Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

Hypotension Prediction Indexについての追記の追記。

2023年06月11日 | AI・機械学習
高みの見物をすると言っておきながら、やっぱり気になったので、PubMedでアブストラクトだけざっと読んでみた。ただし本文は全然読んでいないので、間違っている可能性はありますよ。

分かったこと。
・観察研究でもRCTでも、HPIを導入すると術中の低血圧(MAP<65と定義しているものが多い)が減る。
・予測能をMAPと比較すると、HPIとMAPは同程度の精度。
ということになるようだ。

つまりこういうことか。
・普通の管理では、多くは低血圧が実際に起こってから対応する。
・HPIはそれを事前に知らせるので、その段階で介入することが多くなり、結果的に低血圧が減る。
・でも、MAPの経過を見ていても血圧低下は予測可能。

では、HPIは使用するべきか?
・MAPを眺めて、低血圧が起こる前に対応できれば、HPIは不要。
・でも、すべての人がすべてのタイミングで予防的な行動を取れるわけではないので、HPIが有用な場面はある。
・でもでも、例えばMAP<65を予防したいなら、MAPのアラームを70にセットしておけばHPIと同じことができるのではないか?

今後の研究に期待すること。
・HPIとMAPの比較をいろいろな環境で行う。
・介入研究では、HPI群 vs. usual care群ではなく、HPI群 vs. MAP<70で介入する群の比較をする。

繰り返しますが、ざっと読んだだけなので、検討違いのことを言っている可能性はありますよ。
でも、もし正しいとすれば、HPIはすぐに臨床導入するべき、という結論にはならないと思う。

自分的にスッキリしたので、今度こそ高みの見物だ。
さあ、これからどうなっていくのかな?
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Hypotension Prediction Indexについての追記。

2023年06月10日 | AI・機械学習
昨日の記事について。
麻酔科学会から指針が出ているんですね。 知りませんでした。
つまり、日本でもう使用可能もしくは使用可能になる、ということですね。
術中低血圧予測モニター使用指針
実際の指針はこちら
懸念については書いてなさそうだけど。

気になったので、さらに調べてみた。
JAMAに掲載されたHYPEの次のRCTが計画されているそうだ。その名もHYPE-2。ClnicalTrials.govにも登録がある。今度は、on-pump CABGの術中・術後管理が対象。なんとICUでのRCTですよ。

こんな文献も最近出たらしい。韓国から。
Yang SM, Cho HY, Lee HC, Kim HS.
Performance of the Hypotension Prediction Index in living donor liver transplant recipients.
Minerva Anestesiol. 2023 May;89(5):387-395.PMID: 37000016.

肝移植20例の術中が対象。5分後の低血圧予測に対するHPIとMAPのAUCは0.810と0.816でMAPの方が高い。

他にも、PubMedで、
"hypotension prediction index"[ti]
で検索すると34の文献が検索される。RCTも複数あるみたいだ。興味のある人は読んでみては。

どうやら世界中の麻酔科医がいろいろやっているようなので、僕は高みの見物をすることにします。
でも、実際に使ってみれば臨床的意義があるかどうかはすぐ分かりそうだな、これ。
MAPは下がってないのに低血圧を正しく予測したらHPIの勝ち、HPIが高くなるときはいつもMAPも低くなっていれば負けなんだから。
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MAPは低血圧予測アルゴリズムと同等か?

2023年06月09日 | AI・機械学習
AIの臨床応用という視点からはとても重要な話。
順番に行くと、

Hatib F, Jian Z, Buddi S, Lee C, et al.
Machine-learning Algorithm to Predict Hypotension Based on High-fidelity Arterial Pressure Waveform Analysis.
Anesthesiology. 2018 Oct;129(4):663-674. PMID: 29894315.

術中のA-lineの波形から多くの特徴量を作成し、それに基づいて術中の低血圧の発生を5-15分前にAUROCが0.95の精度で予測できると報告。

Wijnberge M, Geerts BF, Hol L, et al.
Effect of a Machine Learning-Derived Early Warning System for Intraoperative Hypotension vs Standard Care on Depth and Duration of Intraoperative Hypotension During Elective Noncardiac Surgery: The HYPE Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2020 Mar 17;323(11):1052-1060. PMID: 32065827.

