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Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

CO2-O2由来の指標に基づく急性循環不全の治療

2025年04月19日 | 循環
Guinot PG, Evezard C, Nguyen M, et al.; Lactel Study Group.
Treatment of Acute Circulatory Failure Based on Carbon Dioxide-Oxygen (CO2-O2) Derived Indices: The Lactel Randomized Multicenter Study.
Chest. 2025 Apr;167(4):1068-1078. PMID: 39615831.


僕はCO2ギャップやScvO2を臨床で使ったことが(ほぼ)なかった。「そこじゃないだろ」と思っていたので。今でもそう思うけど、その辺はこの文献のeditorialに書いてあるので、違う話をする。

少し極端なことを言えば、乳酸は循環不全によって産生されるものではなし、循環不全の指標でもない。この文献のIntroductionには、
"At the bedside, even though arterial lactate clearance may not always be associated with tissue hypoperfusion, it remains the most commonly used surrogate for hemodynamic resuscitation."
「ベッドサイドでは、動脈乳酸クリアランスが必ずしも組織低灌流と関連するとは限らないとはいえ、血行動態蘇生の代用として最も一般的に用いられている。」
という、ちょっと中途半端な書き方をしている。もしかしたらrevewerから突っ込まれて渋々記載したのかもしれないが、今回の研究の根本となる仮説を自分で半分否定しているところは面白いし、根拠として弱いことを示している。

教科書には、乳酸の産生には2タイプあって的なことが書いてあるが、もう面倒なのでそういう考え方はやめたらどうかと思う。区別はつかないし、きっと両方が同時に起こっているだろうし。それよりも、もっとシンプルに、「乳酸は重症度の指標」、もしくは「乳酸は患者さんの悲鳴の象徴」とでも考えたらどうか。つまり、

循環不全が起こる→末梢などで乳酸が産生される→循環を改善する介入を行う→乳酸が下がる→患者さんにとって良いことが起こる

というのは、高乳酸血症の原因が複数あるので成立せず、本研究を含む過去の介入研究の多くで乳酸は低下していないことから、無理がある。なのでこの考え方はやめて、

患者さんの具合が悪くなる→その指標として乳酸が上がる→なぜ具合が悪いか考えて対応する→患者さんの具合が良くなる→乳酸が下がる

と考えた方が間違いが少なく、無駄な介入をしなくなり、結果的に良いことが起こるのではないか。どちらの考えでも結局は同じことをするのだから一緒じゃないかと反論されるかもしれないが、ベン図が完全に重なっているわけではなく、質的な表現しかできないけど、その重なった部分は大きくない、はず。

とりあえず、高乳酸血症を見たら、循環不全か?と考えるのをやめて、具合が悪いか?と考えるようにしてみないかい?
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OPCABにおける組織酸素化と血行動態モニタリングによるケア

2025年04月15日 | 循環
Han J, Zhai W, Wu Z, et al.; Bottomline-CS investigation group.
Care guided by tissue oxygenation and haemodynamic monitoring in off-pump coronary artery bypass grafting (Bottomline-CS): assessor blind, single centre, randomised controlled trial.
BMJ. 2025 Mar 24;388:e082104. PMID: 40127893.


60歳以上のOPCAB、1960例。術中から抜管まで、額と前腕の組織酸素分圧をモニタリングし、その値に応じた対応プロトコルを作成。Primary outcomeは術後の合併症の発生頻度。結果は47.3% vs. 47.8%で同じ。

いろいろな臓器をいろいろな測定方法で数値化して、それぞれの患者さんにあった管理をしようという考えを最近はprecision medicineとか呼んでいるけど、別に新しい考えじゃない。ずっと昔から、集中治療はかくあるべき、そういう方向に向かうべき、近未来はそうなっている、的な話をよく聞いてきた。
僕はある時から、それは違うんじゃないかと思うようになった。なので、一所懸命にいろいろな機械を使って測定したり数値を計算したりしている人を見るたびに、別のことに時間を使ったらどうかと言いたくなるのだけど、きっと楽しいんだろうなと思って言わないようにしている。

