Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ICUの医者の服装

2013年02月25日 | その他
学会直前だというのに何やってんだと言われそうですが。
習慣なので。
さっさと終わらせますので、お許しを。

Zarychanski R, Abou-Setta AM, Turgeon AF, et al.
Association of hydroxyethyl starch administration with mortality and acute kidney injury in critically ill patients requiring volume resuscitation: a systematic review and meta-analysis.
JAMA. 2013 Feb20;309(7):678-88. PMID: 23423413.

HESとそれ以外の補液を比較した38のRCTについてのメタアナリシス、合計10880症例。HESを使うと死亡率が1.07倍で、有意差はギリギリなし。ただし、Boldtの7研究を除くと1.09倍で有意差が出る。AKIが1.27倍増え、RRTの必要率も1.32倍増える。

Haase N, Perner A, Hennings LI, et al.
Hydroxyethyl starch 130/0.38-0.45 versus crystalloid or albumin in patients with sepsis: systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis.
BMJ. 2013 Feb 15;346:f839. PMID: 23418281

敗血症患者に対してHES 130とそれ以外の補液を比較した9つのRCTのメタアナリシス、合計3456症例。全体として死亡率は上げなかったが、質の低い研究を除いたら1.11倍で有意差が出た。RRTの必要率が1.36倍増え、AKIが1.18倍増え、輸血の必要頻度が1.29倍増えた。

同じ話題の文献が同時に出たよシリーズ的な感じ。
これで日本のHES 70が有益だったら、ちょっとビックリ。ただし、有害と示された研究は、僕の知る限りではない。

さっさと本題に。
JAMA Internal Medicine(まだ慣れない名前)のresearch letter。

Au S, Khandwala F, Stelfox HT.
Physician Attire in the Intensive Care Unit and Patient Family Perceptions of Physician Professional Characteristics.
JAMA Intern Med. 2013 Feb 18:1-2. [Epub ahead of print] PMID: 23420343.


カナダの3つのICUで、患者家族にICUの医者の服装についてどう思うかを調査。
まず、外見に関連する10の因子(年齢、性別、人種、きちんとした服装かどうか、顔のピアス、見えるタトゥー、医者っぽい服装、白衣、見える名札、全体的な第一印象)について、重要かどうかについてたずねた。
次に、4パターンの服装(白衣、手術着、スーツ、カジュアルな服)をした医者の写真を見せて、どんな印象を受けるか(知識がありそう、能力がありそう、正直そう、患者をよく診てくれそう)についても調査。
その結果、
・501人の家族のうち、337人(67%)が参加してくれた
・患者のAPACHE IIの平均は24、31%が呼吸不全
・ICU入室後、中央値で3日後に調査
・最初に医者に会ったときに重要だと思う因子トップ3は、名札(77%)、きちんとした服装(65%)、医者っぽい格好(59%)
(医者っぽい服装とは白衣か手術着のことらしい)
・タトゥーやピアスがダメと答えたのは4割以下
・白衣が重要と答えたのは32%だけ
・しかし、写真を見せた感想は、白衣を着た医者がもっとも知識がありそうで正直そうだった
・手術着は能力がありそうに見えて、患者をよく診てくれそうには見える(白衣と同程度)
・全体として一番良いのは、白衣(52%)、手術着(24%)、スーツ(13%)、カジュアル(11%)

さて。
白衣は重要かと聞くとそれほどでもないと答えるけど、写真を選ばせると白衣が一番になる、というのは面白い。
無意識、深層心理、植え付けられたイメージ?
慈恵では青紫のユニフォーム。白衣にしますか、と言われても、ちょっとねー。

ちなみに、僕が留学していたオーストラリアの病院では、医療従事者は全員私服で、職業によって色が異なる名札をつけていた。私服と言っても、医者はちょいフォーマルな格好で、ジーパンやひらひらスカートはいなかったけど。
白衣という習慣が無いところでは、同じ調査をしても結果は変わるのかな。
今回の調査項目には、親しみやすい、話しやすい、という項目は無かったみたいだし。

ちょっとヘッドアップした患者さんの右側(ベッドの左側)から声をかけると、ちょうど医者の左胸の名札が患者さんの目の前に来るので、最初に挨拶するときは、まず間違いなく名札を見る。
患者さんにとっても家族にとっても、名札は重要そうだ。

名札をつけてない皆さん、ちゃんとつけましょうね。
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21世紀の集中治療は誰が担うべきか?