ここでも紹介。RCTで有効性が示された。

これらの結果に基づいて、Edwardsがモニタに表示するようにした。

でも、研究結果がちょっとおかしいんじゃね?とケチがついた。
Enevoldsen J, Vistisen ST.
Performance of the Hypotension Prediction Index May Be Overestimated Due to Selection Bias.
Anesthesiology. 2022 Sep 1;137(3):283-289. PMID: 35984931.


今回の文献は、実際に使ったらこうだったよ、という内容。
Mulder MP, Harmannij-Markusse M, Donker DW, et al.
Is Continuous Intraoperative Monitoring of Mean Arterial Pressure as Good as the Hypotension Prediction Index Algorithm?: Research Letter.
Anesthesiology. 2023 Jun 1;138(6):657-658. PMID: 37011012.

なんと、MAPだけで予測しても同じ結果がでそうだよ、という結論。

いろいろ考えさせられるね。
商品が表示する数字って信用できるのかとか、
研究の解釈って注意が必要だねとか、
有効性がどう示されたら臨床応用していいのかとか、
先日も書いた通り、未来のXを予測するのにもっとも重要な特徴量は今のXで、そんな予測って臨床意義はあるのかとか。

たくさんの問題を抱えつつ、AIは臨床に入ってくる。
医療従事者はそれをどう判断するか、が大事。
正しく判断するには知識がないといけない。

そっか。
薬とかデバイスとか、根拠は乏しいのに臨床でバンバン使われているやつ、いくつもあるもんね。
別にAIが特別なわけじゃない。
ーーーーーーーーーー
追記あります。
世間ではすでにいろいろ話題になっていた。
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日本の病院のICUベッド数(R3年度)

2023年06月08日 | ICU・システム
まず過去ログ:
日本の病院のICUベッド数(R2年度)
日本の病院のICUベッド数(H30年度)
気がついたら、厚労省のデータが更新されR3年度のデータが出ていたので、再計算。

なお、「ICU」というものを、
・特定集中治療室管理料 1 - 4
・救命救急入院料 2 or 4
・小児特定集中治療室管理料
のどれかを算定している病床と定義した。
()の中はR2年とH30年の数字。

・ICUは614(←601←625)の病院に774(←760←794)病棟、7221(←7015←7204)床あった。
・ICUのある病院の全病床数のうちのICUベッド数の割合の平均:2.36%(←2.36←2.35)。
・人口10万当たりのICUベッド数:5.74床(←5.71←5.70)

次に、ICUのベッド数が多い病院トップ10。


病床数が200以上ある病院のうち、bed_ratioが高い病院トップ10。


循環器や小児など専門病院が含まれるので、対象を500床以上の病院に限定(総合病院であろうと仮定)。


以上。
ICUの数って、増えたり減ったりするんだね。そうか、コロナの影響か。
そして人口あたりだとゆっくりと増え続けている。
ふーん。
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A-lineとNIBPの値が違ったら:パート2

2023年06月06日 | 循環
血圧の話をするのは久しぶり。考える機会があったのでね。

まずこちらをお読みください。
A-lineとNIBPの値が違ったら?
過去ログもまとめて読んでもらえると嬉しい。
でもこれらは全て測定原理や精度の観点で、今回はもっとプラクティカルな話をします。
二つの値が異なる理由はいろいろあります。

A-lineが不正確になる理由
1:A-lineがナマっている
2:上流に血腫があったりして低くなっている
3:血圧に左右差がある
4:トランスデューサーの高さが間違っている
5:トランスデューサーが壊れている
6:大量の昇圧剤を使っている
NIBPが不正確な理由
7:血圧が高すぎる、低すぎる
8:不整脈がある
9:体動
10:マンシェットのサイズが合っていない
11:巻き方が悪い、服の上から測定している
などなど。

「病棟でNIBPを測定したときはそれほど低くなかったが、ICUに来てからA-lineを挿入したら低かったのでノルアドを開始した。」
これは正しい。ショック患者を放置しちゃダメ。でも、
「大量の昇圧剤が必要になった。ナースが改めてNIBPで測定したところ、やはりA-lineよりも高かった。」
この場合は少し注意が必要。
上記の可能性を全て検討しないと、単純にA-lineの方が正しいとは言い切れないから。

ありがちなのが大量の昇圧剤使用により橈骨動脈での圧が低くなる現象。鑑別のためには鼠径にA-lineを挿入する必要があり、ちょっと面倒。ただし、橈骨動脈と同じ太さの血管では同じことが起こっている可能性があるので、臓器灌流圧的に何が正しいかは不明。

いつもこんなに近くにいるのに、君のことが分からない。
昔書いたけど、ほんと、そうなんだよね。
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COVIDが重症化した時の治療量ヘパリンの継続投与

2023年06月05日 | COVID-19
非挿管患者にレムデシビルを使っていたけど悪化して挿管になった。レムデシビルはどうする、というのと同じ問題。
病棟患者では治療量ヘパリン、ICUでは予防量。じゃあ治療量のヘパリンが投与されていた病棟患者がICUに来たらどうする?

