのガイドライン。
推奨の記述方法がAHAとGRADEのミックスという、ちょっと不思議な記載方法。”Guidelines are curate’s egg (まずいけど何とか食べられる)”という書き出しで始まるeditorialがついている点もユニーク。つまりは、痙攣重積の管理は根拠のある推奨ができるレベルにない、ということ。参照文献は250くらいあるし、レビューとして読むのが良いか。

Hartog CS, Skupin H, Natanson C, et al.
Systematic analysis of hydroxyethyl starch (HES) reviews: proliferation of low-quality reviews overwhelms the results of well-performed meta-analyses.
Intensive Care Med. 2012 Aug;38(8):1258-71. PubMed PMID: 22790311.
HESについてのレビューとメタアナリシスを集め、その質と推奨内容について検討。メタアナリシスのほとんどはHESの使用を推奨していないけど、レビューは多くが使用を推奨していて、かつそのほとんどは数少ない著者によって書かれていて、かつその多くはconflict of interestがある。
知らないことについて勉強するときは、とりあえずレビューを読むのが早いけど、そこに真実ばかりが書いてあるとは限らない、ということは意識しておく必要あり。

Chen LM, Render M, Sales A, et al.
Intensive Care Unit Admitting Patterns in the Veterans Affairs Health Care System.
Arch Intern Med. 2012 Jul 23:1-7. PubMed PMID: 22825806.
アメリカの118のVA hospitals(退役軍人病院)に入院した28万人の非手術患者のうち、約10%は直接ICUに入院していて、その半数以上が予測死亡率2%以下だった。その状況は施設によって極端に異なり、軽症例がICUに入院する頻度は1.2%から39%(30倍以上!)と大きな幅があった。ICU入室を決める要素のうち、患者の診断名と重症度は10%程度に過ぎなかった。
すごい話だけど、どこかの国も同じだね。

ね?
シブ目だったでしょ。
でも、今週のメインは更にシブい。
Archives of Internal Medicineのresearch letterから。

Jena AB, Meltzer DO, Press VG, Arora VM.
Why physicians work when sick.
Arch Intern Med. 2012 Jul 23;172(14):1107-8. PubMed PMID: 22710803.

ACCPの学会に来ていた、アメリカの1年目と2年目の研修医150人に行ったアンケート。去年1年間で、風邪で仕事を休まなかったことがあるか、あるとしたらその理由は何かについて調査。
その結果、
・51%が1年間で1度は風邪を引きながら仕事をした
・1年目よりも2年目、男性よりも女性にその傾向が強かった
・患者および同僚に対する義務感/責任感が仕事をした理由として多かった(それぞれ57%、56%)
・2年目よりも1年目、男性よりも女性に、“同僚に弱いと思われたくない”ことを理由とした頻度が高い傾向にあった
・9%が風邪を患者にうつしたと思っており、21%が風邪の同僚が患者にうつしたと思っている

さて。
何故、この文献を選んだかというと。
先週、慈恵のICUスタッフで、当直をしに来たけど、周囲から反対され、早退した風邪引きが2人発生。そのうちの一人は自分。
偶然、どちらの場合も当直を代われる日勤者がいたので良かったが、いなければ、もしくは周囲から反対されなければ、そのまま当直をしていたはず。
やっぱり正しくないな、と反省していたら、こんな文献を見かけたので、まあ何てタイミング、と思って選択。
アメリカ人って、風邪で休まない人が結構多いんだな、というのと、患者さんにうつしたと思っている人が9%もいた、という2点が“へー”だった。

でも、風邪引きながら働いたことがない日本人なんて、いないんじゃないだろうか?
医療従事者は、ましてやICUで働く医療従事者は絶対に休むべき、と頭では分かっていても、なかなかねー。

うーん、あまりにもグッドタイミングだったので選んだが、考察は無理だな、こりゃ。
なので、Editor’s noteの一文を引用しておしまい。”Admirable sense”というのが否定できないところが我ながら格好悪い。

Grady D.
I just feel terrible: comment on "why physicians work when sick".
Arch Intern Med. 2012 Jul 23;172(14):1108-9. PubMed PMID: 22825063.

“Working while sick may demonstrate an admirable sense of responsibility to patients and colleagues, but clinicians also need to worry about the real danger of infecting vulnerable patients as well as colleagues and staff."
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血液ガスが逆転、って何だ?