2013年02月22日 | ひとりごと
ちょっと、すごいタイトルでしょ。
来週、松本で集中治療医学会の総会があるのだけど、
その最終日(土曜日)に行われる、セッションのタイトル。

パネルディスカッション
第3 日目(3 月2 日)
10:20 ~ 12:10 第2 会場 キッセイ文化ホール(松本文化会館) 中ホール
パネルディスカッション 次代の集中治療のために「 21世紀の集中治療は誰が担うべきか?」

座長 藤野 裕士(大阪大学医学部附属病院集中治療部)
西 信一(兵庫医科大学集中治療学科)
DPD-1 集中治療専門医試験受験者のバックグラウンドとキャリアパス
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学,労働力調査プロジェクトワーキンググループ 永松 聡一郎
DPD-2 周術期管理は麻酔医が行うべきである
岡山大学病院周術期管理センター 森松 博史
DPD-3 21 世紀の集中治療は誰が担うべきか? ~田舎の2 次病院、安曇野からの発信~
安曇野赤十字病院集中治療部・救急部 藤田 正人,他1 名
DPD-4 21 世紀の集中治療は誰が担うべきか?
東京慈恵会医科大学麻酔科集中治療部 内野 滋彦
DPD-5 豪州の集中治療学会と専門医制度
大阪大学医学部附属病院集中治療部 後藤 幸子
DPD-6 21 世紀の集中治療は誰が担うべきか ─まずは救急科と麻酔科の共同作業を
名古屋大学医学部附属病院外科系集中治療部 貝沼 関志,他8 名

良い意味で”ケンカ”になりそうな予感。
ふっふっふ、どんなスライドにしようかな。ちょっと楽しみ。
学会で勉強ばかりして疲れた方、最後にこんなセッションはいかが?
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今週は不作

2013年02月18日 | その他
ダウンロードしたPDFの数はいつもと同じくらいなのだけどね。
これは面白い、というのがない。
ふーん、くらいなのをいくつか紹介して、おしまいにします。

van den Boogaard M, Schoonhoven L, van Achterberg T, et al.
Haloperidol prophylaxis in critically ill patients with a high risk for delirium.
Crit Care. 2013 Jan 17;17(1):R9. [Epub ahead of print] PMID:23327295.

せん妄のリスクが高い患者さんにハロペリドールを8時間毎に1mgずつ(せん妄に使う量に比べかなり少ない)投与したら、historical controlに比べてせん妄の発生率が減って、ICUの再入室や自己/事故抜去も減った。
ふーん。副作用も少なそうだし、臨床的意義はありそうだけど、single centerのbefore/after。

Chew ST, Mar WM, Ti LK.
Association of ethnicity and acute kidney injury after cardiac surgery in a South East Asian population.
Br J Anaesth. 2013 Mar;110(3):397-401. PMID: 23171723.

シンガポールの1756名の心外術後患者が対象。術後にAKIになったのは35.3%だけど、人種によって発生頻度が異なり、インド系は中国系の1.44倍、マレー系は中国系の1.51倍、AKIになった。
ふーん。じゃあ日本人も少ないかも?
ハワイで同じ研究を誰かしてくれないかな。

Leis CC, Hernandez CC, Blanco MJ, et al.
Traumatic cardiac arrest: Should advanced life support be initiated?
J Trauma Acute Care Surg. 2013 Feb;74(2):634-8. PMID: 23354262.

外傷による心停止に対するCPRはほぼ意味がないのでやめましょう、という話もあるが、自分の施設では167名中49.1%が心拍再開し、6.6%は神経学的後遺症無しに退院したよ、というスペインからの報告。
ふーん、そりゃすごい、とは思うけど、いくらなんでも高すぎるでしょう、その蘇生率。
Journal of Traumaに載ったのは、研究の質がどうかというよりも、メッセージ性を考慮して、ということなのかな?

