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Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

観血的 vs. 非観血的血圧測定

2011年10月31日 | 循環
このタイトルでピンと来る人は、相当なINTENSIVIST通か、内野通(いないか、そんな人、S井先生くらいしか)です。
INTENSIVISTの今年の4月号(モニター)で、こんな文章を書きました。

【コラム】観血か非観血か,それが問題だ
内野 滋彦 東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部

これは、同じ号の、

8. 観血的血圧:連続波形があるから安心,では決してない!
渡辺 廣昭 札幌医科大学医学部 麻酔学講座

9. 非侵襲的血圧測定法(NIBP):欠かせぬモニター故に,その欠点を知ろう
津崎 晃一 慶應義塾大学 医学部 麻酔学教室

に対応した文章で、この2つの章を読んだ僕の混乱と苦悩(?)を表現しています。
(おっとっと、両先生方の文章が悪いということではないですよ、もちろん。苦悩の理由は下の方に)

そんな中、今月号のオロジーに面白い研究を見つけました。

Wax DB, Lin HM, Leibowitz AB.
Invasive and concomitant noninvasive intraoperative blood pressure monitoring: observed differences in measurements and associated therapeutic interventions.
Anesthesiology. 2011 Nov;115(5):973-8. PubMed PMID: 21952254.

ニューヨークのシナイ山病院(でいいのかな、日本語訳)で、非心臓手術に対し動脈ライン(ABP)が挿入された24,225例を対象とし、術中にNIBPが併用された群とされなかった群とを比較。
その結果、
・63%に一度はNIBPが併用された
・収縮期血圧は、111mmHgを境に、それより高いとNIBP<ABP、低いとNIBP>ABP
・低血圧(SBP<90)の症例では、輸血施行頻度(27% vs. 43%)と昇圧剤投与頻度(7% vs. 18%)がABPのみの群で高かった
・高血圧(SBP>140)の症例では、降圧剤投与頻度(12% vs. 44%)がABPのみの群で高かった

さて。
この結果、当たり前だと言ってしまえばそれまでだけど、そーとー面白いとも言える。

まず基礎知識を(ただし、詳細はINTENSIVISTを読んでね)。
・NIBPはカフによる加圧で発生する振動を検知することにより測定されている
・そのため、体動などで不正確になるし、ショック状態では振動が起こりにくいので測定が困難になる
・収縮期/拡張期の血圧は各メーカーが独自の定義をしている(平均血圧はだいたい同じ)
・ABPは脈波増幅などの物理的な特性により、本来の圧と異なった測定がなされる(収縮期血圧は高くなる)
・橈骨動脈での圧は大動脈や鼠径動脈の圧より低くなる(特に大量の昇圧剤使用中に顕著)

そうなると、ABPにしてもNIBPにしても、画面に表示されている数字が何を意味しているのか、何だかよく分からなくなる。
これが苦悩の理由。

これまで、ABPとNIBPの圧を比較して、どっちが高い低いという研究は複数あった。
でも、それが臨床にどのような影響を与え得るのかについての検討は、これが初めてではないだろうか。
ちなみに、この研究の著者等の結論は、ABPは測定にいろいろな問題があり、ABPにNIBPを併用した方が無駄な治療を行わなくて済む、というもの。
これって、安直じゃね?
だって、より頻回に治療をした方が患者さんに良かったのかもしれないし。
残念ながら、患者さんの予後については検討されていない。
出血の程度とかAKIの発生頻度とか、いろいろできただろうにね。惜しい。

血圧。
いつもこんなに近くにいるのに、君のことが分からない。
みたい、な。
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1 コメント

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本当にどっち!って感じです (kao)
2012-05-11 10:34:03
もう6か月更新されていないブログなので・・コメントが有効かわかりませんが・・
看護師してます。脳外科です。
たまに、OP後Aラインでの血圧測定がありますが、非観血的測定との差があって、どちらが有効か??の話になります。あまりレベルの高くないメンバーなので・・・????で、答えが見つかりません。
どのくらいの差はスルーしていいのか?
医師の指示がBP120~130mmHgを保つように・・なんて、驚きの内容では現場が混乱するばかりです。こんな程度の私にもわかりやすい資料があったら教えてください。お願いします。
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