2012年07月28日 | ひとりごと
そりゃ意味は知ってる。
動脈血液ガス分析において、PCO2がPO2よりも高くなったときに使われる表現。

不思議な言葉だ。医学的に意味がない。
PCO2が100で、PO2が80だったら、それは高PCO2血症が問題。
PCO2が45で、PO2が35だったら、それは低PO2血症が問題。
体はPO2とPCO2を比べていない。

”血ガスが逆転してる”と報告してきたナースに、そんな説明をしたら、キョトンとされてしまった。
みんな使ってるのに、何言ってんだ、ということだろうか。

そうそう。
異国に留学しているときに、血ガスを測定しに行ったナースが、結果を手に持って、少し興奮気味に帰ってきた。
何事だと思ったら、
"Hey, Look! Both PO2 and PCO2 are 69!"

医学的に意味がないという点では、逆転と同レベル。
外国でもそういう表現をするんだ、ということが分かっただけ、こっちの方が有益な情報か。

最近、ひとりごとが増えた。
加齢によるものでは、断じてない。
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腎代替療法の開始のタイミング

2012年07月23日 | 腎臓
まず、ミーハーに、CCMから3つ。

Bellomo R, Ackerman M, Bailey M, et al.; The Vital Signs to Identify, Target, and Assess Level of Care Study (VITAL Care
Study) Investigators.
A controlled trial of electronic automated advisory vital signs monitoring in general hospital wards.
Crit Care Med. 2012 Aug;40(8):2349-2361. PubMed PMID: 22809908.
僕のボス、Dr Bellomoが1st author。その名もVITAL care study。
病棟に、フィリップスが作った新しいモニター(バイタルサインが簡単に測れる)を導入した前後で、病棟患者の予後を評価。モニター導入後、呼吸数の異常でrapid response teamが呼ばれる頻度が増えて、病院死亡率が低下して、全入院患者の在院日数も減少した。モニターがそこまでの効果を示すのか疑問だけど、5カ国10病院、18000症例での検討。

Davies AR, Morrison SS, Bailey MJ, et al.; for the ENTERIC Study Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group.
A multicenter, randomized controlled trial comparing early nasojejunal with nasogastric nutrition in critical illness.
Crit Care Med. 2012 Aug;40(8):2342-2348. PubMed PMID: 22809907.
ANZICS-CTGから。経管栄養中に胃からの逆流が増えた患者さんを、そのままNGで管理するか、勝手に小腸まで進むチューブに入れ替えて、NJで管理するかを比較したRCT。約90%で小腸にチューブは到達。でも、経管栄養の投与量は両群とも目標の7割で差無し。しかも、NJの方が消化管出血が多かった。NJチューブが経管栄養の成功に関与しなかった理由は文献を読んでもらうとして、胃に栄養を入れると消化管出血の予防になる、というのが間接的に示されていて面白い。

Marik PE, Flemmer M, Harrison W.
The risk of catheter-related bloodstream infection with femoral venous catheters as compared to subclavian and internal jugular venous catheters: A systematic review of the literature and meta-analysis.
Crit Care Med. 2012 Aug;40(8):2479-85. PubMed PMID: 22809915.
鼠径にCVを入れると本当に感染は増えるのか、ということに改めて疑問を持った人がメタアナリシスをやった。そしたら、文献の発表時期が新しいほど、鼠径のCVの感染率は減少し、まとめると有意差がなくなった。ガイドラインでクラス1Aで推奨するのは無理じゃないの、という結論。いやー、maximal barrier precautionにケチがついたと思ったら、今度は鼠径かい。エビデンスの振り子現象、またもや、ですな。

で、今日のメインはNDTから。

Clark E, Wald R, Walsh M, et al.; for the Canadian Acute Kidney Injury (CANAKI) Investigators.
Timing of initiation of renal replacement therapy for acute kidney injury: a survey of nephrologists and intensivists in Canada.
Nephrol Dial Transplant. 2012 Jul;27(7):2761-2767. PubMed PMID: 22207332.

