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Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

重症患者における高 vs.低蛋白質投与の比較:系統的レビューとベイズメタ解析

2025年02月25日 | 消化器・血液
Heuts S, Lee ZY, Lew CCH, et al.
Higher Versus Lower Protein Delivery in Critically Ill Patients: A Systematic Review and Bayesian Meta-Analysis.
Crit Care Med. 2024 Dec 27. Epub ahead of print. PMID: 39728669.


24研究(N=4164)のメタ解析。高蛋白の死亡リスクは1.01。死亡の有害性の事後確率は56.4%。

ベイズ、なんか嫌い。
そういうことを言う人をfrequentistと呼ぶのも嫌い。なんか馬鹿にされている感じ。先日も、o1先生になんとかして「そうですね、確かにベイズはちょっとダメかも」と言わせてやろうと思って何度も議論をふっかけてみた。こっちが負けたけど。

嫌いな理由の一つは、確定はしていないものの、現状では有効ではないと考えられている治療法を持ってきて、「有効である事後確率が80%」とか結論する研究ばかりだから。
そんな中で、この研究は、
" There is a considerable probability of an increased mortality risk with higher protein delivery in critically ill patients, although a clinically beneficial effect cannot be completely eliminated based on the current data."
と中立な感じで結論づけていて、好感が持てた。

o1先生との議論の最後をコピペして今日は終了。
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まとめ
ベイズと頻度論は対立する二者択一の関係ではないですが、
•不十分なデータ下での推論方法、
•主観(prior)の明示化、
•臨床での“確率”の直接的解釈
などでアプローチが異なるため、しばしば比較・議論の対象となります。結局「データが増えれば真実に近づく」という事実は変わらず、最終的に大規模RCTの必要性も共通認識ですが、そこに至るまでの解釈や意思決定プロセスでの使い勝手・哲学が違うという点に、議論の意義があります。「比較議論が無意味」というよりも、両者の考え方を理解することで“限られたデータでどう判断するか”や“主観と客観をどう折り合いづけるか”の理解が深まり、研究デザイン・意思決定の幅が広がるという意味で有用と考えられます。

要するに、最終的に大規模RCTをするまでの間にもさまざまな小規模・中規模のエビデンスをどう評価し、どう統合するかという点で、「ベイズ vs. 頻度論」の議論は十分意義があると捉えられます。そして、大規模RCTが完了した後でも「複雑なサブグループ解析」や「リアルワールドデータとの統合」など、常に次のステップで両方のアプローチは活かされ続けるのです。
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「敗血症性 DICにリコンビナント・トロ ンボモジュリンの投与を行うか?」

2024年12月27日 | 消化器・血液
昨日、集中治療医学会からJ-SSCG 2024が正式に発表されたとのメールが届いた。

正直、J-SSCGというものの意義については疑問を持っているのだけど、「リコモジュリンの推奨が2Cから2Bに上がったよ」という噂を聞いていたので、そこだけ確認した。確かにそうなっている。ちなみに、Bというのはエビデンスの確実性が中(効果の推定値に中程度の確信がある)、Cは確実性が低(効果の推定値に対する確信は限定的である)という意味。

この推奨の変化の理由についてはガイドライン本文に記載がある。「SSCG 2016で敗血症および敗血症性ショックに対するリコンビナント・トロンボモジュリン投与に関しての推奨はないと記載はされていたが,SSCG 2021ではリコンビナント・トロンボモジュリンについての記載自体がなくなった。なお,J-SSCG 2024において実施した系統的レビューまでの間に組み入れ対象となる新規の RCTが日本から1編報告されており,エビデンスの確実性評価の結果が効果推定値により GRADE 2Cから2Bへ変更となった。」

少し日本語が変ではないか。2つの文章は内容が大きく異なるのに「なお」で繋ぐのはおかしいし、「されており」の前後で論理性が説明されていない。そしてこの追加になった日本からのCTというのはこれなのだが、発表年はSCARLETと同じ2019年で、どうしてこれが新しい研究とされているのかよくわからない(前回の締め切りが2019年の途中だったのかな?)。

ついでに言えば、AT-IIIについても推奨が2Cから2Bになっている。こちらの方は「J-SSCG2024において実施した系統的レビューまでの間に組み入れ対象となる新規のRCTは出版されておらず,同一の文献を対象にメタ解析を行ったが,複数のアウトカムにわたる正味の効果推定値によるエビデンスの確実性評価の結果,GRADE 2Cから2Bへ変更となった」となっているので、rTMの方も研究が追加されたからではなさそう。