なんかね、「患者さんを良くしよう」と考えるのがおこがましい気がしてしまうのですよ。医療者の仕事は、特にICUの仕事は、患者さんが自分で良くなろうとしているのを邪魔しないことだと思うので。もちろん低酸素に酸素を投与したり低血圧に昇圧剤を投与したり感染症に抗菌薬を投与したりはするのだけど、それは当然のことで、「患者さんを良くしよう」というのとはちょっと違う気がする。余計なことをして困らせないようにしたり、「ちょっと手伝って」というサインを見逃さないようにしたりして、患者さんが自分で良くなろうとしているのをサポートする、それがICUが患者さんに提供できることではないか。経過表を隅から隅まで読んだり、数日前の画像や読影レポートや検査結果を見返したり、指示簿に間違いがないか確認したり、何度もベッドサイドに行ってナースや患者さんや家族と話をしたり、みんなで知識の共有をしたり、間違いが起こったらみんなで考えたり。うーん、どれもつまらなそうだ。それよりも、新しい医療機器を使いこなしたり、波形をかっこよく説明したり、数値計算をして論理的に考えたりする方が楽しいよね。「見逃しをなくそう」なんてレクチャー、誰も聞きに来ない。

チョー未来に画期的な測定方法が発明されたら話は別だけど、少なくともこれまでICUにおいてprecision medicineの有効性が明確に示されたことはないし、しばらくはこの状況が続くはず。なので、今やっていることは10~20年後には高確率で流行が終わって廃れているか、無効であることが証明されているかのどちらかで、「昔はこんなことしてたんだよ」と、その時の若者に昔話をするようになっている可能性の方が高い。この点は自分に言い聞かせていないと、時間の使い方を間違えてしまうかもしれない。

うわっ、年寄りくさいわ。
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BJAに血圧の小ネタが2つ

2025年03月26日 | 循環
出てたので、まとめて紹介。

Ding XY, Chen ZZ, Chen H.
Both intensity and duration of arterial blood pressure exposure are associated with mortality in critically ill patients: a retrospective database study.
Br J Anaesth. 2025 Apr;134(4):1193-1196. PMID: 39884890.

平均血圧の閾値を48から130と動かし、その域値を下回った(か上回った)時間をY軸に、死亡のオッズをヒートマップで書いた。図が綺麗。
やっていることは単純で、どうして自分で思いつかなかったんだ?という驚き。

Chemla D, Jozwiak M, Hamzaoui O, et al.
Mean arterial pressure as the harmonic mean of systolic and diastolic blood pressure in radial and femoral arteries during early septic shock resuscitation.
Br J Anaesth. 2025 Apr;134(4):1190-1192. PMID: 39863472.

SBPとDBPからMBPを計算するときに、普通に2:1の内分点を取るよりも、調和平均、つまり、
MAP = (2 * SBP * DBP) / (SBP + DBP)
の方が、実際のMBP(時間平均)に少しだけ近い。へー、知らなかった、という驚き。

小ネタって、楽しい。
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周術期の肺動脈カテーテル使用が心臓手術後の臨床転帰に及ぼす影響

2025年03月24日 | 循環
Ju JW, Chung J, Heo G, et al.
Impact of Perioperative Pulmonary Artery Catheter Use on Clinical Outcomes After Cardiac Surgery: A Nationwide Cohort Study.
Chest. 2025 Mar;167(3):746-756. PMID: 39426719.


韓国の保険請求のデータベース(だと思う)を使った研究。PACを周術期に使った方が死亡率が低い。

まあ。JIPADの研究と結果が違うじゃないですか。
文句1:参照してくれてない。ちゃんとサブグループで心外もやっているのにー。
文句2:もっとも有効なグループはOPCABで、オッズ比が0.54。弁手術のオッズ比は1前後。PACが有効だとすれば心臓が弱い人たちのはずなのに?

そうです。ただ文句が言いたかっただけです。
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人工知能を用いた周術期目標指示療法

2025年03月06日 | 循環
Habicher M, Denn SM, Schneck E, et al.
Perioperative goal-directed therapy with artificial intelligence to reduce the incidence of intraoperative hypotension and renal failure in patients undergoing lung surgery: A pilot study.
J Clin Anesth. 2025 Mar;102:111777. PMID: 39954384.