カナダの集中治療医と腎臓内科医を対象とした、AKIに対する腎代替療法(RRT)の開始時期についてのアンケート調査。AKIの重症度に関連した項目(クレアチニン、尿素、カリウム、pH、尿量、肺水腫、抹消の浮腫、脳症)がどれくらいになったらRRTを開始するかについて聞き、かつ、具体的な症例も提示して質問。
その結果、
・180人が参加、集中治療医と腎臓内科医はだいたい半々
・カリウムと肺水腫を考慮しないと答えた人はほぼいなかった
・逆に、それ以外の項目は、10から40%の人が気にしないと答えた(例えばクレアチニンは43%が気にしない)
・それぞれの項目で、RRTを開始するとした閾値はバラバラだった
・腎臓内科医は集中治療医に比べ、肺水腫や尿量の閾値が低く、クレアチニンと尿素の閾値は高かった。

さて。
カリウムと肺水腫がもっとも重要視されるのは当然。だって、死んじゃうもんね。逆に、それ以外の項目が本当に体に有害なのかは分からない。pHが低いと有害?誰も知らない。
腎臓内科医と集中治療医の差はよく分からない。カナダ人の特徴だろうか。

この研究は、どの指標を使ってどれくらいの閾値を設定するかなど、RRTのタイミングについてのRCTを行うことを念頭において作られているようで、実際、質問の最後で、タイミングについてのRCTは倫理的に実施可能かという質問に対し94%がイエスと答え、そういう研究の参加に興味があるかという質問に対し、82%がイエスと答えている。

例えば、50%くらいの人がRRTを開始するとした閾値を使って、それより軽度で開始するか重度で開始するかで二群に分ける。複数の項目を設定し、どれか一つでも基準を満たしたら開始、とする。ほとんどの人がRRTをやるとしたような値は除外基準に含める。

RRTの開始のタイミングは、AKIの世界ではホットな話題の一つだけど、なかなか研究が進まない。理由の一つは、何をもって早い遅いを決めるかが難しいから。その閾値の設定としては、少なくともこのアンケートに参加した人達にとっては、このやり方は妥当だ。

アンケート好きな私としては、
(http://www.jseptic.com/rinsho/questionnaire.html)
ちょっと、ほっておけなかったので選んだのだけど、
アンケートって、こんな結果でしたよー、ふーん、で終わってしまいそうなのに、この研究は結果がダイレクトに次に繋がりそうで、すごいなーと思った。と言うか、次に繋げるために質問が作られているので、明確なんだろうな。
アンケート研究、なめちゃいけませんな。
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風邪ひいた。

2012年07月22日 | ひとりごと
温度差にやられた。
決して、加齢のために免疫能が低下したからではない。
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大腸癌術後感染とCRP

2012年07月16日 | 感染
連休中なので、サラッと。

Kamel H, Johnston SC, Kirkham JC, et al.
Association between major perioperative hemorrhage and stroke or q-wave myocardial infarction.
Circulation. 2012 Jul 10;126(2):207-12. PubMed PMID: 22679143.
非心臓/脳外術後に出血(RCC 4u以上の輸血を必要)した人は、その後30日以内に心筋梗塞や脳梗塞を起こす確率が2.5倍になる。周術期の抗血小板薬の投与/中止/再開って、難しい、という話。

Ionescu-Ittu R, Abrahamowicz M, Jackevicius CA, et al.
Comparative Effectiveness of Rhythm Control vs Rate Control Drug Treatment Effect on Mortality in Patients With Atrial Fibrillation.
Arch Intern Med. 2012 Jul 9;172(13):997-1004. PubMed PMID: 22664954.
66歳以上の入院患者で、入院中にそれまで処方されていなかった抗Af薬(レートコントロールかリズムコントロール)が入院中に開始になった人を長期(平均3年)にフォロー。リズムコントロールを受けた人は最初の6ヶ月の死亡率は少し高い(HR 1.07)けど、その後はレートコントロールよりも死亡率が低くなる(HR 0.89)。複数のRCTで同等とされているAfのレートコントロールとリズムコントロールだけど、未だに観察研究がメジャー雑誌に掲載されるということは、まだ議論が終わっていないということらしい。