Quigley MR, Chew BG, Swartz CE, et al.
The clinical significance of isolated traumatic subarachnoid hemorrhage.
J Trauma Acute Care Surg. 2013 Feb;74(2):581-4. PMID: 23354254.

今度は軽症頭部外傷の話。
GCSが13点以上ある、単独外傷性くも膜下出血(iSAH、それ以外の頭部外傷は無し、他の外傷は有り)症例478例。フォローアップのCTで悪化を認めたのは9例のみ。神経学的な悪化や脳外科手術を要した例はゼロ。6週間後に慢性硬膜下血腫を起こしたのが1例。フォローのCTやICU入室は不要では、という報告。iSAHについての最大の報告(らしい)。
ふーん。まあ、思った通りかな。
でもこういうデータがあるのとないのでは違うからね。
自分だったら、家に帰っちゃおうかな。無駄にCT撮られちゃうし。
ま、本当になったらそんなことはしませんけどね。父親が軽い脳梗塞で入院したときも、”ご存知とは思いますが、ラジカット使います”と言われて、”はい、分かりました”って答えたし。

こんな程度です、今週は。

それよりも、イワケン先生のこのブログ、話題騒然ですな。
讃井先生もコメントしてるし。

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血圧の話の続きの続き

2013年02月17日 | 循環
平均血圧と収縮期血圧
血圧の話の続き
の続き。

先日、ある医師が、ICUのカンファレンスで、
”病棟ではNIBPで血圧を測定するので平均血圧は使えないから、、、”
と、言っていた。
その時に指摘し忘れたので、ここに書いちゃう。

では、問題です。
”病棟ではNIBPで血圧を測定するので平均血圧は使えないから、、、”
この文章には医学的に2つの間違いがあります。それは何と何?

答え。
1つめ。
何度か書いたように、NIBPは平均血圧は得意だが、収縮期や拡張期は苦手。メーカによって違うし。
でも、一般の人は平均血圧を使わない(高血圧の治療目標に含まれていない)ので、電気屋さんや薬屋さんで売っているNIBPは平均血圧は表示しない。
つまり、この医師の働いている病院の一般病棟では医療用ではなく一般用のNIBPが使用されている、ということ(慈恵なんですけどね、、、)。
それって、問題じゃねーの?

2つめ。
じゃあ一般病棟では平均血圧について考えることはできないかというと、そんなことはない。
学生でも知っている、
MAP = DBP + (SBP - DBP) /3
で計算すればいい。
その精度については議論の余地があるけど、使わないよりはましでしょう。
(参照文献をどこかで見かけたのだけど、見つけられず、断念)

暗算の練習にもなるしね。
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理学療法によるICU患者の予後改善

2013年02月12日 | その他
文献って、紹介しだすとキリがないね。
でも、まだいろいろあるのよ。

Climo MW, Yokoe DS, Warren DK, et al.
Effect of daily chlorhexidine bathing on hospital-acquired infection.
N Engl J Med. 2013 Feb 7;368(6):533-42. PMID: 23388005.

アメリカの9つのICU(と骨髄移植ユニット)で、7727例の患者に対し、普通に体を拭くか、2%クロルヘキシジンで体を拭くか、でRCT。クロルへキシジンで体を拭いた方が、多剤耐性菌の獲得が23%減少し、血流感染が28%減少した。
これまで一施設研究や観察研究で言われていたことを、多施設RCTで示した。さすがにそろそろ、導入を検討した方がいいのかしら。
そんな意味もあり、ジャーナルクラブ候補で。

Teno JM, Gozalo PL, Bynum JP, et al.
Change in end-of-life care for Medicare beneficiaries: site of death, place of care, and health care transitions in 2000, 2005, and 2009.
JAMA. 2013 Feb 6;309(5):470-7. PMID: 23385273.