片肺換気を行う肺手術150例、術中にHPIを使うかどうかでRCT。HPIを使った群の方が術中低血圧が少なかった、と。

この文献でHPIの息の根は止まったのだけど、その前から行われていた研究はあるから、まだしばらくはチョロチョロ出てくるでしょう。
でも大丈夫。「RCTでHPIの有効性が示されている!」とか思う前に、control groupでMAP<70とかでアラーム設定したかどうかを確認すればいい。もし記載がなければ、その研究の結果は気にしなくていいです。HPIとMAPはほぼ同等だから、HPIは事前にアラーム鳴らすのにコントロールがそうしていなければ対等な比較ではないので。
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機械学習モデルにおける周術期心筋損傷の予測因子としての拡張期 vs 収縮期 vs 平均血圧

2025年03月01日 | 循環
Valadkhani A, Gupta A, Cauli G, et al.
Diastolic Versus Systolic or Mean Intraoperative Hypotension as Predictive of Perioperative Myocardial Injury in a White-Box Machine-Learning Model.
Anesth Analg. 2025 Feb 20. Epub ahead of print. PMID: 39977341.


498例中20%でPMIが発生。PMIの発生に最も関連が強かったのは拡張期血圧。かつ術前からの相対値ではなく絶対値。

Figure 3と4を見ると、平均血圧は拡張期とほぼ同等なのに対し、収縮期は明らかに低い。
とりあえず、集中治療医と麻酔科医は低血圧の話をするときに収縮期で会話するのはもうやめよう。

と10年以上前から言っているが、僕の周囲も普通に収縮期で会話していて笑える。
ついでに"実測"という言葉もネットで今でも普通に使われていて、これも笑える。
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消化器手術患者に対する心拍出量ガイド下血行動態管理

2024年12月13日 | 循環
最近のBMJに興味深い研究が2つ。

Liu B, Zong G, Zhu L, et al.
Chocolate intake and risk of type 2 diabetes: prospective cohort studies.
BMJ. 2024 Dec 4;387:e078386. PMID: 39631943.

チョコレート、特にダークチョコレートを食べると糖尿病の発症が減る。でもミルクチョコレートだと体重が増える。
"consuming ≥5 servings/week"というのがどれくらいかChat先生に聞いたところ、だいたい板チョコで2-2.5枚だそうだ。結構食べて良いみたい。我慢せず食べちゃおうかな?でもミルクチョコレートも美味しいんだけどな。むむむ。

冗談はさておき(いや、結構本気で考えていたりするけど)、本命はこちら。

OPTIMISE II Trial Group.
Cardiac output-guided haemodynamic therapy for patients undergoing major gastrointestinal surgery: OPTIMISE II randomised clinical trial.
BMJ. 2024 Dec 3;387:e080439. PMID: 39626899.


ASA II度以上の消化器手術患者、約2500例。手術中にFloTrakを用いたプロトコルで循環管理をするかどうかでRCT。Primary outcomeは30日以内の感染症の発症。その結果、感染症の発症率に差はなかったが、頻脈性不整脈は有意に増加した。

「モニタリングを用いたRCTはネガティブになることが多い」という経験則がある。そしてこの経験則に対して、プロトコルが悪いとか、使用経験によって差が出るとか、対象患者の設定に問題があるとか、アウトカムの選択に問題があるとか、いろいろな批判が出る。でも研究者たちはそんなことは百も承知で研究をしているわけで、にも関わらずポジティブな結果が出ないというのは、何かもっと根本的な理由があることを想像させる。

そもそも重症患者管理とは何か、まで行きそうになったので、さっさと撤退。
とりあえず、色々考えるきっかけになると思うので、抄読会などで議論してみては?
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中等度の輸液は敗血症死亡率の減少に関連する

2024年12月11日 | 循環
Corl KA, Levy MM, Holder AL, et al.
Moderate IV Fluid Resuscitation Is Associated With Decreased Sepsis Mortality.
Crit Care Med. 2024 Nov 1;52(11):e557-e567. PMID: 39177437.