Navickis RJ, Haynes GR, Wilkes MM.
Effect of hydroxyethyl starch on bleeding after cardiopulmonary bypass: A meta-analysis of randomized trials.
J Thorac Cardiovasc Surg. 2012 Jul;144(1):223-230.e5.PubMed PMID: 22578894.
心外術後のスターチとアルブミンを比較したRCTのメタアナリシス。18研究、970名が対象。術後のスターチの投与は出血を増やし、再手術の必要性を倍以上にする。ただし、多くの研究は分子量の大きい古いスターチを対象としており、新しいHES 130/0.4とアルブミンの十分な比較は無い。でも、HES 130/0.4と200/0.5の比較では差を認めておらず、推して知るべし?
さー、いよいよ肩身が狭くなってきたスターチ。日本のHES 70/0.5についてはほとんど情報無し。このまま我関せずで使い続けるか、スターチは全部駄目と考えて使用を止めるか、それとも比較をするか?
来月、ジャーナルクラブで取り上げる予定。

今週のメインには、サラッと行くのにはこれがちょうど良いかな、的な話題を選択。

Warschkow R, Beutner U, Steffen T, et al.
Safe and early discharge after colorectal surgery due to C-reactive protein: a diagnostic meta-analysis of 1832 patients.
Ann Surg. 2012 Aug;256(2):245-50. PubMed PMID: 22735714.

大腸癌術後の感染症の発生をCRPは予測できるか、について検討した6つの研究(合計1832名)のメタアナリシス。術後1-5日目のそれぞれのCRPの精度を検討。
・一番精度が高かったのはPOD 4で、AUROCは0.81
・カットオフは13.5mg/dlで、オッズ比は11.7、感度68%、特異度83%、陰性予測率は89%

さて。
外科医が、”まだCRPが高いので術後の抗生剤はもう少し使っていたい”と言っているのを聞いて、おめー、それってどんな根拠があるんじゃい、と思っていたので、それに関連した文献だったから読んでみた。

まず、合計1830例のうち、1187例は一つの研究からで、かつ、同じ著者がやった研究。症例数的にも、著者の好み的にも、バイアスがありそう。
でも、オッズ比が10を超えているので、検査として意味があるとは言えそう。でもでも、陰性予測値が89%じゃ、10回に1回は間違えるということで、CRPのみで判断するのは相当無理がありそう。
POD 4が一番精度が高かった、というのは納得。そろそろ手術の影響は無くなってきて、感染の確率が高くなってくる時期。

”CRPがいくつだからこうしよう”は言い過ぎ、”術後のCRPなんて測定の意味無し”も言い過ぎ。
分かりきった結論で、今日はおしまい。
おそまつ。
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治療の中止と外科医

2012年07月09日 | 終末期医療
先週は、久しぶりにダウンロードした文献の数が少ないので、ルンルン。
ま、自分で選んでるんですけどね。

Saczynski JS, Marcantonio ER, Quach L, et al.
Cognitive trajectories after postoperative delirium.
N Engl J Med. 2012 Jul 5;367(1):30-9. PubMed PMID: 22762316.
60歳以上の心臓外科術後患者225例を対象。術前および術後(2日、1ヶ月、6ヶ月、12ヶ月)の認知機能をMMSEを用いて評価し、それとCAMで診断されたせん妄の発生との関連を調べた。術後にせん妄が起こると、長期の認知機能に悪影響が出る。
ジャーナルクラブ候補。

Mees SM, Algra A, Vandertop WP, et al.
Magnesium for aneurysmal subarachnoid haemorrhage (MASH-2): a randomised placebo-controlled trial.
Lancet. 2012 May 25. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 22633825.
SAH患者のスパズム予防にマグネシウムは有効か、について検討したRCT。さらに、これまでのRCTの結果を合わせたメタアナリシスも施行。結果は、どちらも無効。今回の症例数が1204例、過去7研究を合わせた症例数が2047例なので、いかにこの研究が大きいかが分かる。

ダウンロードした文献は少ないけど、その中に気になった研究があったので、それを紹介。
Annals of Surgeryから。

Schwarze ML, Redmann AJ, Brasel KJ, et al.
The role of surgeon error in withdrawal of postoperative life support.
Ann Surg. 2012 Jul;256(1):10-5. PubMed PMID: 22584696.
リスクの高い手術をするアメリカの外科医(心臓外科、血管外科、脳外科)を対象にしたアンケート調査。術後に脳梗塞が起った架空の症例を提示し、患者が治療の中止を希望したときの外科医の対応について検討。手術が予定か緊急か、脳梗塞が術中の人為的ミスかどうか、で2x2=4通りのアンケートを作成。
その結果、
・63%は患者の希望を承諾しないと回答
・治療の中止を承諾する頻度は、
 ・予定よりも緊急
 ・人為的ミスでない
 ・予後は良いと考えている
 ・心臓外科医よりも血管外科医
 ・若い外科医
の場合に、多い。
・予定手術の人為的ミスに比べ、緊急手術でミスが無かった場合は、患者の希望を承諾するオッズが倍になる。

