Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

IRADの25年にわたる観察と心臓血管学への影響

2024年09月22日 | データベース・JIPAD
IRADとは、 International Registry of Acute Aortic Dissectionのこと。

Trimarchi S, Mandigers TJ, Bissacco D, et al.
Twenty-five years of observations from the International Registry of Acute Aortic Dissection (IRAD) and its impact on the cardiovascular scientific community.
J Thorac Cardiovasc Surg. 2023 Jul 13. Epub ahead of print. PMID: 37453718.


IRDのデータベースを利用した研究は97あり、各国の19のガイドラインに69研究が参照されていた、と。
結論:「RADは、急性大動脈解離患者の予後を改善するために、観察、信頼できる知識、研究課題を提供する重要な役割を担ってきたし、現在も担っている。」

つい先日、僕がいた部屋の外から、「JIPADなんて全然興味ない、だって病院が得するだけでしょ?」という会話が聞こえてきた。全然イラっとしたりはせず、こういう人にどうやってデータベースの意義を理解してもらったらいいのだろう、と冷静に考え出した自分に少し驚いた。

毎年、今くらいの時期に集中治療医学会から認定施設向けに調査が行われる。そのうち20項目くらいは患者情報(症例数、治療内容、重症度スコアなど)を提供しないといけない。今年も先週、部長から依頼されたのだけど、JIPADのアプリにはこれを一気に示す機能がついていて、数クリックで数字が全部出る。1分もかからない。JIPADに参加していなくて自前でデータベースを作っていない施設ではそれなりに手間をかけているのだろうと想像すると、簡便さにちょっと笑ってしまった。

JIPADのデータを用いた研究は、すでにこれだけ発表されている。これ以外にも40以上の研究が進行中。参加施設は基本的に自由にデータを利用できる(直近で約30万例)。

自分の施設で研究をやろうと思った時でも、JIPADがあると患者背景や治療内容や重症度スコアや予後は収集する必要がない。部門システムからデータを出力して加工したら、JIPADと合わせれば簡単に数千例のデータを使った研究になる。

自治さいたまでやっている、ICU患者のデータベース作成とそれを使った予後予測を自治本院でも導入しようとしているのだけど、本院はまだJIPADが本格稼働していないので、部門システムから抽出される情報だけだとどうしても限界がある。例えば患者情報が乏しい。病名とか既往歴とか入室経路とか。人がこれらの情報なしに部門システムの経過表を見ても病態は理解できないことから容易に予測される通り、AIによる予測も当然限界がある。

これだけじゃ足りないかなー。
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JIPADと集中治療室管理料の関係

2024年08月17日 | データベース・JIPAD
時々質問されるのですが、その度に調べるので、ここでまとめておきます。

まず、特定集中治療室管理料の基本はこちら。ここの注1に、
「別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関に入院している患者であって、急性血液浄化(腹膜透析を除く。)又は体外式心肺補助(ECMO)を必要とするものにあっては25日、臓器移植を行っ たものにあっては30日)を限度として、それぞれ所定点数を算定する。」
の記載があります。

で、「別に厚生労働大臣が定める施設基準」というのがこちら
第2 特定集中治療室管理料の、
7 特定集中治療室管理料の「注1」に掲げる算定上限日数に係る施設基準の、
(2) 当該治療室に入院する患者について、関連学会と連携の上、適切な管理等を行っていること。

で、「関連学会と連携の上」というのがこちら
問94:「関連学会と連携」とは、具体的にはどのようなことを指すのか。
(答)日本集中治療医学会のデータベースであるJIPAD(Japanese Intensive care Patient Database)に症例を登録し、治療方針の決定及び集中治療管理を行っていることを指す。

で、「JIPADに症例を登録」の定義がこちら
1. 直近の年次レポートにデータが利用され、施設名が掲載された施設
2. さらに直近6ヶ月の間にデータをアップロードし、、、JIPADワーキンググループが2ヶ月毎に評価し、今後の年次レポートに使用可能な症例数が概ね200症例を超えて登録

ぜいぜい。
バラバラのところに書いてあるから、加算って分かりにくい。。。
でもこれからは「これを読め」で済むぞ。
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集中治療におけるレジストリを組み込こんだ研究の妥当性と持続可能性

2024年07月16日 | データベース・JIPAD
Salluh JIF, Amado F, Pilcher D, Hashmi M.
The relevance and sustainability of registry-embedded research for critical care.
J Crit Care. 2024 Aug;82:154765. PMID: 38492521.