Medicare(アメリカの保険会社)のデータベースを利用して、2000年、2005年、2009年に66才以上で死亡した患者が、死亡前にどんな治療を受けていたかについて後ろ向きに解析。年が経つほど、急性期病院での死亡は減少し、ホスピスの使用頻度が増加した。しかし、ICUの利用は増加、死亡直前の転院も増加。2009年にホスピスで死亡した患者のうち28.4%は滞在期間が3日以内で、その4割はICUからの転院だった。
病院じゃなくてホスピスで安らかに亡くなる人が増えてきたね、という話かと思いきや、死亡前のICU使用や死亡直前のホスピスへの転院も増えているよ、という話。アメリカって、不思議。
でも、ICU入室の適応とはどうあるべきか、に通じる話なので、こちらもジャーナルクラブ候補とします。

他にもいくつかあったけど、疲れたので本題に行っちゃいます。

Hanekom SD, Louw Q, Coetzee A.
The way in which a physiotherapy service is structured can improve patient outcome from a surgical intensive care: a controlled clinical trial.
Crit Care. 2012 Dec 11;16(6):R230. PMID: 23232109.


南アフリカ(!)の外科系ICU患者に対し、普通の理学療法を3週間(病院の理学療法士がICU患者も診る)、ICU専属理学療法士がプロトコールに基づいてみるのを3週間、冬休みを挟んで、また3週間と3週間。合計6週間ずつで、患者予後に差があるかについて検討。
その結果、
・合計193症例が対象
・挿管の必要性、抜管の失敗がプロトコール群で減少
・入院期間も4日短かった

さて。
ICUでは、いろいろな人が働いている。そして、
・ICU専属医がいると死亡率が減少する
・患者看護比が高いと合併症が減る
・薬剤師がICUチームに含まれると合併症の発生とコストが減少する
と言われている。
で、今回の文献は、理学療法士がICUに常駐してプロトコールに基づいて理学療法を行うと、いろいろ患者さんに良いことが起こる、という研究。
そっかー、これぞmulti-diciplinary team、チーム医療だね、と思うのは、残念ながら気が早いかも。

この文献、なんか普通と書き方が違って読みにくいと思ったら、著者の最初の二人は理学療法士だった。
ICU専属医の文献も、薬剤師の文献も、必ずと言っていいほど、著者は自分。
そりゃそうだ。みんな、自分の存在価値を示したいからね。
中には、自分が辞めたら予後が悪くなった、なんて研究もあるくらい。

つまりは、何も証明されていない。
ICUで働く各職種が予後を改善しているかどうかなんて、分からない。
でも、RCTをやろうと思う人なんて、ほとんどいない。
じゃあ、根拠もないし無駄だからみんないなくていいよ、とも思わない。

慈恵のICUには、数年前まではナースと主治医しかいなかった。
今は、専属のICU専門医だけでなく、専属の臨床工学技士も、専属の薬剤師もいるし、理学療法士も頻繁に来るようになった。絶対、良くなっていると思う。肌でそう感じる(ただし、ICU専門医がいる前の状況は知らないのだけどね)。

そんなICUの同僚たちが、こんなアンケートを作りました。
簡単アンケート第24弾:薬剤師、臨床工学技士、理学療法士
現在、参加者を絶賛募集中(H25.2.20まで)。
他にもいろいろなアンケートをしているので、見てね。

ふっふっふ。
今回は同僚へのヨイショとタイムリーな宣伝で終了。
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血液浄化療法のnon-renal indication

2013年02月11日 | 腎臓
同じ話題についての文献が複数同時に発表されるシリーズ2。
先週、人工臓器関連の雑誌に、血液浄化療法のnon-renal indicationについての文献が3つ発表された。

Li C, Zhang P, Cheng X, et al.
High-volume hemofiltration reduces the expression of myocardial tumor necrosis factor-alpha in septic shock pigs.
Artif Organs. 2013 Feb;37(2):196-202. PMID: 22994292.

豚に腹膜炎を起こし、その1時間後にhigh volume hemofiltration(HVHF、100ml/kg/hr)をするかどうかで比較。コントロール群に比べ、HVHFをする群では心拍出量、一回拍出量、血圧が改善。血液中のTNFa濃度は差がないけど、心筋内のTNFaの発現量はHVHFで有意に少なかった。

Sauer M, Altrichter J, Mencke T, et al.
Role of different replacement fluids during extracorporeal treatment in a pig model of sepsis.
Ther Apher Dial. 2013 Feb;17(1):84-92. PMID: 23379499.