612のアメリカの病院の19万例の敗血症および敗血症性ショック症例。
診療した医者の区別が可能らしく、各症例に対して必要だろうと思われる補液量を多変量解析で推定し、実際の補液量がそれより多いか少ないかで医者を五群に分類。その結果、死亡率はU字カーブを描いた。

補液に関連した研究は山のようにあるけど、少なくとも僕が生きている間に「正しい補液量」というのは決定されない、と言い切っていいと思う。
でも、とりあえず”中庸"にいれば悪いことはなさそうだ、という研究結果で、いつも思っていることと同じで嬉しい。


タイトル:「とりあえず”中庸"にいれば悪いことはなさそうだ」 by ChatGPT 4o
なるほど、そう来たか。
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ヨーロッパにおける周術期高血圧管理

2024年12月07日 | 循環
急性期の高血圧についての情報はごく一部の疾患を除いてほとんどないので、こういうアンケート調査でも情報価値がある。
Paternoster G, Sangalli F, de Arroyabe BML, et al.
Insights Into Perioperative Hypertension Management in Europe: Results From a Survey Endorsed by the European Association of Cardiothoracic Anaesthesiology and Intensive Care (EACTAIC).
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2024 Dec;38(12):2959-2964. PMID: 39393985.


・周術期の高血圧の定義は?→52.8%がSBP 140mmHg
・高血圧患者は不安定な循環動態だと捉えるか?→72.0%がYes
・あなたの通常臨床でのSBPのゴールは?→120-140mmHg
・血圧が高いと特に問題があると思う疾患群は?→大動脈疾患が52.5%
・高血圧を治療することの意義は?→出血の予防が43.6%、次が心不全で32.6%
・一番よく使う降圧剤は?→α1アゴニスト(例:urapidil)が28.9%、亜硝酸剤が23.6%、Caブロッカーが14.7%

へー。ヨーロッパの人も140とかで降圧するんだ。知りませんでした。

つい最近のNEJM evidenceに入院患者の高血圧についての記事があった。
Wilson LM, Abebe KZ, Anderson TS.
How Should Elevated Blood Pressure Be Managed in Hospital?
NEJM Evid. 2024 Dec;3(12):EVIDtt2400202. PMID: 39589191.

これを読んでも、重症に限らず入院患者の降圧の意義についての根拠がほぼ存在しないことがわかる。

「血圧。いつもこんなに近くにいるのに、君のことが分からない。」
と書いてから13年。当時と比べたらすこーしだけ情報は増えたかな?
でも全然分からないままだけど。


タイトル:「血圧。いつもこんなに近くにいるのに、君のことが分からない。」 by ChatGPT 4o
なんか良い感じのやつ、できた!
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ノルアド投与量報告の不均一性が死亡率予測に及ぼす影響

2024年07月17日 | 循環
僕がビビったのが去年の10月。ガイダンスが出たのが今年の3月。
おお、この話題で臨床研究が出たぞ!と思って読んでみたら。。。

Morales S, Wendel-Garcia PD, Ibarra-Estrada M, et al.
The impact of norepinephrine dose reporting heterogeneity on mortality prediction in septic shock patients.
Crit Care. 2024 Jul 3;28(1):216. PMID: 38961499.


濃度が違えば死亡率との関係は当然変わる。グラフを横に伸ばした感じになる。ただそれを実際に示しただけ。MIMIC-IVのデータを使っているのでNは4000あるけど、ただそれだけ。それをoriginal articleにするとは。ちょっとイラッと来た。

とネガティブなことを言っても仕方ないので、どうしてこれがCCに採用されたかについて考える。
とは言っても、
・ちょうど話題になっている。
・Nが比較的大きい。
・有名なデータベースを使用している。
・分かりきっていることだけど、それをちゃんと数字や図にした。
・型を守った書き方をしている。
くらいしか思いつかないが。

でも逆を言えば、このルールに従えば良い雑誌に採用される確率が高まるとも言えるか。
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