データベースの意義について人に何度話したか分からない。でも、それを聴いて「じゃあやろう」と思う人はごく僅か。それは仕方ない、人間だもの。
JIPADに参加していないけど独自のデータベースを作成している施設は限られるだろうから、参加施設数から推測するとだいだい日本のICUの四分の三はデータベースを持っていないことになる。普段からデータベースを使用している者からすると信じられない数字。

ちなみにこの文章はこの研究のeditorial。
エチオピアの人も" ICU registries are invaluable tools"と気がついているようだ。
あなたはまだですか?
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JIAPDの年次レポートの最新版

2024年04月02日 | データベース・JIPAD
辞める話をした翌日というのがちょっと変ですが、最新のレポート(2022年度版)が発表されました。
95施設、約75000例。もう立派なデータベースじゃないですか。

「登録症例数は、2019 年 5 月に 10 万例に、2021 年 4 月に 20 万例に、2022 年 9 月に 30 万例に、2023 年 10月に 40 万例に到達した。」
つまり、最初の10万例に到達するのに約4年、次が2年、次が1年半、次が1年。なんかすごい。そして嬉しい。
試しに、Chat先生に、「症例数が二次関数で増えていると仮定すると、100万例に到達するのはいつ?」と聞いたら、「2028年6月と予測されます」ですって。あと4年かー。

今年は「JIPAD関連論文」という欄ができた(半分より下のところ)。もう文献が20くらいある。

あと4年で100万例に到達し、文献もたくさん作られているデータベース。まだ参加していないあなた、それで大丈夫??
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BlendedICUデータセットの紹介

2024年02月26日 | データベース・JIPAD
昨年末、ダウンロードしたけど読んでいない文献が200を超えてしまい、年末年始で読むぞー、と頑張ったけど15くらい残ってしまった。この連休でその残りを読んでいたら、その中にヤバイやつがあったのに気がついた。

Oliver M, Allyn J, Carencotte R, et al.
Introducing the BlendedICU dataset, the first harmonized, international intensive care dataset.
J Biomed Inform. 2023 Oct;146:104502. PMID: 37769828.


AmsterdamUMCdb, eICU, HiRID, and MIMIC-IVをまとめて、30万例以上、158項目のデータベースを作成。しかも、4つのデータベースと同様、登録すれば誰でも利用できるようになっている。それだけじゃなくて、生データとは別に、1時間ごとに集約してmissing valueもimputationして、異常なデータを除いた、つまりはクリーニングの終了しているデータも提供されるらしい。
ただし、4つのデータベース全てに登録してデータを取得し、かつpythonのコードを自分で動かさないといけないので、ハードルはちょっと高いけれど。

Githubはこちら
頑張ってみようと思う人は是非。
利用者が増えれば作成者もバージョンアップしてくれるだろうし。


タイトル:Introducing the BlendedICU dataset, the first harmonized, international intensive care dataset
ちょっとカッコいい。でも相変わらず英語のスペルは苦手なChatさん。

ちなみに、このデータベース、ICUでよく使う113の薬剤がリストアップされているのだけど、そのうちオピオイドは、fentanyl, morphine, hydromorphone, sufentanilで、remifentanilはありません。
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MOVER:公開手術室データベース

2024年01月19日 | データベース・JIPAD
今年初の投稿。
気がついたら20日経っていた。英語では"20 days into the year"と言うのだそうだ。知らんかった。

Samad M, Angel M, Rinehart J, et al.
Medical Informatics Operating Room Vitals and Events Repository (MOVER): a public-access operating room database.
JAMIA Open. 2023 Oct 17;6(4):ooad084. PMID: 37860605.