さて。
まず、提示された架空の症例は、(少なくとも日本人から見ると)ちょっと不思議。術後(上行置換、胸腹部大動脈瘤、もしくは脳動脈瘤のクリップ)に目が覚めたら右半身の動きが弱かった、だけ。

まあ、それは置いておいて、もっと重篤な合併症が起こって、患者本人ではなく家族が治療中止を希望したとして考えてみる。きっと結果はそれほど変わらないだろうと想像/仮定する。
差のついた項目を見ると、納得の結果。まあ、そうだろうな、という感じ(心臓外科と血管外科の違いはよく分からないけど)。でも、だからこれで良い、ということにはならないと思う。予定手術中の自分のミスで患者さんに予定外の合併症が発生した時に、治療の中止を決断するのが難しいというのは感情的にはとても理解できるけど、患者さんや家族にとっては結果がすべてであり、医者の感情で治療方法が決定されても良いのだろうか。
具体的には書けないけど、自分の経験でも、外科医の判断に驚かされたことは少なからずある。

別の視点から見てみる。
こういう状況で、外科医に多大なストレスがかかるというのはとても理解できるし、同情する。外科医の人為的ミスは内科系の医師(集中治療医含む)のミスよりも明白だったりするので、ストレスもより大きいに違いない。

今はチーム医療の時代。外科医個人がそのストレスを抱え込まないで、他の医療者と分け合うことは出来ないだろうか。集中治療医はその役を担えないだろうか。十分な信頼関係があればできるのかな。自分の力不足か。

他の人達はできているのかな。例えば、完全なclosed ICUの国であるオーストラリアではどうなんだろう。うーん、覚えていない。

この文献の最初に書いてあった言葉。
外科医は大変だ。

When the patient of an internist dies, his colleagues ask, “What happened?”
When the patient of a surgeon dies, his colleagues ask, “What did you do?”
ーCharles Bosk, Forgive and Remember
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脳出血とPCC

2012年07月02日 | 神経
いやー、びっくりしたね。
NEJMにICU関連の文献が3つも出るなんて。

Kang DH, Kim YJ, Kim SH, et al.
Early surgery versus conventional treatment for infective endocarditis.
N Engl J Med. 2012 Jun 28;366(26):2466-73. PubMed PMID: 22738096.
感染性心内膜炎の患者をすぐに手術するか待つか、でRCT。死亡率は3%と5%で有意差無しだけど、塞栓症状が早期手術で有意に少なかった。Nがたったの76例なのにNEJMに載るとは、いかにIEの手術適応についての情報が少ないか、ということでしょうか。ちなみに韓国の研究。

UCAS Japan Investigators, Morita A, Kirino T, Hashi K, et al.
The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort.
N Engl J Med. 2012 Jun 28;366(26):2474-82. PubMed PMID: 22738097.
お!
日本からの研究だ!
未破裂脳動脈瘤患者5720名を長期にフォローアップ。破裂率は全体で0.95%/年。大きさ/形/場所が破裂率と関連。
ちなみに、すべての脳動脈瘤のうち偶然見つかったのが91%。さすが日本。

と思ったら、なんと同じく先週出たJournal of Neurosurgeryに同じような文献を発見。
Lee EJ, Lee HJ, Hyun MK, et al.
Rupture rate for patients with untreated unruptured intracranial aneurysms in South Korea during 2006-2009.
J Neurosurg. 2012 Apr 20. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 22519434.
韓国の未破裂脳動脈瘤5963人のデータ。破裂率は0.9%/年。
同じくらいの症例数で、同じような研究なのに、何でこっちがJ Neurosurg(インパクトファクター3点くらい)で、日本のがNJEM(インパクトファクター無限大)かというと、韓国のは、国の病名データベースを使って、後ろ向きで検討しているだけなのに対し、日本のは前向きの多施設観察研究で、動脈瘤についての詳細な情報も含んでいるから。
なんか、日本が勝った感じで嬉しい。

