患者:呉某 27歳 男性
初診年月日:1989年5月31日
主訴:反復浮腫4年余
病歴:
患者ネフローゼ症候群歴4年余、治療を経て病情は穏定していたが、1988年10月感冒後に病情再発、当時尿蛋白4+、浮腫が高度で某病院に入院、プレドニゾン等薬物治療で病情は好転、蛋白尿は転陰、浮腫は漸消、但しプレドニソン減量隔日15mgで、反跳出現、尿蛋白4+、遂に治療を求め氏を受診。
初診時所見:
周身困重、腰酸、尿黄、咽痛、口苦、舌質紅、苔白膩、脈滑数。尿蛋白3+、尿WBC5~7個/HP。
中医弁証:湿熱毒邪蘊結下焦
西医診断:ネフローゼ症候群
治法:清熱利湿解毒
方薬:利湿解毒飲加減:
瞿麦(活血利水通淋)20g 萆薢(苦/平 利水滲湿)20g 土茯苓(菝葜 山帰来に同じ、清熱解毒泄濁除湿利関節)50g 白花蛇舌草30g 薏苡仁25g(健脾利水滲湿) 滑石20g 白茅根(凉血止血、清熱利尿)25g 山薬20g 益母草(活血利水消腫)30g 金桜子(酸渋/平 固精、縮尿、渋陽止瀉)15g 萹蓄(利水通淋)20g 竹葉(清熱除煩、生津、利尿)15g 山豆根20g 重楼30g
14剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
付記:清熱解毒剤の土茯苓(菝葜、山帰来)の大量50gの投与も、その薬性が平であることから脾胃を障害しないという氏の経験があるのでしょう。
二診 1989年6月14日
周身困重は明らかに減軽、咽痛は癒え、口苦無し。但し、腰酸乏力、尿黄、口干あり。舌質紅、苔白、脈細数。尿蛋白2+、尿WBC0~3/HP、プレドニソンは隔日10mg服用中、気陰両虚、兼挟湿熱と弁証。益気養陰、清熱利湿を以って治療する。
方薬:清心蓮子飲加減:
黄蓍50g 党参30g 石蓮子15g 地骨皮15g 柴胡15g 茯苓15g 黄芩15g 麦門冬15g 車前子15g 益母草50g 桃仁15g 紅花15g 白花蛇舌草30g 甘草15g
14剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
三診 1989年6月28日
既に自覚症状無し、尿蛋白2+、舌質紅、苔薄白、脈沈細。プレドニゾンは隔日5mg服用。この期間に感冒が一度あったが病情穏定。
上方(清心蓮子飲加減)をやや加減し、連続服用30余剤、プレドニゾンを停薬、尿検査正常、病情穏定。
ドクター康仁の印象
1989年代の医案で、腎機能を示すデータの記載が有りませんが、顕微鏡学的血尿が無かったことから、おそらく(腎生検)をしていたら「微小変化群」に属し、感冒を機に再発し、プレドニゾン減量中に再発した症例と想像できます。
初診の利湿解毒飲は張琪氏の創方です。さて、命名の利湿は理解できますが、解毒の毒とは何を指すのかが、根が西洋医の私には疑問なのです。山豆根 重楼などの清熱解毒利咽の薬剤は咽の炎症を抑える目的で配伍されたのでしょうから、炎症性毒素の毒か、炎症そのものなのかでしょうが、実体の定義が曖昧な中医学の漢字表現はその使用によっては解釈上都合が宜しいのです。曖昧なままでも許されるのですから。
一味だけ、他の薬剤と性質の違う収渋薬の金桜子が配伍されていますね。尿蛋白の残存を意識したものでしょう。
ともかく、初診の処方には温薬が一切配伍されていませんね。
私流にまとめれば、活血利水消腫、清熱解毒利湿利咽となります。
周身困重の定義となると、湿が全身に溜まり全身が重く感じるとでもいうべきものでしょうか?いわゆる陥没性の浮腫や、腹水を伴う全身水腫よりも程度の軽いものでしょう。初診から14剤で周身困重減軽、咽痛癒え、口苦無しとなったのですから、ある程度利湿、清熱解熱毒利咽の効果が出た訳です。
そこで、清心蓮子飲加減の登場です。再度 暗記文を載せますね。
(参蓍茯車麦冬黄芩地骨石蓮子(さんぎぶくしゃ ばくとうおうごん じこつせきれんし)
本案では
黄蓍50g 党参30g 石蓮子15g 地骨皮15g 柴胡15g 茯苓15g 黄芩15g 麦門冬15g 車前子15g 益母草50g 桃仁15g 紅花15g 白花蛇舌草30g 甘草15g
黄耆が50g 党参30gと大量に配伍されています。益気を強化したのです。柴胡の配伍理由は升陽なのか疏肝理気なのか私には判断しかねます。活血利水消腫の益母草も50gと多いですね。私も日常診療で50gを使用している症例があります。活血化瘀の桃仁 紅花、清熱解毒免疫調整の白花蛇舌草の配伍があります。
本日の市民講座のポイントは、再発性ネフローゼ症候群にはステロイドと中薬治療の併用が宜しいということです。
清心蓮子飲によるネフローゼ症候群の治療に関しては、239報~243報に紹介しておりますのでご参照ください。
2014年2月7日(金)