ちょっと工夫した血漿交換(本文参照)を、黄色ブドウ球菌を静注して敗血症性ショックを起こした豚に対して行う実験。補充液を、すべてHES(P0群)、30%の血漿と70%のHES(P30群)、そして100%血漿(P100群)に分けて比較。7日の観察期間中、P100群はすべて生存、P30群は2/7が生存、P0群はすべて死亡した。

Chu LP, Zhou JJ, Yu YF, et al.
Clinical effects of pulse high-volume hemofiltration on severe acute pancreatitis complicated with multiple organ dysfunction syndrome.
Ther Apher Dial. 2013 Feb;17(1):78-83. PMID: 23379498.

30例の多臓器不全を併発した重症急性膵炎症例に対し、CVVH(35ml/kg/hr)で治療するか、HVHF(85ml/kg/hr)で6時間+残りの18時間は35ml/kg/hrで治療するか、でRCT。両群で全身状態の改善/重症度スコアの低下が認められたが、HVHF群の方が改善の度合いが大きかった。血中のサイトカイン濃度もHVHF群の方が低下の程度が大きかった。

さて。
どんな感想を持ったかしら?
そっかー、血液浄化って有効なんだなー、と思った方。
これを読んで、頭を冷やしましょう。

敗血症に対するnon-renal indicationとしてのCRRT。
Intensivist 2巻2号 特集:CRRT, Page383-388(2010.04)


CRRT(non-renal indication)の是非に関するpro/con。エビデンスレビューからわかること。
Intensivist3巻4号 特集:急性膵炎, Page689-692(2011.10)


同じような研究はもう15年も前から行われていて、今更感が強い。
以前はCCMとかにも載っていたけど、今はこの程度の雑誌にしか載らない。
それが何を意味するかは、推して知るべし。
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脳梗塞急性期の血管内治療

2013年02月10日 | 神経
同じ話題についての文献が複数同時に発表されるシリーズ1。
New England Journalに脳梗塞急性期の血管内治療についての文献が3つまとめてドーン。

Endovascular Treatment for Acute Ischemic Stroke
Alfonso Ciccone, M.D., Luca Valvassori, M.D., Michele Nichelatti, Ph.D., et al.,for the SYNTHESIS Expansion Investigators February 6, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1213701


Endovascular Therapy after Intravenous t-PA versus t-PA Alone for Stroke
Joseph P. Broderick, M.D., Yuko Y. Palesch, Ph.D., Andrew M. Demchuk, M.D., et al., for the Interventional Management of Stroke (IMS) III Investigators
February 7, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1214300


A Trial of Imaging Selection and Endovascular Treatment for Ischemic Stroke
Chelsea S. Kidwell, M.D., Reza Jahan, M.D., Jeffrey Gornbein, Dr.P.H., for the MR RESCUE Investigators
February 8, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1212793


ちょっとずつ違うけど、どれも多施設RCTで、静注のtPAと血管内治療を比較し、予後に差はなかった、という結論。

さすがに3つも読めないよ、と言う人のために。
Editorialにまとめがありますよ。
これだけ読んでもいいんじゃないかな。

Endovascular Treatment for Acute Ischemic Stroke ― Still Unproven
Marc I. Chimowitz, M.B., Ch.B.
February 8, 2013DOI: 10.1056/NEJMe1215730


この結果を踏まえ、じゃあもう血管内治療はやーめた、ということにはならないし、なるべきでもない。
太い血管の脳梗塞の予後は非常に悪いので、研究は進める必要があるから。
今の治療法でも、こういう患者さんには有効というサブグループが見つかるかもしれないし、
Editorialにも書いてあるけど、新しいtPAやデバイスがどんどん開発されているんだって。
期待しましょう。
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KDIGO AKI guidelineのサマリー

2013年02月09日 | 腎臓
KDIGOっていうところから急性腎傷害についてのガイドラインが出ていますが、
それのサマリー的なものが、(何故か)Critical Careに発表されてます。

Diagnosis, evaluation, and management of acute kidney injury: a KDIGO summary (Part 1)
John A Kellum, Norbert Lameire, for the KDIGO AKI Guideline Work Group
Critical Care 2013, 17:204 (4 February 2013)


Contrast-induced acute kidney injury and renal support for acute kidney injury: a KDIGO summary (Part 2)
Norbert Lameire, John A Kellum, for the KDIGO AKI Guideline Work Group
Critical Care 2013, 17:205 (4 February 2013)