Bradbury CA, Lawler PR, McVerry BJ, et al.; REMAP-C. A. P. Investigators.
Continuation of therapeutic dose heparin for critically ill patients with COVID-19.
Intensive Care Med. 2023 May 31:1–3. Epub ahead of print. PMID: 37256341.


REMAP-CAPのサブ解析。Nは合計で72。ヘパリンは予防量に減らした方が良さそう。
これで逆の話になったら困ったけど。普通の結果でよかった。

悩むことはない。
重症患者ではレムデシビルもヘパリン治療量も使わない。
過去の治療内容は気にしなくて良い。
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術前のFrailty評価と術後1年の死亡率との関連

2023年06月04日 | 神経
Varley PR, Buchanan D, Bilderback A, et al.
Association of Routine Preoperative Frailty Assessment With 1-Year Postoperative Mortality.
JAMA Surg. 2023 May 1;158(5):475-483. PMID: 36811872.


おお、Frailtyについての介入研究だ。。。

死亡率にも影響するのか、ちょっと信じられない気はする。Before-after研究だからかな。
とは言え、介入研究をしようと思うだけで素晴らしい。

日本のICU患者の半分以上が予定手術。
なのでこの話は潜在的に結構重要だと思う。
「そもそも何でこの患者さんに手術したんだ?」と思ったことのある人は少なくないのでは。

まず、frailtyについての情報を病院/ICUがルーチンに収集するようになるところから始める。
とずっと思っているのだけど、ICUだと本人には聞けないことが多いから、家族の面会がフリーにならないとできない。
そろそろどうでしょう、病院の首脳部/感染制御部の皆さん?
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急性腹症の診断における単純CTの診断精度

2023年06月03日 | 消化器・血液
Shaish H, Ream J, Huang C, et al.
Diagnostic Accuracy of Unenhanced Computed Tomography for Evaluation of Acute Abdominal Pain in the Emergency Department.
JAMA Surg. 2023 May 3 Epub ahead of print. PMID: 37133836.


造影CTに比べ、単純CTは診断精度が30%落ちる。

「造影剤はチョー弱い腎毒性物質だから、ICUでは気にしなくて良い」と言われても、やっぱり気にしてしまうのが人情。ERでの急性腹症の診断精度が30%落ちるなら、ICUでのフォーカス探しではどれくらい落ちるんだろう?
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経管栄養の投与量を調整するプロトコル

2023年06月02日 | 消化器・血液
Wang L, Wang Y, Li HX, et al.
Optimizing enteral nutrition delivery by implementing volume-based feeding protocol for critically ill patients: an updated meta-analysis and systematic review.
Crit Care. 2023 May 5;27(1):173. PMID: 37147701.


投与を止めたらその分だけ投与速度を上げて、1日のターゲットを維持する。
考え方としては簡単だけど、文献を読んだことがなかった。メタ解析ができるくらい文献があるとは知らなかったよ。で、referenceを見てみたら、Nの大きな研究は全部JPENに掲載されていた。
さすがにJPENは読まないわ。
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心停止に対するeCPRのメタ解析

2023年06月01日 | 循環
Low CJW, Ramanathan K, Ling RR, et al.
Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation versus conventional cardiopulmonary resuscitation in adults with cardiac arrest: a comparative meta-analysis and trial sequential analysis.
Lancet Respir Med. 2023 May 22 Epub ahead of print. PMID: 37230097.


心停止に対してeCPRが有効、というのはもう論をまたない、と言っていいでしょう。
問題は適応判断と技術の維持
短時間で適応を正しく判断して、かつ予後を改善できるスピードでECMOを開始できる環境を365日24時間維持できる病院って、いったいどれくらいあるんだろうか。
逆に、それができない病院や状況では神経予後を改善することは難しいから、eCPRをしないという判断が必要になる。ここが難しい。

やらない勇気。これを持っている人は多くない、と思う。
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