患者:呂某 28歳 男性
初診年月日:1989年4月12日
主訴:反復浮腫三年
病歴:ネフローゼ症候群歴3年、プレドニゾン他多種の西洋薬治療にて明らかな好転無し。
初診時所見:
腰以下の浮腫が甚だしく、陰嚢腫大、腹張満、口が粘って乾燥、尿少、尿色赤多泡沫、尿量約500ml/24hr、舌紅胖大、苔白膩、脈滑。血清蛋白正常域の低限、総コレステロール増加、尿蛋白3+、顆粒円柱3~5個/LP。
中医弁証:湿熱壅滞下焦
西医診断:ネフローゼ症候群
治法:清熱逐水
方薬:加味牡蠣澤瀉飲:
牡蠣20g 澤瀉20g 葶藶子(ていれきし 苦辛/大寒 瀉肺平喘、利水消腫)15g
商陸(苦寒/有毒 行水退腫、散結消腫)15g 海藻(消痰軟堅 利水退腫)30g 天花粉(養胃生津 清肺熱 消腫排膿)15g 常山(じょうざん 苦/寒 有毒 催吐痰飲、截逆=抗マラリア作用)15g 車前子15g 五加皮(苦/温 祛風湿 強筋骨)15g 白花蛇舌草30g
六剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
付記:海藻を腹水の要薬とする意見もあります。
二診 1989年4月18日
尿量増多24時間量1800ml、尿蛋白2+、顆粒円柱0~2個/LP。
方薬:加味牡蠣澤瀉飲、前方から(寒峻の)常山を去り、(代わりに穏やかな)瞿麦(活血利水通淋)20g 萹蓄(利水通淋)20gを加味。
六剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
( )は私の印象です。
付記:峻下逐水薬に分類される商陸は大小便を通暢させことで、水湿を除きます。
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130309
http://blog.goo.ne.jp/doctorkojin/d/20130227
三診 1989年 4月 24日
諸症は顕著に好転、尿蛋白+、円柱(-)、やや腰酸あり、下肢に僅かに浮腫、舌淡紅やや胖、苔薄白、脈沈滑、補腎利湿を以って治療する。
方薬:済生腎気丸:
牛膝20g 車前子20g 熟地黄20g 山茱萸20g 山薬20g 牡丹皮15g 茯苓20g 澤瀉15g 制附子7g 肉桂10g
20剤、水煎服用、毎日1剤、2回に分服。
四診 1989年5月14日
尿蛋白陰性、浮腫は全消して病は癒えた。その後1年来 再発は無い。
ドクター康仁の印象
西洋医が阿呆に見えるくらい立派な治療効果でしたね。初診時にステロイドの副作用もあったのでしょうね。最初の12剤は商陸、常山など有毒な生薬が多いので日本では使用されにくいですね。涼寒大寒薬が目立ちますね。温薬は五加皮だけで、反佐でしょうか?商陸や常山の寒峻攻逐水による傷陰を天花粉が防止しているとも考えられます。常山は二診で中止しています。代わりに瞿麦 萹蓄を加味し、最終的には牛膝 車前子 制附子 肉桂 六味地黄丸つまり牛車腎気丸で益腎補陽(補陰)利水に落ち着かせるのは見事な手腕です。牡蠣 澤瀉 海藻の組み合わせは清利湿熱でしょう。
張琪氏ご自身もその老師から教えを頂き、加味牡蠣澤瀉飲を創方したのです。伝統と経験が大切であるという証拠がここに存在します。
寒熱弁証のみから論ずれば、冷やして祛湿、冷やして利水して、一段落したら、補腎陽(腎気丸)と温めながら補肝腎利水(牛膝 車前子)するという流れです。
極端に寒い日は嫌な予感がします。
先日、開業医をコンビニ扱いしている患者様が混んでいる外来に単身飛び込んできました。その御心中を察するに、
「今日は酷く寒いし、遠い主治医のところまで行って、待たされて診察受けるのが面倒だし、近くの医者で薬だけ貰っておくことにするか」が本音なのですね。その本音は勿論言いませんが。いろいろ問診していると、
「ええわ、そんなに面倒ならもうええわ、こっちからお断りやわ」
とチンピラ風に切れるのですね。
「薬だけでいいんですか? ジェネリックの名前が多いので今調べています。」
「そんなに面倒?もうええわ。患者と医者の相性もあるし。」
あとはお決まりの自己弁護に徹して、他医の悪口を言い散らし、気晴らししてお帰りになる。年に二度ぐらいはあります。
呆れていました。後に引きずらないためにも
「いつでも急に具合が悪くなったら診ますよ。お大事にしてください。」と丁寧にお引取り頂くのです。これも臨床経験の一つですね。
2014年2月4日(火)