ガイドラインの本文は140ページの大作なので、それはちょっと、という方はどうぞ。
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重症患者に対する栄養投与

2013年02月04日 | 消化器・血液
気になっている患者さんに関連した文献とか、自分が最近疑問に思っていることについての文献とかがちょうどいいタイミングで出たり、同じ話題についての文献がいくつかの雑誌で同時に発表されたり、まあ偶然なんでしょうけど、おお、と思うことはある。先週もそうだった。

Pham T, Combes A, Roze H, et al.; For the REVA Research Network.
Extracorporeal Membrane Oxygenation for Pandemic Influenza A(H1N1) Induced Acute Respiratory Distress Syndrome. A Cohort Study and Propensity-matched Analysis.
Am J Respir Crit Care Med. 2012 Nov 15. [Epub ahead of print] PMID: 23155145.

2009年から2011年にフランスのICUに入室したH1N1インフルエンザ症例のうち、123例がECMOによる治療を受けた。そのうち52例がECMOを受けていない患者とマッチングできた(重症度などが同様)。死亡率はECMOを受けた群で50%、受けなかった群で40%(p=0.44)。マッチングできなかったECMO症例の方が低酸素が重篤で、プラトー圧も高かったが、死亡率は低かった。
ECMOを使用した人の方がマッチングさせても重症度は高くなるから、そっちの方が死亡率が高い、とうのは観察研究ではありがちの結果だけど、マッチングしなかった方が呼吸についての重症度が高く、かつ死亡率は低いというのは、ちょっとメッセージ性が高い。
個人的には、なんとなく納得できる結果。

Butler J, Subacius H, Vaduganathan M, et al.; EVEREST Investigators.
Relationship Between Clinical Trial Site Enrollment With Participant Characteristics, Protocol Completion, and Outcomes: Insights From the EVEREST (Efficacy of Vasopressin Antagonism in Heart Failure: Outcome Study with
Tolvaptan) Trial.
J Am Coll Cardiol. 2013 Feb 5;61(5):571-579. PMID: 23246389.

EVEREST trial(心不全に対するTolvaptanについての研究)のpost hoc解析。359施設から4133例が研究に含まれたけど、施設あたりの症例数は0から75と幅があった。症例数の少ない施設からの患者の方が、高齢で心機能が悪く、プロトコール遵守率が低く、合併症の発生頻度が高く、死亡率が高かった。
研究の結果はこんなことでも影響される、という話。

Ciani O, Buyse M, Garside R, et al.
Comparison of treatment effect sizes associated with surrogate and final patient relevant outcomes in randomised controlled trials: meta-epidemiological study.
BMJ. 2013 Jan 29;346:f457. PMID: 23360719.

2005年と2006年に六つのメジャー雑誌(五つはすぐ分かるでしょ。六つ目はPLoS Medicine)に発表されたRCTについて、primary outcomeがsurrogateかpatient relevantか(つまりはPhase IIとPhase III)で比較。surrogate outcomeの研究の方が治療効果が1.46倍大きかった。
Phase IIの結果は割り引いて見ましょうね、という話。
ましてや、subgroup analysisの結果に基づいてPhase IIIを行ったりすると、まず駄目ですよ、普通。

ということで今日の本題。
栄養についての文献が3つもあった。

Heidegger CP, Berger MM, Graf S, et al.
Optimisation of energy provision with supplemental parenteral nutrition in critically ill patients: a randomised controlled clinical trial.
Lancet. 2012 Dec 3. [Epub ahead of print] PMID: 23218813.

ICU入室後3日以内に経管栄養(EN)がターゲットの60%以下にしか達しなかった患者さんを、そのまま経管栄養を増やしていくか(EN群)、経静脈栄養(SPN群)を追加するかでRCT。投与目標量は基本的に間接熱量計で決定。Primary outcomeは研究期間終了後(8日目以降)の院内感染の発生頻度。
合計303例が参加。感染症の発生頻度は27% vs. 38%で、SPN群の方が低かった。ICU入室後からの抗菌薬の投与日数も短いし、有意ではないが死亡率も低い傾向だった。

Casaer MP, Wilmer A, Hermans G,
Role of Disease and Macronutrient Dose in the Randomized Controlled EPaNIC Trial, a Post-hoc Analysis.
Am J Respir Crit Care Med. 2012 Nov 29. [Epub ahead of print] PMID: 23204255.

