Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

AI予測をICUの実臨床でリアルタイムに使用する②

2023年07月05日 | AI・機械学習
まず2の注意点について。
例として、抜管と挿管、昇圧剤の開始と終了、CRRTの開始と終了、抗菌薬の開始と終了、譫妄の発生と改善、AFの発生と改善をあげたが、このうち譫妄とAFは少し意味合いが異なる。なぜなら変化が激しい可能性があるから。例えばAFなら、SRだった患者さんがAFになり、その状態が数日続いてSRに戻りICU退室、なんて綺麗な経過にはならず、数時間、場合によっては数分でAFとSRが繰り返される。そうするとAFの発生を予測しようとしても、予測ポイントがたくさんあって、何を予測しているのかイマイチ分からなくなり、結果も臨床的な意義が乏しくなってしまう。
CRRTも難しい。理由は回路交換と短期的な使用(昼間だけCRRTするとか)。回路交換のたびに開始と終了を定義していたら、患者の状態が本当の開始終了時とは異なるので予測が正しくできなくなってしまう。例えば中断してから再開するまで24時間以上経過したら終了と定義するなどと決めることはできるが、何らかの理由で24時間以上間があくことはあるし、2日に1回、日中だけCRRTをするなんてこともある。
こんな感じで、どのイベントも開始と終了を定義するのは思いのほか難しく、項目毎に臨床判断が要求される。逆を言えば、意義のある開始終了が定義できれば臨床での使用は可能。

3の問題点について。
こちらも2と同様の問題が起こる。状態を単純に0か1で記載し、それを前にシフトさせれば済む気がするが、そうすると例えばCRRTの回路交換による中断も予測対象になってしまう。なのでやはり開始と終了を個別に定義する必要がある。
しかし実はもっと大きな問題がある。それは、現在の状態が未来の状態予測に強く影響を与えてしまうこと。例えば今が譫妄なら24時間後も譫妄の確率が高く、逆も言えてしまう。その結果、実際に臨床応用すると、今は譫妄で24時間後の譫妄状態の確率は90%、でも1時間後にCAMが陰性になると24時間後の確率が急激に10%になったりする。これではリアルタイムに予測しても意味がない。
この問題、研究段階では気がつかないことが多い。しかもAUROCなどの精度は当然高いので、「精度高く予測することができ、臨床で有意義な情報となりうる」的な結論が書かれる。
では現在の状態をデータとして使用しなければいいと思うかもしれない。でも、それが可能な時もあるだろうけど、例えば人工呼吸関連の情報を一切使用しないで将来の人工呼吸の使用状況を予測することなんて不可能でしょう。
結論として、現在の状態をデータとして使用しないで済むアウトカム(相当珍しいと思う)以外では、状態の予測は実臨床では意味がないと言ってしまっていいかもしれない。譫妄やAFの予測をした研究ってたくさんあるのだけどね。

この話、先日のHypotension Prediction Indexと強く関連する。機械が動いているところを実際に見たことがないので分からないが、どうも15分後のMAPの予測が現在のMAPの値と強く相関するらしい。本当にそうなら、単にMAPを高めにアラーム設定しておけば済むので、やはり実臨床では意味がないかもしれない。

4の問題点について。
まず単純に、解析時は時系列データ全てではなく介入時のデータのみを使用するので、Nが大きく減ってしまう。例えば自治さいたまでは、過去5年間にICUで抜管が約3000回行われ、そのうち約180回(だいたい6%)で再挿管となっている(文献的にはだいたい5-10%と言われているはず)。5年間の全患者の観察時間は約100万時間なので、圧倒的にNが小さい。もちろんその分、精度は悪くなる。
しかし実は、もっと大きな問題がある。それはリアルタイム予測をそもそもどう行えばいいかが難しいこと。
例えば、抜管後の再挿管を予測したいとする。解析は抜管前のデータを使用すればいいので難しくない。しかし、抜管前にはFiO2は低くなっているし、深鎮静もしていない。なので予測モデルはFiO2も鎮静剤も重要な因子として使用しない。そうすると、「今もし抜管したら再挿管になる確率」をリアルタイムに示そうとすると、FiO2が1.0で筋弛緩を持続投与している時でも100%にはならない(実際には事故抜管したら大慌てなのに)。これは解析時に使用したデータと状況が同じでないと実臨床での予測ができないということで、そもそも抜管基準を満たして、鎮静もオフして、カフリークとかもOKなのでいざ抜管、という状況にしてからじゃないと予測ができなくなるということ。それって臨床的に役に立つとは言いにくい。例えば朝のカンファで、「この患者さん、抜管できるか微妙だな」と話している時に、「AIは再挿管率を10%しか予測していないのか、じゃあチャレンジしてみるか」という感じで情報を提示できるから意味があるのに。

これにて今回の備忘録は終了。
予測モデルを臨床応用しようとすると、研究時には気がつかない問題がいろいろ発生する。
「へー、面白い」と思ってくれた人がいたら嬉しいけど。
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