Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

風邪を引きながら働いても良いか?

2012年07月30日 | 感染
今週はちょっとシブ目で。

Brophy GM, Bell R, Claassen J, et al.; Neurocritical Care Society Status Epilepticus Guideline Writing Committee.
Guidelines for the evaluation and management of status epilepticus.
Neurocrit Care. 2012 Aug;17(1):3-23. PubMed PMID: 22528274.
痙攣重積の管理についてのガイドライン。
推奨の記述方法がAHAとGRADEのミックスという、ちょっと不思議な記載方法。”Guidelines are curate’s egg (まずいけど何とか食べられる)”という書き出しで始まるeditorialがついている点もユニーク。つまりは、痙攣重積の管理は根拠のある推奨ができるレベルにない、ということ。参照文献は250くらいあるし、レビューとして読むのが良いか。

Hartog CS, Skupin H, Natanson C, et al.
Systematic analysis of hydroxyethyl starch (HES) reviews: proliferation of low-quality reviews overwhelms the results of well-performed meta-analyses.
Intensive Care Med. 2012 Aug;38(8):1258-71. PubMed PMID: 22790311.
HESについてのレビューとメタアナリシスを集め、その質と推奨内容について検討。メタアナリシスのほとんどはHESの使用を推奨していないけど、レビューは多くが使用を推奨していて、かつそのほとんどは数少ない著者によって書かれていて、かつその多くはconflict of interestがある。
知らないことについて勉強するときは、とりあえずレビューを読むのが早いけど、そこに真実ばかりが書いてあるとは限らない、ということは意識しておく必要あり。

Chen LM, Render M, Sales A, et al.
Intensive Care Unit Admitting Patterns in the Veterans Affairs Health Care System.
Arch Intern Med. 2012 Jul 23:1-7. PubMed PMID: 22825806.
アメリカの118のVA hospitals(退役軍人病院)に入院した28万人の非手術患者のうち、約10%は直接ICUに入院していて、その半数以上が予測死亡率2%以下だった。その状況は施設によって極端に異なり、軽症例がICUに入院する頻度は1.2%から39%(30倍以上!)と大きな幅があった。ICU入室を決める要素のうち、患者の診断名と重症度は10%程度に過ぎなかった。
すごい話だけど、どこかの国も同じだね。

ね?
シブ目だったでしょ。
でも、今週のメインは更にシブい。
Archives of Internal Medicineのresearch letterから。

Jena AB, Meltzer DO, Press VG, Arora VM.
Why physicians work when sick.
Arch Intern Med. 2012 Jul 23;172(14):1107-8. PubMed PMID: 22710803.

ACCPの学会に来ていた、アメリカの1年目と2年目の研修医150人に行ったアンケート。去年1年間で、風邪で仕事を休まなかったことがあるか、あるとしたらその理由は何かについて調査。
その結果、
・51%が1年間で1度は風邪を引きながら仕事をした
・1年目よりも2年目、男性よりも女性にその傾向が強かった
・患者および同僚に対する義務感/責任感が仕事をした理由として多かった(それぞれ57%、56%)
・2年目よりも1年目、男性よりも女性に、“同僚に弱いと思われたくない”ことを理由とした頻度が高い傾向にあった
・9%が風邪を患者にうつしたと思っており、21%が風邪の同僚が患者にうつしたと思っている

さて。
何故、この文献を選んだかというと。
先週、慈恵のICUスタッフで、当直をしに来たけど、周囲から反対され、早退した風邪引きが2人発生。そのうちの一人は自分。
偶然、どちらの場合も当直を代われる日勤者がいたので良かったが、いなければ、もしくは周囲から反対されなければ、そのまま当直をしていたはず。
やっぱり正しくないな、と反省していたら、こんな文献を見かけたので、まあ何てタイミング、と思って選択。
アメリカ人って、風邪で休まない人が結構多いんだな、というのと、患者さんにうつしたと思っている人が9%もいた、という2点が“へー”だった。

でも、風邪引きながら働いたことがない日本人なんて、いないんじゃないだろうか?
医療従事者は、ましてやICUで働く医療従事者は絶対に休むべき、と頭では分かっていても、なかなかねー。

うーん、あまりにもグッドタイミングだったので選んだが、考察は無理だな、こりゃ。
なので、Editor’s noteの一文を引用しておしまい。”Admirable sense”というのが否定できないところが我ながら格好悪い。

Grady D.
I just feel terrible: comment on "why physicians work when sick".
Arch Intern Med. 2012 Jul 23;172(14):1108-9. PubMed PMID: 22825063.

“Working while sick may demonstrate an admirable sense of responsibility to patients and colleagues, but clinicians also need to worry about the real danger of infecting vulnerable patients as well as colleagues and staff."
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