ICUにおける栄養についてのRCTとしては最大規模のEPaNIC trial(早期の経静脈栄養は感染症を増やす)のpost hoc解析。研究に対しての3つの疑問、
・軽症に経静脈栄養をしたのがいけなかったのでは?
・中等量の栄養投与の方が少量よりも良いのでは?
・経静脈栄養の過剰な糖がいけなかったのでは?
に答えるために解析。
結果として、重症度は早期経静脈栄養の有害性と関連が無く、投与カロリーは少ないほど予後が良く、糖よりもアミノ酸/蛋白の投与量の方が予後と関連した。

うーん、よく分からない。
なんなんだ、栄養って!
と思っていたら、こんなレビューも先週出た。

Viewpoint
Miet Schetz, Michael P Casaer and Greet Van den Berghe
Does artificial nutrition improve outcome of critical illness?
Critical Care 2012, 17:302 Published: 1 February 2013

著者を見て、あ、intensive insulin therapyで有名なLeuvenの人達だ、と思った人はボチボチ偉い。実はこの人達ってEPaNICの著者でもあるんだよねと思った人はもっと偉い。SchetzってAKIとかRRTでも有名な人でしょう、と思った人はちょっとマニアックすぎ。
で、どんなレビューかというと、
・重症患者には栄養を投与するべき、というのは主に低栄養と予後との関連についての観察研究の結果に基づく。
・栄養投与が筋力の回復に役立つかどうかは不明。
・栄養投与には多くの合併症がある。その一つはautophagyの抑制により免疫低下を起こすかもしれないこと。
・早期の栄養投与が有効であるとする観察研究やRCTやメタアナリシスはたくさんあるが、その多くが研究方法に問題がある。
・最近の研究結果からは、よほどの低栄養がベースにある場合を除き、早期の経管栄養の少量投与で十分であり、追加の経静脈栄養は有害かも。
・ただし、いつまで制限していいかは不明。

EPaNICの著者であることを差し引いても、納得させられる内容ではある。
今流行りの、Less is more、ですかねー。。。

とりあえず、患者さんにこんな風に栄養を投与したら予後がよくなりますよー、という状況は当分来ない(もしくはずっと来ない)という気はする。
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今月の緑雑誌

2013年02月03日 | ひとりごと
日本集中治療医学会雑誌、表紙が緑色なので、通称緑雑誌。
季刊誌なので年に4回の発行。
今月号は、いつもとちょっと違う。
まず分厚くて、しかも学術集会の抄録集と一緒に送られてきたものだから、さらに分厚く、ポストを開けたら袋から飛び出していた。

ほぼ全部が症例報告。
そんな中で原著は一つだけ、慈恵から。ふっふっふ。

ICU退室後の予期せぬ院内死亡に関する危険因子の検討
山下和人、他。
2006年から2008年の間に、48時間以上ICUに滞在し、治療の差し控え無しにICUを生存退室した570例。そのうち56例(ほぼ10人に1人)が死亡退院していた。リスク因子は、病棟からのICU入室、癌転移、血液悪性疾患、APACHE II高値、再挿管、人工呼吸器のままの退室、であった。
この中でちょっと面白いのは再挿管。再挿管を必要とした症例の予後が悪いという報告は複数あるが、ICU生存退室後の死亡の因子としては他に報告がない。再挿管するほど全身状態が悪いという事か、再挿管そのものが患者に悪影響を与えるのか。さて。

専門医認定制度改革序章:一人称で語られる学会に
武居哲洋
JSEPTICの新メンバー、みなと赤十字の武居先生のレター。
専門医制度、どうなるんでしょうねー。

そしてなによりも、いろいろなところで話題になっている、日本版敗血症診療ガイドラインが全文(だと思う、全50ページ)掲載されてます。
だから今月号は分厚いんだなー。
日本版のガイドラインの意義なんてことも考えながら、ご一読されたらどうかしら?
コメント
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