パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

鯖色の背広を着た日本人数学者

2009-01-05 21:45:48 | Weblog
 今日のお昼過ぎの真っ昼間、新宿の街角に制服警官が二人、立って目を光らせている。

 また、なにやってんだと思いながら,通り過ぎると,後ろからその一人が追いかけてきた。

 きたきた、と思った。

 目が合うのは嫌なので、顔を見ないよう,うつむいたまま、彼らの方角をチラリと一瞬見ただけなのだが。

 「もしもし、最近,刃物で切り掛かる事件が多いですよね。

 「…」

 「それで、ちょっとバッグの中を見せてほしいんですよ」

 「いや」

 「ちょっとだけですよ。とがったものとか、カッターなんかもってませんか?」

 「もってないよ」

 と言い捨てて、用事のあったヨドバシに入ってしまったのだが、今思うとちょっと残念だった。

 「カッター持ってたらどうなるの?」

 って聞けばよかった。

 ところで、そのとき私のバッグの中に何が入っていたかというと、『数学の世界観』という本が入っていたのだ。

 私は数学は全然わからないけど、「数学者の世界観」にはとても興味があるのだ。

 それで、ヨドバシを出た後、紀伊国屋によって数学関連の本を立ち読みしたのだが、数年前、数学者のフェルマーによって提出されてから360年ぶりに「解決」されて話題になった「フェルマー予想」の解決のきっかけを作ったのは日本人数学者なんだそうだ。

 それは、谷山・志村予想とよばれるもので、ワイルズという数学者がこの谷山・志村予想を実証する形で「解決」したということらしい。

 志村氏のほうは今はアメリカで大学の先生をしていて健在だが、谷山氏は、「予想」を残して、昭和30年頃に、わずか31歳で自殺してしまった。それも、結婚する直前で,婚約していた女性も後追い自殺してしまったんだそうだ。

 死因がアパートから飛び降りたということで、アメリカのマンションかなにかから飛び降りて、後追いしたのも現地のアメリカ人美女かと、勝手にストーリーをつくっていたら,東京の場末の4畳半アパートの窓から飛び降りたんだそうで、そのとき、キラキラ光る青緑色――ということは、「鯖色」という感じか?――の背広を着ていた。

 この背広は、彼の実家から、「色があんまりなんで誰も着ないのでお前,着たらどうだ」と送られてきたもので、数学以外はまったく無頓着だったので、それをいつも着ていた。

 4畳半アパート住まいでも、フェルマー予想に関する彼の提言は国際的に知られていて、ある日本人ではない研究者が谷山をつかまえて、「お前の考えではフェルマー予想を解決するのは難しいのではないか」と反問を繰り返した。

 ところが、その谷山がすぐに死んでしまったので、谷山に注目していたその外人の名前の方が有名になり、一部ではその外人の名前である「○○○(忘れてしまった)・志村予想」とよばれている。

 とあったのは外人の書いた本で、その著者は、「○○○は人生の皮肉を大いに楽しんでいるようだ」と締めくくっていたが、いや、そんな日本人がいたんだなあ。

 フェルマー予想が解決されたということは、世界的な大ニュースで、日本でも――ノーベル賞騒ぎとは比べ物にならないにしても――まあまあ大きく取り上げられていたと思うが、それにここまで日本人数学者が関与しているとは知らなかった。

 ところで、フェルマー予想とはどういうものかというと、「簡単にいえば、ピタゴラスの定理を示す数式 X2乗+Y2乗=Z2乗の乗数が2より大きい整数はないということだ。あるという証明は1つですむが、ないという証明は無限が絡むから難しい。」と「道楽おやじの独り言」というブログに書いてあった。