ICUには6つくらいあるけれど、OP室のデータとしては初の、フリーに利用可能なデータベース、だそうだ。
83,468例の手術。少なくとも一部は波形データ(心電図、A-line、SpO2)もあるらしい。

これはいろいろできそうじゃないかな?
興味のある方、利用してみては?
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日本の多施設ICUにおける肺動脈カテーテル使用の特徴と死亡率との関連

2023年10月29日 | データベース・JIPAD
JIPADのデータを利用した自治さいたまICUの研究がまたCritcal Careにアクセプトされましたー!
いえーい!

Open access
Published: 28 October 2023
Characteristics of pulmonary artery catheter use in multicenter ICUs in Japan and the association with mortality: a multicenter cohort study using the Japanese Intensive care PAtient Database
Kentaro Fukano, Yusuke Iizuka, Seiya Nishiyama, Koichi Yoshinaga, Shigehiko Uchino, Yusuke Sasabuchi & Masamitsu Sanui


PAカテって、20年以上前は敗血症性ショックとかARDSにビシバシ使ってたんだよね。
いつのまにか、随分変わった。

ちなみに英文校正はChatGPTにやっていただきました。もう英文校正は業者に頼まなくてもOK(な雑誌はある、少なくとも)。
After the manuscript was written by the lead author and reviewed and revised by the coauthors, English language proofreading was conducted using ChatGPT®.

みんなも、JIPADのデータを使ってメジャー雑誌にどんどんアクセプトされちゃおーぜー。
おっとその前に、そもそもJIPADに参加しないといけないけどね。
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サイトビジット100施設到達、そして。

2023年08月25日 | データベース・JIPAD
JIPADの業務で、サイトビジットというのをやっていました。
JIPADのデータ収集を開始して、継続的にデータ収集ができて、かつ質が一定の基準に到達したら、実際にその施設を訪問し、より簡単に質の良いデータを収集できる方法について提案をする、という活動。
2015年3月からなので8年半、ほぼ平均月に1施設、北は北海道から南は沖縄まで、いろいろなICUを訪問させていただきました。

2021年度の年次レポートより)

僕がサイトビジットに行くのはこれで終了とすることにしました。なお、他の誰かが行くかどうかは未定です。
以上、ご報告まで。
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中国の重症患者データベース

2023年06月27日 | データベース・JIPAD
Jin S, Chen L, Chen K, et al.
Establishment of a Chinese critical care database from electronic healthcare records in a tertiary care medical center.
Sci Data. 2023 Jan 23;10(1):49. PMID: 36690650.


この文献に書いてあったので知りました。
これに続く、6つめの公開データベース。

この中国のDBも1施設。
でも6つもあれば、多施設研究的なこともやれそう。これまでの研究だとMIMICとeICU、稀にAmsterdamを使って3にするのがあるくらい。ただ全部のデータベースの中身を理解するのは相当時間かかりそうだけど。

ご興味のある方、やってみては?
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データベース解析によるRCTのエミュレーション

2023年05月08日 | データベース・JIPAD
Wang SV, Schneeweiss S; RCT-DUPLICATE Initiative.
Emulation of Randomized Clinical Trials With Nonrandomized Database Analyses: Results of 32 Clinical Trials.
JAMA. 2023 Apr 25;329(16):1376-1385. PMID: 37097356.


十分な情報がある場合は、データベースによる解析でもRCTと同等の結果を出せる、と。

この話を聞いて、例外を除いてはやっぱりRCTが大事なんだな、とも思えるし、これから電子化された情報がどんどん増えればデータベース研究でできることもどんどん増えるな、とも思える。きっとどちらも正しいのでしょう。
ただ、観察研究のウェイトが大きくなっているのは少し気になる。データ量も増えているし、データを解析する手法も新しいのがどんどん出るし、そして研究に興味を持つ人も観察研究を好む場合が増えている印象がある。先日も、研修医が難しい統計手法の話をしていて、「すごいなー、偉いなー」と思いつつ、ちょっと違和感も感じたりしてた。

RCTと観察研究は車の両輪なんだし、両方に興味を持ってくれるといいのだけど。
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