推奨の評価方法が変わったのか、評価する人が変わったのか。
国際ガイドラインの作成に軽く関わったときにも思ったのだけど、エビデンスに基づいた判断とは関係なしに声の大きい人が勝つ、という現象はどこでも起こる。今回はconよりproがちょっと勝ったんだろうな、と想像しております。

まあこの推奨の変化で臨床判断を変える人はまずいないだろうけど。使う人は使う、使わない人は使わない。もう決まっているもんね。
ピヴラッツと同様、リコモジュリンを使うべきかどうかの議論は不毛。
あ、じゃあこの記事も不毛かも。
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ICU専門医が血小板輸血について知っておくべき10のこと

2024年09月08日 | 消化器・血液
Pène F, Aubron C, Russell L.
Ten things ICU specialists need to know about platelet transfusions.
Intensive Care Med. 2024 Aug 22. Epub ahead of print. PMID: 39172239.


血小板輸血。自信を持ってしたことがないかもしれない。なんか、ホワっとしているというか。誰かが「輸血しよう」と言ったら、じゃあしようか、という感じなることが多かった気がする。

それでも30年前よりは状況は良くなっていて、NEJMレベルのRCTも複数ある。このレビューを読むと血小板輸血の方法が良くわかる、とは言えないけど、とりあえず分かっていることと分かっていないこと(こっちの方がメインな気はするけど)は明確になるのでは。

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肝切除におけるトラネキサム酸

2024年08月30日 | 消化器・血液
トラネキサム酸も僕が好きな話題(過去ログはこちら)。
理由は、安くて有効だから。

Karanicolas PJ, Lin Y, McCluskey SA, et al.; HPB CONCEPT Team.
Tranexamic Acid in Patients Undergoing Liver Resection: The HeLiX Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2024 Aug 19:e2411783. Epub ahead of print. PMID: 39158894.


ネガティブな結果なのだけど、「あ、そうか」と納得ができた。
・トラネキサム酸は出血に対して無効、有効と結果が分かれている
・血栓症の合併頻度が増えるかどうかも研究によって分かれている

この2点について、discussionを読んで明確になった。
・トラネキサム酸は静脈出血とかwoozingには有効だけど、動脈性の出血には無効
・なのでビュービュー出る肝切除や上部消化管出血では無効、ジワっと出る心臓外科や整形外科などでは有効とする研究が多い
・血栓症の合併症は、無効とされた研究では血栓が起こりやすく、有効な研究では同程度。これはトラネキサム酸は血栓症を増やす方向に働くけど、出血性合併症を減らすことにより、患者さんの全身状態が安定し、血栓症が起こりにくくなるから。

なるほどー。
めっちゃスッキリしました。

こういうディスカッション書けるといーなー。
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頭部外傷における輸血の自由戦略 vs. 制限戦略

2024年07月03日 | 消化器・血液
Turgeon AF, Fergusson DA, Clayton L, et al.
Liberal or Restrictive Transfusion Strategy in Patients with Traumatic Brain Injury.
N Engl J Med. 2024 Jun 13. Epub ahead of print. PMID: 38869931.


思ったこと2つ。

1つ目。
一応ネガティブな結果ということになっているけど、図3のGOSのグラフとかを見ると、ちょっとどうだろうかと思う。
この研究に限らず、輸血の域値はなんでも7で良い、とは言い切れないことを示した研究は何年も前からチラチラあるが、もう発表されてから四半世紀経ったTRICC studyのインパクトが革命的すぎて、そう簡単にはプラクティスは変わらない印象がある。ラッキーセブンだし、一つの方が覚えやすいし。実際、世界のプラクティスは変化しているのだろうか。これも大きな振り子であって、徐々に変化していくのだろうか。

2つ目。
よく言われがちなこと。高齢者はリザーブがないのでHbは高めで、的なやつ。これは多分示されたことはなくて、どちらかと言えば逆の結果をよく見かける印象がある。今回の研究のサブグループ解析でも55歳以下の方がliberal strategy betterの方向になっていて、ああまたかと思った。

輸血の域値問題。まだまだずっと続きそう。
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不確かな答え - ICUにおけるPPI

2024年06月22日 | 消化器・血液
元文献は、SUPは消化管出血を減らすが予後は改善しないという、まあ予定通りの結果。
気になったのはそのeditorial。

Brown SM.
Uncertain Answers - Proton-Pump Inhibition in the ICU.
N Engl J Med. 2024 Jun 14. Epub ahead of print. PMID: 38875100.