Perner A, Haase N, Guttormsen AB, et al.; the 6S Trial Group and the Scandinavian Critical Care Trials Group.
Hydroxyethyl Starch 130/0.4 versus Ringer's Acetate in Severe Sepsis.
N Engl J Med. 2012 Jun 27. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 22738085.
正確にはEpubなのでまだ掲載されていないけど、集中治療的には一番のインパクト。
Severe sepsis798例を2群にわけ、補液を酢酸リンゲルでするか、HES 130/0.4でするかを比較。HESの方が、RRTを必要とする腎傷害が多く、出血が多く、死亡率も高かった。
ちなみに日本のHESは70/0.5なので、種類は違う。でも、それなら使っていいのか?
ということで、JSEPTICのジャーナルクラブで、Pro/Conを開催予定(8月中)。乞うご期待!

ちなみに先週のICMにはゼラチン(日本には無いけど、海外ではメジャーなコロイド補液)についての文献が出ていた。
Thomas-Rueddel DO, Vlasakov V, Reinhart K, et al.
Safety of gelatin for volume resuscitation-a systematic review and meta-analysis.
Intensive Care Med. 2012 Jul;38(7):1134-42. PubMed PMID: 22527076.
過去40年で40のRCTが発表されているが、どれも症例数が小さく、重要なアウトカムについて十分なパワーのある研究は無い。もしかしたら、死亡率や出血は増えるかも、という結果。

アルブミンは使っても使わなくてもいっしょ、
人工のコロイドは毒、
セプシスやARDSやAKIでは補液をしすぎると有害。
クリスタロイドをちょこっとだけ使えってこと???

NEJMはmust readなので、メインは別の雑誌から。

Dowlatshahi D, Butcher KS, Asdaghi N, et al.; on behalf of the Canadian PCC Registry (CanPro) Investigators.
Poor Prognosis in Warfarin-Associated Intracranial Hemorrhage Despite Anticoagulation Reversal.
Stroke. 2012 Jul;43(7):1812-1817. PubMed PMID: 22556194.
カナダでは、2008年からワーファリンを飲んでいる患者さんの頭蓋内出血に対し、prothrombin complex concentrate(プロトロンビン複合体製剤、PCC)の保険適応が通った。そこで、PCC使用患者のレジストリを作って、その効果を評価した。その結果、
・3年間で141名に使用され、そのうち脳出血は71例。
・投与前のINRは平均2.6、投与後1時間で約70%の患者でINRが1.5未満になった。
・フォローのCTで45%に血腫の拡大が見られた。
・脳出血患者の病院死亡率は42.3%。
・投与後1週間以内の血栓性の合併症は141例中3例に発生。

さて。
まずご存じない方のために。
このPCCという薬、日本でもファイバという商品名で販売されているけど、保険適応上の効能効果は、”血液凝固第VIII因子又は第IX因子インヒビターを保有する患者に対 し、血漿中の血液凝固活性を補いその出血を抑制”となっていて、頭蓋内出血には原則的に使用できない。
FFPよりも少ない量で早くINRを正常化することができるので、AHA/ASAのガイドラインなどでは推奨されている。

じゃあ、それにどれくらいの根拠があるかというと、これがビックリするほど少ない。
なので、とりあえず使用してみたけど、血腫も拡大するし、死亡率も低くない。どーも、ワーファリンに関連した頭蓋内出血の特効薬、ということではないらしい、というのが結論。
ただし、これまでワーファリン関連の脳出血の死亡率は60%以上と言われていたので、それよりは少ない。コントロールがないので分からないけど。

ふーむ。
相変わらず、脳出血には治療法も無いし、研究も少ないねー。
と思ったら、FFPとPCCを比較したRCTが行われているらしい。
Steiner T, Freiberger A, Griebe M, et al.
International normalized ratio normalisation in patients with coumarin-related intracranial haemorrhages--the
INCH trial: a randomised controlled multicentre trial to compare safety and preliminary efficacy of fresh frozen plasma and prothrombin complex--study design and protocol.
Int J Stroke. 2011 Jun;6(3):271-7. PubMed PMID: 21557816.

せめて、
ワーファリンを飲んでいる患者さんが頭蓋内出血になったら、何をどれくらい投与して、これくらいの効果があるよ、くらいは分かるようになったらいいな。
それまでは、速攻でFFPを入れる、ですかねー。
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