この最後に、
"I plan to prescribe prophylactic proton-pump inhibitors to patients during mechanical ventilation if they have an APACHE II score of less than 25. For sicker patients, I would probably reserve the use of proton-pump inhibitors for those who are being treated with antiplatelet agents, especially in the presence of therapeutic anticoagulants."

確かに、90日の死亡率のサブグループ解析は、

こんな感じ。
かつ元文献のdiscussionにも、重症患者でのPPIの弊害を示した研究についての記載がある。

ちょっと、直感的に違和感が強いし、この人みたいに「重症患者ではPPIは使わないぞー」とは言いにくい。実際、潰瘍予防効果はこんな感じだし。


そもそもサブグループ解析だし。
消化管出血されたら面倒だし。
普通にPPI使ったらいいのではないかなー。
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急性腹症の診断における単純CTの診断精度

2023年06月03日 | 消化器・血液
Shaish H, Ream J, Huang C, et al.
Diagnostic Accuracy of Unenhanced Computed Tomography for Evaluation of Acute Abdominal Pain in the Emergency Department.
JAMA Surg. 2023 May 3 Epub ahead of print. PMID: 37133836.


造影CTに比べ、単純CTは診断精度が30%落ちる。

「造影剤はチョー弱い腎毒性物質だから、ICUでは気にしなくて良い」と言われても、やっぱり気にしてしまうのが人情。ERでの急性腹症の診断精度が30%落ちるなら、ICUでのフォーカス探しではどれくらい落ちるんだろう?
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経管栄養の投与量を調整するプロトコル

2023年06月02日 | 消化器・血液
Wang L, Wang Y, Li HX, et al.
Optimizing enteral nutrition delivery by implementing volume-based feeding protocol for critically ill patients: an updated meta-analysis and systematic review.
Crit Care. 2023 May 5;27(1):173. PMID: 37147701.


投与を止めたらその分だけ投与速度を上げて、1日のターゲットを維持する。
考え方としては簡単だけど、文献を読んだことがなかった。メタ解析ができるくらい文献があるとは知らなかったよ。で、referenceを見てみたら、Nの大きな研究は全部JPENに掲載されていた。
さすがにJPENは読まないわ。
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ショックの人工呼吸患者におけるカロリーと蛋白質

2023年04月03日 | 消化器・血液
Reignier J, Plantefeve G, Mira JP, et al.; NUTRIREA-3 Trial Investigators; Clinical Research in Intensive Care; Sepsis (CRICS-TRIGGERSEP) Group.
Low versus standard calorie and protein feeding in ventilated adults with shock: a randomised, controlled, multicentre, open-label, parallel-group trial (NUTRIREA-3).
Lancet Respir Med. 2023 Mar 20 Epub ahead of print. PMID: 36958363.


不思議だ。
Nが3000を超えていて、重症患者のカロリーと蛋白質なんていうICU的にど真ん中の話題なのに、どうしてNEJMじゃなくて、Lancetでもなくて、Respiratory Medicineなんだろう。しかも、普通に栄養を投与する意味がないどころか、ちょっと悪いっていう結果なのに。

でも残念ながらLancet RMはPDFが手に入らないので、これ以上はコメントを控えます。

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追記。
早速コメント欄で情報いただきたした。
そうなんだ、early termination なんだ。
よくわかりました、ありがとうございます。

読まずに偉そうなこと書かなくてよかったわ。
コメント (1)
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ICUにおける好酸球増多症の疫学

2023年02月11日 | 消化器・血液
あれ、この患者さん、好酸球が増えてるぞって思うこと、たまにあるよね。

Gaillet A, Bay P, Péju E, et al.
Epidemiology, clinical presentation, and outcomes of 620 patients with eosinophilia in the intensive care unit.
Intensive Care Med. 2023 Feb 1. Epub ahead of print. PMID: 36723637.


ICU入室24時間以降に発生する好酸球増多症(1000以上が2回)の疫学:
・発生頻度は全ICU患者の約0.5%
・原因の半分は薬剤性、残りはほぼ原因不明
・ICU死亡率は18.7%
・高齢、昇圧剤の使用、人工呼吸器の使用が死亡のリスク因子

そうか!というほどの情報はないが、14のICUで過去6年分を調べて620例集めただけで、偉い。
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